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ベンチャー法務の部屋

あるベンチャー・キャピタリストからのメッセージ

日本の優れたベンチャー・キャピタリストに、原丈人さんという方がいます。「日本の」と書きましたが、正確な記載ではないかもしれません。国籍が日本であり、母国語は日本語であると推察されますが、主な活躍の場は米国シリコン・バレーですので、米国のベンチャー・キャピタリストと表現しても差し支えはないと思います。残念ながら私は直接お目にかかったことはありません。

この原丈人さんが執筆された本に、『21世紀の国富論』という本があります。私は最近この本を手にしました。この本は、2007年6月に出版された本ですので、最新の情勢が含まれているではありませんが、日進月歩のベンチャーの世界で普遍的に通じる内容に加え、経営全体やコーポレート・ガバナンスについての鋭い洞察が数多く含まれていますので、経営者やこれから起業を目指す方、その他、企業に関わる多くの方に読んでいただきたいです。

筆者は、経営の道具であるはずのROEを目的にすることは、本末転倒であり、たとえ短期的にROEが下がろうとも、研究開発にお金をかけ、内部留保を大切にし、優れた工業製品を作ることが重要であると説いておられます。本書中の印象的なフレーズをいくつか紹介させていただきます。

・アメリカに理想のガバナンスはない / 機能しなかったアメリカ型のコーポレート・ガバナンス

・(当たり前のことですが、)財務は経営の主役ではない / ゲームに踊らされて力を失ったアメリカ

・内部留保は中長期の経営に不可欠

・ベンチャー・キャピタルが果たす大きな役割は、兆円単位の新しい基幹産業を生み出すような技術を見抜き、それを長期間にわたって育てていくこと / シリコンバレーでは、もはや「本物のベンチャーキャピタルは死んだ」 / 小さな成功ばかり志向するベンチャー企業

・金融商品化してしまった企業、産業


本書のすべての項目について、すぐに首を縦にふることができたわけではありませんが、様々な視点からの数多くの指摘は、大変勉強になりました。特に、「企業は誰のもの」という議論に、意味はない(株主だけのものでも、従業員だけのものでもなく、すべてのステークホルダーを含めた仕組み)という点は、かねてより考えていたことと同じであり、心から納得できるものでした。

ところで、本書には、昨今、話題となっている社外取締役の議論についての安易な制度設計論に対する警告も含まれているように考えます。詳しくは本書を参照していただきたいのですが、少し触れさせていただきます。実際に多くの、そして様々なステージの欧米企業の社外取締役を務めた筆者は、社外取締役が過半数というアメリカ型のコーポレート・ガバナンスは、実際には機能しないと主張されています。それは、結局、(このような制度を採用したとしても)原則論とかけ離れ、CEOが推薦した人が社外取締役として選ばれることが多く、馴れ合いが生じることが少なくない上、仮に株主の意向を反映する人が社外取締役に就任したとしても中長期の視野に立った経営より、短期的に株価を上げるような施策を望むことが多いからであると述べています。日本の会社法の制度設計論が、このような現場の声を無視した頭でっかちの議論とならないことを望みます。

ちなみに、この本にiPodは少し出てきますが、2007年1月に発表され同年6月から発売が開始されたiPhoneとその後のアップル社の大躍進については出ていません。クラウドという言葉もありません。個人的には、筆者に、お金目当てで経営をしているとはとても思えない天才的経営者に率いられているアップル社が今のiPhoneやMac Book 等の魅力的なApple製品群を提供している現状について、その評価をお聞きしてみたいです。筆者の造語であるPUC(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ)に今のところ一番近いのもiPhoneだと思われますので、こちらの観点からもお聞きしてみたいです。

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