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ベンチャー法務の部屋

ベンチャー企業のお金の使い方

以前のエントリーでご紹介した『ガズーバ!―奈落と絶頂のシリコンバレー創業記』という本の中に、シリコンバレーで創業したベンチャー企業がベンチャー・キャピタルからの資金調達に成功した後、ベンチャー・キャピタルの担当者からお金の使い方について、指導されるというシーンがあります。
 

「金の使い方が遅い!」と叱られる

昔は投資の目的は「Preservation of Capital」、すなわちインフレで資産が目減りしないようにするのが目的だった。でもVCの投資目的は違う。だから「目的遂行のためにしっかり金を使え! 使ってないってことは何かがおかしい!」という具合になる。必要なコンサルタントはどんどん雇って、プロジェクトをとにかく前へ前へと進めなければならない。(引用終わり)

 
ここには、株式で資金調達した会社やベンチャー・キャピタルからの出資の大きな特徴が出ているように思います。勿論、やみくもにお金を使うことが奨励されているわけではありません。しかし、経営者が自分でコツコツ地道に時間をかけてプロジェクトを進める代わりに、お金を使って効率よくスピードアップする(そして、チャンスを逃さない)ことがこのような世界では求められているように思います。一歩進んで言うなれば、資本効率について、常に株主から強く意識させられているということでしょうか。

この本では、実に様々なコンサルタントが登場します。著者の大橋禅太郎さんは、そのうち1人の会議を効率的に進めるためのコンサルタントから受けたレクチャーを基に、『すごい会議-短期間で会社が劇的に変わる!』という本を出して、その内容でコンサルティングをされている程です。他にも、マーケティング・コミュニケーション、CFO、総務、広報、人材採用と、様々なレンタル人材や、ネーミング、ロゴ、法律家等のコンサルタントが出てきます。こういった人材レンタル文化、コンサルタント文化もシリコンバレーのスタートアップ・サポートの生態系の1つといえるのでしょうね。

日本の製造業系のベンチャー企業で、技術や商品のアイディアは良いが、その他の分野(マーケティングやブランディング、総務、知財戦略から経営そのものに至るまで)はカバーできていないというケースが時々みかけられるように思います。このようなケースでは、極端な話、他からCEOやCFO、その他のプロフェッショナルをレンタルし、創業者兼技術者は、一旦、CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)等になることも含めて、検討することにより、道が開けることがあるのではないでしょうか。第三者がこのようなことを申し上げるのは筋違いのことも少なくないですが、一度、思考実験だけでもして頂いて損はないかと思います。

お知らせ「昨日の勉強会について」

 
昨日は、池銀キャピタル様の御主催の勉強会にて、「IPOを目指す会社の法務上の留意点 ~反社会的勢力排除を中心に~」という題でお話をさせていただきました。

 
本当に大勢の方にお越しいただきまして、ありがとうございました。前半のトピックであるIPOを目指す会社の法務上の留意点につきましても、後半の反社会的勢力等への対処につきましても、とても熱心に聞いていただくことができ、大変やりがいがありました。お話をお伺いしていますと、各社、各機関とも、それぞれの論点でいろいろなお悩みをかかえておられるということがわかり、私も大変勉強になりました。池銀キャピタル様を始めとして、お越し下さった皆様にこの場を借りて、御礼申し上げます。

 
今後も、11月18日に契約書についての講演が予定されており、また、12月にも契約書関連の講演の予定(詳細はまたこのHPで告知させていただきます。)がありますので、ご興味のある方は、是非ご参加いただければ幸いです。

2010年10月27日 19:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス||コメントはまだありません

イマドキの20代起業家の本音

今月25日月曜日に、「20代起業家の本音 「i世代」座談会 「ネットのチカラ」第3部 冒険者たち(1)」(2010/10/25 7:00 情報元 日本経済新聞 電子版)
という日経の特集がありました。

 

――創業時の資金はどう調達したのか。

石原氏 親せきを土下座して回った。ベンチャーキャピタルからの調達は考えなかった。経済産業省の外郭団体からも支援を受けられた。エンジェルとして資金を出してくれる人もいた。

――多くの大学で「起業サークル」がブームと聞く。

石原氏 僕には「起業ごっこ」にみえる。そういうサークルの学生も最終的には大手企業に就職している。起業しようという人はサークルなどに行かずとっくに起業しているのではないか。

――日本は「失われた20年」ともいわれ、経済に元気がない。

柿山氏 月に1回海外に行くが、中国やインド、シンガポールに行くと人々の目つきが全然、違う。世界を変えよう、負けたくないという雰囲気がある。日本の学生の友人にはそれがない。挑戦しようという環境がない。そこを変えないと成長できない。これからは個人がインターネットでエンパワーされる(力を身につける)時代だと思う。

石原氏 少子高齢化は避けられない。だが、企業にできること、日本発でできることがあるのではないか。海外で通用するサービスをつくり、外貨をとってくることが大事だ。負けてはいられない。われわれにはウェブという共通言語がある。どこの国にも共通の土俵だ。そこで戦うことで雇用も生まれ、新しい産業になる。日本はもちろん世界を変えるサービスをつくりたい。

柿山氏 日本の商品、人間性、文化は世界で認められている。なぜ積極的に外に出て行かないのかと思う。

石原氏 外に出る発想を教育されていない。米国では小さいころからビジネスやお金の使い方まで学ぶ。日本の学生はお金の使い方も分からない。かつての高度経済成長、バブルの流れを変えずにきてしまった。親の世代も今後の世界の流れを読めず、子供に教えられない。それを変えるのは教育の問題だ。

――起業家として何をめざすか。

石原氏 日本でのIPO(株式公開)は考えていない起業家が多いと思う。具体的に話題になるのは韓国など海外での上場だ。海外企業に買収されることも、タイミングがあえば選択肢になる。事業がある程度順調にいけば資金もたまるはずで、そうなればエンジェルとして起業家を支援する側に回りたい。(引用終わり)

 

等と非常に興味深いやりとりがあります。

最後の、なぜ日本での上場ではなく、海外での上場を考えるに到ったかという点も、大いに興味をそそられます。

一方で、「クリック証券、韓国上場を中止 環境悪化で株主反対」(日本経済新聞2010/10/20 1:11)というニュースもありました。

インターネット証券のクリック証券が韓国取引所(KRX)への上場計画を中止したことが分かった。6月に上場承認を得ていたが、「韓国市場で証券関連株が低迷を続けており、十分な資金調達ができない」と大株主が反対したという。高島秀行社長は「今後当面はどの市場にも上場せず、別の資金調達手段を考える」としている。(引用終わり)


海外上場には、資金調達額が大きくなる可能性があるというメリットがある半面、日本と現地の双方の証券会社、監査法人、法律事務所等が上場に関与し、また、現地の証券取引法に基づく開示を行わなければなりませんので、継続開示についても会計や証券取引法の分野でコストがかかるというデメリット等が考えられます。他にも、(是非はともかく)株主に外国人投資家の比率が大きくなる等が考えられます。よほど前者のメリットの方が大きくないと選ばないのではないかとも思うのですが、やはりそれだけ内外の市場の熱の差があるのでしょうか。

とはいえ、20代起業家が世界市場を意識してビジネスを展開するという志を持っておられるのは、本当に頼もしい限りです。大きな会社から中小企業・ベンチャー企業まで、様々なタイプの企業が、世界を相手に新しいビジネスを生み育てていく土壌がこれからも醸成されていけばよいな、と思います。

「起業に大学教育は必要か」という議論

表題の議論は、形やテーマを変えて、度々耳にするもので、いま起業を考えている学生にとって関心の高い議論でしょう。

「起業するのに、学位を取る必要があるのか、大学に行く必要があるのか」というテーマです。

具体例としては、マイクロソフト社の創立者であるビル・ゲイツ氏やFacebookの創立者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、ハーバードを中退して、会社を設立し、億万長者になったといったものが挙げられるでしょうし、日本でもライブドア社の堀江貴文氏は東大中退です。古くは、松下幸之助さんを始めとする日本のアントレプレナーには、大学にすら通っておられない方も少なくありません。

Professor Says Michael Arrington Lives In An Ivory Tower (TCTV)


ここに引用させていただいた動画及び記事は、「大学教育の価値」と「優れた起業家への道」の関係についての議論です。論者は、Michael Arrington氏 (Stanford Law School出身の弁護士であり、TechCrunchのファウンダーでもあるアントレプレナー)とVivek Wadhwa氏 (UCバークレー客員教授、ハーバード法科大学院上級研究員、およびデューク大学常任理事であり、自身も2つの会社のアントレプレナー)のお二人の間で交わされています。

私自身は、


会社を作るためには、経理、マーケティング、知的財産権、会社法などの知識を理解しておく必要がある。ビジネスの世界に入ってしばらくするまで、君たちは契約交渉のやり方や、人との接し方、従業員の管理や育成、そして顧客に売る方法を知らない。さらに重要なのは、自分が始めたことをやり遂げることの大切さを学ばない学生は、成功できないことだ ― それには忍耐力と決断力が必要だ。

私から学生たちへのアドバイスは、教育は、受けられる間はできるだけ受けよ。最低でも学部、可能なら修士の学位を修了すること。(引用終わり)


というVivek Wadhwa氏の意見に賛成する者で、私自身は、体験も踏まえて、大学教育に価値があると信じています。

勿論、学位なぞに拘わらずに成功している起業家を否定するものではありません。むしろ尊敬の念を覚えています。だからといって、学生から「起業したいのですが、中退した方がよいでしょうか」と質問されても、基本的には「No」と回答するでしょう。まず第一に、「学位なぞに拘わらずに成功している起業家」は、そもそも「起業したいのですが、中退した方がよいでしょうか」等という質問はしないでしょうし、その点で迷うくらいならやめておけばよいと考えます。また、「学位なぞに拘わらず、成功している起業家」がみな大学教育を否定しているわけでもなく、それ相応の知識や経験等を他の手段で身につけているケースも少なくないからです(例えば、本田宗一郎さんは、浜松高等工業学校(現:静岡大学工学部)機械科の聴講生でした。)。

先程の両者の議論で、より重要で、興味深いのは、

A piece of advice both panelists agreed on was to never forget the importance of ethics. As Arrington said, “Never hurt anyone to benefit yourself…but do something amazing, however you define it, and change the world”.


という部分です。すなわち “never forget the importance of ethics”(倫理の重要性を忘れるな!)ということに異論はなかったということです。どこかの国の検察官に、口を酸っぱくして、何度も繰り返したい内容です。。。(どこかの国の検察官についての話は、長くなりそうなので、いずれまた。本件では、学校教育+司法修習を受けたからといって、それだけでは倫理的な行動を維持し続けることはできないことが立証されてしまいました。)

私個人としては、起業こそが経済を下支えしており、新たな雇用を生み出すものであると考えていますし、起業を活性化することに貢献することを自身の目的としています。そして、起業には、志や目標、理念といった部分と、会計や法律等の知識や営業や交渉等の技術といった部分の両方が車の両輪のように必要であり、且つ、その両方において、倫理的であること、利益のために誰かを傷つけないことという土台が必要であると考えています。

最後は、大学教育の必要性から少しずれてしまいましたが、上の議論からの私の雑感です。

2010年09月27日 14:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||1件のコメント

中国企業とライセンス契約を結ぶときの留意点

いま、私は、近畿経済産業局が主催している「平成22年度中国ビジネス知財戦略基盤定着支援事業」に参加し、中国の知的財産に関する法律を学びつつ、実務的な対応を検討しています。この企画、講師の弁護士・弁理士の先生方の知識レベルが高いことは勿論のこと、参加者の皆さんのレベル・意識も高く、大変刺激的です。また、支援受入企業側も、これだけの人数で議論した結果によって、プロフェッショナルからのコンサルティングを受けることができますので、双方にとって、非常に良い企画だと思います。講師の先生方には、感謝しても、しきれないくらい、多くのことを教えていただいています。

ところで、この企画において、中国の契約法353条と355条と行政法規である技術輸出入管理条例24条3項の関係についての議論がありました。非常にマニアックな論点なので、悪しからず・・・

それぞれの条文は、以下の内容である。

【関連条文:中国法】
契約法353 :  特許実施により第三者の権利を害した場合、実施許諾者が責任を負う。但し、当事者間に別途の約定がある場合はこの限りではない。
契約法355 :  技術輸出入契約…について、法律、行政法規に別段の規定がある場合は、その規定に従う。
技術輸出入管理条例(行政法規)24 III : 技術を受け入れた側が提供を受けた技術を使用し、第三者の合法的権益を害した場合、提供者が責任を負う。

【問題点】
契約法353は、任意法規規定であるため、ライセンス契約において、ライセンシー側の責任とする旨の規定を定めても、有効と解される。しかし、契約法355及び技術輸出入管理条例24 IIIによって、任意法規性が奪われ、「技術」を受け入れる旨の契約で、第三者の権利侵害はライセンシーの責任と規定しても、無効と解されるおそれがある。

具体的には、日本企業が保有している特許権について、中国企業にライセンスする場合や、中国企業から開発委託を受けて日本の知的財産権を利用して製作した成果物を引き渡す場合に、問題となる。すなわち、中国企業側の特許実施や成果物利用に際して、第三者の権利を侵害しても、(契約での規定に拘わらず)日本企業が責任を負わなければならない可能性がある。

【検討の前提】
そもそも、「法律」は任意法規であるのに、「条例(行政法規)」に強硬法規性を持たせることへの疑問もあるが、中国法において、契約の自由をどこまで徹底されるのかという根本問題に関連しそうであるし、中国の法体系秩序の問題にもかかわるので、ここでは避ける。また、結果として、渉外ライセンサーを国内ライセンサーより不利益に扱うことになるので、WTOに反するのではないかとの疑問も呈されるが、実務では、どうしようもない可能性が高いので、ここでは立ち入らない。

【検討】
ここでは、日本企業が中国企業にライセンスする場合を念頭に置いて、実務的に解決する方法がないかを考えてみる。

通常(日本国内の会社同士の契約等で、ライセンサー側が強い場合)、ライセンス契約や業務委託契約において、第三者からの侵害については、以下のような規定を置く。

■規定例(ライセンス契約)(ライセンサー優位の内容)■
ライセンシーが本発明の実施により、第三者の権利を侵害するに至ったときにおいても、ライセンサーは、その侵害についての責任を一切負わないものとする。

■規定例(業務委託契約)】(受託者優位の内容)■
委託者による成果物の利用に関して第三者の権利を侵害した場合、受託者は、その侵害についての責任を一切負わないものとする。

※ サンプルなので、簡略化した条文例を用いています。

しかし、技術輸出入管理条例24 IIIによると、提供者が責任を負うと規定しており、このような規定を設けても、無効になる可能性が高く、その場合、ライセンサーや受託者(日本企業側)が責任を負わなければならない。

■対策案1■
無効を覚悟で、規定する。そして、無効になった場合に備えて、他の規定を置く。

■対策案2■
ライセンサー側に訴え等が提起された場合に、協力すべきとする協力義務規定を置く。

■対策案3■
ライセンスの対象を出来る限り限定して、そもそも権利侵害が生じにくいようにする。

■対策案4■
ライセンサーが被った損害をさらにライセンシーに求償できる旨を規定しておく。

とりあえず、いま、考えられるのは、このようなところである。これらの対策案は、相互に矛盾しないので、実務に合ったものを適宜利用することになるだろう。■対策案1■の他の規定とは、対策案2や4の規定や、分離可能性条項と呼ばれる、「ある規定が無効となっても、他の規定は有効です。」という内容の条項を念頭に置いている。■対策案4■は、中国の人民法院の解釈で無効にされてしまう可能性も十分にあるが、理論的には、「第三者との関係では技術輸出入管理条例24 IIIで提供者が責任を負うが、当事者間では、技術を受け入れた側がその損害を負担する」と定めることは、技術輸出入管理条例24 IIIに反しないという解釈も成り立ちうるのではないかという発想に基づくものである。

いずれにせよ、問題が起きた場合には、訴訟になる前に解決できる方がよい。訴訟外での交渉では、仮に無効になるかもしれない条項があったとしても、有効となる可能性によって交渉力が得られることもあるので、適宜御検討いただきたい。

(検討終わり)

この見解は、私が備忘録的に作成したものですので、実際にライセンス契約や業務委託契約等を作成する場合は、中国法の専門家を含めた専門家の意見を参考にして下さい。(このエントリーを参考にして作成して頂いても、私は責任を負えません。)

2010年09月17日 08:30|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

上場すべきか、上場せざるべきか。その判断は、いつも悩ましい・・・


Facebook のファウンダー、Mark Zuckerberg 氏が上場についての次のような意見を表明したとのことである。

Mark Zuckerberg、「Facebookを近々上場するつもりはない」

われわれはFacebookを近々上場するつもりはない。われわれの株式上場に関する考えは他の多くの企業とは異なっている。多くの企業にとって株式上場こそが目的であり、上場の成功を目指して経営を最適化しようとする。われわれにとっては上場ははゴールではない。ある時点で上場が適切な選択であるようになれば上場するだろう。われわれは外部からの投資を受け入れているし、自社株を社員に給与している。最終的にこれらの株式が現金化できるようにすることは私の責務だと思う。しかし上場が短期的に行われなければならないとは考えていない。Facebook が持てる可能性を最大限に発揮できるようにすることが最優先の責務だ。(引用終わり)

この意見は、正論であり、何ら反論できるところがない。上場は会社という組織にとってのゴールではない。多くの一般投資家から資金を集めることは、その資金で事業を拡大し、引いては、会社がより永続的に発展するためになされるべきことだからである。

一方で、上場することを、going publicとも表現するように、公の会社になるという側面がある。情報を公開し、一般の株主が増えることにより、同族の経営者ではなく、より多くの株主に認められた人材を経営者とすることに資する、公の目で監視され不適切な行為が是正され易いというメリットがある反面、経営者の独断で行うようなリスキーな意思決定がしにくくなる。上場すると、高いコンプライアンスを求められ、意思決定に対するチェック機能が厳密になるのである。

google社は、経営陣の経営の自由を確保しながら、public companyとなるために、経営陣に種類株式を発行したまま上場するという手段に出たが、このような手段をとれる会社は、ほとんどない。

Facebook 社が大きなリスクを伴う開発計画が有するために、上場を延期して、非公開会社であるうちにチャレンジするということ自体はもっともな判断である。上場すると、そのようなリスクの高い経営判断は、取締役の忠実義務や善管注意義務に反すると株主に追及されかねない。ただ、以前のエントリー「ベンチャー企業のファイナンス方法の選択」でも指摘したように、VCやエンジェルから資金調達している限り、そのようなリスキーなチャレンジを理由とする上場延期をいつまでも続けるわけにはいかないのもまた現実なのである。一般的な上場準備会社にとって、上場に適した時期は、そう何度も訪れてくれるものではない。チャンスがあるのであれば、トライすべきであり、一度チャンスを逃すと、次のチャンスは当分の間訪れないことも決して稀なことではない。

そのために、法律面を含めて、変なところで上場審査に引っかかって、延期にならないようにするためにも、早い段階からIPOを意識した準備が必要である。

To go public, or not to go public: that is the question.

13歳で起業、15歳で大学入学、20歳で100万ドル以上を調達した’神童’女性ファウンダ


アメリカの話です。

先週、9月2日のTech Crunchの記事は、Jessica Mah(20歳)という女性が、彼女の金融サービスサイトInDineroのためのシード資金の調達を1週間後に完了することを報じている。

この記事によると、

Mahは、最初のスタートアップを立ち上げたのが13歳のときである。そして15歳で、カ大バークレイ校のコンピュータ科学科に入学、在学中にinternshipIN.comを立ち上げた。20歳で100万ドル以上を調達した彼女には、これからまだまだやりたいことが、たくさんあるようだ。

このラウンドに参加したと確認されている投資家は、500 StartUpsのDave McClure、MicrosoftのFritz Lanman、YouTubeのJawed Karimである(SV AngelのようなシリコンバレーのVIPたちのための席があと3つある)。(引用終わり)

記事の原文は、こちら。

20 Year Old Founder Jessica Mah Gets $1 Million Put Into Banking Startup InDinero

20歳の’神童’女性ファウンダJessica Mahが小企業財務サイトInDineroに$1Mを調達

彼女のインタビューの動画も見れます。聡明で、強いリーガーシップを持っていそうな雰囲気の女性です。

日本でも、どんどんと若年起業家が現れるといいですね。

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その3)

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書について、前々回(その1)、前回(その2)の続きです。

3 競業禁止

従業員との間の競業禁止規定には、大きな法律上の制約があります。

それは、「職業選択の自由」です。

憲法第22条第1項の「職業選択の自由」です。小学校か中学校でも社会か公民の時間に勉強するあの「職業選択の自由」です。企業法務で、憲法が出てくることは極めて少ないですが、ここでは例外です。

従業員には職業選択の自由があるために、競業禁止規定が無効になるかもしれないのです。

ただ、職業選択の自由があるといっても、従業員は、自ら誓約しているのですから、私的自治の観点では、それを積極的に放棄したとも解する余地があります。

したがって、「職業選択の自由」と「私的自治(=契約で自ら義務を負うことを選択した)」という2つの法律上の要請が、競業禁止規定をめぐってせめぎ合うことになります。

その結果、職業選択の自由を不当(必要以上)に誓約するような競業禁止規定は、無効になる可能性が高いといえます。

では、実務的には、どうすればよいのでしょうか。

結論からいえば、「常識的な範囲で、且つビジネスに支障が生じることを防ぐために最低限と思われる内容で、競業禁止規定を定めておく」ということになります。

具体的には、年数、地域、事業内容で、範囲を絞って、競業禁止を規定すると、無効にはなりにくいでしょう。

規定案としては、

私は、貴社を退職後●年間は、●地方において、●、●又はこれらに類する事業を行う事業を開始したり、役員や従業員やアドバイザーになる等、携わったりしません。

等という内容が考えられます。

年数について、よく質問されますが、これという回答は難しいです。事業内容や事業の展開の速さ等にもよります。ただ、「3年」とされているケースが割と多いような気がします。

地域も、元の会社の事業範囲との比較で決めることになります。広ければ広いほど、無効になる可能性は高くなりますが、地域の制約が意味のない業界(IT等)では、地域を制限しないことも考えられます。

事業内容は、必ず明記しなければなりません。ある程度、曖昧な表現になってもやむを得ないとは思いますが、それなりに特定できる表現、例えば、「○○を販売する事業」等としておくことが考えられます。

【関連法令】

日本国憲法

第22条第1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

2010年09月08日 09:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その2)

前回、「企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容」の続きです。

2 知的財産権(特に、特許)の帰属

知的財産権は、主に以下の2つが大きなポイントでしょう。

・ 知的財産権の会社への譲渡

・ 出願しないことの誓約

ここでは、特許権が要注意です。

特許法第35条第3項第4項では、「職務発明」については、契約その他で承継させることを決めた場合、合理的な相当な対価を支払うことが定められています。また、同じ特許法第35条第2項では、「職務発明」以外の発明について、会社に帰属させるような内容の契約は、無効としています。

したがって、職務発明の範囲を法律に照らし合わせて明確にしたうえで、特許等を受ける権利を譲渡することを規定しておく必要があります。この時、会社の特許等の出願について協力する義務も一緒に記載しておけば、より良いでしょう。相当な対価については、別途、知的財産管理規程等で対応するのが通常かと思います。

(続く)

【関連法令】

特許法

(職務発明)
第三十五条  使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
2  従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。
3  従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
4  契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。
5  前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる場合には、第三項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。

2010年09月07日 09:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その1)

会社が従業員を採用する場合、従業員から誓約書に署名して、提出してもらうことがあります。これは、従業員に由来する様々なリスクをヘッジするためのものです。辞める時に会社の重要な情報を持ち出さないように・・・、在職中に従業員が発明した特許の取扱い等、従業員との間で予め取り決めておけば防げたはずのトラブルは、少なくありません。今回は、この従業員に提出してもらうべき誓約書の内容について検討します。

第1 タイミングは重要! ~早い方が良い。ベストは入社時~

まず、タイミングです。最も良いのは、入社時です。退職直前では、書いてもらえないリスクが高くなります。ただ、提出してもらわないより、提出してもらった方がよいですから、気付いたらなるべく早く、提出してもらうというのが良いでしょう。就業期間中に、「コンプライアンスを充実させるために、誓約書の作成をお願いすることにしました。」ということでも問題はないと考えます。

第2 3つの内容

肝心の内容は、以下の3つ+αです。

1 秘密保持

2 知的財産権(特に、特許)の帰属

3 競業禁止

(4 反社会的勢力との接触の不存在)

さらに、就業規則との連携も必要です。就業規則より労働者に不利な労働契約は、無効とされてしまう可能性があります(労働契約法第12条)。したがって、従業員から誓約書をもらう際に、併せて就業規則の見直しも検討して下さい。ただ、誓約書の内容が全て無効になるというわけでもありませんので、とりあえず誓約書を先行させてしまうことは実務上は問題ないでしょう。

では、個別に検討します。

1 秘密保持条項

秘密保持条項は、以下の点がポイントになります。

・ 秘密情報を定義する(就業規則や営業秘密管理指針がある場合は、それらの定義を援用することも可)

・ 秘密情報を記載又は包含した書面その他の媒体物の持出禁止・返還義務

・ 退職後の義務

・ 制裁措置(サンクション)の設定(損害賠償・協力義務等)

です。

具体的な文言は、私に別途相談いただきたいのですが、注意して頂きたいのは、制裁措置です。秘密保持違反は、損害の範囲も立証も難しいケースが少なくないですので、損害賠償規定を明確にして、請求できる損害の範囲を広くしておくことがポイントです。また、会社が損害を回復するための行動を採った場合に、それに協力する義務を規定しておくことも有効でしょう。

(続く)

【関連法令】

労働契約法

(就業規則違反の労働契約)
第十二条  就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

2010年09月06日 09:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません