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ベンチャー法務の部屋

いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か

1 「いわゆる有償ストック・オプションと「報酬等」規定」(弥永真正著)と題する論文

旬刊商事法務No.2158(2018年2月15日号)に、「いわゆる有償ストック・オプションと「報酬等」規定」(弥永真正著)と題する論文が掲載されています。

これは、企業会計基準委員会が平成30年1月12日に、「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(実務対応報告第三六号)を公表したことを契機として権利確定条件付き有償新株予約権を取締役に付与した場合に、会社法第361条第1項に基づいて報酬等の付与として、株主総会の決議が必要であるかどうかを議論した論文です。

当職が知る範囲では、従前の解釈は、いわゆる公正な払込金額に相当する額の金銭が払い込まれる有償ストック・オプションは、「財産上の利益」を与えるものではないため、株主総会の決議は不要と解されるという主張が多いように思います。

 

2 ベンチャー企業が、有償ストック・オプションを発行する理由

ここで、ベンチャー企業が、有償ストック・オプションを発行して、役員や従業員に割り当てる理由を確認したいと思います。

ベンチャー企業の経営者には、ベンチャー企業の役員や従業員に対して、時価総額を最大化するという方向性で共通のインセンティブをもってもらうために、株主と同じような利害関係を創りたいという動機があります。その方法として、主に、3つの方法が考えられます。

(1)株式
(2)無償ストック・オプション
(3)有償ストック・オプション

いずれの方法も現実には存在します。

ただ、株式は、株主間契約等で拘束しない限り、会社との関係が切れても保有されてしまうリスク(フリー・ランチのリスク)や株主総会招集通知を送付しなければならないといったデメリットがあり、原則として、避ける方向が多いと思います。

そこで、(2)の無償ストック・オプションか、(3)の有償ストック・オプションが選択肢に上がります。

この2つを分けるのは、税制です。
(2)の無償ストック・オプションについては、いわゆる税制適格が得られないと、権利行使時、すなわち新株予約権が株式に変わったときに、所得税の課税対象となり、納税分の現金が用意できないリスクや所得税の税率の高さといったデメリットがあるため、忌避されることが多いです。(なお、金額が小さいと、これらのリスクやデメリットは大きくないことから、税制非適格の無償ストック・オプションが発行されることも時折見かけます。)

税制適格が得られない場合には、有償ストック・オプションが活用されます。典型的には、大株主の地位にある役員や、役員・従業員ではない外部協力者です。公正な発行価額にて発行された有償ストック・オプションは、いわゆる資本的取引であり、所得税の適用は受けず、また、権利行使時ではなく、株式売却時に課税されるため、上記の無償ストック・オプションのリスクやデメリットがありません。(なお、公正な発行価額にて発行する必要があるため、新株予約権の払込金額の算出が多少面倒かもしれません。)

そのため、ベンチャー企業では、有償ストック・オプションを発行することが少なくありません。

当事務所でも、ストック・オプションのスキーム選択や、要項・契約書の作成について、非常に多く助言を行っており、上記の状況をヒアリングしつつ、適宜アドバイスを行っています。

 

3 会社法上の役員報酬規制

会社法では、取締役の報酬等(職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益)については、額、具体的な算定方法、又は内容を、定款又は株主総会の決議によって定めなければならないと規定されています(会社法第361条第1項)。

その理由は、いわゆる「お手盛り」の防止、すなわち、取締役が自らの報酬を自由に決定できるとすると、好きなだけ高く設定することができ、その分、株主が損をするということにあるとされています。

また、取締役会決議では、充分に牽制機能が働かないことや、株主としても有能な取締役を失わないためにどの程度の「報酬等」を付与するかを考えるべき立場になることが理由とされています。ただ、個人的には、上場企業の場合に、この後者の理由が妥当するのかは、疑問の余地がないわけではありません。

さらに、金銭対価以外の場合には、報酬等としての合理性を判断する機会を株主に与えるという趣旨もあるとされています。

 

4 いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か

上記の論文では、「「権利確定条件付き有償新株予約権」が会社法361条にいう「報酬等」に常に当たらないことが自明であるとはいえない」と小括しています。

同論文は、基本的に、開示している「権利確定条件付き有償新株予約権」を調査しているようであり、上場企業が念頭に置かれていると思われます。

とはいえ、会社法第361条は、上場企業にも非上場企業にも適用されますので、仮に、「権利確定条件付き有償新株予約権」が会社法361条にいう「報酬等」に該当する可能性があると解釈すると、安全を見て、非上場企業でも、取締役に新株予約権を発行する際には、株主総会の報酬決議をしなければならないということになります。

ベンチャー企業の実務上は、正直なところ、あまり手続的な実益が乏しいにもかかわらず、報酬決議を取得することは更なる手間を要することになり、あまり好ましい事態ではないように思われます。具体的には、非上場企業では、第三者割当により新株予約権を発行するに際しては、株主総会の決議を経ることになり(会社法第238条第2項、第240条第1項)、少なくとも会社法第239条第1項の枠取り決議が必要です。しかしながら、報酬決議も必要だとすると、付与時にも、株主総会の決議を経なければならなくなります。

枠取り決議では、付与対象者が不明であるので、再度の株主総会決議には、役員への付与を承認するという意義があるという考え方もあり得ますが、普通は、枠取り決議時に、およそどのような属性の者に付与するのかについて、予め株主に説明した上で、承認を得ていることが普通でしょうから、実務的には、二度手間が生じるように思われます。また、枠取り決議の要件は、出席株主の3分の2であり(会社法第309条第2項第6号)、報酬決議より要件が厳しいという点から、要件が緩い報酬決議をさらに必要としなくても良いとも考えられます。さらには、非上場企業が具体的な「報酬等の額」を算出することはかなり負担が多いように思われます。

少なくとも、非上場企業においては、公正な発行価額にて発行された有償ストック・オプションについては、発行手続において株主総会決議を経ている以上、いわゆる「お手盛り」の防止や、報酬等としての合理性を判断する機会を株主に与えるという趣旨も達成できるのであり、さらに株主総会の報酬決議を必要とする、取締役への実質的な地位や特権的な機会の付与があるとはいえず、「財産上の利益」がないと解して、報酬決議を不要と解釈することは十分に可能であると考えられます。

なお、以上は、弁護士森理俊の個人的見解に過ぎず、特定の裁判の結果を保証するものではなく、また、当事務所を代表して意見を述べるものでもありません。

 

2018年04月04日 10:57|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

投資契約(株式引受契約)や株式譲渡契約における表明保証条項について(その2)

前回は、①表明保証条項とは、②表明保証違反が判明した場合、③表明保証違反と株式引受人・譲受人(=投資家)側の悪意又は重過失、という内容をお伝えしました。前回の内容は、契約書の法的な効力という観点から、やや法技術的な側面が強かったかもしれません。

 

今回は、投資契約(株式引受契約)を締結するにあたって、企業側(発行会社側)が、表明保証条項に、どのようなスタンスで臨めば良いか、という観点をお伝えしたいと思います。

 

1 表明保証条項のチェック
投資契約(株式引受契約)においては、企業側(発行会社側)は、基本的に受け身であることが、ほとんどです。というのも、企業側(発行会社側)は、投資を受けるに際して、制約がない方がよいというのが常であるため、企業側からVCに投資契約書のファーストドラフトを提示する例は少ないです(一般的な総数引受契約のみの提示に留まることはあります。)。実務では、基本的にVC等の株式引受人(投資家)側が、予め用意している投資契約書の雛型を提示し、企業側(発行会社側)側が、提示された投資契約書をチェックする、という流れがほとんどです。

 

投資契約書をチェックする場合は、用語が意味不明であるときや、どのような事態を想定している規定なのかわからないときがあります。その場合は、弁護士に相談して頂くことをお薦めします。意味の分からない契約書に署名・押印しないという会社経営における心構えは、どのような契約書であっても当てはまりますが、投資契約においても、極めて重要な心構えです。というのも、株式に関する契約書は、後から変更することが難しいことがほとんどであり、一度、署名・押印した不利な条項は、簡単には変更できないためです。

 

さて、投資契約書をチェックするにあたっては、複数にわたる各項目を読み、自社において、相反する事実が現存していないかを、点検します。

 

例えば、「発行会社の運営に必要な知的財産権は、全て発行会社に帰属しているか、適切なライセンスを受けている」といった項目があったとします。この場合に、未だ、発行会社の代表取締役個人に帰属している商標権があったり、共同研究を行った大学に帰属している特許権があったりした場合は、その事情を株式引受人(投資家)に説明し、「発行会社の運営に必要な知的財産権は、~~~を除き、全て発行会社に帰属しているか、適切なライセンスを受けている」といった内容に変更してもらう必要があります。

 

企業(発行会社)は、このような変更の交渉を怠ってはなりません。むしろ、株式引受人(投資家)による、投資契約書の雛型の提示は、企業(発行会社)による自発的な問題点のあぶり出しを期待しているところがあり、株式引受人(投資家)にとっては想定の範囲内です。

したがって、企業(発行会社)は、遠慮なく、抵触している可能性のある事実を株式引受人(投資家)に伝えた方がよいと考えます。

 

2 表明保証条項に抵触する事実への対応(投資契約書への反映)
ここでは、表明保証条項に抵触する事実が存在した場合に、どのように投資契約書に反映するかを検討します。

 

例えば、企業(発行会社)の事業にとって、必要な特許権が、その企業の社長個人に帰属していたとします。

 

この場合は、株式引受人(投資家)は、早く会社にその特許権を譲渡してもらいたいと考えます。そこで、投資契約上は、(i)投資契約書締結前に特許権の譲渡を完了する、(ii)投資契約書締結後、投資実行前に特許権の譲渡が完了する、(iii)投資実行後、できる限り速やかに特許権の譲渡を完了する、という3つの譲渡時期が想定されることになります。

 

(i) 投資契約書締結前に特許権の譲渡を完了する場合は、投資契約書上、表明保証条項に、発行会社の運営に必要な特許権が全て発行会社に帰属していることを記載することになります。
(ii) 投資契約書締結後、投資実行前に特許権の譲渡が完了する場合は、投資契約書上、投資実行の条件として、特許権の譲渡を記載することになります。
(iii) 投資実行後、できる限り速やかに特許権の譲渡を完了する場合は、投資契約書上、企業(発行会社)の義務(誓約事項)として記載することになります。

 

また、事実として約束しきれない場合、例えば「第三者の知的財産権を侵害した事実はない」といった規定があれば、「発行会社及び経営支配株主の知る限り、第三者の知的財産権を侵害した事実はない」といった文言を付け加えることが考えられます。

 

3 まとめ
企業(発行会社)側が投資契約書を締結する場合、初めて、投資契約書に向き合うことも少なくありません。意味の分からない契約書に署名・押印しないという心構えを強く維持し、弁護士と相談したり、投資家に質問したりして、不明な点、不安な点を全て解消してから、締結することを強くお薦めします。

 

また、表明保証に抵触する事実がある場合や抵触しているかよくわからない場合、投資家に隠すという選択は、問題を先送りにする行為であり、得策ではありません。表明保証に抵触する事実や、抵触しているかよくわからない状態を、上手く投資契約書に反映させて、企業(発行会社)と株式引受人(投資家)の信頼関係の礎としていただければと思います。

文責:森 理俊

2018年02月02日 15:17|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

投資契約(株式引受契約)や株式譲渡契約における表明保証条項について(その1)

今回は、投資契約(株式引受契約)や株式譲渡契約における表明保証条項について、考えてみます。

過去に、「株式譲渡契約に関する注意点(1)」というタイトルで、当事務所の三村雅一弁護士が、株式譲渡契約について、記載しています。

今回、私は、投資契約(株式引受契約)や株式譲渡契約に必ずといってよいほど、規定される表明保証条項を掘り下げてみたいと思います。

 

1 表明保証条項とは

表明保証条項は、
契約時ないしクロージング時といった一定の時点における契約の前提となる事実(例えば、財務諸表のデータ、法令違反や行政指導の事実の有無、反社会的勢力等との接触の不存在等)、発行会社や経営支配株主(発行会社の代表者であることがほとんどです。)に関する重要な情報で、引受や譲受の判断や、株式の発行価額や譲渡代金等の設定に際して、発行会社等や譲渡人等側が事実の存否・内容を保証するというものです。

また、「すべて真実かつ正確であり、虚偽の事実を含んでおらず、記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な事実の記載を、欠いていないこと」を、表明して保証するといった文言が頭書に記載されていることが多いです。

 

2 表明保証違反が判明した場合

表明保証違反とは、表明保証が為された時点の後に、表明保証された事実の認識が実際と違っていたことが判明した場合を、意味します。

一般的には、契約書に、表明保証違反の制裁が規定されています。多くは、損害賠償と解除です。また、対価の支払い前に発覚すると、前提条件の不充足として、代金を支払わない(=契約は有効にならない)という形を、とる場合も多いです。

法律上の議論としては、民法に基づく錯誤による無効、詐欺による取消しといった意思表示の欠缺の問題として捉える場合や、瑕疵担保責任や債務不履行等に関する考え方を適用する場合があろうかと思います。

株式引受契約の場合は、会社法第211条第2項によって、錯誤無効や詐欺取消しの主張は、制限されているため、注意が必要です。

 

【会社法第211条第2項】
募集株式の引受人は、第209条の規定により株主となった日から一年を経過した後又はその株式について権利を行使した後は、錯誤を理由として募集株式の引受けの無効を主張し、又は詐欺若しくは強迫を理由として募集株式の引受けの取消しをすることができない。

 

ベンチャー投資実務における投資契約書では、表明保証違反の制裁として、株式引受人(=投資家)の株式買取請求権を、定めていることが多いです。この株式買取請求権が発動すると、発行会社や経営支配株主が、株式引受人(=投資家)が保有している株式を買い取る義務が生じます。株式買取請求権の設計では、発動の条件と株価の定め方がポイントになります。

なお、表明保証違反が瑕疵担保責任や債務不履行に該当するかという問題と、さらに、該当したとしても、表明保証違反の場合の損害とは何かという問題は、法律上、難しい問題が潜んでいますので、今回は割愛します。

 

3 表明保証違反と株式引受人・譲受人(=投資家)側の悪意又は重過失

株式引受人・譲受人の悪意又は重過失がある場合に、補償等を求めることができるかという問題です。

株式引受人・譲受人が、表明保証違反を知りながら、取引を完結して、クロージング後に、発行会社や譲渡人に、表明保証違反に基づく請求をすることは、サンドバッギングと呼ばれています。契約書で、サンドバッギングを認める条項を規定する例は、日本でも、見かけることはありますが、割合的に多くないと思います。また、日本の裁判例では、特に契約書に記載がない場合は、サンドバッギングを否定される方向(=株式引受人・譲受人が、表明保証違反を知っていれば、制裁措置を発動できない)で判断されるケースがほとんどのようです。

したがって、発行会社等についてデュー・ディリジェンスをすればするほど、色々事情を知ることになるわけですから、契約書上も工夫が必要になります。

特に、特定の事項について、リスクがありそうだが、そのリスクの程度や処理にかかるコストがはっきりとはわからない、又は契約当事者間で、意見が違うといった場合は、表明保証に記載し、且つ、その事項だけ抜き出して、特別補償という形で、引受人・譲受人の主観を問題としない補償条項を用意するか、サンドバッギング条項を設けるか、ということになります。

2017年11月17日 10:36|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

セミナー「ベンチャー企業における弁護士活用の実際と課題」のレポート

去る9月14日、大阪弁護士会が主催し、大阪イノベーションハブ(大阪市)が共催するイベントに登壇しました。

 

テーマは、「ベンチャー企業における弁護士活用の実際と課題」です。

 

私(森理俊)は、弁護士会側で企画・運営をして、当日は、司会を務めさせて頂きました。

 

登壇者は、
アレン・マイナーさん
(サンブリッジ グループCEO 株式会社サンブリッジ グローバルベンチャーズ代表取締役社長兼会長)
吉川正晃さん
(大阪市経済戦略局 専務理事)
牧野成将さん
株式会社Darma Tech Labs 代表取締役、共同創立者)
のお三方でした。

 

当日の詳しいレポートは、Global Venture Habitat のイベントレポートが大変詳しいので、ぜひ、ご参照下さい。

 

このセミナーには、多くの若手を中心とした弁護士が参加して下さり、登壇者間でも、かなり活発に議論が交わされ、非常に楽しく、有意義な会でした。

 

今回の司会をさせていただく中で、感じた課題の一つは、関西にいる起業家にとって、投資契約書や株主間契約書がまだまだ見慣れないものであり、VCから出てきた投資契約書や種類株式の要項の理解や弁護士のレビューに、相当コストと時間を費やしている可能性があるという現実です。シードやアーリーの段階では、できればVCも投資家も、かなり定型的な範囲で、双方にとって、効率の良い交渉の進め方があるはずで、例えば、タームシートや投資契約書の雛型化・標準化や、複数のVCが投資する場合におけるリードVCがVC側全体の交渉担当者となる投資カルチャーの醸成等、課題と解決に到る仮説が、様々に議論されました。

 

特に、投資契約書・株主間契約書における、表明保証条項や強制売却権(Drag
Along Right)、みなし清算条項等は、案件毎にアレンジは必要かもしれませんが、VC毎に異なることにあまり合理性はありません。

当事務所でも、上記の課題解決の他、弁護士費用の明瞭化等に取り組んで参りたいと思います。

また、このブログでも、投資契約書の個別の条項について、解説、研究結果や情報の共有などを進めて参りたいと思います。

2017年10月19日 16:43|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

お知らせ「第7回SUEセミナー -ベンチャー企業のファイナンス 実務と法務から-」の開催

大阪イノベーションハブにて、『第7回SUEセミナー -ベンチャー企業のファイナンス 実務と法務から-』を開催することになりました。

起業家やベンチャー企業経営者が、エクイティー・ファイナンスをするときに、どのような点に留意して資本政策や投資家へのプレゼンテーションを行なえばよいか、投資契約書や投資手法の選択において気をつけるべきことがないかを解説します。
また、ベンチャー・キャピタリストである出口彰浩さんをお迎えして、実務上の観点や動向もお伝えします。

イベントの後には、ネットワーキングディナーを開催する予定です。
概要及び申込みは、こちらからご覧いただけます。

【日 時】 2016年3月15日(火) 18:00~20:00 (開場17:30)
【会 場】大阪イノベーションハブ(グランフロント大阪 ナレッジキャピタルタワーC 7階) 案内図(PDF)
【参加費】 2,000円(税込)
【ウェブページ】 http://startup-engine.com/event/846
【ネットワーキングディナー】 夜8時から、開催予定(参加費2,000円)(先着40名様)

お申し込みは、こちらからお願いします。

ベンチャーファイナンスの行方

先週末、札幌で開催されていたIVSというイベントに出席させていただきました。

多くのSessionが開催され、大変、刺激的なイベントでした。

本当は、キューエンターテインメント社の水口哲也さんと慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の稲見昌彦さんのクリエーター・トークや、関西外国語大学准教授のGarr ReynoldsさんのプレゼンテーションZENの話は、非常に面白く、勉強になるというか、それ自体が1つの素晴らしいエンターテイメントとして、成り立つ程でした。ただ、残念ながら、私には、その魅力を十分にお伝えすることはできませんので、この方々の講演に出席する機会がありましたら、参加することをお勧めします。

ちなみに、関連する本としては、今の水口哲也さんの問題意識に大きな影響を与えている「NHKスペシャル 世界ゲーム革命」と、Garr Reynoldsさんが著作された「プレゼンテーションzen」を挙げさせていただきます。

特に、後者は、講演や裁判員裁判等で、Power Point を利用しようと考えている弁護士にも、強くお勧めします。

さて、今回は、IVSの中で、取り上げられた「ベンチャーファイナンスの行方」というテーマについて、考えてみます。

スピーカーとモデレーターは、下記の方々です。
Speakers:
・磯崎哲也事務所 代表 磯崎哲也氏
・インキュベイトファンド 代表パートナー 本間真彦氏
・株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー 仮屋薗聡一氏
・DCM パートナー 伊佐山元氏
・UBS証券会社 株式本部株式調査部 エグゼクティブディレクター 武田純人氏
Moderator:
・インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナー 小林雅氏

1つの大きな問題意識は、“日本には、大粒のベンチャーがない”という点です。この問題点は、”もしGoogleの創業者2名(と全く同じ能力の人間)が日本のVCの前で検索エンジンの開発をやりたいといっていたら、Googleは日本に生まれたであろうか”という表現でも、問題提起されていました。

この問題点について、スピーカーの方は、いくつかの興味ある回答を用意されていました。1つは、起業の世界には、まだまだ人・金をマネージするイメージができている人がほとんどいないということです。単にお金を流し込めばよいのではなく、人・情報・ノウハウといったものを有機的に連携していく能力のある人が、経営者側・投資家側を含めて、まだまだ少ないという問題意識ではないだろうかと思います。数多くのイケている人が起業の世界に携わるようになれば、自然といい起業家も増えるのではないかという意見もありました。

もう1つの回答には、日本では、資金提供者が早く回収を望む傾向にあるのではないかということです。シリコンバレーのVCが期待されていることは、「次のGoogleを見つけてくれ」ということであり、中途半端な成功は求めていないということです。すなわち、シリコンバレーのVCの投資家にとっては、最初から売上を気にするようなベンチャーはそれはそれであってもいいけれども、魅力的な投資先ではないということだと思います。

ここで重要な点は、VCの背後にいるLPの存在です。LPとは、Limited Partner の略で、VCの運営するファンドに投資している投資家のことです。このLPの性格によって、必然とVCの性質が決定され、引いては、投資スタンスやVCの投資先に求めることが違ってくるということです。この点では、米国の投資家の方が長期的な視点で考えているのではないかと指摘されていました。

この点は、これからVCから資金の提供を受けようとするベンチャー企業にとっても、重要な視点だと思います。

上場(IPO)との関係では、未熟なまま上場することにより、経営の自由度が下がる一方で、上場のメリットを十分に得られていないケースも少なくないのではないかという指摘もありました。この点は、先ほどの日本の投資家の早期回収傾向とも関連しますが、時価総額数十億程度で、上場してしまうと、瞬間的に株価が上がってもその後は下がる一方ということも少なくなく、経営者にとっても、既存株主にとっても、新規株主にとっても、不幸なのではないかという指摘です。私には、その数字の当否は、わかりませんが、500億くらいになってからでないと、上場しない方が良いという指摘もありました。

ところで、日本には、自動車産業を筆頭に、多くのニッチ産業においても、製造業を中心に、世界市場で、大活躍している会社は少なくありません。しかも、製造業だけではなく、ファッションの世界、ゲームの世界のような、カルチャーに多くを依存していそうな世界でも、国境を越えて大活躍している会社があります。しかし、ネットの世界では、上記のような「大粒のベンチャーがない」という嘆きをきくことが少なくありません。これは、いったいどうしたことなのでしょうか。時代のせいなのでしょうか。カルチャーのせいなのでしょうか。シリコンバレーのVCが有能なせいなのでしょうか。失われた10年のせいなのでしょうか。このあたりは、最近の私の関心事であり、いくつか仮説はあるものの、確たるものはありません。今後の課題としたいです。

お知らせ「Startup Engine 2011」の開催

大変、ご無沙汰しております。諸事情により、更新が滞っておりました。

今日は、5月20日に開催予定の「Startup Engine 2011」というイベントについてのお知らせです。

来る5月20日の午後1時から、大阪中之島の国際会議場にて、「Startup Engine 2011」というイベントを開催させていただきます。

関西では、ベンチャーや起業に関連したイベントが少なくなりつつあるという話を聞き、全くの手弁当で、友人知人に声をかけて、志に賛同してくださる方々と立ち上げたイベントです。

今こそ、関西が頑張るべき時であるという声は少なくありません。関西は、古代から江戸時代や近代にかけて、起業や金融という意味では、最先端の地でした。今も、高い技術や志を持つ方が大勢いらっしゃいます。また、商人の地、大阪だけではなく、伝統と新しい価値が融合する地、京都、先端技術の拠点を持つ古都奈良、新しい文化とバイオベンチャー等のシードも多い神戸等、素晴らしい土地が近接しているという地の利があります。一方で、ここ数年、「最近の関西・大阪は元気がない」という言葉を聞くことも少なくありませんでした。

そこで、微力ながらも、関西でも、起業家精神とそれを支えるネットワークを構築するため、そして、その土壌を耕し続けるため、志を同じくする人と一緒に、関西、そして日本が、新しい産業のエンジンとなることを祈念して、「Startup Engine 2011」というイベントを開催させていただく運びとなりました。

新進気鋭の素晴らしいスピーカーに、お話をいただけることになっております。
僭越ながら、私も最後にお話をさせていただく機会を設けさせていただいています。

【日 時】 2011年5月20日(金)13:00〜17:30
【会 場】 大阪国際会議場
【後援・協力】 [後援]大阪証券取引所 [協力]株式会社 幕末
【セッション】
Session 1 ライフネット生命の挑戦

ライフネット生命保険株式会社 代表取締役副社長 岩瀬 大輔 様

Session 2 マイノリティのすすめ

日本マイクロソフト株式会社 コミュニケーションズ・セクター

クラウド・ソリューション営業部 統括部長 今井 早苗 様

Session 3 等身大の経営者が語るBuyout

株式会社オークファン 代表取締役 武永 修一 様
ジンガジャパン株式会社 ジェネラル・マネージャー 山田 進太郎 様
株式会社美人時計 専務取締役 早 剛史 様
株式会社アトランティス 代表取締役社長 CEO 木村 新司 様

Session 4 目指せ!Good to Great~起業を支えるプロフェッショナルの立場から~

アントレプレナーファクトリー 代表取締役嶋内秀之
武田公認会計士事務所 公認会計士武田雄治
山本・森・松尾法律事務所 弁護士森理俊

【参加費】 一般席:3,000円(税込)  学生席:1,000円(税込)
※学生席には限りがございます。
【ウェブページ】http://startup-engine.com/
【懇親会】 夜6時から、開催予定(参加費5000円)

お申し込みは、こちらからお願いいたします。

なお、夜6時からの懇親会には、スピーカーの方の中からも参加していただける予定です。

起業について関心のある方、企業内部で新しいことに挑戦する方、ベンチャー企業への就職や転職を考えたことのある方、ベンチャー・キャピタル等の投資家の方、証券会社等の金融機関で上場やバイアウトを担当されている方、中小企業・ベンチャー企業のサポートをしているプロフェッショナルの方など、多くの方のご参加をお待ちしています。

『入門ベンチャーファイナンス』

ベンチャー企業にとって、ファイナンスは、極めて重要です。勿論、マーケティングを含めたお金を増やすための戦略も(の方が)重要であることは間違いないのですが、ファイナンスは、その土台を作るという意味でも本当に重要ですし、最初で間違えると、なかなか修正がきかないという特徴があります。

このようなベンチャーのファイナンスについて、学ぶための書として、以前、『起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと』という公認会計士の磯崎先生の本を紹介させていただきました。

ただ、この本は、ある程度、リテラシーや実務感覚がないと、難しいかもしれません。そこで、実際に、起業して、その後、上場した会社の経営者が書いた本「入門 ベンチャーファイナンス―会社設立・公開・売却の実践知識
」を紹介します。著者の水永政志さんは、スター・マイカ株式会社という会社の社長であり、この会社は、いまジャスダックに上場しています。また、MBA、コンサルティング会社、外資系金融機関という経歴をお持ちの方ですので、ファイナンスのプロでもあります。

第1章 ベンチャー企業とは何か
 1 私のベンチャー体験
 2 ベンチャー企業の本質
 3 ベンチャー企業のライフサイクル
 4 ベンチャー企業は危険なのか?
第2章 会社を作る
 1 会社とは何か
 2 会社の機関とその役割
第3章 ビジネスモデルと経営戦略
 1 アイデアをビジネスモデルに変える
 2 経営者が陥りやすい過ち
第4章 ベンチャー企業の組織
 1 求められるスピードと柔軟性
 2 目的に応じた機能的な組織のデザイン
 3 企業組織の変遷
 4 組織の戦略と評価
 5 現代の組織が抱える悩み
第5章 ベンチャービジネスの資金調達
 1 資金調達の方法
 2 デットファイナンス
 3 エクイティファイナンス
 4 資本コストの考え方
第6章 資本政策と上場、コーポレートガバナンス
 1 資本政策とは何か
 2 新規株式公開(IPO)と上場
 3 コーポレートガバナンス
第7章 ベンチャーキャピタルの役割と活用法
 1 ベンチャーキャピタルとは何か
 2 我が国のベンチャーキャピタル
 3 ベンチャーキャピタルの投資プロセス
第8章 企業価値の評価とM&A
 1 資産価値による評価
 2 会社の価値の決まり方
 3 M&A 会社の売り方・買い方
第9章 創業経営者とイクジットストラテジー
 1 創業経営者と企業
 2 イクジットストラテジーのパターン
 3 所有と経営の分離と資本主義の本質
 4 これからの日本のイクジット

非常にわかりやすく、理解の進みやすい構成となっていますので、ご興味のある方は、ご一読をお勧めします。

2011年02月21日 06:30|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

新株予約権無償割当て

今日は、新株予約権無償割当てというテーマについて考えます。

新株予約権無償割当てとは、会社法第277条に規定されている資金調達方法で、「株主(種類株式発行会社にあっては、ある種類の種類株主)に対して新たに払込みをさせない」新株予約権の割当てです。

要するに、現在の株主全員に各株主の保有株式数に応じて、無償で新株予約権をあげるスキームです。割当を受けた株主は、お金を払って新株式を引き受けるか、お金を払わないかを選択することができます。お金を払わないと、他の株主がお金を払って新株式を得ると、その分、持ち株比率が低下することになります。ご存知の方は、「株主割当増資」と近いのではないかと考えられると思いますが、その通りです。特に、旧商法では、全株主に新株引受権を付与するという発想が原則でしたので、これに近いといえるでしょう。

実は、今の会社法では、株主割当てと新株予約権無償割当ての両方の仕組みがあります。ただ、要件が少し違いますので、ケースに応じて、使い分けることになります。特に、新株予約権無償割当てには、(1)取締役会設置会社では取締役会のみで発行できる、(2)新株予約権なので、新株予約権の行使条件にアレンジを加えることができる、という2つの大きな特徴があります。

(1)の特徴は、取締役会設置会社の株主割当増資については、取締役会のみで発行しようとすると定款の定め(会社202条3項2号)が必要であるのに対し(但し、整備法76条3項に注意)、新株予約権無償割当ては、原則として取締役会という点であり、時に役立つ可能性があります。

(2)の特徴は、ブルドックソース事件で如何なく利用されましたので、覚えておられる方もいるのではないでしょうか。同事件では、全株主に1株につき3個の新株予約権が無償で割り当てられましたが、その新株予約権とは、行使条件において、スティール・パートナーズ関係者は行使できないというものであり、代わりに対価を払う内容のものでした。その適法性は、最高裁まで争われ、最高裁判所平成19年8月7日決定にて、「株主平等の原則の趣旨に反するものということはできない」「当該新株予約権無償割当てを著しく不公正な方法によるものということはできない」という結論がだされるに到りました。

余談ですが、この件では、双方とも無傷ではなく、特に、ブルドックソース側は、平成20年3月期の決算で、営業利益6 億7000万円に対し、当期純損失19億1200万円(イカリソースののれん代(5 億9 千4 百万円)を含む。)を計上しています。新株予約権の取得に伴う支払額は21億1400万円、公開買付の対応に伴う支払額は6億6900万円とのことであり、20億以上もの大金が費消されたことになります。

ところで、先月19日に、金融庁から「「金融庁・開示制度ワーキング・グループ報告」~ 新株予約権無償割当てによる増資(いわゆる「ライツ・オファリング」)に係る制度整備について ~」と題する報道発表がありました。


新株予約権無償割当てによる増資(いわゆる「ライツ・オファリング」)とは、「公募増資」、「第三者割当増資」と並んで、企業の増資手法の一つであり、株主全員に新株予約権を無償で割り当てることによる増資手法である。株主は割り当てられた新株予約権を行使して金銭を払い込み、株式を取得することができるが、新株予約権を行使せずに市場で売却することも可能である。したがって、持分比率の低下を嫌う株主は新株予約権の行使によりそれを回避でき、追加出資を嫌う株主は新株予約権の売却により追加負担を回避できるという特徴を有する。(引用終わり)


この政策の趣旨は、上場企業において、新株予約権無償割当てによる資金調達を容易にすることです。

これをきっかけに、上場企業では、株主割当増資ではなく、新株予約権無償割当てによる増資が増えるかもしれませんので、上場企業の財務担当者やPO担当者は、要チェックだと思います。

ベンチャー企業が銀行融資を受ける場合の注意点

ベンチャー企業のファイナンスについては、これまでにも何度か取り上げました。

今回は、銀行融資を受ける場合の注意点について、検討します。銀行融資は、デット・ファイナンス(Debt Finance)と呼ばれます。貸借対照表上は、負債となるからです。

このデット・ファイナンスの企業にとっての最大の特徴は、「支払期日に返さなければならない」という点であり、銀行等の貸し手にとっての特徴は「倒産されては困る」という点です。この2つの特徴を理解することが重要です。

「支払期日に返さなければならない」という特徴を考えると、いつ売上が発生するかわからないような研究・開発先行型のビジネスには、不適当ということがわかります。ある程度、収益の見込みのあるビジネスでないと、支払期日に一定の金額を返済する目処が立たないからです。

さらに、銀行等の貸し手にとって「倒産されては困る」という特徴を考えると、リスクは割とあるが、かなり利益がでるかもしれないというビジネスに関心がなく、確実にキャッシュ・インがありそうでリスクの低いビジネスを好むことがわかります。会社がハイリスク・ハイリターンな設備投資をしようと、ローリスクローリターンな設備投資をしようと、貸し手の収入、すなわち利息は(原則として)変化しません。最近では、例外的に変化する内容のデット・ファイナンスもあるようですが、それでも利息制限法の範囲を超えることはありません。ということは、貸し手からすると、無駄にリスクの高い事業はしてほしくないと思うのは当然です。

自社のビジネスが(少なくとも外部の人間にとっては)ハイリスク・ハイリターンなモデルであるという理解があれば、そのようなベンチャー企業は、銀行から借入を受けるべきではありません。実際に、急成長を志向するベンチャー企業が銀行融資を受ける場合は、以下のような点に気をつけるべきでしょう。

1 資金的に余裕があり、その必要があまり無い時点で借り入れを実行する。

2 個人保証は極力避ける。キャッシュフロー、運転資金、増資目標の達成など、特定の業績のマイルストーンに応じて借入金額の上限と返済期限を設定する。

3 貸付約定や制限条項を慎重に検討する。専門家やアドバイザーに頼ることなく、社長が自らその結果がもたらす意味を理解し、判断する。

4 一定の条件が満たされたときに、即時実行される不利な条項はよく検討する。特に、期限の利益喪失条項は、慎重に検討する。

昨今では、中小企業やベンチャー企業への融資について、政策的に「新規開業資金(新企業育成貸付)」といった内容の融資制度が整備されています。しかし、「借りることができるから借りる」という態度は、非常に危険です。特に急成長を志向するベンチャー企業は、ビジネスモデルに由来するリスクが高いことがほとんどですから、そのような会社が資金調達を銀行融資に頼ると、将来的に、会社の破産の原因となったり、社長個人の破産の原因となったりすることを念頭に置いておくべきです。ベンチャー企業に限って言えば、銀行融資は、基本的には補完的な位置づけであると考えておいた方が無難でしょう。

2011年02月01日 06:30|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません