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ベンチャー法務の部屋

表明保証違反を理由とする株式譲渡契約の解除につき解除原因がないとした裁判例

 
判例時報平成22年11月21日号No.2089に、表題の内容の裁判例(東京地裁平成22年3月8日判決)がありました。

会計評価と、表明保証違反の関係が問題となった事例です。

株価算定の前提となる将来業績予測や会計評価において、相手方(提出側。本件では被告、売主。)が自分に有利な数字を使ったとしても、それは株価の評価の妥当性の問題であり、株価算定書が虚偽であるとはいえない(→被告の表明保証の対象とはならない)と判示されています。

本エントリーでは、本判決が妥当であるか否かの判断はさておき、本判決から得られる企業関係者への教訓を考えてみます。(ここで判断を差し控えるのは、評価が合理的な範囲を超える程度に不相当でおよそ妥当とはいえないレベルであれば、虚偽といえるレベルに達することはあり得ると考えますが、本件の会計評価と実態とを比較することができないことが主な理由の1つです。)

本件から言える一般的な教訓としては、「買収等のM&A案件では、契約締結前に、専門家を使ったデュー・ディリジェンスを怠らないこと」が導けると考えます。本件は、10億円規模のディールのようですが、契約締結前に弁護士や会計士等の専門家を使ったデュー・ディリジェンスが行われていなかったようです。買収案件では、その規模の大小にかかわらず、デュー・ディリジェンスを行い、(i)買収すべきか否か、(ii)株価の妥当性を判断した上で、(iii)デュー・ディリジェンスの結果を踏まえた契約条項の練り上げが必須となります。記憶の曖昧な話で恐縮ですが、いつかの新聞記事に、投資案件や取引案件では、そのディールの3%程度を目安として、リーガル費用やデュー・ディリジェンス費用に使うこととしている大手商社の記事を読んだことがありますが、一つの考え方であろうと思います。

また、私の個人的な関心は、株式譲渡契約書の書き方次第で結論が変わり得たか、原告は他に争い方はなかったのか、といったところにもありますが、やはり本件では、デュー・ディリジェンスをしなかったことが致命的であったように思います。一般的に、契約書の文言や争い方でリカバリーできる範囲は、事前に予防できる範囲より小さいものです。本件は、予防法務の重要性を改めて伝えてくれる裁判例です。

ベンチャー企業におけるベンチャー・キャピタルから派遣される社外取締役の役割


ベンチャー企業の社外取締役として、ベンチャー・キャピタルから派遣される取締役がいます。今回は、このベンチャー・キャピタルから派遣される取締役の役割について、考えたいと思います。

そもそも、なぜベンチャー・キャピタルは、投資契約書に取締役派遣条項を入れようとするるのでしょうか。それは、主に以下の2つの役割が考えられます。

1 適切な経営が行われているか、チェックする
2 株主として、企業価値が上がることに貢献できる可能性を見逃さない

1の「適切な経営が行われているか、チェックする」というのは、決して現実に経営全般を監視することを意味するわけではありません。理想としては、経営全般の監視ができれば良いでしょうけれども、1人の社外取締役が為し得る現実としては、(i)月次決算や事件・事故の報告を受けて、売上や費用の変動及びその原因を知ること(過去業績情報の収集及び分析)、(ii)各プロジェクトの進捗状況、製品やサービスの内容やリリースの見込みを知ること(将来業績予測に関わる社内情報の収集及び分析)、(iii)既存及び新規の取引先との取引・交渉の状況、新規事業・製品・サービスの内容や見込、顧客・潜在顧客動向、ライバル社・競合製品・新規参入の動き等の分析・検討(将来業績予測に関わる社外情報の収集及び分析)にかかわることにより、会社が健全に発展する様に指導し、代表取締役の決断を支援するということになるでしょう。通常は、変なお金の動きがないか、投資した資金が有効に使用されているか(投資した資金の想定外の使用も問題であるが、資金を使用しないことも問題。使用しない問題については、こちらを参照「ベンチャー企業のお金の使い方」)といった点に焦点をあててチェックすることが多いと思います。勿論、ベンチャー・キャピタルから派遣された社外取締役とはいえ、オフィス内に机があり、週に2~3日以上のペースで業務に携わっている方もおられますので、一概に言えるものではなく、より広範囲に監視等されているケースもあるかと思います。

社外取締役がチェックすることの動機・背景事情には、ベンチャー・キャピタル・ファンドへの出資者(投資家=LP:有限責任組合員)への説明義務があります(株主として会社が健全に成長することへ期待しているのは勿論です。)。ベンチャー・キャピタルとしては、投資先企業から話を聞いて、ファンドの出資者に報告できるようにする必要があります。(なお、実務上、VCのLPへの説明責任と、取締役としての善管注意義務・守秘義務の抵触といった問題が生じることがあり、悩ましい局面が生じることがあります。投資契約書等で予め解決しておくのがよいでしょう。)従って、ベンチャー・キャピタル側としては、ファンドの出資者にきちんと説明を尽くせる程度に、投資資金の使い道や投資先の状況を把握しておく必要があるのです。

投資先企業の業界については、ベンチャー・キャピタルの担当者もある程度詳しいことが多いですが、普通は投資先企業の社長の方が詳しいものです。ですから、ベンチャー・キャピタルから派遣された社外取締役は、新規のプロジェクトやリリース、製品概要について、余計な口出しをして、イノベーションを抑制するようにならないように心がけていることも多いでしょう。

2の「株主として、企業価値が上がることに貢献できる可能性を見逃さない」とは、何でしょうか。それは株主や当該社外取締役がもっているネットワークや情報、知識、アイディア等によって、事業の効率を高めたり、新規の取引につなげたりすることです。

独立系のベンチャー・キャピタルでは、投資先に取締役を派遣することは少なくなく、多くの派遣取締役がMBAホルダーや事業経営の経験が豊かな方です。この方々は、1のチェック機能が果たせるのは勿論のこと、取締役個人の力量で、マーケティング戦略を立案したり、コストを削減をしたりすることが可能ですので、投資先の企業価値の向上に貢献することが可能です。

また、ベンチャー企業が、商社系のベンチャー・キャピタルからの投資に対し、その親会社となっている商社のネットワークを利用したいという期待を抱くことも少なくありません。実際、商社系のベンチャー・キャピタルが、そのネットワークから投資先のビジネスに有用と思われる人を投資先に紹介することは稀ではありません。

ところで、法制審議会会社法制部会第4回会議(平成22年8月25日開催) の参照資料・部会資料2・「企業統治の在り方に関する検討事項(1)」 【PDF】 には、次のようなくだりがあります。

社外取締役の役割等については,「平時における経営者の説明責任の確保,有事における社外の視点を入れた判断の担保や経営者の暴走等の防止・安全弁といった役割」や,「取締役の業務執行に対する監督に加え,当該社外又は独立取締役の持つ識見等に基づき,外部的視点から,いかに企業価値を高めていくかといった助言機能」等が挙げられている。これらも踏まえると,社外取締役に期待される主な機能については,以下のような整理をすることができるのではないかと考えられる。
① 経営効率の向上のための助言を行う機能(助言機能)
② 経営者の評価・選解任その他の取締役会における重要事項の決定に関して議決権を行使することなどにより,経営全般を監督する機能(経営全般の監督機能)
③ 会社と経営者との取引の承認など会社と経営者等との間の利益相反を監督する機能(利益相反の監督機能)
(引用終わり)


これにあてはめると、私の分析の1「適切な経営が行われているか、チェックする」は強いて言えば②と③に、2「株主として、企業価値が上がることに貢献できる可能性を見逃さない」は①に該当します。とはいえ、②の「重要事項の決定に関して議決権を行使することなどにより」という部分は、ベンチャー企業の社外取締役について言うのであれば、「月次決算や事件・事故等の会社の過去業績に関わる報告を受け、さらに社内及び社外における会社の将来業績に影響を与える情報を収集及び分析する等すること、その他取締役会の様々な意思決定に関与することなどにより」となるのではないかと考えられます。

なぜなら、実務的には、報告事項や事業展開の決定事項に接することへのウェイトが、会社法的な重要事項の決定に対するものと比べると、同じかそれ以上に大きいと思われるからです。例えば、ベンチャー企業では取締役会と株主総会が対立することがないわけではありませんが、代表取締役は、株主の意向で決まることがほとんどで、取締役会の選任・解任が実質的な意味を持つケースはそれほど多くありません。その意味では、代表取締役の選任・解任議案といった重要事項の決定への議決に関わるためというよりか、月次の業績報告を聞くことの方が重要性があります(「企業統治の在り方に関する検討事項(1)」の「平時における経営者の説明責任の確保,有事における社外の視点を入れた判断の担保や経営者の暴走等の防止・安全弁といった役割」というのは意思決定への議決権行使以外の重要性を述べているものだと理解しますが、同資料の分類では少しわかりにくくなってしまっています。)。

この議論がそのまま上場企業、一部上場の巨大企業に当てはまるとは申しませんし、全てのベンチャー企業に当てはまるわけではないと思いますが、近時盛んな社外取締役(強制)導入論についての議論の参考になれば幸いです。特に、この議論を踏まえると、一般論として、社外取締役の条件としては、(1)会計資料等から業績や状況を分析できること、(2)会社のビジネスや業界に詳しいこと、(3) 企業価値の向上が期待できる知識や知恵、ネットワークを持っていること、を挙げることができると考えますが、現実に上場企業がそのような人材を調達するのは現実的か(若しくは、このような条件のいくつかは満たさなくてもよいか)という観点から検討することも必要なのではないかと考えています。

商標の不使用取消審判における使用実績の詐欺

事業を進めるにおいて、商標権は、重要なポイントになります。

商標登録を受けずに、事業を継続していくと、第三者の商標権を侵害しているとして、その商標が使用できなくなる可能性が生じます。あまりブランド化を意識していない企業でも、費用はそれほど高くありませんので、早目に取得しておくことをお薦めします。

ところで、商標登録を受けるためには、商標を使用する意思が必要とされています。使いもしない商標が登録され、商標を自由に選ぶ自由を妨げられるのを防ぐためです。とはいえ、登録の審査の段階で、審査官が、その商標を使用する意思があるかないかを判断することは非常に難しいものです。

そこで、登録されているものの使用されていない商標の登録は、事後的に取消す制度として、不使用商標の取消審判の制度が設けられています。対象は、継続して3年以上使用されていない商標です。

この不使用商標の取消審判は、審判の相手方からすると、「わが社は、この商標を使っていましたよ。」と立証すれば、その商標登録は取り消せないという審決が下されることになります。申し立てる側からすると、相手方の使用状況をすべて調査するのはほとんど不可能ですから、現実的には、「いろいろ調べたが、多分、使っていないだろう」くらいの心証で、申し立てることになります。申し立てられた相手方は、何とか使用実績を立証するか、諦めるかしかありません。ただ、使用実績を立証する際に、事実に反するものを作成すると、偽造であり、商標法違反等に問われることになります。

『ビジネス法務 2011年1月号』9頁に、「商標登録存続に虚偽納品書、社長ら逮捕」と題する記事が掲載されています。

上の記事では、不使用商標の取消審判の中で、相手方(商標を使用していたと主張する側)が偽造した納品書を提出した事例が掲載されています。審判では「登録は取り消せない」という審決を受けたものの、その後、知財高裁で納品書が偽造であると認定されて、審決が取り消されたとのことです。この件に関連して、納品書を偽造した社長らが、商標法違反(詐欺の行為)で逮捕されたとのことです。

不使用商標の取消審判について、一部では、「相手方から使用していると主張・立証されてしまえば、なかなか反論できない(ので、申立ての実効性が低い)」という意見もありますが、本件のように逮捕に及ぶ例も出てきましたので、今後は、不使用商標の取消審判がより実効的なものになるかもしれません。なお、本記事では、逮捕された旨の記事であり、最終的に商標法違反等で起訴され有罪判決となったことが確認できたわけではありませんので、この点ご了承いただければ幸いです。

2010年11月22日 18:30|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス||1件のコメント

新規性喪失の例外が緩和の方向へ

昨日(17日)配信の日本経済新聞のニュースに、「特許の出願、発明公表後も可能に 11年の法改正目指す」というものがありました。

特許庁は大学などの研究者が特許出願をしやすくするため、特許法を改正する方針を固めた。特許を取得できるのは原則として未公表の発明に限られているが、学会などで公表した後の出願も認める。大学の研究者は特許取得より学会などでの論文発表を重視する傾向があるため、発表が特許取得の障害にならないようにする。(引用終わり)


現在の特許法上、特許出願より前に公開された発明は原則として特許を受けることができません。しかし、論文発表等が先行する場合でも常に特許を取得できなくなるとすると、酷ですので、特定の学会での発表等一定の条件の下で発明を自ら公開し、その後に特許出願した場合には、先の自らの公開によってその発明の新規性が喪失しないとする規定が設けられています(特許法第30条)。

ただ、この例外規定を受けるためには、基本的には特許法第30条第4項の手続きが必要となります。この手続きの詳細については、特許庁のホームページの「発明の新規性喪失の例外規定(特許法第30条)の適用を受けるための手続について」(平成22年3月 調整課審査基準室)を参考にしてください。

この法改正が、大学発ベンチャーや産学連携事業の活性化に繋がり、また、うっかりな新規性喪失が減ることに期待したいと思います。

2010年11月18日 07:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス||1件のコメント

経営判断原則に関する最高裁判決について

最新の旬刊商事法務と金融・商事判例で、経営判断原則に関連するある判例(平成22年7月15日最高裁判決―アパマンショップHD株主代表訴訟上告審判決―)が取り上げられていました。この判例は、ブログ『ビジネス法務の部屋』でも取り上げられていますので、私も便乗して、取り上げようと思います。旬刊商事法務は、1913号4頁「アパマンショップ株主代表訴訟最高裁判決の意義」(中央大学法科大学院教授 落合誠一)、金融・商事判例は、1353号26頁です。

いずれの記事でも、この判決は、従来からの経営判断に関する取締役の善管注意義務違反の有無についての判断枠組みと同じ流れに沿うものであるとしています。その内容は、次のものです。まず、概ね、「判断の過程・内容が取締役として著しく不合理なものであったか否か」という判断基準を採用します。そして、その判断をする前提として裁判所が審査する対象をまとめると、およそ以下のものとなります。

(1) 判断の前提となった事実の調査、情報収集、分析・検討に特に不注意・不合理な点があるか
(2) (当該業界の通常の経営者の経営上の判断として)事実認識に基づく意思決定の推論過程および内容の著しい不合理さがあるか

(2)の括弧の部分は、落合先生の論文に見られる特徴かもしれませんので、括弧書きとさせていただきました。さらに、商事法務の落合先生の論文では、審査対象を上記の(1)及び(2)並びに上記の判断基準とすることの前提として、

(0) 裁判所が経営者の経営判断に積極的に吟味・介入することを肯定すべき例外的事情がある場合は別段、そうでない限り、

という限定が付されているように思います。

経営者にとっては、ややリスキーと思われる判断をする場合は、まず、判断の前提として、十分な情報収集を行い、客観的に分析・検討を加えたうえで、次に、経営会議や弁護士等の専門家への意見聴取といった手続き的な適正さを図ることが重要でしょう。

なお、この論点についての今のところの私見は、次のようなものです。

概ね、上記の判断枠組みは裁判所のあるべき姿であり、その当てはめも原則として、謙抑的であるべきです。その意味で、今回の最高裁判決は妥当であるように思われます。そして、(0)のような前提条件を設けることも必要であり、(i)会社法その他の法令に違反する場合、(ii)違法な行為に関与したり黙認しているような場合、(iii)会社法第423条第2項や第3項の推定規定が適用されるような競業行為や利益相反取引、(iv)第三者の身体・生命・財産等の権利に対する侵害が生じることが予想可能であったり、現に発生している場合は、この枠組みではなく、裁判所がより積極的に結果回避義務違反を認定してもよいものと考えます(他にもあるかもしれません。)。

ただ、落合先生の論文にある「当該業界の通常の経営者の経営上の判断として」という部分(上記(2)の括弧の部分。商事法務No.1913 7頁2段目)は、(医療過誤訴訟における医師の過失で採用されそうな規範ではありますが)経営判断原則には少し馴染まないではないかと感じております。というのも、ビジネスの世界では、同じ業界であっても、ポジションによって、なすべきことが異なるものだからです。一般論として、同じ業界には、シェアに応じて、リーダー(業界1位)、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワー、と分類することが可能であり、リーダーであれば、他の企業と同じことをすることは戦略としてあり得ますが、チャレンジャーやニッチャーは、リーダー企業がしないこと、できないこと、参入しないであろう領域に参入することが求められますので、当該業界の通常の経営者が「しない」であろう経営上の判断が時に求められます。

すると、「当該業界の通常の経営者の経営上の判断として」という判断枠組みは、少し経営判断原則の場合は、使いずらいのではないかというのが私見です。

また、山口先生の本判決に関するエントリーのタイトルは、少々過激に「最高裁は「社外取締役制度」をどう考えているのか?(その2)」とされておられますが、本文では、「アパマンショップHD最高裁判決へのご見解と、この社外取締役導入論が論理的につながるものではないことは承知しております」とあるとおりで、流石に、この判決と社外取締役制度は、直接には結びつかないと考えます。重要なのは、経営判断の過程で、判断の前提となる情報や手続きにおいて、客観性を確保できているかという点であり、その客観性確保の方法論は、社外取締役の導入「だけ」ではないからです。

企業法務弁護士としては、ある経営判断が善管注意義務違反であるか否かの意見を述べるのは、非常に難しい側面があります。ただ、本件でもそうであったように、一定の前提のもと、経営者の判断が経営の裁量の範囲から大きく逸脱していないかという点であれば、意見を述べることはあり得ますので、重要な経営判断、特に株主価値を大きく毀損する可能性のある判断をする場合は、弁護士から意見書を取得しておいた方がよいと考えます。

ベンチャー企業と独占禁止法

昨日(11月10日)の日本経済新聞夕刊に、欧州委員会が、EU競争法(独占禁止法)違反で、日本航空を含む航空貨物12社が価格カルテルを結んでいたとして、ドイツのルフトハンザ航空を除く11社に約900億円!(日本航空は約40億円)の制裁金を課された旨の記事が掲載されていました。制裁の対象は、1キログラムあたりの燃油特別付加運賃を一律に設定するカルテルとのことです。

独占禁止法違反のペナルティーの大きさに改めて驚かされる記事です。また、日本でも導入されているリニエンシー(課徴金減免制度)によりルフトハンザ社1社が制裁金を免除されている点(日本では3~5社となる可能性がある。)も興味をひくところです。

ところで、独占禁止法は、カルテルや談合、市場占有率が高くなる合併等を取り扱っているため、大企業にしか関係なさそうな法律に思えます。しかし、中小企業やベンチャー企業であっても、独占禁止法が関連するケースがあります。

もちろん、市場でそれなりのシェアを占めている会社同士の企業結合であれば、中小企業であっても独占禁止法の対象となりますし、ほかのカルテルや談合も適用される可能性はあります。

ただ、ここでお伝えしたいのは、現実に中小企業やベンチャー企業が気にすべき場合が多いと予想される「不公正な取引方法」です。

不公正な取引方法とは、独占禁止法第19条で禁止されている行為です。

独占禁止法

第19条
事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

第20条第1項
前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。


不公正な取引方法については、公正取引委員会が告示によってその内容を指定していますが、この指定には、すべての業種に適用される「一般指定」と、特定の事業者・業界を対象とする「特殊指定」があります。一般指定で挙げられた不公正な取引方法には、取引拒絶、排他条件付取引、拘束条件付取引、再販売価格維持行為、優越的地位の濫用、欺瞞的顧客誘引、不当廉売などがあります。

たとえば、「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」では、「役務の委託取引においても、委託者と受託者がどのような条件で取引するかは、基本的にはそれぞれの自主的な判断にゆだねられるものであるが、委託者が受託者に対し取引上優越した地位にある場合において、その地位を利用して、受託者に対し、代金の支払遅延、代金の減額要請、著しく低い対価での取引の要請、やり直しの要請、協賛金等の負担の要請、商品等の購入要請又は役務の成果物に係る権利等の一方的な取扱いを行う場合には、優越的地位の濫用として問題を生じやすい。」としており、ソフトウェア開発のベンチャー企業が受託者側の場合は、不合理な契約内容を締結させられている場合に独占禁止法を交渉等で利用できる可能性がありますし、逆に、委託者側でこういった内容の契約を締結していれば、不公正な取引方法として、排除措置命令等の対象になる可能性があります。

また、「メーカーが流通業者に対して、自社商品のみの取扱いを義務付けること」「メーカーが流通業者に対して、競争者の商品の取扱いを制限すること」といったことも制約を受けます(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」)。

バイオベンチャー企業等の研究開発系のベンチャー企業や大学発ベンチャーでよく見られる共同研究開発に関する契約等についても、「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」というものがありますので、自社の交渉力が低いと思われるケースや理不尽な内容の契約内容と思われる場合は、独占禁止法が利用できないか検討してみる余地はあるかもしれません。

具体的な事例については、こちらの公正取引委員会のページをご参照ください。

中小企業・ベンチャー企業であっても、取引拒絶,排他条件付取引,拘束条件付取引,再販売価格維持行為,優越的地位の濫用といったあたりは、する側の立場もされる側の立場も、どちらもあり得ますので、契約の条文の中に該当するものがあるかもしれない場合や、被害にあっているかもしれないといった場合には、一度、弁護士に相談してみてください。

製造業の行く末

先日、ライフネット生命の出口社長とお話しさせていただいたときに、製造業は、究極的には、「最高の機械で、最安の労働力をつかって世界中に売るモデル」しかないという話をされていたので、気になって考えていました(趣旨を正確に理解できていないかもしれませんので、異なっていた場合はご容赦ください。)。

おそらく「最安の労働力」の意味するところは、コストパフォーマンスの最も高いという意味であろうと思います。私は、この出口社長の意見は、製造業の1つの側面を適確に言い表しておられると考えます。

現実にサムスンやユニクロは、このモデルでしょう。日本の多くの製造業が苦しいと「言われている」背景には、このようなモデルが一つの成功モデルであることにも起因すると思います。

とはいえ、一方で、製造業には別の生き残り方もあるのではないかとも思います。例えば、エルメス社です。(エルメス製品について私が解説するのは無謀もよいところですが、)全ての商品が、非常に厳しいチェックを経て、多くの商品が今もmade in Franceです。みなさん、高くても買います。値下げしたら、喜ぶ人より、がっかりする人の方が多そうです。このエルメス社には、先程のモデルは当てはまらないことは自明です。最高の機械で、コストパフォーマンスの高い労働力をつかっても、エルメス製品ではないと消費者は判断するでしょう。これは、高級ブランド戦略とでも呼べるモデルでしょう。

日本の電化機器でも、例えば、炊飯器はある程度、高級ブランド戦略での生き残りに成功しているのではないかと思います。ただ炊くだけの炊飯器と全く値段が違いますが、それでもかなり売れているようで、中国の富裕層も日本への旅行の土産に購入すると言う話はよく聞きます。掃除機や扇風機ですら、この方向性で成功している商品があります。

法律家の私がこのようなマーケティングやブランディングについて話をするのは、専門外と言われてしまえばその通りです。ただ、日本の製造業の行く末をふと考えたときに、まだまだこのような戦略での生き残り策はありそうですし、ダイソン等の例は、製造業でのベンチャー企業が高級ブランド戦略で勝負しても、可能性があることを伝えているように思います。

ところで、私の本業の法務に関連してこの戦略を考えてみます。ベンチャー企業や中小企業がこのような高級ブランド戦略をとる場合に重要なのは、知的財産権の戦略、特に商標権や意匠権も含めた抜かりない出願が必須です。しかも、この知的財産権の戦略は、サムスンやユニクロのモデルをとる場合でも、決して軽視してはならないものです。

時々、中小企業の担当者の方と話をしていると、「これまで~しなくても、問題は起きなかった」という話を聞きます。「~しなくても」には、「契約書に気を払わなくても」「知的財産権のことを考えなくても」等が入ります。しかし、それは、(1)日本国内の特定の狭い世界だから通用した、(2)問題は起きなかったが、より利益をあげるチャンスを失っていた、(3)運が良かったのいずれか又は全部の可能性があります。

知的財産権や法務に資金を投じる習慣がなかった会社にとっては、これらに投資することに当初は抵抗感があることも多いでしょうけれども、将来、足元をすくわれないためにも、より利益を上げるためにも、一度、コストとリターン(リスク低減)を比較して、戦略を再検討されることをお薦めします。

2010年11月10日 08:30|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||1件のコメント

中小企業・ベンチャー企業とウィーン売買条約

昨日、大阪弁護士会で、ウィーン売買条約についての研修がありました。

ウィーン売買条約は、昨年8月に日本でも発効し、日本法を準拠法とする国際物品売買にも適用されることになりました。厳密な適用範囲については、同条約第1章をご参照ください。また、加盟国と加盟時期については、UNCITALのページを確認してください。

現在、単に日本法を準拠法と記載した国際物品売買契約については、日本の民法に優先してウィーン売買条約が適用されることになります。例えば、中国の会社が売主で、日本の会社が買主の場合、物品の売買契約書において準拠法を日本と規定した場合であっても、契約書を作成しなかった場合であっても、ウィーン売買条約が適用されます。非加盟国の会社が売主の場合は、法の適用に関する通則法第8条第2項により、非加盟国の現地法が適用される可能性が高いとのことでした(この場合は、契約書で準拠法を変更するか、ウィーン売買条約が適用される旨を明記した方がコスト的に有利な可能性があります。)。

昨日の研修では、日本の大手法律事務所では、このウィーン売買条約の適用を排除しておくことが現時点での「ベストプラクティス」(諸リスクを勘案した場合のベターな選択?)という興味深い議論がありました。

おそらく、「将来、問題が生じた場合に、日本の法律家が日本法によって対応するのであれば適切な解が得られる可能性が高く、また紛争の相手方との間で共通の認識を持てるであろうが、ウィーン売買条約について適切なアドバイスを受けられる可能性は低く、その解釈でまず揉める可能性があるのではないか」というリスクが最初にあるのだろうと思います。

ただ、そのほかにも、現実的なリスクもあるように思われます。齋藤教授の論文等(※1)を拝見すると、売主に不利になる可能性があるものとして、同条約の第35条(物品の適合性)やクレーム提起期間が「物品の引渡しから2年間」とされている点(同条約第39条第2項)があり、買主に不利になる可能性があるものとして、検査通知義務にかかる第38条・第39条等があるようです。危険の移転時期も日本法は売主サイドの規定になっていますが、ウィーン売買条約は日本法よりは多少買主サイドになっているように思われます(それでも比較法的には売主寄りと評価されそうです。)。

一方、同条約の使い勝手のよさそうな規定としては、不安の抗弁権を明記した同条約第71条、第72条が挙げられそうです。

これらのデメリットとメリットを勘案した上で、且つ同条約の判例の集積や文献が少ないことから、現実的には、(弁護士等が契約書を作成するのであれば)同条約を明示で排除する流れが続きそうです。

とはいえ、いくつかのケース、例えば、契約書が無い場合、単に準拠法が日本法とされている場合(但し発効以前のものからの継続的売買契約に対する適用については議論があります。)、契約締結時に準拠法での中立を目指した等の結果ウィーン売買条約が第一義的に適用されることとなった場合等では、今後、交渉の前提及び日本の裁判所等で、ウィーン売買条約が表に出てくることがあり得ます。

昨今は、中小企業のみならず、ベンチャー企業でも、国際取引は決して珍しいものではありません。物品の売買をするケースも少なくありません。国際的な貿易をする会社の役員及び実務担当者や法律家は、ウィーン売買条約の適用の可能性を常に頭の片隅においておくべきでしょう。

※1 参考文献:齋藤彰著「ウィーン売買条約と日本 ―日本の法律家が国際統一私法と正しく向き合うために」(『国際商取引学会年報2010 vol.12』  212頁~)

2010年11月09日 11:30|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||1件のコメント

サイト構築業務における見積書と請負代金の確定についての裁判例


金融・商事判例の2010年11月1日号No.1352の13頁に、サイト構築業者にとって有用と思われる裁判例がありましたので、ご紹介します。札幌地裁平成22年9月15日判決(請求認容・確定)(単独)です。

判示内容の概略は、注文者(被告)のサイトの構築業務を請け負った請負人(原告)がサイトの個別内容が確定するごとに注文者に見積書を提出していた場合において、注文者が当該見積書の金額に不満を述べていても、具体的な金額の交渉を求めることはしなかった、またはサイト構築業務の中止を求めることがなかったという要素がある場合は、見積書の請負代金での請負契約が成立するとしたもののようです。

判決の原本にあたっていないため、ある程度の推測を前提に検討することになってしまいますが、おそらく金額入りの契約書は、特に交わされなかったか、当初交わされたとしても、その後に生じた仕様変更毎には交わされた書面はなかったということだと思います。この内容だけ読むと、黙示の同意があったと評価されてもやむを得ないと思われますので、妥当な結論と思われます。

今後の実務に生かすとすれば、注文者は、納得のできない見積書が来た時点で、書面(最低でもメール)に残る形で、「金額を下げてほしい。下げることができないのであれば、追加の作業は止めてくれ。」と明確にしなければならないという点になるでしょう。放置しておくと、そのまま見積書の内容で契約が成立したと判断されてもやむを得ないということになります。

請負人側もこの例では構築費の請求が認容されましたが、具体的なやりとりによっては、請求できなくなるリスクもあります。サイト構築に限らず、システム開発等の業務委託契約は、法理論的に、完全に整備されているわけではなく、実務上も、後から追加や変更といったことが度々起きるため、トラブルになりやすいです。契約書で明確にしておくことは勿論のこと、一つ一つの意思の伝達を証拠化しておく(何月何日に誰が誰に何を伝えたのかも含めて明確にしておく)ことが身を守るために重要です。

本判例では、請負契約であることが当然の前提とされていて、この点が争われたのかどうかわかりません。そもそも論点になり得なかったのかもしれません。ただ、一般的には、システム開発等の業務委託契約は、請負契約か準委任契約か、区別が難しいことがあります。おそらく、この裁判例にいたるまでの交渉で、解除をするとどうなるのか、途中で仕様を変更するとどうなるのかといった検討があったものと思われますが、その部分に影響する論点でもありますので、やはり、これらの効果についても予め契約書で明確にしておくのが望ましいと言えると思います。

2010年11月05日 11:50|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 法務関連ニュース||1件のコメント

お知らせ『利益を守る、大きな損失を未然に防ぐ、ITベンチャーのための契約知識』

 
EBA(enfac business academia)さんにて、『利益を守る、大きな損失を未然に防ぐ、ITベンチャーのための契約知識』というタイトルで、契約書についてお話をさせていただくことになりました。

ライセンス契約やシステム開発契約、代理店契約を中心に、IT企業はもちろんのこと、そのほかの開発系の会社さんにもお役にたてる内容とさせていただく予定です。今まで契約書を正式に結んでこなかった、自社の雛型が現場にあっていない様に思う、システム開発と知的財産権の関係を理解したい等の御要望にお応えできるようにする所存ですので、経営者や役員の方のみならず、契約の前段階で折衝にあたられる営業担当の方やエンジニアの方にも有用です。

日時と場所は、以下のとおりです。

日時: 12月1日(水) 午後7時開始
場所: 大阪 梅田駅周辺(予定)

お申し込みは、こちらからどうぞ。多数の御参加をお待ちしています。