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国際法務の部屋

売掛金の貸倒損失

今回は、税務面について、日本と中国での違いをご紹介いたします。

 

日本では、法人の貸倒損失について、法人税法22条3項3号で損金の額に算入するものとされていますが、貸倒損失該当性については明確に規定されていません。これを受けて、実務上の指針である法人税法基本通達では、9-6-1、9-6-2及び9-6-3において、具体的に規定しています(なお、通達は法的拘束力を有するものではないため、これらの通達に該当しない場合でも、貸倒損失に含まれる場合が存在しえますので、ご留意ください。)。

 

例えば、同9-6-2では、次のように規定されています。

 

9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。

 

実務では、これを前提に、取引先の資産状況や支払い能力示す資料を収集しておくことになります。

 

中国においても、上記とほぼ同様の規定がおかれています。すなわち、「財政部・国家税務総局の企業の税前控除政策に関する通知」4条で、貸倒損失として処理できる場合について、「債務者から期限経過後3年以上返済が行われず、かつ、債務を完全弁済する能力がすでにないことを証明する証拠が確実であること」等が規定されています。取引先が、債務を弁済する能力を喪失していることを立証しなければなりませんので、契約書、弁済を求める交渉の経緯、訴訟等がなされた場合には判決書、及び、入手できるのであれば取引先の計算書類等をいかに確保するかが重要になります。これらの客観的資料を可能な限り整備したうえで、税務職員に対し、法的根拠を示し、論理的に、粘り強く説明することが重要でしょう。

(文責:藤井宣行)

2018年04月20日 15:34|カテゴリー:|コメントはまだありません

中国における民事訴訟と出国制限リスクについて

第1 はじめに
今回は、設例をもとに、中国において民事訴訟を提起された場合の出国制限リスクについて検討したいと思います。

第2 設例
日本企業A社が、中国に100%出資子会社として、現地法人B社を持っており、A社の代表取締役CがB社の法定代表者を兼務しているとします。この中国現地法人B社を被告として、中国の人民法院に民事訴訟が提起された後に、Cが中国に入国した場合、Cの出国が制限されるリスクはあるのでしょうか。

第3 回答
出国制限については、中国民事訴訟法255条で、「被執行人が法律文書により確定された義務を履行しない場合には、人民法院は、当該被執行人に対し、出国制限並びに信用情報システム記録及びメディアを通じた義務不履行情報の公表並びに法律に定めるその他の措置を自ら行い、又は関係単位に協力を求めてこれらの措置を行うことができる。」と規定されています。
そして、中国の最高人民法院が制定した、「『民事訴訟』の執行手続の適用における若干問題に関する解釈」において、①被執行人が単位(法人を含む)である場合は、その法定代表者に対して出国制限を行うことができる(同解釈37条)、②被執行人に対して出国制限を行う場合は、執行申立人が執行人民法院に書面の申し立てを提出しなければならず、必要がある場合は、執行人民法院が職権により決定することができる(同解釈36条)と規定されています。
そうすると、B社の敗訴判決が確定したにもかかわらず、判決で認められた義務を履行しない場合には、B社の法定代表者であるCは相手方当事者から出国制限措置の申し立てまたは人民法院による職権判断により出国制限の決定をされてしまうリスクがあります。とくに、勝訴判決が確定した相手方当事者は、当該確定判決に基づいてB社による任意の履行を得るための戦略として、Cの出国制限の申し立てをしてくる可能性がありますので、Cとしては敗訴判決が確定し、当該判決に基づいた履行を行っていない場合の中国への入国は避けた方がよいでしょう。
他方で、判決が確定していない段階であれば、上記の中国民事訴訟法255条に基づいた出国制限措置がとられることはありません。
もっとも、上記の民事訴訟法の規定とは別に、中国の出入国管理法の第28条では、「外国人が次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、出国を許可しない」と規定されているところ、同条2号において「未決の民事事件があり、人民法院が出国不許可の決定をした場合」が挙げられています。
このように、中国において民事訴訟が提起され、敗訴判決が確定していない段階であったとしても、人民法院によりCに対して出国不許可の決定がなされるリスクは残っています。したがって、中国において民事訴訟を提起された企業の法定代表者は、たとえ判決確定前であっても、不要不急の中国への入国は差し控えた方が無難といえます。

文責 河野雄介

 

2018年04月04日 22:03|カテゴリー:|コメントはまだありません

白眼視事件と民主主義

中国の北京で全国人民代表大会が開催され、3月11日、2期10年までと定められている国家主席の任期上限を撤廃する憲法改正案が賛成多数で可決されました。このことは、日本でも報道されているところです。

 

このことに関し、白眼視事件と呼ばれている事件が起こりました。簡単に内容を説明すると、全人代の記者会見で、中国政府の意向を汲んだと思われる記者が、政府の決定に賛同するような内容の質問(というより意見の表明?)を、冗長に行ったところ、その隣に座っていた記者が、睨んでいるとも見られる表情をしたり、天を仰ぐようなリアクションをとった、というものです(詳しくは、古畑康雄氏による3/19(月)7:00配信の現代ビジネス「習近平の晴れ舞台に冷や水をかけた全人代「白眼視」事件をご存じか」(https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180319-00054907-gendaibiz-int)をご覧ください。)。

 

私が所属している中国の友人たちとのグループチャットでも、その場面の写真や動画がアップされたり、中国では話題になっているようです。

では、なぜ、この事件が、それほど話題になるのでしょうか。国民性等も理由になるかもしれませんし、当事者の2名の記者が美人(と一般に言われる風貌)の女性であるということも理由になるかもしれません。

しかし、上記の記事でも指摘されていますが、本質は、実質的には民主主義ではない中国において、共産党や政府に対し、異論や反論があったとしても、公にそれを明らかにできない(またはしにくい)ことや、自らの意見を国政に反映させる実効的な手段がないことが、この事件で真相であるとも考えられます。

 

その意味では、日本では、ある記者が、別の記者の発言に対して、あからさまに不満を表現するリアクションをしても、それほど話題にはならないと思われますし、そのことは、民主主義が実現されていることの裏返しだと言えるようにも思います。

 

森友学園に端を発する問題について、連日、報道がなされていますが、上記の事件と併せて考えてみると、民主主義を享受しているということが、感謝すべき有難いことであり、大切にしなければいけないと、改めて感じました。

2018年03月27日 11:53|カテゴリー:|コメントはまだありません

アリババ上場にみるVIEストラクチャーの分析

1 はじめに

本稿では、2014年9月19日に、中国の電子商取引最大手のアリババ集団(Alibaba Group Holding Limited)が、米国ニューヨーク証券取引所に上場した際に、Alibaba Group Holding Limitedが、上場前に1933年アメリカ証券法(THE SECURITIES ACT OF 1933)に基づいて提出したF1フォーム(登録届出書、REGISTRATION STATEMENT、参考ウェブサイト①)に記載されている、VIEストラクチャー(契約支配型ストラクチャー)についてご紹介します。

ニューヨーク証券取引所に上場したAlibaba Group Holding Limitedは、中国で設立された会社ではなく、ケイマン諸島で設立された会社であり、中国国内外に複数の子会社を持っています。

中国国内では、インターネットコンテントプロバイダー等の付加価値情報通信サービス事業等は、規制により100%外資会社では行うことはできません。

そこで、インターネットコンテントプロバイダー等の許認可を有しており、創業者であるJack Ma氏等を株主(VIE株主:Variable Interest Entity Equity Holders)とする中国内資会社(VIE:Variable Interest Entity)が規制事業を行います。そして、Alibaba Group Holding Limitedが中国国内に設立した100%子会社(WFOE:Wholly-foreign Owned Enterprise)は、当該VIEやVIE株主と種々の契約を締結することにより、VIEへの支配権を確保し、VIEの利益をWFOEに帰属させるスキームを採っています。

 

2 VIEストラクチャーにみる各種契約

次に、上記のVIEスキームを実現するために、Alibaba Group Holding Limitedが締結している種々の契約の概要を、同社のF1フォームより抜粋します。

① WFOEとVIE株主の間の融資契約(Loan Agreement)

WFOEからVIE株主への無利息融資により、VIE株主はVIEへの出資を行う。資金使途はVIEへの出資に限られる。WFOEはいつでも早期返済を要求することができ、その場合、融資額面でVIE株主からVIE株式を買い取る。VIE株主は,VIE株式を第三者に譲渡してはならない。VIEは重要資産,知的財産権を含むいかなる事業も第三者に譲渡してはならない。

 

② WFOEとVIE株主の間のコールオプション契約(Exclusive Call Option Agreement)

WFOEはVIE株主からVIE株式を払込資本額面もしくは中国法で認められる最低価格のどちらか高い方の金額で買い取る権利を有し、またVIEから保有資産を簿価もしくは中国法で認められる最低価格のどちらか高い方の金額で買い取る権利を有する。WFOEが指名する第三者に購入させることも可能。また、WFOEは、VIEが行う配当その他の分配及びVIE株主がVIE株式の譲渡により得た対価のうち払込資本を上回る額を受け取る権利を有する。

 

③ WFOEとVIE株主の間の委任契約(Proxy Agreement)

VIE株主はWFOEが指名する者に対してVIEに係る権利行使を委任する。

 

④ WFOEとVIE株主の間の株式担保契約(Equity Pledge Agreement)

VIE株主はWFOEからの借入にかかる担保としてVIE株式を供する。WFOEにVIE株式の処分権限があり,競売若しくは売却代金からの優先回収の権利がある。株式担保契約は,中国の工商行政管理部門で登記済みである。

 

⑤ WFOEとVIEとの間の包括技術支援契約(Exclusive Technical Services Agreement)

WFOEによる技術支援の対価として、VIEは税引き前利益のほぼ全額をWFOEに支払う。

 

3 VIEストラクチャーの適法性に関する中国法律事務所の見解

F-1フォームでは、上記のVIEストラクチャーの適法性・有効性に関する、中国の法律事務所の見解として,①VIEストラクチャー及びWFOE、VIE、VIE株主間の各種契約は、現時点においては中国の法規制に準拠しており有効である,②ただし、中国の法解釈には重要な不確実性があり、将来において中国当局が違法との見解を示す可能性があり、その場合、事業停止等に追い込まれるリスクがある,という趣旨の見解が添えられています。

4 最後に

アリババによる上記のニューヨーク証券取引所上場後も、現在に至るまで、中国におけるVIEスキームを用いて、ニューヨーク証券取引所やNASDAQに上場する例が複数ありますので(参考ウェブサイト②)、VIEスキームに関する今後の中国当局の対応が注目されるところです。

 

【参考ウェブサイト】

①Alibaba Group Holding LimitedのForm F-1 REGISTRATION STATEMENT

http://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1577552/000119312514184994/d709111df1.htm

②Council of Institutional Investors (CII)が2017年12月に公表した、中国企業とVIEストラクチャーに関する意見書 “Buyer Beware: Chinese Companies and the VIE Structure”

https://www.cii.org/files/publications/misc/12_07_17%20Chinese%20Companies%20and%20the%20VIE%20Structure.pdf

 

2018年03月20日 14:35|カテゴリー:|コメントはまだありません

仲裁機関と裁判所の比較(まとめ)

仲裁機関と裁判所の比較(まとめ)

 

 

以前、本ブログにおいて、「日中間におけるクロスボーダー契約での裁判管轄の定め方」及び「日中間におけるクロスボーダー契約での仲裁条項の定め方」というタイトルで、裁判所での紛争解決と、仲裁機関での紛争解決の相違点について、言及しました。本稿では、この点について、中国の裁判所と中国の仲裁機関、及び、日本の仲裁機関と中国の仲裁機関の比較について、まとめてみました。ご参考になれば幸いです。

 

 

日本の裁判所 中国の裁判所 仲裁機関
手続の迅速さ やや遅い(三審制) 二審制でもあり、相対的には早い 速い(1回の裁決で完了し、不服申立が出来ない。もっとも、仲裁人の事情等によって、申立から裁決まで1年を超えるような場合もある。)。
 

手続の公開

 

原則は公開(例外的に非公開とする手続あり)

 

非公開

 

 

公平性・中立性

 

非常に高い

 

都市部を中心に改善傾向にある

 

高い

 

 

費用

 

低い

 

仲裁人費用等の負担が必要な点で、訴訟よりも高いといえる。といえる(もっとも、一審制であることから、三審制や二審制である訴訟よりも弁護士費用が低額となる可能性がある。)。

 

 

執行

 

中国では不可

 

日本では不可

 

日中双方で可能

 

2018年02月27日 15:51|カテゴリー:|コメントはまだありません

中国における営業秘密の保護

1 はじめに
中国ビジネスにおいて、技術情報や顧客リストなどの営業秘密の保護を図る重要性は論を俟たないところですが、中国において、営業秘密はどのように保護されるのでしょうか。中国では、1993年に制定された不正競争防止法に営業秘密の保護に関する規定がありますが、同法は2017年に改正され、2018年1月1日より施行されていますので、最新の中国不正競争防止法において営業秘密がどのように保護されているのかを確認していきます。

2 営業秘密該当性について
改正された中国の不正競争防止法第9条第3項では「営業秘密」を、「公衆に知られておらず、商業的価値を有し、かつ権利者が秘密保持措置を講じている技術情報及び経営情報」と定義しています。
改正前の定義では、営業秘密とは、「公知ではなく、権利者に経済的な利益をもたらすことのできる、実用性を備え、かつ権利者が秘密保持措置を講じている技術情報及び経営情報」と定義されていましたので、改正後の定義では、実用性の要件(当該秘密情報が精算及び経営に応用でき、かつ積極的な効果を生むこと)が削除され、営業秘密の保護範囲が広がっています。
それでは、「秘密保持措置を講じている」場合とは、具体的にどのような場合なのでしょうか。
この点について、最高人民法院の「不正競争民事案件審理における法律適用の若干問題に関する解釈」の第11条には、「人民法院は、関連情報の媒体の特徴、権利者の秘密保持の意思、秘密保持措置の識別可能性の程度、他人が正当な方法によって入手できる難易度等の要素を考慮し、権利者が秘密保持措置を講じたか否かを認定しなければならない」と規定しています。
そして、同条では、以下①から⑦までのいずれかに該当する場合において、正常な状況下で秘密情報の漏洩を十分に防止できるときは、権利者が秘密保持措置を講じたと認定しなければならないと規定されています。
①秘密情報の開示範囲を限定し、知る必要がある関連人員のみにその内容を告知している場合
②秘密情報の媒体に対し、施錠等の保護措置を講じている場合
③秘密情報の媒体上に秘密保持の表示を付している場合
④秘密情報に対しパスワード又はコード等を採用している場合
⑤秘密保持契約を締結している場合
⑥秘密に係わる機械、工場、作業場等の場所への侵入者に対し制限、又は秘密保持を要求している場合
⑦秘密保持を確保するためのその他の合理的措置を講じている場合
したがって、営業秘密の保護にあたっては、上記の①~⑦を意識して、合理的な秘密保持措置を講じることが肝要です。

3 営業秘密の侵害行為について
改正された中国の不正競争防止法第9条第1項では、事業者が、①窃盗、賄賂、詐欺、脅迫又はその他の不正な手段で、権利者の営業秘密を取得すること、②前号の手段で取得した権利者の営業秘密を公開し、使用し、又は他人に使用を許諾すること、③入手した営業秘密を、約定に反し、又は権利者の営業秘密保持についての要求に反して、公開し、使用し又は他人に使用を許諾することを、営業秘密の侵害行為として禁止しています。
今回の改正により、上記①のうち、賄賂や詐欺による営業秘密の取得が違法行為にあたることが明確にされました。
また、改正前は、「前項に掲げる違法行為を明らかに知り、又は知りうべき第三者が他人の営業秘密を入手し、使用し、又は公開したときは、営業秘密を侵害したものとみなす」と規定されていた条項が、今回の改正により、「第三者は、営業秘密の権利者の従業員、元従業員又はその他の組織、個人が前項に規定する違法な営業秘密侵害行為をすることを知りながら又は知りうべきであるにもかかわらず、当該営業秘密を獲得、開示、使用又は他人に使用を許諾した場合、営業秘密を侵害したものとみなす」と改められました(不正競争防止法第9条第2項)。
この改正により、たとえば、A社に勤めていた従業員BをC社が雇用するにあたり、BがAの営業秘密を持ち出してC社に移籍してくることをC社が認識していたような場合には、C社はB社の営業秘密を侵害したことになることが明確に定められました。したがって、中国における現地法人で、他社に勤めている従業員を雇用する際には、この点に十分な留意をしておくことが必要です。

4 営業秘密を侵害した場合
事業者が、不正競争防止法第9条の規定に反して営業秘密を侵害した場合、監督検査部門は違法行為の停止を命じ、10万元以上50万元以下の過料を科されます。情状が重大である場合は、50万元以上300万元以下の過料が科されます(同法21条)。

5 まとめ
中国における営業秘密侵害への対応には、上記の営業秘密該当性の立証と営業秘密侵害行為の立証が必要となりますので、普段から上記の定義を踏まえた営業秘密管理体制を構築しておくことが重要です。

文責:河野雄介

2018年02月12日 17:48|カテゴリー:|コメントはまだありません

日中間におけるクロスボーダー契約での仲裁条項の定め方

以前、本ブログにおいて、「日中間におけるクロスボーダー契約での裁判管轄の定め方」で、その名のとおり、日本企業が中国企業と契約を締結する際の、裁判管轄の定め方について、注意点等をご紹介しました(未読の方は、ご覧いただけると嬉しいです。)。

 

今日は、これと関連して、仲裁条項の定め方について、注意点等をご紹介します。

 

そもそも、仲裁についてですが、いわゆる訴訟が国家機関である裁判所において裁判官によって判断が下されるものであるのに対して、仲裁とは、私人である第三者(仲裁機関)が判断をする点が特徴です。

仲裁は、当事者が仲裁機関の判断に服する旨を合意(仲裁合意)をして、その合意に基づいて紛争を解決する手段です。仲裁法という法律がその内容を規定しています。

 

日本の仲裁機関としては、代表的なものとして、一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA)が挙げられます。

中国では、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)が代表的な仲裁機関として挙げられます。なお、CIETACには、以前、分裂騒動があり、話題になったことがあります。CIETACから分裂した組織は、現在、SHIACやSCIAといった名称の仲裁機関として活動しています。

 

さて、日中間の契約締結時に、仲裁を選択するか、訴訟(裁判)を選択するかについては、さまざまな要素を検討する必要があります。

まず、日本の裁判所での判決を中国で強制執行することはできないとされており、また、中国の裁判所での判決を日本で強制執行することもできないとされていますので、財産の所在や原告となる可能性の程度等を考慮しながら、訴訟を選択してもよいのか検討する必要があります。

また、訴訟の場合、控訴することが可能ですが、仲裁の場合は不服申立が予定されておらず、相対的には早期に解決することができるといわれています。

費用面においては、訴訟の場合に裁判所に収める金額よりは、仲裁機関に収める金額の方が高額ですが、JCAAと比較すると、CIETACに収める金額は低額であるといえます。

判断者の信頼性についてですが、中国の裁判所でも、北京や上海といった都市部では裁判官の質も高まっており、日本の裁判所と比較して大きく劣るということはないように思います。また、CIETACの仲裁人候補者のリストには、外国人も掲載されていますし、国際的な案件を取り扱った経験が豊富な弁護士や、国際法の学者も掲載されているので、クロスボーダー案件の場合、仲裁の方が、裁判所よりも取引の内容や実情の理解という点では優れているということもできます。

 

紛争解決条項で仲裁を選択した場合でも、仲裁合意の規定の仕方には、注意が必要です。条項によっては、仲裁合意が無効とされ、結局、中国の裁判所で訴訟をするしか選択肢がない、という事態にもなりかねません。

例えば、中国の司法解釈では、仲裁合意において、裁判所への訴訟提起もできる旨を規定しているものは、無効にすると規定されています[1]

他にも、仲裁合意が無効とされる原因は多くありますので、仲裁合意を規定する際には、慎重な検討が必要となります。

 

本ブログは、一般的な事項に関して意見を述べたものであり、具体的な法律問題に関する意見や回答等を述べたものではありません。個別の事件等に関しては、専門家にご相談ください。

(文責:藤井宣行)

[1] 中国仲裁法の適用に関する若干問題の解釈[2008]

 

2018年01月31日 10:19|カテゴリー:|コメントはまだありません

日本における「会社の目的」と中国における「経営範囲」について

日本の会社法では、会社はその目的を定款に記載し、かつ登記しなければならないと定められています。そして、判例によると、定款所定の目的外の行為は、取引相手方の善意・悪意を問わず無効になると解されています(大判明治36年1月29日民録9輯102頁)。また、定款所定の目的の逸脱は、①取締役等の善管注意義務違反に基づく損害賠償責任事由、②取締役等の行為の差止請求事由、③監査役等の取締役等への報告事由、④役員の解任事由、⑤会社の解散命令事由等として問題となるとされています(江頭憲治郎著「株式会社法(第7版)」(有斐閣)33頁)。

もっとも、最高裁の判例によると、定款に記載された目的自体に含まれない行為であっても目的遂行に必要な行為は目的の範囲に属するものと解すべきであり、その目的遂行に必要かどうかは、問題となっている行為が、会社の定款記載の目的に現実に必要であるかどうかの基準によるべきではなく、定款の記載自体から観察して、客観的に抽象的に必要かどうかという基準に従って決すべきだとされています(昭和27年2月15日最高裁判所民事判例集6巻2号77頁)。このように会社の目的について広く解釈する日本の判例法理では、定款所定の目的の範囲外であると判断されることはほとんどなく、定款所定の目的により会社の権利能力が制限される場面もほぼ皆無といっていいでしょう。

他方で、中国においては、会社の経営活動について、営業許可証に記載された「経営範囲」により厳格な制限がなされており、経営範囲を逸脱した場合は、罰金、営業許可の取り消しなどの処分を科されることになります。ただ、中国においても、経営範囲を逸脱した契約がすべて無効になるわけではない点に注意が必要です。最高人民法院の「中華人民共和国契約法」の適用に関する解釈(一)の第10条では、当事者が経営範囲を超えて契約を締結した場合でも、人民法院はこれによって契約が無効であるとの認定は行わないことを原則としており、例外的に、国家により経営が制限されるもの、経営に特別な許可を受けるべきもの、経営が法律や行政法規で禁止されているものについては、経営範囲を逸脱した契約は無効となるとされています。このように、経営範囲を逸脱した契約が無効となるリスクがある以上は、契約の相手方が中国企業の場合には、当該取引が相手方の経営範囲内のものであるか否かを確認した方が無難であるといえます。

文責:弁護士河野雄介

2018年01月12日 15:06|カテゴリー:|コメントはまだありません

日中間におけるクロスボーダー契約での裁判管轄の定め方

売買基本契約書を初めとして、各種の契約書において「紛争解決条項」といったタイトルで、管轄裁判所を定めることが一般的に行われています。日本国内企業同士のドメスティックな契約書であれば、例えば、東京に本社がある会社と、大阪に本社がある会社との場合であれば、訴訟となった場合の裁判所が東京地方裁判所なのか、それとも大阪地方裁判所なのか、という点に関して交渉が行われることがあります。

このような交渉に関しては、訴訟追行に関するコスト(代理人弁護士や訴訟期日に出席・傍聴する担当者の日当・交通費)等について、主に検討することになります。

 

他方、例えば、日本国内にある会社と中国に本社がある会社とのクロスボーダー取引に関する契約書における紛争解決条項の場合には、移動距離の増大に伴って上記のコスト面が増加することから、コスト面の検討が重要であることは言うまでもありませんが、それにとどまらず、強制執行の観点(確定判決に基づき、実際に、強制執行をすることができるのか)についても検討することも必要です。

 

具体的に、日中間の取引に関していうと、中国国外の裁判所の判決を中国内で強制執行できるかという点について、中国民事訴訟法282条では、相互主義(例えば、中国国内での判決について、自国内での強制執行を許容するという国家との関係では、当該国家の判決について、中国国内での強制執行を許容するという考え方)を規定していますが、日中間では、相互主義を保障するような条約等は存在しません。また、実際に、日本の裁判所の判決を中国国内で強制執行することを認めないという判断をした中国の裁判例が存在しますし、最高人民法院(日本の最高裁判所に相当)も、これを否定する見解を公表しています。したがって、日本の裁判所の確定判決を中国国内で強制執行することはできないと考えるべきです。

 

また、日本の民事訴訟法も相互主義を採用しており(民事訴訟法118条4号)、かつ、中国の裁判所の判決について、日本国内での強制執行を認めないという判断をした裁判例も存在しますので、日本において、中国の裁判所の判決を強制執行することもできないと考えるべきです。
そうすると、契約書の紛争解決条項で、管轄裁判所を検討するに際しては、自社がセールスサイドであるなど強制執行する立場になる可能性が相対的に高いのかといった点や、強制執行の対象となり得る資産の有無及び存在する場所等も考慮することが必要になると考えるべきでしょう。

 

なお、日本企業においては、中国の裁判所を紛争解決機関として選択することについて、裁判官の公平性・中立性についての不信感から拒否反応を示される場合もありますが、知的財産権を専門的に取り扱う裁判所が設立されるなど、中国の裁判官の質や信頼性は徐々に改善されているといえます。もっとも、地域によっては、相応の注意が必要な場合もありえますので、予想される訴額や、紛争地域、契約内容等を総合的に考慮して紛争解決機関を選択することも必要です。

 

今回は、日中間の取引における紛争解決条項として、日中どちらの裁判所を選択すべきか検討する際に考慮すべき点について言及しましたが、裁判所ではなく仲裁機関を選択する場合に考慮すべき点についても別稿にてご紹介したいと思います。

(文責:藤井宣行)

 

2017年10月25日 20:31|カテゴリー:|コメントはまだありません

米国におけるパテントトロールについて

1 パテントトロールとは?

パテントトロールについて確立された定義はありませんが、「発明を実施しておらず、実施する意図もなく、たいていの場合実施することがない特許から、多額の金銭を得ようとする者」と定義されることが多いです(米国Intel社の当時の顧問弁護士がこのように定義したといわれています)。なお、「トロール」の語源は、北欧の地下やほら穴に住む超自然的な非実在の怪物です。

米国におけるパテントトロールの具体的な特徴としては、(1)倒産した会社や、個人発明家、自前では特許保護をする資金のない小規模会社などから特許を購入する、(2)当該特許に基づいて、自ら何かを製造するのではなく、既に市場に出回っていて、当該特許を侵害しそうな商品を製造している会社をターゲットにして、高額なライセンスフィーや和解金を要求する、(3)当該特許に基づいて何も製造していないことから、ターゲット会社から反訴(パテントトロールの製品がターゲット会社の特許を侵害しているとして)を提起されるリスクも低い、という点が挙げられます。

2 パテントトロールからターゲットにされた場合の対応の選択肢

それでは、パテントトロールから狙われたターゲット会社の対応としては、どのような選択肢があるのでしょうか。

まず、パテントトロールから侵害を主張されている特許を用いずに済む製品を開発するということも考えられますが、研究開発にかかるコストや時間を考えるとあまり現実的な選択肢とは言えないかもしれません。

次に、訴訟コスト(費用、時間)や、訴訟で負けた場合に製品製造の差止命令が出されることを回避するために、交渉段階での和解により解決を図るという選択肢も考えられます。通常の特許侵害事件の和解交渉の場合、お互いの特許をクロスライセンスするという和解も考えられますが、パテントトロールとの和解の場合は、そうはいきません。前述のとおり、パテントトロールは、何ら自前で製品を製造していないことから、クロスライセンスには全く価値を見いださないことが常なのです。ですから、交渉による和解の道を選択した場合、パテントトロールは、ターゲット会社の訴訟コストや製品製造差止命令への懸念につけ込んで、高額のライセンスフィーや和解金を要求してくる可能性が高いと言えます。

そこで、和解交渉を拒否して訴訟に応じるという選択肢も考えられます。しかし、訴訟という選択をするにあたっては、米国での特許訴訟にかかる費用は高額になることに加えて、仮に敗訴した場合には、製品製造の差止が認められるおそれがあること、故意による特許侵害が認められた場合には損害賠償が最大三倍に膨れ上がる可能性があることについて留意する必要があります。パテントトロールは、故意侵害が認められるための証拠を残すために、訴訟提起前から戦略的に特許侵害の警告書をターゲット会社に送付する場合もあるようです。なお、特許侵害訴訟においてパテントトロール側を代理する弁護士は、タイムチャージ制ではなく、成功報酬制で事件を受任することが多いと言われています。

3 パテントトロールに関する米国の裁判例

アメリカにおいて、パテントトロールが話題になったケースとしては、NTP v. Research In Motionという事件があります(通称ブラックベリー事件)。この訴訟では、NTP社(ワイヤレスEメールに関する特許を保有)が、携帯端末のブラックベリーを製造するRIM社の電子メールのシステムが、同社の特許権を侵害していると主張しました。連邦地裁では、NPT社は、RIM社が同社の特許権を故意に侵害しているという立証に成功し、陪審員は2300万ドルの賠償金を評決しました。その後、連邦地裁の裁判官は、賠償額を5370万ドルに引き上げるとともに、RIM社に対してブラックベリーの製造、輸入、使用、販売を差止める命令を出しました。この判断を受けて、RIM社は和解による解決の道を選択し、NTP社から当該特許を買い取るとともに、6億1250万ドルの和解金を支払うことに合意しました。なお、NTP社を代理した弁護士は、成功報酬として約2億ドルを受け取ったとも言われています。このブラックベリー事件では、RIM社は訴訟に応じたものの、裁判所による差止命令によりブラックベリー端末を製造できなくなることをおそれて、やむを得ず高額の和解金を支払ったことから、上述の3番目の対応に該当する事案といえるでしょう。

次に、特許権侵害に関する差止命令の基準に関して、パテントトロールに対する逆風となる判断をしたアメリカの連邦最高裁判決として、eBay Inc. V. MercExchange L.L.C.事件(通称イーベイ事件)が重要です。この事件では、オンライン販売を促進するビジネス手法に関する特許を保有しているMercExchange社が、米オンラインオークション大手eBbay社の固定価格による即売機能が同特許を侵害しているとして、訴訟を提起しました。連邦地裁は、MercExchange社の特許をeBay社が侵害しているとしたものの、差止命令は発令せず、3500万ドルの損害賠償のみを認めました。その後、控訴審は、特許侵害が認められた場合は原則として自動的に差止命令を発令しなければならず、差止が否定されるのは発明にとっての重要な公益が阻害される場合に限ると判示し、本件は差止命令が否定されるような例外的な場合ではないとしました。これに対して、連邦最高裁(2006年5月15日)は、特許紛争における差止に関しても、伝統的な衡平法に関する原則と同じく、(1)差止命令が出されなければ原告が回復不能の損害を被ったこと、(2)制定法による救済措置だけではその損害に対する補償として不十分であること、(3)差止めがなされた場合の原告・被告双方の困難の程度の均衡、(4)差止により公益が損なわれないこと、を考慮要素とすると判示しました。

この連邦最高裁判決により、パテントトロールは、特許訴訟における優位性を相当程度失ったと言われています。というのも、パテントトロールは保有特許を用いて製品等を製造しているわけではないので、その特許を侵害されている場合であっても金銭賠償を受ければ十分であり、上記(2)の要素(制定法による救済措置だけではその損害に対する補償として不十分であること)を充たすことが困難となるからです。このイーベイ事件により、パテントトロールは特許訴訟において差止命令を得て有利に交渉を進めるということが難しくなりました。他方で、巨額の金銭的損害賠償が認められる可能性はいまだ残されていることから、この判決によりパテントトロールが特許侵害訴訟を提起するインセンティブを失ったとまではいえないでしょう。

4 特許侵害訴訟における対応策

では、パテントトロールから特許侵害訴訟を提起された場合に、ターゲット会社として、なにか打つ手はないのでしょうか。

まず、パテントトロールに有利な判決を下す可能性のある法廷地(たとえば、テキサス州の東地区連邦地方裁判所での特許訴訟は原告の勝訴率が全米の平均値よりも相当高いといわれています)での訴訟を回避するということが考えられます。

次に、米国特許商標局(United States Patent and Trademark Office)にパテントトロールが保有する特許の有効性について再審査を請求するとともに、訴訟中断の申し立てをする(訴訟の中断が認められれば、パテントトロールは訴訟における優位な立場を利用した和解交渉ができなくなる)という方策も考えられます。

また、パテントトロール側に、訴訟の早期の段階で証拠開示を求めることで、パテントトロールの主張を絞り込み、別件での和解条件や金額の情報を得ることで、訴訟や和解交渉を有利に進めるという方策も考えられます。

(参照文献)

*Lessons from Europe on How to Tame U.S. Patent Trolls (Cornell International Law Journal、 Volume 42)

**Strategies for combating patent trolls (Journal of Intellectual Property Law、 Volume 17)

2017年10月20日 14:26|カテゴリー:|コメントはまだありません