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ベンチャー法務の部屋

種類株式の実務的争点(2) 配当優先

種類株式の実務的争点(2) 配当優先

【目次】
1 残余財産分配優先 ~種類株式の実務的争点(1)
(1) 種類株式の必須項目
(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい
2 配当優先 ~種類株式の実務的争点(2) <今回>~
(1) 種類株式の標準項目
(2)  標準的な定め方は、特定された金額(&調整条項)+参加型+非累積
(3)  「株式取得時の1株あたりの払込金額」と定めることは避けた方がよい
(4) 上記以外の配当優先の定め方
(5) 配当の性質とスタートアップ企業の配当方針

【目次・終わり】

2 配当優先
(1) 種類株式の標準項目
剰余金の配当の優先は、種類株式に、一般的に設けられている項目です。

剰余金の配当は、会社の一部の清算という効果をもたらすものです。そのため、残余財産分配優先と同様の理由で、配当の有限も設けられます。すなわち、投資家は、高い株価・低いシェアで投資する場合に、1株あたり同じ金額で配当されてしまうと、普通株主により高いリスクを引き受けたにもかかわらず、そのリスクに見合わないリターンしか得られないことになりますので、リスクに見合ったリターン(インカムゲイン)を設計する必要があるというものです。

とはいえ、一般的なベンチャー企業は、高い成長を目指しており、会社に生じた剰余金を再投資に回すことで、複利的に成長することが期待されています。投資家側も、配当優先を規定しているからといって、会社に、必ずしも配当をすることを期待しているわけではありません。

また、そもそも、ベンチャー企業は、出費が先行し、当初、フリーキャッシュフローは、マイナスで推移することが多いですので、そもそも剰余金が生じずに、配当もできないケースも少なくありません。

したがって、剰余金の配当について規定されている例は、極めて多く、ベンチャー投資の現場で設計される種類株式では、ほとんどの場合、配当優先が定められていますが、実際に、この規定に基づいて優先配当を実施している例は、極めて少ないものと思われます。

また、残余財産分配優先を定めていない場合に比べ、配当優先を定めていないことは、投資家側のリスクとしては比較的高くはありません。

そのため、残余財産分配優先の規定があるが、配当優先の規定はないといったケースもないわけではありません。

(2)  標準的な定め方は、特定された金額(&調整条項)+参加型+非累積
スタートアップ企業への投資において、標準的な配当優先条項は、一定の金額を優先した後、さらに配当する場合には、種類株主と普通株主に対して、平等に、1株につき同額を分配するというものです。一定の金額とは、「A種優先分配額の○%に相当する剰余金」と定めるケースもあれば、「○円」と定めるケースもあります。

「○円」と定めると、残余財産分配優先条項と同じような調整条項を配当優先でも設けなければなりませんので、「A種優先分配額(A種優先分配額が調整された場合にはその調整後の金額を意味する。)の○%に相当する剰余金」とすると、調整条項が統一されますので、わかりやすく規定できると思われます。

また、残余財産の分配とは異なり、剰余金の配当は、複数回実施することができますので、「但し、既に同じ事業年度中に設けられた基準日によりA種優先株主又はA種優先登録質権者に対して剰余金の配当を行ったときは 、その額を控除した額とする。」といった定めをすることが多いです。

参加型/非参加型は、残余財産優先分配条項と同じ議論ですので、ここでは割愛します。

非累積/累積は、ある事業年度において行なわれた配当の額が優先配当額に達しない場合、不足額が翌事業年度以降に累積し続け、累積した不足額については、翌事業年度以降、優先配当額の配当の前に、さらに優先的に配当されるとするものです。配当自体が稀であり、配当の累積は、ベンチャー企業に酷なイメージをもたらすことから、非累積がほとんどであると思われます。

(3)  「株式取得時の1株あたりの払込金額」と定めることは避けた方がよい

定款で、優先配当額として「株式取得時の1株あたりの払込金額の○%」を定めることは、避けた方がよいでしょう。理由は、残余財産分配のときの議論と同じです。

(4) 上記以外の配当優先の定め方

種類株式の内容として、議決権を無しにしつつ、配当を優先するという方法は、あり得ます。

このような場合を含め、上記以外の配当優先の定め方として、普通株式に配当する金額の○倍の金額を優先株主に支払うという定め方もあり、上場企業でも、みられるところです。こちらは、投下資本の回収よりも、株式市場で取引されるバリューを意識した定め方と、いえるでしょう。

(5) 配当の性質とスタートアップ企業の配当方針

配当とは、剰余金がある場合に、会社にある現金を株主に戻す行為です。株主全体で把握すると、基本的に以下の取引が成り立つものです。

【配当前】の株式 = 【配当後】の株式 + 配当金

一般的な、配当優先の規定であれば、優先配当をしても、事業年度を超えると、優先配当額がもとに復活しますので、毎年優先配当をすると、普通株主に損ということになってしまいます。そのため、基本的には、スタートアップ企業は、例え剰余金が存在しても、この配当優先の規定が残っている間に、配当をすることは、例外的でしょう。

これを避けるには、優先配当を実施した場合に、配当した金額は、それ以降のA種優先分配額から控除されるものとし、また、残余財産優先分配規定におけるA種優先分配額からも控除されるとするのが、フェアといえるかもしれませんが、あまりそのような規定はみたことがありません。やはり、スタートアップの投資では、投資家も発行会社も、配当は望んでいないため、配当があまり実現されない方向で規定されていても、それほど問題視されないものと思われます。

(文責:森 理俊)

種類株式の実務的争点(1)  残余財産分配優先

日本のベンチャー投資において、この15~20年くらいの歴史のなかで、スタートアップ企業が、新株発行をして、増資をすることで、資金調達をすることは、珍しいことではなくなってきました。勿論、これは、立場によって、感じ方も異なることと思います。

そして、この増資の方法として、種類株式が利用されることも、稀ではなくなってきました。

しかしながら、スタートアップ企業の経営者にとっては、初期の資金調達で、投資家から種類株式の要領(タームシートや定款変更案)を突きつけられると、未だに非常に面食らうものであることも、確かでしょう。種類株式の内容は、専門用語が多く、複雑であり、真意を理解することが容易ではないからです。

しかも、種類株式に関する専門書を読んでも、種類株式の種類として、配当優先、残余財産分配優先、取得請求権付株式、取得条項付株式、拒否権付株式、役員選任権付株式などと、列挙されていて、自社(発行会社)にとって、何が有利な条項で何が不利な条項で、相場と比較して、どの程度ずれているのかも、よくわからないことが多いと思われます。そこで、実務上の観点から、種類株式について、実質上の争点や留意点を検討してみたいと思います。

 

【目次】
1 残余財産分配優先 ~種類株式の実務的争点(1)<今回>~
(1) 種類株式の必須項目
(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい

(注)次回以降は、作成する度に目次に加えます。
【目次・終わり】

 

1 残余財産分配優先
(1) 種類株式の必須項目
残余財産分配の優先は、種類株式に、必ずと言ってよいほど、設けられる項目です。

その理由は、以下のとおりです。

・種類株式の発行によって、投資家に対して第三者割当増資を行うときは、株価(払込金額)が普通株式より高いことが、ほとんどである。また、その際に、その投資家が取得することとなるシェア(議決権割合)は、結果として、1/3にも満たない可能性が高い。

・もし投資家が普通株式を引き受けていると、その投資家は、会社の解散に対して拒否権を持てないことになり(株式会社の解散は、株主総会の特別決議事項で、出席株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の多数が必要。会社法第471条第3号、第309条第2項第11号)、投資直後に会社が解散すると、1株あたり同じ金額の残余財産しか分配されないことになる。そのため、投資家は、高い株価・低いシェアで投資する以上、直ちに解散した場合であっても、少なくとも、投資した金額については、残余財産から優先的に分配されるよう、株式を設計し、直後の解散による投資損といった事態を確実に避ける必要がある。

わかりやすい例として、普通株式を株主Aに90株(払込金額1万円)を発行している株式会社があるとします。このとき、会社にある資産は投資実行時から増減がないとすれば90万円です。その会社が、投資家Bに普通株式10株を割当て、1株あたり払込金額100万円で発行すると、発行直後に、会社にある資産は1090万円です。その後、会社の解散決議を行うと(株主A:90%、株主B:10%であり、株主Bが反対しても可決される。)、清算費用を無視すれば、株主Aに、981万円(1090万円×90%)、株主Bに、109万円(1090万円✕10%)が分配されます。株主Bにとっては、1000万円の投資が、109万円になるわけですから、大損です。

投資家は、高い株価・低いシェアで投資する場合に、このような解散による投資損といった事態を避けるために、普通株式ではなく、残余財産分配を優先する内容の種類株式での投資を望みます。

 

(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
スタートアップ企業への投資において、標準的な残余財産分配優先は、払込価額相当額を優先した後、さらに分配する場合には、種類株主と普通株主に対して、平等に、1株につき同額を分配するというものです(実際の定款では、「A種優先株式1株につき、普通株主又は普通登録質権者に対して普通株式1株につき分配する残余財産にA種取得比率を乗じた額と同額の残余財産」といった形で、種類株式については種類株主が取得請求権を行使した場合に取得できる普通株式数に計算した上で、1株あたり平等に分配されるように設計されます。)。

また、「払込価額相当額」としているのは、株式分割や株式併合、株主割当増資、株式無償割当ての場合に、払込価額を調整する必要がありますので、そのための調整条項がおかれます。例えば、種類株式1株を10株にする株式分割をする場合には、払込価額相当額を、当初の10分の1にするといった調整です。

残余財産分配に関する定め方のバリエーションとしては、非参加型、すなわち、種類株主が払込価額相当額につき優先的に分配を受けた後、残余財産の分配を受けない方法、があり得ますが、一般的ではありません。

また、ほかのバリエーションとして、払込価額の2倍や3倍を優先残余財産分配額とする設計もあります。こちらも、少なくとも今の日本では珍しい設計ではないかと思います。

 

(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい

時折、「A種優先株主又はA種優先登録株式質権者に対し、普通株主又は普通登録株式質権者に先立ち、A種優先株式1株につき、株式取得時の1株あたりの払込金額を分配する。」といった規定が見られます。

この規定自体は、直ちに問題がある規定ではありません。登記手続においても問題とはされないと思います。

しかしながら、(i)定款の種類株式の定款規定を読むだけでは、優先残余財産分配額が判断できないこと(別途、実際の「払込金額」を把握する必要がある)、に加えて、(ii)異なる払込金額でA種優先株式を発行している場合には、先に株価Xで発行されたA種優先株式と後に株価Yで発行されたA種種類株式は、会社法上、異なる種類の株式と判断される可能性があります。特に、(ii)の場合は、別に定められた「取得と引換えに交付すべき普通株式数」に関する規定でも、「取得と引換えに交付すべき普通株式数」が異なる場合が生じることになり、会社法上、異なる種類の株式と判断される可能性が極めて高いです。

そのため、「A種優先株主又はA種優先登録質権者に対し、普通株主又は普通登録質権者に先立ち、A種優先株式1株につき金●円を支払う。」というように、具体的な金額で規定した方がよいでしょう。

(文責:森 理俊)

『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』(経済産業省)

今月(2019年5月)、経済産業省にて『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』が策定されました。

 

1 『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』の策定

昨今、大学発ベンチャーに関連して、大学が保有している知的財産をベンチャー企業に移転する場合等の対価として、新株予約権を取得する例がかなり増えてきたように思います。

先日(2019年5月)、経済産業省は、『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』を策定しました。

私は、これまで実際に国立大学法人の知財移転や新株予約権取得に関与して、助言などを行っており、これまでの関連する動きと併せて概観したいと思います。

 

2 これまでの文部科学省通知などの状況

これまで、文部科学省から、以下の通知において、例えば下記の指摘がありました。

 国立大学法人等は、法第22条第1項各号又は法第29条第1項各号に規定される業務と離れて、収益を目的とした別の業務を行うことはできないが、同項各号の範囲内の業務を行う中で、受益者に対し費用の負担を求め、結果として、収益を伴うことまでは否定されていない。
その対価として現金に代えて株式等を受け入れざるを得ないような場合には、株式等を取得することは法的に可能と解されること。
ただし、国立大学法人等においてその取得を慎重に判断した上で実施するものであることに留意すること。また、この取扱いは、当該対価を現金により支払うことが困難な大学発ベンチャー企業等を対象として想定しているものであり、株式公開企業等の現金による支払が可能な企業について、現金に代えて株式等を取得することは法の趣旨に照らし妥当な取扱いとは解されないこと。

(想定される対価の例)
・国立大学法人等の教育研究活動に支障のない範囲内において、一時的に、国立大学法人等の施設を使用させる対価
・国立大学法人等の教育研究活動の成果を活用し、技術相談業務、技術顧問業務、法律相談業務等、技術的な支援を行い、得る対価など

(文部科学省高等教育局長等 29文科高第410号 平成29年8月1日「国立大学法人及び大学共同利用機関法人が株式及び新株予約権を取得する場合の取扱いについて(通知)」)
注釈:「法」とは国立大学法人法を意味する。太字は筆者による。

また、内閣府及び文部科学省から、以下の通知において、下記の指摘がありました。

法第 34 条の 4 及び第 34 条の 5 は、研究開発法人及び国立大学法人等が支援に伴い株式等を取得することができる場合を、法人発ベンチャーの資力その他の事情を勘案し、特に必要な場合としている。すなわち、支援を行う研究開発法人又は国立大学法人等の研究成果を活用した事業の有望性が高い法人発ベンチャーであって、当該研究開発法人及び国立大学法人等による支援に対し、現金による支払を免除又は軽減することが当該ベンチャーの経営の加速のために特に必要と考えられる場合が対象となる。

法人発ベンチャーから株式等を提供したい旨の意向が示された場合、研究開発法人及び国立大学法人等は、株式等の 価値を公正かつ客観的に評価できるよう、必要に応じて、株式等の取扱いに係る経験等を有する外部専門家の意見を活用しつつ、法人発ベンチャーとの合意の上で取得する株数等を決定する必要がある。

(内閣府 政策統括官(科学技術・イノベーション担当) 文部科学省 科学技術・学術政策局 平成31年1月17日「研究開発法人及び国立大学法人等による成果活用事業者に対する支援に伴う 株式又は新株予約権の取得及び保有に係るガイドライン」)
注釈:「法」とは科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律を意味する。太字は筆者による。

以上を踏まえると、従前から、取得時や保有時に以下の留意事項が考えられていました。

【大学側の取得時の留意点】
・ 新株予約権の取得については、ライセンスの相当性、新株予約権取得の相当性(事業の継続性や回収可能性など)に留意する
・ 新株予約権自体の相当性(数や内容の合理性など)に留意する
・ 実務上、ライセンス等の対価及び新株予約権1個あたりの価値を算出し、ライセンス等の対価を新株予約権1個あたりの価値で割って、個数を算出することが理想である。ただし、現実には、ある程度の仮定を前提とした上での計算をもとに、外部専門家の意見を活用しつつ、法人発ベンチャーとの合意の上で取得する株数等を決定する。

【大学側の保有後の留意点】
・ 特段の事情がない限り、換金可能な状態になり次第可能な限り速やかに売却することが求められる。
・ 自益権(利益配当請求権や残余財産分配請求権)の行使はよいが、議決権の行使など経営参加権等のいわゆる共益権の行使は、原則として認められない。例外あり。

 

3 経済産業省作成の『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』について

経済産業省は、『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』において、基本的な考え方として、以下のとおり、述べています。

「現金による支払を免除又は軽減することが当該ベンチャーの経営の加速のために特に必要と考えられる場合」である基準については、ベンチャー企業の成り立ちや将来的な事業計画、また大学との関わりは多様であり、株式・新株予約権の取得の妥当性を画一的な基準で判断することは困難です。そのため、株式・新株予約権の取得可否の判断は、対象とする企業がその時点で保有しているキャッシュの多寡だけではなく、ライセンスに伴って現金による支払を免除又は軽減することがその企業の事業計画を勘案すると必要かどうか、また、企業側が希望しているかどうかという視点で検討することが適切であると言えます(p.19)。

また、考慮するための要素として、「新株予約権取得の判断を行うための事業計画を確認し、現金を回収できることが一定程度見込まれること」「新株予約権を取得するタイミングとして、シード期が一般的であるが、例外もあり各ケースに合わせた対応をすること」「事業内容と大学ミッ ションとの関連性を整理するとともに、事業内容の公正性などを確認すること」等が挙げられています(p.20)。

 

4 今後の動き

今回の『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』の策定は、これまでの議論状況を整理し、一覧性を高めたものといえます。実務上の留意点も、これまでと比して、変化したというものではなく、わかりやすく整理されたといえます。

これまでも、日本の大学が知的財産権のライセンスに伴って大学発ベンチャーから新株予約権を取得する場合はありましたが、これが加速するものと思われます。

当事務所では、これまで、国立大学法人を中心に、大学発ベンチャーから新株予約権を取得するに際して、「ライセンス契約書」及び「新株予約権割当契約書」の作成をサポートしたり、新株予約権を取得することの相当性の要件の確認などの業務を提供したりしてきました。

これからも大学発ベンチャーが、このような仕組みを使って、ますます加速することを強く期待しています。

文責:森 理俊

ベンチャー企業のインセンティブ制度に関するニュースについて

2018年の年末から、今年にかけて、ベンチャー企業のインセンティブ制度について、いくつかのニュースがありました。

(1) メルカリの新インセンティブ制度

メルカリがストックオプションに代えてRSU(Restricted Stock Unit)を導入したというニュースです。

日本初の挑戦を。メルカリが新インセンティブ制度に込めた想いとその舞台裏

「メルカリ、全社員に株の報酬制度 優秀な人材を確保」
2019年1月16日日本経済新聞

(2)  スタートアップ、外部人材の株式報酬に税優遇

「スタートアップ、外部人材の株式報酬に税優遇」
2019年1月22日日本経済新聞

スタートアップ企業の事業開発において、政府が、大学の研究者など専門知識を持って外部から協力してくれる人材へのストックオプション(株式購入権)による報酬について課税繰り延べを認める、という内容です。

記事によると、「新たに対象を社外の関係者にも広げる。大学や研究機関の研究者のほか、フリーのプログラマーやエンジニア、弁護士や医師などを想定する。」「ストックオプション税制の拡充では、中小企業等経営強化法の改正案など関連法案を28日召集の通常国会に提出する。」とのことです。

1 (1)メルカリの新インセンティブ制度について

RSU(Restricted Stock Unit)は、譲渡制限株式ユニットと訳されており、ボーナスの一部(メルカリの場合は半分)を、現金の代わりに株式購入の対価を充てる

メルカリは、おそらく従前の現金賞与制度を減額・変更するという選択肢はとっていないと思われますので、従前に(無償)ストックオプションを付与していた部分を、株式譲渡対価分を会社が負担してでもRSUを導入したということだと思われます。

メルカリの企業理念やインセンティブについての考え方、日米における税制、RS・RSUの両制度のメリット・デメリット等を十分に検討して、導入に臨まれたと思います。

概要は、取締役会(※)で、役職員の一部を対象に、第三者割当増資による募集株式の発行を行い、一定期間の在籍などを条件として、対象者毎に予め定める数を付与するというものです。また、対象者には、予め会社から支給された金銭債権を現物出資してもらい、会社株式を交付するという内容です。1株当たりの払込金額は、「発行又は処分に係る取締役会決議の日の前営業日における東京証券取引所における当社株式の終値(同日に取引が成立していない場合は、それに先立つ直近取引日の終値)を基礎として、対象者に特に有利とならない範囲において当社の取締役会において決定」するということのようです。
(※ 上場企業ですので、第三者割当増資は取締役会で決議します。)

この方法は、非上場企業では、株主が増える等の面がデメリットとして大きな影響をもつ上、人数が多いと有価証券の募集にも該当してしまう可能性があるため、他に導入されるとしても、世界に展開している上場企業ではないかと予想します。

このような多種多様なインセンティブ設計が議論されるようになったのは、ここ1~2年のように思われ、様々な手続的な面倒さを含めて、実務が洗練されていくことを望みます。

2 (2) スタートアップ、外部人材の株式報酬に税優遇

これまで、非上場企業が、いわゆる外部人材(取締役や従業員ではなく、税制適格が受けられない人)に、インセンティブ目的でストックオプションを付与しようとすると、有償の公正時価発行の新株予約権か、いわゆる信託型にするか、(金額が少ないと仮定する等して税制適格を諦めて)無償ストックオプションにするか、(新株予約権を諦めて)現物の株式とするといった選択を迫られていました。

いずれも導入コストの面、又は税制の面等でのデメリットをかかえており一長一短でした。

そこに、平成31年度税制改正では、これまでの取締役、執行役及び使用人に加えて、「特定事業者」も税制適格の対象者に加えられる予定です。

特定事業者とは、「中小企業等経営強化法に規定する認定新規中小企業者等(仮称)が新事業分野開拓計画(仮称)に従って活用する取締役及び使用人等以外の者(新事業分野開拓計画(仮称)の実施期間の開始の日から新株予約権の行使までの間、居住者である等一定の要件を満たす者に限る)」ということのようであり、「社外の人材を活用した事業計画を策定して、所管省庁から認定を受けること」が条件のようですので、使い勝手のよい制度になるかどうかは、まだよくわかりません。

ひとまず、エンジニアや弁護士、大学教員など、外部の人材に、ストックオプションを付与するインセンティブがあるケースは、かなり多く、そのような需要に応えられるものであれば、日本のスタートアップにおける課題が一つ解決することになるかもしれません。

アクシス国際法律事務所では、引き続きこの税制改正についての情報を把握するように努める所存であり、続報があれば、紹介します。

(文責:森理俊)

2019年01月24日 11:41|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その3)

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理です。
「ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その1)」「ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その2)」の続きです。

これまで紹介した用語は、以下のとおりです。
1.ベンチャー投資
2.Exit(イグジット・エグジット)
3.IPO(アイ・ピー・オー)
4.VC(ブイシー・ヴィーシー)
5.エンジェル
6.CVC(シーブイシー・シーヴィーシー)
7.ステージ
8.投資契約
9.株主間契約
10.財産分配契約

11.企業価値評価額(バリュエーション)
企業価値評価又は企業価値評価額(バリュエーション)は、ベンチャー・ファイナンスに限った用語ではなく、企業のファイナンス全般で用いられます。一般的に適用可能で、且つ具体的な企業価値評価の手法については、マッキンゼーの有名な本『企業価値評価―――バリュエーションの理論と実践』や日本公認会計士協会の『企業価値評価ガイドライン』等が参考になるかと思います。

シード・ステージのベンチャー企業は、まだプロトタイプができたかどうか、といった段階にあるため、精緻な企業価値評価は困難であり、不確定要素が多すぎるため、意味を為しません。そのため、実際には、投資総額300万円〜1500万円ぐらいで10%程度の株式を発行することを念頭に、企業価値を逆算することが多いように思われます。投資総額300万円で株式の10%を割り当てる場合の時価総額は3000万円であり、投資総額1500万円で株式の10%を割り当てる場合の時価総額は1億5000万円です。

事業価値+非事業用資産=有利子負債+株式時価総額を前提とすると、ほとんどの場合、シード・ステージのベンチャー企業には、非事業用資産も有利子負債もありませんので、事業価値=時価総額となります。

したがって、発行会社は、事業価値が3000万円~1億5000万円あるということを投資家にアピールする必要があります。

ミドル・ステージやレイター・ステージであれば、既に売上も利益もその将来の上昇の見込みも明確になってきていますので、それらの数字を前提に、類似する事業を行っている上場企業の時価総額を参考にしたり、DCF法を用いたりすることになります。

12.時価総額(キャップ)
既に「11. 企業価値評価額」でも、時価総額に触れました。

株価✕株数(発行済株式総数)=時価総額

以上の算式で算出します。ここでの株価は、非上場のベンチャー企業の場合、株式市場での株価がありませんので、直近のファイナンスにおける株価を指します。
なお、細かい点ですが、自己株式がある場合は、発行済株式総数から自己株式数を差し引く必要があります。

カタカナで「キャップ」と言われることがありますが、これは、時価総額を意味するMarket capitalizationから来ています。

13.プレ・バリュー/ポスト・バリュー
プレ・バリューは、Pre-money valuation ポスト・バリューは、 Post-money valuation のことです。「プレ」や「ポスト」とだけ呼ばれることも多いです。

プレ・バリューとは、資金調達直前の時価総額を意味し、ポスト・バリューとは、資金調達直後の時価総額を意味します。

あるファイナンス・ラウンドのプレ・バリューとポスト・バリューは、以下の算式が成り立ちます。

Pre-money valuation + 調達額 = Post-money valuation

「うちは、今回のファイナンス、ポストで6億だったよ。」といった使われ方をします。「当社は、今回の資金調達については、調達を終えた直後の時点で、時価総額6億円の評価をしてもらったよ。」という意味です。

今回は、ここまでです。
(文責:森理俊)

会社が株式公開を目指さない理由

最近、「企業価値5600億円 米スラックが株式公開しない理由」という記事がありました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32237140W8A620C1TJC000/

Slackは、昨今のベンチャー企業では、使っていない方が珍しいくらいに、浸透しているビジネス用のチャットツールです。

私も、所内外を問わず、いろいろな場面で活用させていただいています。

そのSlackのCEOが、当面、株式を公開しないとのことです。

通常、ベンチャー企業が、VCや投資家から、新株発行により資金を調達する際には、当該株式について、将来、上場によって公開されることを目指すと宣言します。IPOによって、株式が公開されない限り、VCや投資家にとっては、投下した資本を回収する手段がないからです。

しかしながら、いまや世界中のビジネスシーンで利用されるようになった、Slackは、ユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の有力未上場企業)であり、上場しなくても、その株式を保有したいという投資家・資産家は、列をなしているのでしょうから、労力のかかる(=めんどくさい)IPOは、しなくても問題ないでしょう、ということかもしれません。

私が過去に書いたブログで、会社の株式の未来は、大きく分けて4つの未来しかないと書いたことがあります。

「会社の未来は4つしかない」

会社の未来は4つしかない

(未来1) 株式公開(IPO)
(未来2) M&A(買収される)
(未来3) 保有され続けて、相続の対象となる。
(未来4) 会社の清算により、残余財産分配請求権に転化する。

Slackのように、有力な投資家が保有し続けて、未上場のまま、維持されていくケースもあるかもしれません。この場合、個人株主については、(未来3)ですね。

Slackのように、未上場のまま有力な投資家が保有し続ける場合、投資家は、未上場のまま、会社に配当を求めるのかもしれません。

栄枯盛衰は世の常ですので、上場できるうちに、上場した方がよいという意見もあるとは思いますが、如何でしょうか。
SlackとSlackの投資家の未来は、どうなるでしょうか。

2018年07月03日 12:37|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その2)

今回も、ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理です。
前回の「ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その1)」の続きです。

 

6.CVC(シーブイシー・シーヴィーシー)
CVCとは、コーポレート・ベンチャー・キャピタルのことです。ベンチャー・キャピタルは、前回「4.VC」で触れています。
CVCは、GPが大企業の子会社で、LPがその大企業であることが多いです。大企業がこのようなベンチャー・キャピタル事業をする主な目的は、一般的に、資産運用だけではなく、最先端の技術を探索して、情報を得つつ、出資元となる大企業に有用な技術を獲得することにあると言われているように思います。ここ数年はCVCが乱立する傾向にあり、歴史のあるVCと比較すると、例外もありますが、歴史や経験の浅いCVCも少なくありません。自社の株主としてCVCを選ぶ場合には、どのような連携や協業ができそうか等もよく検討した方がよいかもしれません。
 

7.ステージ
ベンチャー・ファイナンスの世界では、ステージとは、投資を実行する際に、発行会社がいる段階を意味します。シード・ステージ、アーリー・ステージ、ミドル・ステージ、レイト・ステージなどという使われ方をします。
シードとは「種(seed)」のことであり、企画と構想の段階で、ざっくりと500~1000万円程度の資金調達額を目指すようなステージを意味することが多いです。勿論、これに当てはまらない調達額のファイナンスも数多くあります。そもそも、ファイナンスを「シード」や「ミドル」と言っていたところで、何か特別な効果があるわけではありません。あくまで目安です。

 

8.投資契約
ベンチャー投資における投資契約は、株式総数引受契約(会社法第205条)とは別に、投資家と発行会社の間で、締結する投資に関する契約です。ほとんどの場合、投資家側の要望により締結されます。投資家は、投資契約を締結することにより、(i)会社法に定められた株主としての権利以上の権利を得る、(ii)表明保証条項により投資契約締結時点の状況を把握しやすくしつつ、虚偽の情報や誤解に基づく投資を避ける、(iii)投下資本の回収についての想定する手段と時期を発行会社と共有する等のメリットを得ることができるためです。これらのメリットは、VCの業務執行者(=GP)が、VCにとっての投資家(=LP)への説明責任を果たすためにも、必要であるといえます。発行会社は、VCから投資契約書の提案を受けた場合、VC側の事情も理解しつつ、自社にとって、過大な負担や過度に不利益な条項を排除するための交渉をすることになります。目的が理解できない条項がある場合や、相場がわからない、すなわちどの程度の条件であれば、一般的といえるか、わからない場合は、ベンチャー・ファイナンスに詳しい弁護士に質問されるのがよいでしょう。
 
具体的には、投資に係る発行概要(株式等の種類、種類株式の内容、数、価格、払込期日等)、資金使途、表明保証等の投資の前提条件、投資実行の条件、契約違反が生じた際の取り決め等が骨格となります。他に、誓約事項、事前承認事項、事前通知事項、事後報告事項、取締役の指名権、オブザーバーの指名権、希薄化防止条項、秘密保持、一般条項等が定められることも少なくありません。

 

9.株主間契約
株主間契約は、発行会社、創業株主及び主要な投資家の間で定められる、株式の異動や株式に係る権利行使に関連して、株主間の権利義務関係を取り決めたものです。投資契約は、その株式引受自体に関する事項を骨子とする契約であり、株式引受という取引そのものを対象としていることと比較すると、株主間契約は、投資家が株主となった後、Exitするまでの期間を対象とした長期間の契約関係を対象としているといえます。
 
具体的な条項は、投資語の会社経営に関する事項、情報開示に関する事項、株式に異動に関する事項、投資家のExitに関する事項等で構成されています。

 

10.財産分配契約
投資家、エンジェルや従業員株主と創業株主が当事者となって、株主が会社と利害関係を有しなくなった場合や、発行会社にM&Aが生じた場合、個人株主が死亡等のアクシデントに見舞われた場合を想定して、株式の異動等について明確にするの契約書です。実際の契約書名は、「合意書」「買収に係る株主分配等に関する合意書」「株主間における合意書」「株主間契約書」となっていることが多いです。
 
具体的には、みなし清算条項(Deemed Liquidation)、共同売却権/売却請求権/同時売却請求権(Drag Along Right)や、株式買取請求権が規定されています。みなし清算条項とは、発行会社にM&Aが生じた場合に、発行会社を清算したものとみなして投資家に対して分配を行うことを内容とする定めをいいます。共同売却権/売却請求権/同時売却請求権は、多数の投資家の賛成等の任意に設定された一定の要件を充たした場合、発行会社、創業株主に限らず、他の株主に対しても買収に応じるべきことを請求することができる権利を意味します。株式買取請求権とは、死亡や成年後見開始決定等、退職等のイベントが発生した場合に、経営支配株主が当該イベントが生じた者(又はその包括承継人)から会社株式を買い取れるように、株式の買取りを請求することができる権利を意味します。
 
続きます。
 
(文責:森 理俊)

2018年06月01日 21:35|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その1)

ベンチャー・ファイナンスに関連して、「用語の意味がわからない(ので、こっそり会議中にググりました)」等の意見や感想を耳にすることが少なくありません。

そこで、思いつく範囲で、ひとまず、私に分かる範囲で、ベンチャー・ファイナンスに関連する用語を解説しようと思います。
なお、個人的な印象が入る上に、厳密な定義とは異なるかもしれませんが、そのあたりはご容赦いただければと思います。(誤解などについて、ご指摘いただければ、幸いです。)

ひとまず、順不同です。

 

1.ベンチャー投資
ベンチャー投資とは、ベンチャー企業に対する投資のことです。ベンチャー企業に対する投資において、もっともな重要な点は、「投資」であり、「融資」ではない点にあります。
ベンチャー企業は、借入をする場合(=銀行や政府系金融機関等からの「融」資を受ける場合)もありますが、ベンチャー企業が担保にできる資産を保有しているケースは稀であり、元本の一部と利息を支払いながら経営するには不向きなビジネスモデルであることも少なくありません。
一方、株式を発行して資金を調達すること(=「投資」を受けること)で、返済義務を負わなくて済むため、資産に乏しく、初期に開発が先行するタイプのビジネスモデルのベンチャー企業は、投資家から「投資」を受けることが多いです。

そのため、ベンチャー企業は、ベンチャー・キャピタルや事業会社、個人投資家に、自らに「投資」をしてもらうために、技術力やチームメンバー、事業戦略、事業への情熱、自社が発展することで解決される問題等をアピールして、将来性があり、企業価値が高いことをアピールすることになります。投資家側は、このアピールを受けて、投資に値すると判断した企業に投資します。
 

2.Exit(イグジット・エグジット)
Exitとは、投資資金の回収のことです。ベンチャー企業に投資した投資家は、どのように利益を上げるかについて、 保有している株式を売却することを想定しています。そして、株式の売却の方法は、金融商品取引所への上場(IPO)による場合と、M&Aによる場合があります。

なお、投資家が投資資金を回収する手段として、理論上は、配当が考えられます。しかし、実務では、配当を狙って、ベンチャー企業に投資をする投資家はほぼいません。利益が潤沢に有り、且つ、再投資するよりも配当(投資家に還元)した方がよい企業は、極めて少ないためです。
 

3.IPO(アイ・ピー・オー)
IPOとは、株式が金融商品取引所へ上場することです。Initial Public Offeringの頭文字をとったものです。
 

4.VC(ブイシー・ヴィーシー)
VCとは、ベンチャー・キャピタルのことです。ベンチャー・キャピタルは、ベンチャー企業への投資に特化したファンドであることが多いです。法的には、投資事業有限責任組合です。投資事業有限責任組合に関する法律に基づく組合であり、英語表記では、LPS(Limited Partnershipの略)と表現されることがありますが、実際には「ファンド」と呼ばれていることが多いように思います。

ベンチャー・キャピタルは、ベンチャー・キャピタルを運営する専門の会社によって、運営されていることが多く、その会社をGP(ジー・ピー。無限責任組合員。General Partnerの略)といいます。そして、ベンチャー・キャピタルのファンドに投資している投資家をLP(エル・ピー。有限責任組合員。Limited partnerの略)といいます。

ベンチャー・キャピタルから投資を受けたいベンチャー企業は、このベンチャ・キャピタル側の事情もよく理解しておいた方がよいかもしれません。特に、LPに、どのような投資家がいるのか、金融機関なのか、事業会社なのか、等は、重要なVC選択の要素です。

ベンチャー企業にとっては、VC側の担当者が誰であるのか、面倒をどのくらいみてくれるのか、その裏返しとして、どのくらい干渉してくるのか、という点も、選択に際しては、重要です。
 

5.エンジェル
エンジェルとはベンチャー企業に投資する、又は投資しようとする個人投資家のことです。個人であるため、個人的信頼関係で出資することも少なくなく、ベンチャー企業の成長の初期段階での投資が多いです。ベンチャー企業からの目線でいえば、信頼できる個人であるか、将来紛争にならないか、に加えて、必要以上にシェアを確保しようとしていないか等の観点も重要です。もし個人投資家が、1~200万円等の低額の出資で、貴社の10%以上のシェアをとろうとするのであれば、将来のファイナンスに悪影響を及ぼす可能性があることに、十分に留意する必要があります。
 

今回はここまでとし、次回以降、他の用語にも適宜言及したいと思います。

2018年05月01日 18:05|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か

1 「いわゆる有償ストック・オプションと「報酬等」規定」(弥永真正著)と題する論文

旬刊商事法務No.2158(2018年2月15日号)に、「いわゆる有償ストック・オプションと「報酬等」規定」(弥永真正著)と題する論文が掲載されています。

これは、企業会計基準委員会が平成30年1月12日に、「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(実務対応報告第三六号)を公表したことを契機として権利確定条件付き有償新株予約権を取締役に付与した場合に、会社法第361条第1項に基づいて報酬等の付与として、株主総会の決議が必要であるかどうかを議論した論文です。

当職が知る範囲では、従前の解釈は、いわゆる公正な払込金額に相当する額の金銭が払い込まれる有償ストック・オプションは、「財産上の利益」を与えるものではないため、株主総会の決議は不要と解されるという主張が多いように思います。

 

2 ベンチャー企業が、有償ストック・オプションを発行する理由

ここで、ベンチャー企業が、有償ストック・オプションを発行して、役員や従業員に割り当てる理由を確認したいと思います。

ベンチャー企業の経営者には、ベンチャー企業の役員や従業員に対して、時価総額を最大化するという方向性で共通のインセンティブをもってもらうために、株主と同じような利害関係を創りたいという動機があります。その方法として、主に、3つの方法が考えられます。

(1)株式
(2)無償ストック・オプション
(3)有償ストック・オプション

いずれの方法も現実には存在します。

ただ、株式は、株主間契約等で拘束しない限り、会社との関係が切れても保有されてしまうリスク(フリー・ランチのリスク)や株主総会招集通知を送付しなければならないといったデメリットがあり、原則として、避ける方向が多いと思います。

そこで、(2)の無償ストック・オプションか、(3)の有償ストック・オプションが選択肢に上がります。

この2つを分けるのは、税制です。
(2)の無償ストック・オプションについては、いわゆる税制適格が得られないと、権利行使時、すなわち新株予約権が株式に変わったときに、所得税の課税対象となり、納税分の現金が用意できないリスクや所得税の税率の高さといったデメリットがあるため、忌避されることが多いです。(なお、金額が小さいと、これらのリスクやデメリットは大きくないことから、税制非適格の無償ストック・オプションが発行されることも時折見かけます。)

税制適格が得られない場合には、有償ストック・オプションが活用されます。典型的には、大株主の地位にある役員や、役員・従業員ではない外部協力者です。公正な発行価額にて発行された有償ストック・オプションは、いわゆる資本的取引であり、所得税の適用は受けず、また、権利行使時ではなく、株式売却時に課税されるため、上記の無償ストック・オプションのリスクやデメリットがありません。(なお、公正な発行価額にて発行する必要があるため、新株予約権の払込金額の算出が多少面倒かもしれません。)

そのため、ベンチャー企業では、有償ストック・オプションを発行することが少なくありません。

当事務所でも、ストック・オプションのスキーム選択や、要項・契約書の作成について、非常に多く助言を行っており、上記の状況をヒアリングしつつ、適宜アドバイスを行っています。

 

3 会社法上の役員報酬規制

会社法では、取締役の報酬等(職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益)については、額、具体的な算定方法、又は内容を、定款又は株主総会の決議によって定めなければならないと規定されています(会社法第361条第1項)。

その理由は、いわゆる「お手盛り」の防止、すなわち、取締役が自らの報酬を自由に決定できるとすると、好きなだけ高く設定することができ、その分、株主が損をするということにあるとされています。

また、取締役会決議では、充分に牽制機能が働かないことや、株主としても有能な取締役を失わないためにどの程度の「報酬等」を付与するかを考えるべき立場になることが理由とされています。ただ、個人的には、上場企業の場合に、この後者の理由が妥当するのかは、疑問の余地がないわけではありません。

さらに、金銭対価以外の場合には、報酬等としての合理性を判断する機会を株主に与えるという趣旨もあるとされています。

 

4 いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か

上記の論文では、「「権利確定条件付き有償新株予約権」が会社法361条にいう「報酬等」に常に当たらないことが自明であるとはいえない」と小括しています。

同論文は、基本的に、開示している「権利確定条件付き有償新株予約権」を調査しているようであり、上場企業が念頭に置かれていると思われます。

とはいえ、会社法第361条は、上場企業にも非上場企業にも適用されますので、仮に、「権利確定条件付き有償新株予約権」が会社法361条にいう「報酬等」に該当する可能性があると解釈すると、安全を見て、非上場企業でも、取締役に新株予約権を発行する際には、株主総会の報酬決議をしなければならないということになります。

ベンチャー企業の実務上は、正直なところ、あまり手続的な実益が乏しいにもかかわらず、報酬決議を取得することは更なる手間を要することになり、あまり好ましい事態ではないように思われます。具体的には、非上場企業では、第三者割当により新株予約権を発行するに際しては、株主総会の決議を経ることになり(会社法第238条第2項、第240条第1項)、少なくとも会社法第239条第1項の枠取り決議が必要です。しかしながら、報酬決議も必要だとすると、付与時にも、株主総会の決議を経なければならなくなります。

枠取り決議では、付与対象者が不明であるので、再度の株主総会決議には、役員への付与を承認するという意義があるという考え方もあり得ますが、普通は、枠取り決議時に、およそどのような属性の者に付与するのかについて、予め株主に説明した上で、承認を得ていることが普通でしょうから、実務的には、二度手間が生じるように思われます。また、枠取り決議の要件は、出席株主の3分の2であり(会社法第309条第2項第6号)、報酬決議より要件が厳しいという点から、要件が緩い報酬決議をさらに必要としなくても良いとも考えられます。さらには、非上場企業が具体的な「報酬等の額」を算出することはかなり負担が多いように思われます。

少なくとも、非上場企業においては、公正な発行価額にて発行された有償ストック・オプションについては、発行手続において株主総会決議を経ている以上、いわゆる「お手盛り」の防止や、報酬等としての合理性を判断する機会を株主に与えるという趣旨も達成できるのであり、さらに株主総会の報酬決議を必要とする、取締役への実質的な地位や特権的な機会の付与があるとはいえず、「財産上の利益」がないと解して、報酬決議を不要と解釈することは十分に可能であると考えられます。

なお、以上は、弁護士森理俊の個人的見解に過ぎず、特定の裁判の結果を保証するものではなく、また、当事務所を代表して意見を述べるものでもありません。

 

2018年04月04日 10:57|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

投資契約(株式引受契約)や株式譲渡契約における表明保証条項について(その2)

前回は、①表明保証条項とは、②表明保証違反が判明した場合、③表明保証違反と株式引受人・譲受人(=投資家)側の悪意又は重過失、という内容をお伝えしました。前回の内容は、契約書の法的な効力という観点から、やや法技術的な側面が強かったかもしれません。

 

今回は、投資契約(株式引受契約)を締結するにあたって、企業側(発行会社側)が、表明保証条項に、どのようなスタンスで臨めば良いか、という観点をお伝えしたいと思います。

 

1 表明保証条項のチェック
投資契約(株式引受契約)においては、企業側(発行会社側)は、基本的に受け身であることが、ほとんどです。というのも、企業側(発行会社側)は、投資を受けるに際して、制約がない方がよいというのが常であるため、企業側からVCに投資契約書のファーストドラフトを提示する例は少ないです(一般的な総数引受契約のみの提示に留まることはあります。)。実務では、基本的にVC等の株式引受人(投資家)側が、予め用意している投資契約書の雛型を提示し、企業側(発行会社側)側が、提示された投資契約書をチェックする、という流れがほとんどです。

 

投資契約書をチェックする場合は、用語が意味不明であるときや、どのような事態を想定している規定なのかわからないときがあります。その場合は、弁護士に相談して頂くことをお薦めします。意味の分からない契約書に署名・押印しないという会社経営における心構えは、どのような契約書であっても当てはまりますが、投資契約においても、極めて重要な心構えです。というのも、株式に関する契約書は、後から変更することが難しいことがほとんどであり、一度、署名・押印した不利な条項は、簡単には変更できないためです。

 

さて、投資契約書をチェックするにあたっては、複数にわたる各項目を読み、自社において、相反する事実が現存していないかを、点検します。

 

例えば、「発行会社の運営に必要な知的財産権は、全て発行会社に帰属しているか、適切なライセンスを受けている」といった項目があったとします。この場合に、未だ、発行会社の代表取締役個人に帰属している商標権があったり、共同研究を行った大学に帰属している特許権があったりした場合は、その事情を株式引受人(投資家)に説明し、「発行会社の運営に必要な知的財産権は、~~~を除き、全て発行会社に帰属しているか、適切なライセンスを受けている」といった内容に変更してもらう必要があります。

 

企業(発行会社)は、このような変更の交渉を怠ってはなりません。むしろ、株式引受人(投資家)による、投資契約書の雛型の提示は、企業(発行会社)による自発的な問題点のあぶり出しを期待しているところがあり、株式引受人(投資家)にとっては想定の範囲内です。

したがって、企業(発行会社)は、遠慮なく、抵触している可能性のある事実を株式引受人(投資家)に伝えた方がよいと考えます。

 

2 表明保証条項に抵触する事実への対応(投資契約書への反映)
ここでは、表明保証条項に抵触する事実が存在した場合に、どのように投資契約書に反映するかを検討します。

 

例えば、企業(発行会社)の事業にとって、必要な特許権が、その企業の社長個人に帰属していたとします。

 

この場合は、株式引受人(投資家)は、早く会社にその特許権を譲渡してもらいたいと考えます。そこで、投資契約上は、(i)投資契約書締結前に特許権の譲渡を完了する、(ii)投資契約書締結後、投資実行前に特許権の譲渡が完了する、(iii)投資実行後、できる限り速やかに特許権の譲渡を完了する、という3つの譲渡時期が想定されることになります。

 

(i) 投資契約書締結前に特許権の譲渡を完了する場合は、投資契約書上、表明保証条項に、発行会社の運営に必要な特許権が全て発行会社に帰属していることを記載することになります。
(ii) 投資契約書締結後、投資実行前に特許権の譲渡が完了する場合は、投資契約書上、投資実行の条件として、特許権の譲渡を記載することになります。
(iii) 投資実行後、できる限り速やかに特許権の譲渡を完了する場合は、投資契約書上、企業(発行会社)の義務(誓約事項)として記載することになります。

 

また、事実として約束しきれない場合、例えば「第三者の知的財産権を侵害した事実はない」といった規定があれば、「発行会社及び経営支配株主の知る限り、第三者の知的財産権を侵害した事実はない」といった文言を付け加えることが考えられます。

 

3 まとめ
企業(発行会社)側が投資契約書を締結する場合、初めて、投資契約書に向き合うことも少なくありません。意味の分からない契約書に署名・押印しないという心構えを強く維持し、弁護士と相談したり、投資家に質問したりして、不明な点、不安な点を全て解消してから、締結することを強くお薦めします。

 

また、表明保証に抵触する事実がある場合や抵触しているかよくわからない場合、投資家に隠すという選択は、問題を先送りにする行為であり、得策ではありません。表明保証に抵触する事実や、抵触しているかよくわからない状態を、上手く投資契約書に反映させて、企業(発行会社)と株式引受人(投資家)の信頼関係の礎としていただければと思います。

文責:森 理俊

2018年02月02日 15:17|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません