ここから本文です

ベンチャー法務の部屋

古物営業の許可について(2)

前回のブログでは、古物営業法が、盗品売買の防止等を図ることを目的とした法律であり、古物営業法はこの目的を達成するために、古物営業を許可制として、種々の規制を加えていることについてお伝えしました。さらに、古物営業法に定められた「古物」とは?「古物営業」とは?ということについても紹介しました。

 

今回は、リサイクルショップ、フリーマーケット、バザー、メルカリ等のフリマアプリと古物営業法の関係について紹介します。

 

第1 リサイクルショップと古物営業法

まず、一般的なリサイクルショップは、買い取った古物を販売するという形態をとるため、「古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業」(古物営業法第2条第2項第1号)の「古物営業」に該当することになり、古物営業法の適用を受けることになります。

 

もっとも、無償、または引取り料を徴収して引き取った古物を修理、再生等して販売する形態のリサイクルショップの場合には、(古物の買取りを行わず)「古物を売却することのみを行うもの」(古物営業法第2条第2項第1号)に該当することから、古物営業には当たらず、古物営業法の適用を受けません。

 

第2 フリーマーケット・バザーと古物営業法

バザーやフリーマーケットについては、前回の記事でも解説したとおり、その取引されている古物の価額や、開催の頻度、古物の買受の代価の多寡やその収益の使用目的等を総合的に判断し、営利目的で反復継続して古物の取引を行っていると認められる場合には、古物営業に該当するとされています。(平成7年9月11日警察庁丁生企発104号「古物営業関係法令の解釈基準等について」4頁参照。)

 

もっとも、一体どの程度の取引を行えば、「営利目的で反復継続して古物の取引を行っていると認められる」のかが問題となります。

 

この点については、平成18年1月31日付経済産業省「特定商取引法の通達の改正について」で、インターネットオークションにおいて、特定商取引法の「販売業者」に該当すると考えられる場合として紹介されている内容が参考になると考えられます。

 

対象となるカテゴリー、商品によって基準は異なりますが、「全てのカテゴリー・商品」について、例えば、以下の場合には特別の事情がある場合を除き、営利の意思を持って反復継続して取引を行う者として販売業者に該当すると考えられるとされています。

①過去1ヶ月に200点以上又は一時点において100点以上の商品を新規出品している場合、②落札額の合計が過去1ヶ月に100万円以上である場合、③落札額の合計が過去1年間に1,000万円以上である場合。

 

なお、平成28年9月14日付のニュースで、「嵐」のコンサートチケットを転売したとして、25歳の女性が古物営業法違反(無許可営業)の疑いで逮捕されるという事件が起こりました。チケット転売がなぜ古物営業法違反になるのか、この疑問は、正に上で述べてきた内容が回答となります。すなわち、この女性は、2015年11月から12月の間に、3名に対しコンサートチケット5枚を計4回、インターネットの転売サイトで売っていました。それだけではなく、女性はチケット交換サイトでコンサートチケットを入手した後、転売サイトに出品して高値で販売するという手口で、2014年10月から2018年4月までの間に168名に対してチケット299枚を販売し、約1000万円の売り上げを得た疑いがあり、これが、営利目的で反復継続して古物の取引を行っていると認められたものと考えられます。

 

このように、チケットの転売であっても、その具体的態様に照らし、「古物営業」として、古物営業法の規制の対象となることがあります。

 

 

第3 フリマアプリ、フリマサイトと古物営業法

インターネット上のフリーマーケットアプリやフリーマーケットサイトは、インターネット上において、個人間で直接に物を売買する場を提供するものであり、また、その方法が競りによるものではないため、インターネット上のフリーマーケットアプリやフリーマーケットサイトの運営業者は古物営業法に規定された古物競りあっせん業者には該当せず、法規制の対象外となっています。

 

もっとも、フリマアプリ等で出品をする場合には、第2で紹介した「インターネットオークションにおいて、特定商取引法の「販売業者」に該当すると考えられる場合」を参考にする必要があり、「営利目的で反復継続して古物の取引を行っている」と認められた場合には、古物営業法の許可が必要となることにご注意ください。

 

この点、古物営業法規制の対象外となっているとはいえ、現在のメルカリ等のフリマアプリにおいては、「盗品売買の防止」等の観点から、利用者には厳格な本人確認を要求するなど、古物営業法の趣旨を踏まえた自主ルールを作成し取り組みを強化しています。

 

なお、個人間の売買を目的としたメルカリではなく、中古品の買取と再販売を想定している「メルカリNOW」については、「古物営業」(古物営業法第2条第2項第1号)に該当することから、古物営業の許可が取得されています。

 

このように、その取引が「古物営業」(古物営業法第2条第2項)に該当するか否かの判断は容易でないため、弁護士等の専門家への相談をおすすめします。

 

次回が古物営業法に関する最終回となります。次回は、「古物営業の在り方に関する有識者会議」ではどのようなことが議論され、古物営業法がどのような方向に向かおうとしているのかについても紹介する予定です。

 

(文責:三村雅一)

2018年06月15日 10:11|カテゴリー:その他コメントはまだありません

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その2)

今回も、ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理です。
前回の「ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その1)」の続きです。

 

6.CVC(シーブイシー・シーヴィーシー)
CVCとは、コーポレート・ベンチャー・キャピタルのことです。ベンチャー・キャピタルは、前回「4.VC」で触れています。
CVCは、GPが大企業の子会社で、LPがその大企業であることが多いです。大企業がこのようなベンチャー・キャピタル事業をする主な目的は、一般的に、資産運用だけではなく、最先端の技術を探索して、情報を得つつ、出資元となる大企業に有用な技術を獲得することにあると言われているように思います。ここ数年はCVCが乱立する傾向にあり、歴史のあるVCと比較すると、例外もありますが、歴史や経験の浅いCVCも少なくありません。自社の株主としてCVCを選ぶ場合には、どのような連携や協業ができそうか等もよく検討した方がよいかもしれません。
 

7.ステージ
ベンチャー・ファイナンスの世界では、ステージとは、投資を実行する際に、発行会社がいる段階を意味します。シード・ステージ、アーリー・ステージ、ミドル・ステージ、レイト・ステージなどという使われ方をします。
シードとは「種(seed)」のことであり、企画と構想の段階で、ざっくりと500~1000万円程度の資金調達額を目指すようなステージを意味することが多いです。勿論、これに当てはまらない調達額のファイナンスも数多くあります。そもそも、ファイナンスを「シード」や「ミドル」と言っていたところで、何か特別な効果があるわけではありません。あくまで目安です。

 

8.投資契約
ベンチャー投資における投資契約は、株式総数引受契約(会社法第205条)とは別に、投資家と発行会社の間で、締結する投資に関する契約です。ほとんどの場合、投資家側の要望により締結されます。投資家は、投資契約を締結することにより、(i)会社法に定められた株主としての権利以上の権利を得る、(ii)表明保証条項により投資契約締結時点の状況を把握しやすくしつつ、虚偽の情報や誤解に基づく投資を避ける、(iii)投下資本の回収についての想定する手段と時期を発行会社と共有する等のメリットを得ることができるためです。これらのメリットは、VCの業務執行者(=GP)が、VCにとっての投資家(=LP)への説明責任を果たすためにも、必要であるといえます。発行会社は、VCから投資契約書の提案を受けた場合、VC側の事情も理解しつつ、自社にとって、過大な負担や過度に不利益な条項を排除するための交渉をすることになります。目的が理解できない条項がある場合や、相場がわからない、すなわちどの程度の条件であれば、一般的といえるか、わからない場合は、ベンチャー・ファイナンスに詳しい弁護士に質問されるのがよいでしょう。
 
具体的には、投資に係る発行概要(株式等の種類、種類株式の内容、数、価格、払込期日等)、資金使途、表明保証等の投資の前提条件、投資実行の条件、契約違反が生じた際の取り決め等が骨格となります。他に、誓約事項、事前承認事項、事前通知事項、事後報告事項、取締役の指名権、オブザーバーの指名権、希薄化防止条項、秘密保持、一般条項等が定められることも少なくありません。

 

9.株主間契約
株主間契約は、発行会社、創業株主及び主要な投資家の間で定められる、株式の異動や株式に係る権利行使に関連して、株主間の権利義務関係を取り決めたものです。投資契約は、その株式引受自体に関する事項を骨子とする契約であり、株式引受という取引そのものを対象としていることと比較すると、株主間契約は、投資家が株主となった後、Exitするまでの期間を対象とした長期間の契約関係を対象としているといえます。
 
具体的な条項は、投資語の会社経営に関する事項、情報開示に関する事項、株式に異動に関する事項、投資家のExitに関する事項等で構成されています。

 

10.財産分配契約
投資家、エンジェルや従業員株主と創業株主が当事者となって、株主が会社と利害関係を有しなくなった場合や、発行会社にM&Aが生じた場合、個人株主が死亡等のアクシデントに見舞われた場合を想定して、株式の異動等について明確にするの契約書です。実際の契約書名は、「合意書」「買収に係る株主分配等に関する合意書」「株主間における合意書」「株主間契約書」となっていることが多いです。
 
具体的には、みなし清算条項(Deemed Liquidation)、共同売却権/売却請求権/同時売却請求権(Drag Along Right)や、株式買取請求権が規定されています。みなし清算条項とは、発行会社にM&Aが生じた場合に、発行会社を清算したものとみなして投資家に対して分配を行うことを内容とする定めをいいます。共同売却権/売却請求権/同時売却請求権は、多数の投資家の賛成等の任意に設定された一定の要件を充たした場合、発行会社、創業株主に限らず、他の株主に対しても買収に応じるべきことを請求することができる権利を意味します。株式買取請求権とは、死亡や成年後見開始決定等、退職等のイベントが発生した場合に、経営支配株主が当該イベントが生じた者(又はその包括承継人)から会社株式を買い取れるように、株式の買取りを請求することができる権利を意味します。
 
続きます。
 
(文責:森 理俊)

2018年06月01日 21:35|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンスコメントはまだありません

古物営業の許可について(1)

第1 はじめに

 

平成29年12月21日、警察庁の有識者会議は、古物営業の在り方に関する報告書をまとめました。

 

同会議では、時代の流れに合わせた古物営業の形態の変化等に伴い、現在のニーズに即した古物営業の在り方について検討が行われました。

 

ところで、皆さんは、「時代の流れに合わせた古物営業の形態の変化」という言葉にピンとくるでしょうか。「古物営業って質屋さんのことじゃないの?質屋さんって減ってるのでは?」という方も多いのではないでしょうか。

 

ところが、「現在のニーズに即した古物営業の在り方」という言葉にもあるように、「古物営業」は現代社会においても我々の生活の一部になっています。たとえば、メルカリ、ヤフオクといったインターネットの発達、古本市場、ブックオフ、コメ兵といった店舗の全国展開によって、我々は容易に中古品を売却し、購入することができるようになりました。このように、時代の流れに合わせた古物営業の形態の変化等に伴い、古物営業法は避けては通れない法律となっています。

 

そこで、今回は、「古物営業法」とはどのような法律なのか、ということについて紹介し、次回以降、メルカリやヤフオク、リサイクルショップやフリーマーケットと古物営業法の関係、そして、「古物営業の在り方に関する有識者会議」ではどのようなことが議論され、古物営業法がどのような方向に向かおうとしているのかについても紹介したいと思います。

 

 

第2 古物営業法とは

 

1 趣旨

 

そもそも、古物営業法とはどういう目的で定められた法律なのでしょうか。

 

この点について、古物営業法は第1条でその目的について、「盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため、古物営業に係る業務について必要な規制等を行い、もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り、及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする。」と定めています。

 

すなわち、古物商が盗品等の処分先として利用されることが多いことから、盗品売買の防止等を図ろう、というのが古物営業法の目的です。古物営業法はこの目的を達成するために、古物営業を許可制として、種々の規制を加えています。

 

したがって、これから古物営業法に関わる問題を考えていくにあたっては、この古物営業法の目的を念頭においておく必要があります。

 

 

2 どういう時に許可がいるの?

 

それでは、古物営業法は、どのような場合に許可を要すると定めているのでしょうか。

 

(1)「古物営業」とは

 

古物営業法は、第2条第2項において、次の3つの営業を、「古物営業」と定めています。

 

①古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業(例:リサイクルショップ)

 

②古物市場(古物商間の古物の売買又は交換のための市場)を経営する営業(例:古物商のみが参加できる古物売買・交換の場)

 

③古物の売買をしようとする者のあっせんを競りの方法(政令で定める電子情報処理組織を使用する競りの方法その他の政令で定めるものに限る。)により行う営業(例:インターネットオークション(古物営業法施行令第3条)(古物営業研究会著 2訂版「わかりやすい古物営業の実務」14頁、3頁参照)。

 

なお、①については、次の2つの営業形態については規制対象から除外されています。

 

ア (古物の買取りを行わず)古物を売却することのみを行うもの

 

イ 自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの

 

これらが①から除外された理由は、盗品等の混入のおそれが低いためです。

 

アの例としては、無償、または引取り料を徴収して引き取った古物を修理、再生等して販売する形態のリサイクルショップが挙げられます。もっとも、古物の買取を行っている場合には、古物営業に該当することになります。また、いわゆるバザーやフリーマーケットについては、その取引されている古物の価額や、開催の頻度、古物の買受の代価の多寡やその収益の使用目的等を総合的に判断し、営利目的で反復継続して古物の取引を行っていると認められる場合には、古物営業に該当するとされています。(平成7年9月11日警察庁丁生企発104号「古物営業関係法令の解釈基準等について」4頁参照。)

 

イの例としては、AがBに売却した物品をAがBから第三者を介在させずに買い戻すといった行為だけを行うものが挙げられます。

 

(2)「古物」とは?

 

それでは、「古物営業」で取引の対象となる「古物」とは何をいうのでしょうか。

 

古物営業法は、第2条第1項において、

 

① 一度使用された物品

 

② 使用されない物品で使用のために取引されたもの

 

③ これらの物品に「幾分の手入れ」をしたもの

 

を、「古物」と定めています。

 

まず、古物営業法第2条第1項にいう「使用」とは、物品をその本来の用法に従って使用することをいい、衣類についての「使用」は着用、自動車についての「使用」は運行の用に供することをいいます。

 

次に、古物営業法第2条第1項にいう「使用のために取引されたもの」(上記②)とは、自己が使用し、又は他人に使用させる目的で購入されたものをいいます。したがって、小売店等から一度でも一般消費者の手に渡った物品は、それが未だ使用されていない物品であっても「古物」に該当します。例えば、消費者が贈答目的で購入した商品券や食器セットは、「使用のために取引されたもの」に該当するとされています。(平成7年9月11日警察庁丁生企発104号「古物営業関係法令の解釈基準等について」2頁参照。)

 

また、「幾分の手入れ」(上記③)とは、物品の本来の性質、用途に変化を及ぼさない形で修理等を行うことをいい、例えば、絵画については表面を修補すること、刀については研ぎ直すことをいうとされています。(同上)

 

なお、「物品」には、鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手等は含まれますが、船舶、航空機、工作機械等の大型機械類は含まれません。

 

(3)まとめ

 

したがって、(2)に挙げた「古物」を対象とした、(1)の「古物営業」を営もうとする場合には、都道府県公安委員会の許可を受けなければならない(古物営業法第3条1項、2項)ことになります。

 

 

上記の知識を前提として、次回は、メルカリやヤフオク、リサイクルショップやフリーマーケットと古物営業法の関係、そして、「古物営業の在り方に関する有識者会議」ではどのようなことが議論され、古物営業法がどのような方向に向かおうとしているのかについて紹介したいと思います。

 

(文責:三村雅一)

 

2018年05月21日 18:20|カテゴリー:その他,企業法務コメントはまだありません

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その1)

ベンチャー・ファイナンスに関連して、「用語の意味がわからない(ので、こっそり会議中にググりました)」等の意見や感想を耳にすることが少なくありません。

そこで、思いつく範囲で、ひとまず、私に分かる範囲で、ベンチャー・ファイナンスに関連する用語を解説しようと思います。
なお、個人的な印象が入る上に、厳密な定義とは異なるかもしれませんが、そのあたりはご容赦いただければと思います。(誤解などについて、ご指摘いただければ、幸いです。)

ひとまず、順不同です。

 

1.ベンチャー投資
ベンチャー投資とは、ベンチャー企業に対する投資のことです。ベンチャー企業に対する投資において、もっともな重要な点は、「投資」であり、「融資」ではない点にあります。
ベンチャー企業は、借入をする場合(=銀行や政府系金融機関等からの「融」資を受ける場合)もありますが、ベンチャー企業が担保にできる資産を保有しているケースは稀であり、元本の一部と利息を支払いながら経営するには不向きなビジネスモデルであることも少なくありません。
一方、株式を発行して資金を調達すること(=「投資」を受けること)で、返済義務を負わなくて済むため、資産に乏しく、初期に開発が先行するタイプのビジネスモデルのベンチャー企業は、投資家から「投資」を受けることが多いです。

そのため、ベンチャー企業は、ベンチャー・キャピタルや事業会社、個人投資家に、自らに「投資」をしてもらうために、技術力やチームメンバー、事業戦略、事業への情熱、自社が発展することで解決される問題等をアピールして、将来性があり、企業価値が高いことをアピールすることになります。投資家側は、このアピールを受けて、投資に値すると判断した企業に投資します。
 

2.Exit(イグジット・エグジット)
Exitとは、投資資金の回収のことです。ベンチャー企業に投資した投資家は、どのように利益を上げるかについて、 保有している株式を売却することを想定しています。そして、株式の売却の方法は、金融商品取引所への上場(IPO)による場合と、M&Aによる場合があります。

なお、投資家が投資資金を回収する手段として、理論上は、配当が考えられます。しかし、実務では、配当を狙って、ベンチャー企業に投資をする投資家はほぼいません。利益が潤沢に有り、且つ、再投資するよりも配当(投資家に還元)した方がよい企業は、極めて少ないためです。
 

3.IPO(アイ・ピー・オー)
IPOとは、株式が金融商品取引所へ上場することです。Initial Public Offeringの頭文字をとったものです。
 

4.VC(ブイシー・ヴィーシー)
VCとは、ベンチャー・キャピタルのことです。ベンチャー・キャピタルは、ベンチャー企業への投資に特化したファンドであることが多いです。法的には、投資事業有限責任組合です。投資事業有限責任組合に関する法律に基づく組合であり、英語表記では、LPS(Limited Partnershipの略)と表現されることがありますが、実際には「ファンド」と呼ばれていることが多いように思います。

ベンチャー・キャピタルは、ベンチャー・キャピタルを運営する専門の会社によって、運営されていることが多く、その会社をGP(ジー・ピー。無限責任組合員。General Partnerの略)といいます。そして、ベンチャー・キャピタルのファンドに投資している投資家をLP(エル・ピー。有限責任組合員。Limited partnerの略)といいます。

ベンチャー・キャピタルから投資を受けたいベンチャー企業は、このベンチャ・キャピタル側の事情もよく理解しておいた方がよいかもしれません。特に、LPに、どのような投資家がいるのか、金融機関なのか、事業会社なのか、等は、重要なVC選択の要素です。

ベンチャー企業にとっては、VC側の担当者が誰であるのか、面倒をどのくらいみてくれるのか、その裏返しとして、どのくらい干渉してくるのか、という点も、選択に際しては、重要です。
 

5.エンジェル
エンジェルとはベンチャー企業に投資する、又は投資しようとする個人投資家のことです。個人であるため、個人的信頼関係で出資することも少なくなく、ベンチャー企業の成長の初期段階での投資が多いです。ベンチャー企業からの目線でいえば、信頼できる個人であるか、将来紛争にならないか、に加えて、必要以上にシェアを確保しようとしていないか等の観点も重要です。もし個人投資家が、1~200万円等の低額の出資で、貴社の10%以上のシェアをとろうとするのであれば、将来のファイナンスに悪影響を及ぼす可能性があることに、十分に留意する必要があります。
 

今回はここまでとし、次回以降、他の用語にも適宜言及したいと思います。

2018年05月01日 18:05|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンスコメントはまだありません

「固定残業代」に関連する判例(最高裁平成29年7月7日小法廷判決)の紹介

今回は、「固定残業代」に関連する判例として、最高裁平成29年7月7日小法廷判決を紹介します。

 

1 概説

経営者の方々から、「割増賃金を、予め固定額で基本給や諸手当に含める方法で支払うことに問題はありませんか。」という相談が寄せられることがあります。今回紹介する判例は、時間外労働に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意をしていた医師が、時間外労働に対する割増賃金並びにこれに係る付加金の支払等を求めた事案です。

 

本判決は、
①通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できること、
②その上で、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額の額を下回らない場合には、
労働基準法37条に定める割増賃金の支払いがされたと認められる旨示しました。
(当然、①の通常の労働時間に対応する賃金部分が最低賃金を下回らないことも必要となります。)

 

経営者の方々としては、本件のように、「時間外労働に対する割増賃金を年俸に含める」という合意をしていたからといって安心できないという点に注意が必要です。

 

それでは、固定残業代の制度を導入する場合、具体的にどのような定めをおけばよいのでしょうか。以下、参考になる条項案を示します。

 

第●条(固定残業手当)
A:基本給には、第〇条に定める時間外勤務手当の●時間相当分(割増賃金計算の基礎となる時給単価×1.25×●)が含まれるものとする。
B:基本給のうち、●万円を、第〇条に定める時間外勤務手当として支給する。

 

この規定は、基本給に固定残業代を含める場合の規定です。
Aのように時間を表示するパターン、Bのように額を表示するパターンが考えられます。

 

 

第●条(固定残業手当)
・□□手当は、第〇条に定める時間外勤務手当の●時間相当分(割増賃金計算の基礎となる時給単価×1.25×●)が含まれるものとする。
・□□手当は、その全額を第〇条に定める時間外勤務手当として支給する。

 

この規定は、固定残業代を「業務手当」等の名目で基本給とは別途支給する場合の規定です。同じく、時間を表示するパターン、額を表示するパターンが考えられます。

 

 

第●条(固定残業手当)
1 従業員には時間外勤務手当の支払いに充てるものとして毎月定額の固定残業手当を支給することがある。
2 会社が固定残業手当を支給するときは、1ヶ月の時間外勤務手当の金額が固定残業手当の金額を超えた場合に限り、超過額を別に支給する。また、深夜割増賃金、休日割増賃金が発生したときは、固定残業手当と別にこれを支給する。

 

この規定は、従業員によって固定残業代が異なる場合に用いる規定です。
固定残業手当として支給する場合のルールを明確に規定しています。

 

判例によると、このような規定を設けた上で、給与明細を確認したときに、通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できることが必要とされています。したがって、タイムカード等による労働時間の管理が必要となることは当然の前提となります。

 

それでは、判例の紹介に移ります。

 

2 事案の概要
医師であるXは、医療法人Yに雇用されており、その年俸は1700万円とされていました。XY間の雇用契約においては、時間外勤務に対する給与はYの医師時間外勤務給与規程(以下「本件時間外規程」といいます。)の定めによるとされており、本件時間外規程は、時間外手当の対象となる業務は、原則として、病院収入に直接貢献する業務又は必要不可欠な緊急業務に限ること、通常業務の延長とみなされる時間外業務は、時間外手当の対象とならないこと等を定めていました。また、XY間の雇用契約においては、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については、年俸に含まれることが合意されていましたが、その年俸のうち、いくらが時間外労働等に対する割増賃金に当たるのかは明らかにされていませんでした。

 

本件は、Yから解雇処分を受けたXが、解雇の無効を争うとともに、時間外労働等に対する割増賃金並びにこれに係る付加金の支払等を求めた事案です。以下、本記事においては、割増賃金の部分についてのみ述べます。

 

3 争点
時間外割増賃金が年俸に含まれているか否か(年俸の支払いによって時間外労働等に対する割増賃金が支払われたと言えるか。)。

 

4 裁判所の判断
まず、割増賃金を予め基本給等に含めて支払うという方法自体について、労働基準法37条は、労働基準法37条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定(以下「労働基準法37条等」という。)に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまると解され、労働者に支払われる基本給や諸手当(以下「基本給等」という。)にあらかじめ含める方法により割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではない、と述べ、その方法自体を直ちに違法とは判断しませんでした。

 

もっとも、他方、割増賃金を予め基本給等に含める方法で支払う場合において、使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、その判断の前提として、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である、としました。

 

その上で、上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等により定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである、としました。

 

そして、本件においては、XとYの間に、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については、年俸1700万円に含まれるという合意があったものの、このうち時間外労働に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったことから、Xに支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない、したがって、年俸の支払いによってXの時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできない、としました。

 

5 本判決について
(1) 使用者が時間外・休日労働の規定(労働基準法33条1項2項・36条)によって労働時間を延長し、もしくは休日に労働させた場合、または午後10時から午前5時までの間の深夜に労働させた場合においては、その時間またはその日の労働については、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額に一定の割増率を乗じた割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条)(菅野和夫「労働法[第11版補正版]」492頁~493頁)。

 

(2) もっとも、割増賃金の規定が使用者に命じているのは、時間外・休日・深夜労働に対し同規定の基準を満たす一定額以上の割増賃金を支払うことであるので、そのような額の割増賃金が支払われる限りは、法所定の計算方法をそのまま用いなくてもよいとされています。(菅野和夫「労働法[第11版補正版]」498頁)

 

実務でも、法所定の計算方法をそのまま用いずに割増賃金について「固定残業代」として支払う方法が採用される場合があります。固定残業代としては、①時間外労働等に対して定額の手当を支給する定額手当制と、②基本給の中に割増賃金を組み込んで支給する定額給制の方法が考えられます。この点については、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない場合には、労働基準法37条違反とならない」とされていることから(昭和24年1月28日基収3947号)、割増賃金不払いの法違反も成立しないこととなります。

 

そして、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない」か否かを判断するためには、①であれば、基本給と割増賃金に相当する部分を、②であれば、定額給のうち割増賃金に相当する部分とそれ以外の部分を明確に区別しておかなければならないとされています。さらに、①②とも、割増賃金に相当する額が、労働基準法37条所定の計算方法に基づく割増賃金を満たしている必要があります。

 

(3) また、年俸制と割増賃金との関係については、「年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであって、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができ、かつ、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上支払われている場合は、労働基準法第37条に違反しない」とされています(平成12年3月8日基収第78号)。

 

(4) 本判決で示された内容は、本判決が引用する過去の最高裁判例(最二小判平成6年6月13日、最一小判平成24年3月8日、最三小判平成29年2月28日)において明らかにされてきた理解に沿うものです。また、本判決の特徴としては、労働者の労働の特徴や高額の報酬額を問題とせずに、専ら、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができるか、という観点から年俸の中に時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が含まれていたかを判断している点が挙げられるとされています。

 

このように、割増賃金について、労働基準法37条所定の計算によらずに固定残業代として支払うことが許されるか、という問題については最高裁として上記の一定の基準が示されていることが認められます。

 

今後、固定残業代の制度を導入する場合には、本判決及び本判決が引用する最高裁判例が示す基準、すなわち、①通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できること、②その上で、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額の額を下回らないかを検討して、労働基準法37条に定める割増賃金の支払いがされたといえるか否かを判断する、という基準にご留意頂く必要があります。

 

(文責:三村雅一)

2018年04月13日 11:44|カテゴリー:企業法務,未分類コメントはまだありません

いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か

1 「いわゆる有償ストック・オプションと「報酬等」規定」(弥永真正著)と題する論文

旬刊商事法務No.2158(2018年2月15日号)に、「いわゆる有償ストック・オプションと「報酬等」規定」(弥永真正著)と題する論文が掲載されています。

これは、企業会計基準委員会が平成30年1月12日に、「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(実務対応報告第三六号)を公表したことを契機として権利確定条件付き有償新株予約権を取締役に付与した場合に、会社法第361条第1項に基づいて報酬等の付与として、株主総会の決議が必要であるかどうかを議論した論文です。

当職が知る範囲では、従前の解釈は、いわゆる公正な払込金額に相当する額の金銭が払い込まれる有償ストック・オプションは、「財産上の利益」を与えるものではないため、株主総会の決議は不要と解されるという主張が多いように思います。

 

2 ベンチャー企業が、有償ストック・オプションを発行する理由

ここで、ベンチャー企業が、有償ストック・オプションを発行して、役員や従業員に割り当てる理由を確認したいと思います。

ベンチャー企業の経営者には、ベンチャー企業の役員や従業員に対して、時価総額を最大化するという方向性で共通のインセンティブをもってもらうために、株主と同じような利害関係を創りたいという動機があります。その方法として、主に、3つの方法が考えられます。

(1)株式
(2)無償ストック・オプション
(3)有償ストック・オプション

いずれの方法も現実には存在します。

ただ、株式は、株主間契約等で拘束しない限り、会社との関係が切れても保有されてしまうリスク(フリー・ランチのリスク)や株主総会招集通知を送付しなければならないといったデメリットがあり、原則として、避ける方向が多いと思います。

そこで、(2)の無償ストック・オプションか、(3)の有償ストック・オプションが選択肢に上がります。

この2つを分けるのは、税制です。
(2)の無償ストック・オプションについては、いわゆる税制適格が得られないと、権利行使時、すなわち新株予約権が株式に変わったときに、所得税の課税対象となり、納税分の現金が用意できないリスクや所得税の税率の高さといったデメリットがあるため、忌避されることが多いです。(なお、金額が小さいと、これらのリスクやデメリットは大きくないことから、税制非適格の無償ストック・オプションが発行されることも時折見かけます。)

税制適格が得られない場合には、有償ストック・オプションが活用されます。典型的には、大株主の地位にある役員や、役員・従業員ではない外部協力者です。公正な発行価額にて発行された有償ストック・オプションは、いわゆる資本的取引であり、所得税の適用は受けず、また、権利行使時ではなく、株式売却時に課税されるため、上記の無償ストック・オプションのリスクやデメリットがありません。(なお、公正な発行価額にて発行する必要があるため、新株予約権の払込金額の算出が多少面倒かもしれません。)

そのため、ベンチャー企業では、有償ストック・オプションを発行することが少なくありません。

当事務所でも、ストック・オプションのスキーム選択や、要項・契約書の作成について、非常に多く助言を行っており、上記の状況をヒアリングしつつ、適宜アドバイスを行っています。

 

3 会社法上の役員報酬規制

会社法では、取締役の報酬等(職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益)については、額、具体的な算定方法、又は内容を、定款又は株主総会の決議によって定めなければならないと規定されています(会社法第361条第1項)。

その理由は、いわゆる「お手盛り」の防止、すなわち、取締役が自らの報酬を自由に決定できるとすると、好きなだけ高く設定することができ、その分、株主が損をするということにあるとされています。

また、取締役会決議では、充分に牽制機能が働かないことや、株主としても有能な取締役を失わないためにどの程度の「報酬等」を付与するかを考えるべき立場になることが理由とされています。ただ、個人的には、上場企業の場合に、この後者の理由が妥当するのかは、疑問の余地がないわけではありません。

さらに、金銭対価以外の場合には、報酬等としての合理性を判断する機会を株主に与えるという趣旨もあるとされています。

 

4 いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か

上記の論文では、「「権利確定条件付き有償新株予約権」が会社法361条にいう「報酬等」に常に当たらないことが自明であるとはいえない」と小括しています。

同論文は、基本的に、開示している「権利確定条件付き有償新株予約権」を調査しているようであり、上場企業が念頭に置かれていると思われます。

とはいえ、会社法第361条は、上場企業にも非上場企業にも適用されますので、仮に、「権利確定条件付き有償新株予約権」が会社法361条にいう「報酬等」に該当する可能性があると解釈すると、安全を見て、非上場企業でも、取締役に新株予約権を発行する際には、株主総会の報酬決議をしなければならないということになります。

ベンチャー企業の実務上は、正直なところ、あまり手続的な実益が乏しいにもかかわらず、報酬決議を取得することは更なる手間を要することになり、あまり好ましい事態ではないように思われます。具体的には、非上場企業では、第三者割当により新株予約権を発行するに際しては、株主総会の決議を経ることになり(会社法第238条第2項、第240条第1項)、少なくとも会社法第239条第1項の枠取り決議が必要です。しかしながら、報酬決議も必要だとすると、付与時にも、株主総会の決議を経なければならなくなります。

枠取り決議では、付与対象者が不明であるので、再度の株主総会決議には、役員への付与を承認するという意義があるという考え方もあり得ますが、普通は、枠取り決議時に、およそどのような属性の者に付与するのかについて、予め株主に説明した上で、承認を得ていることが普通でしょうから、実務的には、二度手間が生じるように思われます。また、枠取り決議の要件は、出席株主の3分の2であり(会社法第309条第2項第6号)、報酬決議より要件が厳しいという点から、要件が緩い報酬決議をさらに必要としなくても良いとも考えられます。さらには、非上場企業が具体的な「報酬等の額」を算出することはかなり負担が多いように思われます。

少なくとも、非上場企業においては、公正な発行価額にて発行された有償ストック・オプションについては、発行手続において株主総会決議を経ている以上、いわゆる「お手盛り」の防止や、報酬等としての合理性を判断する機会を株主に与えるという趣旨も達成できるのであり、さらに株主総会の報酬決議を必要とする、取締役への実質的な地位や特権的な機会の付与があるとはいえず、「財産上の利益」がないと解して、報酬決議を不要と解釈することは十分に可能であると考えられます。

なお、以上は、弁護士森理俊の個人的見解に過ぎず、特定の裁判の結果を保証するものではなく、また、当事務所を代表して意見を述べるものでもありません。

 

2018年04月04日 10:57|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンスコメントはまだありません

定型約款に関する民法改正(3)

これまで2回にわたって定型約款に関する民法改正について紹介してきました。今回が最終回になります。

 

1 定型約款の内容の表示(第548条の3)

 

前回紹介したように、改正民法は、第548条の2第1項で、定型約款が契約内容となるための要件として、①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、②定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき、と規定しています。このように、改正民法は、原則として定型約款を契約内容とするための要件として、定型約款の内容の開示を求めていません。

もっとも、定型約款を用いた取引を行う場合、定型約款を示される相手方としては、契約の内容となる約款の内容を知っておかなければ不安であることから、実務上は、契約前に約款の内容が示されることが通常であると考えられます。

改正民法第548条の3は、この約款内容の開示に関し、(1)定型約款準備者から約款の内容について任意の開示がされていない場合に開示を求めることができるのか、(2)定型取引合意前に約款の内容が開示されなかった場合にまで定型約款が契約内容となるのか、といった点について定めた規定です。

 

(1)について

まず、第548条の3は、第1項で、定型約款準備者の相手方に対する定型約款の内容に関する開示義務を定めています。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、改めて開示する必要はありません。

 

(2)について

次に、同条第2項は、「定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。」として、定型約款準備者が契約締結前に正当な理由なく第1項の開示請求を拒んだ場合には、定型約款は契約内容とならない旨定めています。

また、同じく定型約款準備者が第1項に定める開示義務に違反した場合には、相手方に対し、それによって被った損害の賠償義務を負うことになります。

 

なお、本条に定める開示をもって、重要な約款事項について信義則上の情報提供義務・説明義務を果たしたことにはならない点には注意が必要です。

 

本条第2項で、開示義務に違反した場合には定型約款が契約内容とならないとされていること、また、開示義務に違反したことによる損害賠償義務を負いうること、さらに、第548条の2の第1項第2号において、予め定型約款の内容を開示していたときには定型約款が契約内容となるとみなされることに照らせば、実務的には事前に定型約款を契約の内容とする旨を相手方に示すとともに、定型約款の内容を記載した書面等を相手方に交付しておくべきであると考えられます(第一東京弁護士会 司法制度調査委員会編 「改正債権法の逐条解説」262頁参照)。

 

2 定型約款の変更

 

定型約款により契約が成立した後に内容を変更する必要が生じた場合について定めているのが第548条の4です。

 

本来、一度成立した契約の内容を変更するためには、相手方の同意が必要であるのが原則です。もっとも、定款取引は不特定多数の相手方を対象としていることが多く、個別の同意を得ることは現実的に不可能です。

 

この点について、約款変更の要件に関する明確な規定や運用が定まっていなかったため、改正民法第548条の4は、(1)定型約款に基づく契約を締結した後に定型約款準備者が約款の内容を変更するための要件、(2)その際の手続等について明らかにする規定になっています。

 

(1)約款変更の要件について

①定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき

②定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

には、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなされます。

 

②の要件を満たすか否かの判断の際の考慮要素として挙げられている事情についてはあくまで例示列挙であり、これ以外にも、例えば、相手方に解除権の付与など、相手方が被る不利益を軽減する措置が講じられているか否かといった事情も考慮要素となります。

 

なお、[定型約款中に、「定款を変更することができる」旨の定めがあること]については、約款変更のための要件ではありませんが、これも上記考慮要素の一つとされていることから、定型約款を作成する際には、定型約款中に、「定款を変更することができる」旨の定めを置くことをおすすめします。

 

(2)約款変更の際の手続について

本条2項では、定型約款準備者は、定型約款の変更をするときは、

①約款変更の効力発生時期を定め、かつ

②定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知する

必要があります。

 

本条3項では、(1)②の方法による変更の場合、すなわち、定型約款の変更が相手方の利益に適合するという判断に基づく場合ではなく、合理性の基準を満たすという判断に基づく場合については、効力発生時期までに上記周知をしなければ変更の効力を生じないとされています。

 

なお、周知→効力発生という手続を踏まなければならないことは規定されているものの、周知から効力発生までにどの程度の時間を置けばよいのかについては具体的に定められていません。この点については、周知という手続が、定款の変更によって不利益を受ける相手方を保護するための手続である以上、不利益への対抗措置を講じるのに十分な時間か否かが判断基準とされると考えられます。

 

最後に、本条4項においては、第548条の2第2項のみなし合意除外規定を適用しない旨確認的に規定されています。これは、定型約款変更の有効性に関する本条1項1号及び2号における判断は、第548条の2第2項の判断よりも慎重かつ厳格に行われるものであることを理由とするものです。

 

3 改正民法施行日前の契約について

改正民法施行日以後の定型取引については、改正民法が適用されます。

この点、附則第33条第1項本文は、改正民法の施行日前に締結された定型取引にかかる契約についても、定型約款に関する改正民法の規定が適用される旨定めています。ただし、附則第33条第1項ただし書は、旧法の規定によって生じた効力を妨げないと規定していることから、旧法のもとで有効なものとされていた約款条項が改正民法の定型約款に関する規定によって無効なものとされることはありません。また、施行日前に、相手方から反対の意思が書面・電磁的記録によって示された場合には、附則第33条第1項は適用されません(附則第33条第2項、第3項)。

 

以上

2018年03月20日 17:16|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

企業と個人との業務委託契約と、独占禁止法の適用の可能性について

先日、日本経済新聞等で「フリーランス、独禁法で保護」等として、「企業と雇用契約を結ばずに働く技術者やスポーツ選手らフリーランス人材が独占禁止法で保護される」方向で、運用指針が制定される方向で検討されている旨の報道がありました。

 

2018年2月16日
日本経済新聞「フリーランス、独禁法で保護 公取委、運用指針を公表 過剰な囲い込み防ぐ」

上記の記事では「これが労働分野に独禁法を適用するための事実上の運用指針になる。」とあるものの、この内容は有識者検討会の報告書であり、今は、公正取引委員会が「今後の業務の参考とするため,本報告書に関する御意見を広く募集することとしました。」として、パブリックコメントを募集している段階であり、現時点では、確定したガイドライン(指針)ではないことに留意が必要です。

 

平成30年2月15日 公正取引委員会 競争政策研究センター
「人材と競争政策に関する検討会」報告書について

平成30年2月15日 公正取引委員会 競争政策研究センター
『人材と競争政策に関する検討会 報告書』

 

フリーのITのエンジニアが、業務委託(請負・準委任)で契約する場合や芸能事務所とタレントの間で契約する場合等に適用される可能性があり、この有識者検討会の報告書の内容が、運用指針として運用されるようになると、実務への影響が大きいと予想されます。

 

ここでは、この報告書について、気になった点に言及したいと思います。

 

【報告書のポイント(一部)】
・ 自由競争減殺の観点からは,発注者が役務提供者に対して,発注者が自らへの役務提供に専念させる目的や,役務提供者の育成に要する費用を回収する目的のために合理的に必要な(手段の相当性が認められる)範囲で専属義務を課すことは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
・ 競争手段の不公正さの観点からは,発注者が役務提供者に対して義務の内容について実際と異なる説明をする,又はあらかじめ十分に明らかにしないまま役務提供者が専属義務を受け入れている場合には,独占禁止法上問題となり得る。

 

【特に気になった点】

報告書34頁以下に、

 

発注者が役務提供者に対して合理的な理由なく行う以下の行為は,それにより他の発注者が商品・サービスを供給することが困難となるなどのおそれを生じさせる場合には,自由競争減殺の観点から独占禁止法上問題となり得る。
・ 役務の成果物について自らが役務を提供した者であることを明らかにしないよう義務付けること
・ 成果物を転用して他の発注者に提供することを禁止すること
・ 役務提供者の肖像等の独占的な利用を許諾させること
・ 著作権の帰属について何ら事前に取り決めていないにもかかわらず,納品後や納品直前になって著作権を無償又は著しく低い対価で譲渡するよう求めること

 

とあります。

 

したがって、これまで実務上行われてきた、個人のITエンジニアとの間で、著作者人格権の不行使特約を設けたり、タレント自らの肖像権について事務所の独占的利用を認める専属契約を締結したりする行為(肖像等の独占的許諾義務)が、独占禁止法上の問題となる可能性があります。

 

 

 

 

ところで、オリンピックとの関係で、この肖像権の独占的利用について、問題となりつつあります。一方は、知的財産権の保護(JOC側)と独占禁止(優越的地位の濫用)の綱引きの問題といえるかもしれません。

 

欧州では、以下の運用があるようです。

 

【2017年12月21日ドイツ連邦カルテル庁プレスリリース】
○ ドイツ連邦カルテル庁は,オリンピックに参加する選手が,オリンピック期間中及びその前後の一定期間,広告目的での選手自身,名前,写真や,スポーツの実演の利用を禁止することを内容とするオリンピック憲章の運用は競争を制限しており,ドイツオリンピック連盟及び国際オリンピック委員会は市場支配的地位を濫用している疑いがあるとして,両団体について調査を進めている。

 

日本でも、日本オリンピック委員会(JOC)が平昌冬季五輪の代表選手の壮行会や報告会を非公開としたとされることに対し、菅義偉官房長官が公開が望ましいとの考えを示す等、議論が起こっています。

朝日新聞「五輪壮行会、菅長官「公開が望ましい」」

日本でも、芸能事務所等の分野でも、今までの常識が変わっていくかもしれません。

2018年03月15日 11:30|カテゴリー:ベンチャー・ビジネスコメントはまだありません

定型約款に関する民法改正(2)

前回は、改正民法における定型約款に関する規定の概要についてご説明しました。今回からは、その各論について紹介します。

 

改正民法第548条の2は第1項で、定型取引合意をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす、として、約款の内容が契約内容とみなされるための要件について定めています。

 

ここで、

(1)どういった約款が改正民法の規定する約款に関するルールの適用対象となるのか、

(2)どのような場合に、契約当事者の一方が作成した約款を契約内容とみなすことができるのか、が問題となります。

 

(1)について

まず、改正民法は、新たに設けられる約款規定の対象となる約款=定型約款について、「①定型取引において、②契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義しています。

 

①について

改正民法は、「定型取引」について、

ア ある特定の者が不特定多数の者を相手として行う取引であり、かつ、

イ 内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの

と定めています。

 

アについては、相手の個性に着目しない取引であると説明されており、労働契約等、相手の個性に着目した取引はこのアの要件を満たさないとされています(部会資料86-2 1頁)。

 

イについては、一方当事者において契約内容を定めることの合理性が一般的に認められている取引でなければならないとされています。すなわち、多数の人々にとって有用なサービスが平等な基準で提供される場合、サービスの性質上、多数の人々にとって平等な基準で提供されることが要請される場合など、具体的には、銀行取引における預金規定などがこれに当たるとされます。

 

②について

一方当事者から示された契約条項の内容を他方当事者が十分に吟味することが通常とされる場合には、この要件を満たさないことになります。

 

したがって、事業者間取引において利用される契約書のひな型や約款については、相手方の個性に着目する場合には①アの要件を欠き、交渉力の格差によって契約内容が画一的なものになっている場合には①イの要件を欠き、そのひな型をたたき台として交渉が行われ、条項の修正が行われることが想定されている場合にはこの②の要件を欠くことから、事業者間取引において利用される契約書のひな型や約款については、基本的には定型約款の定義には該当しない、とされています。

 

(2)について

改正民法第548条の2第1項は、(1)①の定型取引を行うことを合意した者が、

①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき

②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき

に、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなすことができる旨定めています。

 

まず、定型取引の合意とは、あくまで定型取引を行うことの合意であり、約款の内容を了解して行う契約の意思までは求められていません。

 

①について

①の合意については、定型約款によることの合意があれば足り、約款の個別の条項の内容を了解することまでは求められていません。

 

②について

①と同じく、定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していれば足り、定款を示された相手方が、個別の約款条項の内容を了解することまでは求められていません。

 

このように、改正民法では定型約款が契約内容になるかどうか、という点について、契約の相手方に対して定型約款の内容の開示や認識可能性を要件としていません。もっとも、次回紹介する第548条の3の規定が存在することに照らしても、実務上は、相手方に対して約款の内容が示されることなく、上記①②の合意がなされることはないと考えられます。

 

なお、取引自体の公共性が高く、かつ、定型約款による契約の補充の必要性が高いもの、すなわち、鉄道・軌道・バス等による旅客の運送に係る取引、高速道路等の通行に係る取引、電気通信役務の提供に係る取引その他の一切の取引については、定型約款を準備した者が定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ「公表」していれば、「表示」までしていなくとも、当事者がその定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなす旨の特別規定を設けています(鉄道営業法第18条ノ2、軌道法第27条ノ2、航空法第134条の3、道路運送法第87条、海上運送法第32条の2、道路整備特別措置法第55条の2、電気通信事業法第167条の2)。

 

上記の通り、改正民法第548条の2第1項に定められた要件を満たした場合、定型約款の個別条項が契約内容となります。もっとも、同条第2項では、第1項の要件を満たした約款条項であっても契約の内容にはならない場合について規定しています。

 

すなわち、

(1)相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項

(2)その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして、第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの

については、合意をしなかったものとみなす旨定められています。

 

本条項の趣旨は、定型約款が一方的に準備されるものであることから、条項内容の合理性が担保されておらず、約款取引を巡るトラブル事例も多いという約款にまつわる問題に照らし、約款を示される相手方を保護することにあります。

 

なお、条項内容自体が不当条項に該当しない場合であっても、同条項における重要な事項について相手方にとって予測し難い内容が含まれているような場合には、その内容を容易に知り得る措置を講じなければ、信義則に反することとなる蓋然性が高いとされています。このように、本条項は、不意打ち条項規制と不当条項規制に関する規定を一本化した規定と言われています。

 

なお、消費者契約において、「定型約款」が使用され、同約款内に不当条項が含まれている場合、消費者は事業者に対し、改正民法第548条の2第2項に基づく主張と、消費者契約法第8条~10条に基づく主張を選択的に行使できることになります。

 

以上の通り、一般的に「約款」と呼ばれているものの全てが改正民法の定型約款に関する規定の対象となるわけではない点には注意が必要であり、個別のケースごとに「定型約款」の要件を満たすかどうかを検討しなければなりません。また、改正民法第548条の2第1項第2号の「表示」とは具体的にどの程度のことをすればよいのか、どのような条項が改正民法第548条の2第2項の定める条項に該当するかなど、判断が困難な部分もありますので、この改正を機に、いわゆる約款を用いた取引を行われている事業者の方々は、一度、弁護士にご相談されることをおすすめ致します。

以上

2018年02月19日 10:58|カテゴリー:企業法務コメントはまだありません

投資契約(株式引受契約)や株式譲渡契約における表明保証条項について(その2)

前回は、①表明保証条項とは、②表明保証違反が判明した場合、③表明保証違反と株式引受人・譲受人(=投資家)側の悪意又は重過失、という内容をお伝えしました。前回の内容は、契約書の法的な効力という観点から、やや法技術的な側面が強かったかもしれません。

 

今回は、投資契約(株式引受契約)を締結するにあたって、企業側(発行会社側)が、表明保証条項に、どのようなスタンスで臨めば良いか、という観点をお伝えしたいと思います。

 

1 表明保証条項のチェック
投資契約(株式引受契約)においては、企業側(発行会社側)は、基本的に受け身であることが、ほとんどです。というのも、企業側(発行会社側)は、投資を受けるに際して、制約がない方がよいというのが常であるため、企業側からVCに投資契約書のファーストドラフトを提示する例は少ないです(一般的な総数引受契約のみの提示に留まることはあります。)。実務では、基本的にVC等の株式引受人(投資家)側が、予め用意している投資契約書の雛型を提示し、企業側(発行会社側)側が、提示された投資契約書をチェックする、という流れがほとんどです。

 

投資契約書をチェックする場合は、用語が意味不明であるときや、どのような事態を想定している規定なのかわからないときがあります。その場合は、弁護士に相談して頂くことをお薦めします。意味の分からない契約書に署名・押印しないという会社経営における心構えは、どのような契約書であっても当てはまりますが、投資契約においても、極めて重要な心構えです。というのも、株式に関する契約書は、後から変更することが難しいことがほとんどであり、一度、署名・押印した不利な条項は、簡単には変更できないためです。

 

さて、投資契約書をチェックするにあたっては、複数にわたる各項目を読み、自社において、相反する事実が現存していないかを、点検します。

 

例えば、「発行会社の運営に必要な知的財産権は、全て発行会社に帰属しているか、適切なライセンスを受けている」といった項目があったとします。この場合に、未だ、発行会社の代表取締役個人に帰属している商標権があったり、共同研究を行った大学に帰属している特許権があったりした場合は、その事情を株式引受人(投資家)に説明し、「発行会社の運営に必要な知的財産権は、~~~を除き、全て発行会社に帰属しているか、適切なライセンスを受けている」といった内容に変更してもらう必要があります。

 

企業(発行会社)は、このような変更の交渉を怠ってはなりません。むしろ、株式引受人(投資家)による、投資契約書の雛型の提示は、企業(発行会社)による自発的な問題点のあぶり出しを期待しているところがあり、株式引受人(投資家)にとっては想定の範囲内です。

したがって、企業(発行会社)は、遠慮なく、抵触している可能性のある事実を株式引受人(投資家)に伝えた方がよいと考えます。

 

2 表明保証条項に抵触する事実への対応(投資契約書への反映)
ここでは、表明保証条項に抵触する事実が存在した場合に、どのように投資契約書に反映するかを検討します。

 

例えば、企業(発行会社)の事業にとって、必要な特許権が、その企業の社長個人に帰属していたとします。

 

この場合は、株式引受人(投資家)は、早く会社にその特許権を譲渡してもらいたいと考えます。そこで、投資契約上は、(i)投資契約書締結前に特許権の譲渡を完了する、(ii)投資契約書締結後、投資実行前に特許権の譲渡が完了する、(iii)投資実行後、できる限り速やかに特許権の譲渡を完了する、という3つの譲渡時期が想定されることになります。

 

(i) 投資契約書締結前に特許権の譲渡を完了する場合は、投資契約書上、表明保証条項に、発行会社の運営に必要な特許権が全て発行会社に帰属していることを記載することになります。
(ii) 投資契約書締結後、投資実行前に特許権の譲渡が完了する場合は、投資契約書上、投資実行の条件として、特許権の譲渡を記載することになります。
(iii) 投資実行後、できる限り速やかに特許権の譲渡を完了する場合は、投資契約書上、企業(発行会社)の義務(誓約事項)として記載することになります。

 

また、事実として約束しきれない場合、例えば「第三者の知的財産権を侵害した事実はない」といった規定があれば、「発行会社及び経営支配株主の知る限り、第三者の知的財産権を侵害した事実はない」といった文言を付け加えることが考えられます。

 

3 まとめ
企業(発行会社)側が投資契約書を締結する場合、初めて、投資契約書に向き合うことも少なくありません。意味の分からない契約書に署名・押印しないという心構えを強く維持し、弁護士と相談したり、投資家に質問したりして、不明な点、不安な点を全て解消してから、締結することを強くお薦めします。

 

また、表明保証に抵触する事実がある場合や抵触しているかよくわからない場合、投資家に隠すという選択は、問題を先送りにする行為であり、得策ではありません。表明保証に抵触する事実や、抵触しているかよくわからない状態を、上手く投資契約書に反映させて、企業(発行会社)と株式引受人(投資家)の信頼関係の礎としていただければと思います。

文責:森 理俊

2018年02月02日 15:17|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンスコメントはまだありません