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ベンチャー法務の部屋

大企業によるベンチャー企業の買収


今月4日の新聞記事に、三菱重工、英ベンチャーを20億円で買収 大型風車の技術確保 というニュースがありました。

三菱重工業は3日、英国の油圧システム開発ベンチャーのアルテミス(エディンバラ市)を買収したと発表した。買収額は1500万ポンド(約20億円)。  三 菱重工は英国の洋上風車プロジェクトに参入するため、大型風車を開発中。アルテミスの大型風車に適した技術を取り入れ、開発を急ぐ。
(中略)
三菱重工は自前主義が強かったが、最近は経営スピードを速めるため、M&A(企業の合併・買収)にも意欲的な姿勢を見せている。
(引用終わり)(日本経済新聞2010/12/3 22:57配信)

さらに、5日には、韓国の大企業が日本の環境ベンチャーを買収したというニュースが配信されました。

国鉄鋼最大手のポスコは5日、日本の環境ベンチャーのゼネシス(東京・品川)を買収する契約を結んだと発表した。第三者割当増資を引き受け、ポスコと日本法人のポスコジャパンでゼネシス株の51%を保有する。海洋温度差発電や排熱発電の技術を持つ同社買収により、新エネルギー分野を将来の主力事業の一角とする足がかりを得る。
(引用終わり)(日本経済新聞 2010/12/5 19:55配信)

M&Aか、自社開発かという議論は、古くからある議論ではありますが、今でも、引き続き議論されて続けているテーマです。

新しい技術等を得るための方法としてのM&Aと自社開発のそれぞれの主な特徴は、以下の通りです。

M&A:時間がかからないことや既に成果や市場があることがメリットです。デメリットとしては、買収に伴うリスクがあります。特に、買収先のなかで入手したいものが特許権等の知的財産権で保護されていない場合は、買収先の主要な人物が辞めること等により買収した意味が実質的に果たされなくなってしまうことがあります。カルチャーの違いや給与体系の違いも問題化することがあります。

自社開発:すべてを自社でコントロールできるため、M&Aであれば必要な費用(デュー・ディリジェンスの費用等)や軋轢(カルチャー・給与体系の違い等)が発生しません。買収に伴うリスクもありません。知的財産権も自らが取得できます(特許の場合、規定の整備や相当な対価の支払が必要となります。)。一方、開発にお金をかけても成果が出ることが確実ではありません。また、いつ完成するか、成果がでるかわからず、時間がかかります。

大企業に買収されてもよいと考えるベンチャー企業は、できる限り早い段階から、(i) 特許権、商標権等、知的財産権にできるものは早めに知的財産権化する、(ii) 安定的な収入を確保する、(iii) いつ調査されてもよいように(デュー・ディリジェンスを受けてもよいように)、会計書類を整え、契約書や議事録(株主総会・取締役会)、株式の移動等は法的に問題がないようチェックし、整理しておくことが重要となります。

ベンチャー企業・中小企業の経営者の方におかれましては、今は誰かに買収されるということを考えていなかったとしても、上記(i)から(iii)までのポイントは、(一般論としても)重要な点ですので、頭の片隅においていただけると、良いかと思います。

表明保証違反を理由とする株式譲渡契約の解除につき解除原因がないとした裁判例

 
判例時報平成22年11月21日号No.2089に、表題の内容の裁判例(東京地裁平成22年3月8日判決)がありました。

会計評価と、表明保証違反の関係が問題となった事例です。

株価算定の前提となる将来業績予測や会計評価において、相手方(提出側。本件では被告、売主。)が自分に有利な数字を使ったとしても、それは株価の評価の妥当性の問題であり、株価算定書が虚偽であるとはいえない(→被告の表明保証の対象とはならない)と判示されています。

本エントリーでは、本判決が妥当であるか否かの判断はさておき、本判決から得られる企業関係者への教訓を考えてみます。(ここで判断を差し控えるのは、評価が合理的な範囲を超える程度に不相当でおよそ妥当とはいえないレベルであれば、虚偽といえるレベルに達することはあり得ると考えますが、本件の会計評価と実態とを比較することができないことが主な理由の1つです。)

本件から言える一般的な教訓としては、「買収等のM&A案件では、契約締結前に、専門家を使ったデュー・ディリジェンスを怠らないこと」が導けると考えます。本件は、10億円規模のディールのようですが、契約締結前に弁護士や会計士等の専門家を使ったデュー・ディリジェンスが行われていなかったようです。買収案件では、その規模の大小にかかわらず、デュー・ディリジェンスを行い、(i)買収すべきか否か、(ii)株価の妥当性を判断した上で、(iii)デュー・ディリジェンスの結果を踏まえた契約条項の練り上げが必須となります。記憶の曖昧な話で恐縮ですが、いつかの新聞記事に、投資案件や取引案件では、そのディールの3%程度を目安として、リーガル費用やデュー・ディリジェンス費用に使うこととしている大手商社の記事を読んだことがありますが、一つの考え方であろうと思います。

また、私の個人的な関心は、株式譲渡契約書の書き方次第で結論が変わり得たか、原告は他に争い方はなかったのか、といったところにもありますが、やはり本件では、デュー・ディリジェンスをしなかったことが致命的であったように思います。一般的に、契約書の文言や争い方でリカバリーできる範囲は、事前に予防できる範囲より小さいものです。本件は、予防法務の重要性を改めて伝えてくれる裁判例です。

イマドキの20代起業家の本音

今月25日月曜日に、「20代起業家の本音 「i世代」座談会 「ネットのチカラ」第3部 冒険者たち(1)」(2010/10/25 7:00 情報元 日本経済新聞 電子版)
という日経の特集がありました。

 

――創業時の資金はどう調達したのか。

石原氏 親せきを土下座して回った。ベンチャーキャピタルからの調達は考えなかった。経済産業省の外郭団体からも支援を受けられた。エンジェルとして資金を出してくれる人もいた。

――多くの大学で「起業サークル」がブームと聞く。

石原氏 僕には「起業ごっこ」にみえる。そういうサークルの学生も最終的には大手企業に就職している。起業しようという人はサークルなどに行かずとっくに起業しているのではないか。

――日本は「失われた20年」ともいわれ、経済に元気がない。

柿山氏 月に1回海外に行くが、中国やインド、シンガポールに行くと人々の目つきが全然、違う。世界を変えよう、負けたくないという雰囲気がある。日本の学生の友人にはそれがない。挑戦しようという環境がない。そこを変えないと成長できない。これからは個人がインターネットでエンパワーされる(力を身につける)時代だと思う。

石原氏 少子高齢化は避けられない。だが、企業にできること、日本発でできることがあるのではないか。海外で通用するサービスをつくり、外貨をとってくることが大事だ。負けてはいられない。われわれにはウェブという共通言語がある。どこの国にも共通の土俵だ。そこで戦うことで雇用も生まれ、新しい産業になる。日本はもちろん世界を変えるサービスをつくりたい。

柿山氏 日本の商品、人間性、文化は世界で認められている。なぜ積極的に外に出て行かないのかと思う。

石原氏 外に出る発想を教育されていない。米国では小さいころからビジネスやお金の使い方まで学ぶ。日本の学生はお金の使い方も分からない。かつての高度経済成長、バブルの流れを変えずにきてしまった。親の世代も今後の世界の流れを読めず、子供に教えられない。それを変えるのは教育の問題だ。

――起業家として何をめざすか。

石原氏 日本でのIPO(株式公開)は考えていない起業家が多いと思う。具体的に話題になるのは韓国など海外での上場だ。海外企業に買収されることも、タイミングがあえば選択肢になる。事業がある程度順調にいけば資金もたまるはずで、そうなればエンジェルとして起業家を支援する側に回りたい。(引用終わり)

 

等と非常に興味深いやりとりがあります。

最後の、なぜ日本での上場ではなく、海外での上場を考えるに到ったかという点も、大いに興味をそそられます。

一方で、「クリック証券、韓国上場を中止 環境悪化で株主反対」(日本経済新聞2010/10/20 1:11)というニュースもありました。

インターネット証券のクリック証券が韓国取引所(KRX)への上場計画を中止したことが分かった。6月に上場承認を得ていたが、「韓国市場で証券関連株が低迷を続けており、十分な資金調達ができない」と大株主が反対したという。高島秀行社長は「今後当面はどの市場にも上場せず、別の資金調達手段を考える」としている。(引用終わり)


海外上場には、資金調達額が大きくなる可能性があるというメリットがある半面、日本と現地の双方の証券会社、監査法人、法律事務所等が上場に関与し、また、現地の証券取引法に基づく開示を行わなければなりませんので、継続開示についても会計や証券取引法の分野でコストがかかるというデメリット等が考えられます。他にも、(是非はともかく)株主に外国人投資家の比率が大きくなる等が考えられます。よほど前者のメリットの方が大きくないと選ばないのではないかとも思うのですが、やはりそれだけ内外の市場の熱の差があるのでしょうか。

とはいえ、20代起業家が世界市場を意識してビジネスを展開するという志を持っておられるのは、本当に頼もしい限りです。大きな会社から中小企業・ベンチャー企業まで、様々なタイプの企業が、世界を相手に新しいビジネスを生み育てていく土壌がこれからも醸成されていけばよいな、と思います。

投資契約書の株式買取請求権(2)

今回は、前回「投資契約書の株式買取請求権(1)」に引き続き、投資契約書の株式買取請求権を検討します。

前回の最後で、次回は株式買取請求権について、(2)(i)どのような条件で発動されるのか、(ii)誰が買い取る義務を負うのか、(iii)いくらで買うのか(株価)という点を検討する旨をお伝えしました。

ただ、その前に、投資契約書の実効的なペナルティーは、株式買取請求権以外にないのか、という点を少し検討します。

直ぐに思いつくのは、違約金条項です。ただ、違約金条項となると、投資契約を締結していた株主のみに会社がお金を渡すということになり、他の株主からの反発が避けられない上、株主平等原則との関係や特定株主への利益供与といった問題が払拭できません。また、会社が投資家に会社のお金を支払えば解決するという内容自体、ペナルティーとして機能するのかという根本的な問題もあります。

他のペナルティーも全く考えられないわけではありませんが、実質的な解決にならなったり、現実的ではないことが多いと思います。

では、株式買取請求権の規定について検討したいと思います。

(i)  株式買取請求権の発動要件

通常、投資契約違反、表明保証違反は株式買取請求権の発動の対象になります。投資契約において、投資のための条件(停止条件)が設定されている場合は、その条件を満たしていないことが後から判明した場合も含まれることが多いでしょう。

議論となるのは、株式を公開できるのに公開しない場合を対象にするか、さらには、投資家がファンドの場合、ファンドの満期が到来した場合を対象にするか、です。

「株式を公開できるのに公開しない場合」という要件は規定されたところで現実に発動するには困難な側面があることは否定できません。ただ、株式を公開できるのに、取締役会に公開しないという結論を出されてしまうと、投資家側としては投資した趣旨が損なわれます。有態に言えば、公開を目指すと約束したから出資したのに、話が違うではないか、ということです。この点は、公開を目指す努力義務違反という形で条文上は解消されるケースもあるでしょう。

ファンドの満期が到来した場合に発動するかという点も、議論の対象となります。ただ、多くのベンチャーキャピタルのファンドは組合(投資事業有限責任組合)であり、満期が設定されているのが通常です。満期が到来すると、ファンドの運営者(「GP」(General Partnerの略)と言われることが多い。)は、組合員(ファンドへの出資者。「LP」(Limited Partnerの略)と言われることが多い。)にその時点の資産を現金化して渡さなければなりません。しかし、ファンドの清算時に未公開株式が残っていると、誰かに買い取ってもらうより他ありません。このような事情が背景にあり、ファンドの満期が到来した場合も株式買取請求権の発動事由となっていることが少なくありません。この点、ファンドの性質からやむを得ない部分もあります。ただ、契約違反や表明保証違反と並列にするのは、会社や代表者には酷という考え方もあります。現実には、会社や代表者に落ち度がない場合は、(仮に規定上同じであったとしても)契約違反等がある場合と並列に取り扱われることは余りなく、ファンド側も無理を主張をせず話し合って解決していることがほとんどであると理解しています(私の認識ですので、違う場合もあるかもしれません。その点はご了承願います。)。

この点を以って、「これでは、代表取締役が銀行からの借り入れに連帯保証しているのと同じではないか」という批判があります((ii)に述べるように代表者が買取義務を負っている場合)。ただ、私が知る限り、現実的には、そのような取扱いは非常に少ないのではないでしょうか。会社が銀行からの融資が返済できない場合に、連帯保証人である代表者が個人破産するケースは、全然珍しくありませんが(ほぼ当然のこととして受け止められているように思われます。)、ファンドから出資を受けて、ファンドの満期までに上場できなかったという理由だけで、代表者を個人破産させるということは、私が知らないだけかもしれませんが、ほとんどないと思います。契約文言に対する批判としては理解できますが、実務は、そのような批判を十分理解した上でケース・バイ・ケースで運用されているように思います。

(ii)  株式買取義務者

株式を発行した会社が契約に違反した結果、株式買取請求権を発動することになったことを考えると、まず会社が買取義務を負うことが考えられます。ただ、会社が自ら発行した株式を買い取ることは、自己株式の取得です。となると、会社法に基づく自己株式の取得手続と取得限度額の規制が適用されます。取得限度額の規制とは、取得財源は「当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額」を超えてはならないという意味ですので、利益が出ていない会社は減資等の手続をしない限りは取得財源を産み出すことが難しいことになります(さらに言えば、そもそも会社の買取義務自体の有効性について議論がないわけではないです。)。したがって、会社以外に買取義務者を定めておく必要が生じます。

そこで、通常は、会社の主要株主でもある代表者も買取義務を負う内容になっていることが多いです。会社の経営者としては、このような形で買取義務を負うことについては一見抵抗があるかもしれませんが、規定にはそれなりに投資家側の合理的理由がある部分もありますので、それらを理解しつつ、交渉していただければと考えます。

(iii)  株式買取請求における対価

株式買取請求権を現実的な権利とするためには、いくら支払うべきかが明確になっていなければなりません。この点を「協議で定める」等としておくと、実効力に欠けることになります。

実際には、いくつかの算出方法(投資時の株価、純資産法等)を列挙して、その中で最も高い金額とすることが多いのではないかと考えます。
 
 
検討は、以上となります。諸事情により、少し曖昧な表現にさせていただいた部分もありますが、ご容赦願えれば幸いです。

2010年10月21日 14:30|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

投資契約書の株式買取請求権(1)


今日は、ベンチャー企業がベンチャーキャピタル等の投資家から投資を受ける際に締結される投資契約書の最後の方に記載されている、株式買取請求権条項についてご説明させていただきます。

株式買取請求権とは、ある一定の条件が満たされた場合に、投資家が、「保有している株式を買い取れ」と請求できる権利を意味します。

ここで、検討すべきは、(1) なぜ投資契約書に株式買取請求権が規定されるのか、(2)(i)どのような条件で発動されるのか、(ii)誰が株式を買い取る義務を負うのか、(iii)いくらで買うのか(株価)、が問題となります。

投資契約書をご覧になった方はご存じのように、投資契約書は、投資に関する事項(発行する株式の種類や数、株価)だけではなく、表明保証条項や投資後に発行会社が順守するべき事項等が記載されています。会社や経営者は、当然、表明保証の際に嘘を述べてはなりませんし、順守すべき事項を守らなければなりません。ただ、現実には、表明保証の内容と異なる事実が判明するかもしれませんし、投資後、発行会社が順守すべき事項を守らないかもしれません。この場合、投資家は何が言えるのでしょうか。

もし、何も投資契約書に特別なペナルティー規定がない場合、考えられることは、何でしょうか。

修習生やロースクールの学生さんは、次のような問題が出題されたとして、一度ご自身で考えてみてください(どちらかといえば知識問題ですので、司法試験にはでないと思います。)。

未公開会社であるA社は、A社への投資を検討しているBさんに対し、『我が社は、反社会的勢力を交際をもったことは一度もない』と述べて、書面においてもその旨を表明し保証した。また、A社は、A社の経営に重要な施設であるP工場で事故が起きた場合、直ちにBさんに報告することを予め書面で確約した。Bさんは、これらのA社の表明保証及び確約を受けて、A社に投資することを決意し、A社の株式の割当を受け出資を履行した。

(1) 投資から1年経過後、Bさんは、A社が反社会的勢力を深くつながっている噂を聞いたため、調査したところ、A社の役員が反社会的勢力の構成員であることが判明した。また、A社の利益の一部が反社会的勢力に横流しされていることも判明した。しかも、いずれもBさんがA社の株式を引き受ける前からのことであった。Bさんが採り得る手段を述べよ。

(2) 投資後しばらくして、P工場が火災に遭い全焼した。しかし、Bさんがその報告を受けたのは、火災から1年を経過してからであった。Bさんが採り得る手段を述べよ。


(1)は表明保証違反の事実が発覚した事案です。表明保証違反が発覚した場合、通常では、民法上の錯誤無効か詐欺取消を主張することが考えられそうです。ただ、会社法第211条第2項によりこれらの主張は、「株主となった日から一年を経過した後又はその株式について権利を行使した後」には、できません。上記の設問では、この期間が経過していますので、無効や取消の主張はできません。(2)の報告義務違反は、債務不履行の問題です。債務不履行の問題は、基本的に解除か損害賠償が問題となります。しかし、解除は、新株発行を巻き戻す効力までは有しないと考えられます。また、損害賠償をするにしても、BさんはBさんが被った損害の内容及び金額を主張・立証しなければなりません。しかし、何が損害なのかは、非常に難しいです。報告をしなかったことにより、Bさんが被った損害とは、一体何でしょうか。報告の有無は、Bさんの株主としての地位には何ら変化を及ぼしませんし、報告の有無が株式の価値に変化を及ぼしたという主張も無理がありそうです。

すると、いずれの場合も実効的なペナルティーは、ないことになってしまいます。そこで、実務的にペナルティーとして、考案されたのが、株式買取請求権です。

これが投資契約書に株式買取請求権が規定される主な理由です。

次回は、株式買取請求権について、(2)(i)どのような条件で発動されるのか、(ii)誰が買い取る義務を負うのか、(iii)いくらで買うのか(株価)という点を検討します。

投資契約書は株式買取請求権以外にも重要なポイントがあります。ただ、その内容は幅広く、分量も多いため、とてもブログのみでは説明できせん。レビュー・解説等につきましては、別途ご相談いただければ幸いです

2010年10月20日 14:00|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||1件のコメント

エフオーアイ粉飾事件、東証などを損賠提訴


30日の日本経済新聞に、「エフオーアイ粉飾事件、東証などを損賠提訴 株主ら「上場チェック不十分」 」という記事がありました。

東京証券取引所マザーズ上場が廃止となった半導体製造装置メーカー「エフオーアイ」(相模原市、破産手続き中)の粉飾決算事件を巡り、株価下落で損失を被ったとして、同社の株主らが29日、証券会社や東証などを相手取って、総額約2億8千万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

訴状によると、原告は1人当たり最大で3千万円余りの損失を受けたとして「監査法人、証券会社、取引所の3重チェックは空虚。見抜けない粉飾ではなかっ た」と主張。弁護団は「東証が上場審査について訴訟で責任を問われるのは初めてではないか。審査の信頼を守るためにも、民事で実態を解明したい」としてい る。(引用終わり)


とあります。

この訴訟は、様々な論点が含まれることが予想されますが、証券会社の引受審査が、どの程度行われていれば、免責されるのかという点についての判断がなされる可能性が高く、今後の引受審査の実務に影響を与える可能性があります。

いわゆる継続開示書類と呼ばれる有価証券報告書については、そもそも「主幹事証券会社」という概念もなく、虚偽記載について証券会社が責任を負うということはありません。

しかし、発行市場では、目論見書等や有価証券届出書の虚偽記載について、幹事証券会社(目論見書等の使用者、元引受契約を締結した金融商品取引業者)が責任を負う可能性があります。

この場合、ざっくりと申し上げると、原告(株主)側で、 「重要な事項の虚偽記載等」 + 「損害」 を立証すれば、被告(証券会社)側では、 「虚偽記載等の不知」 + 「相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったこと」を立証しなければ(原則として)免責されません(他にも、取得者が虚偽記載等について知っていた場合に免責される場合があります。)。なお、有価証券届出書の虚偽記載等については、財務計算書類は「虚偽記載等の不知」のみが免責要件となっています。

「相当な注意」とは、どの程度のデュー・ディリジェンスが為されたかという点につきますので、その点の事実の積み上げが裁判の中で明らかになってくるのかもしれません。和解での解決の可能性がどの程度あるかは全く想像できませんが、判決での解決となる可能性も十分にあります。判決が出た場合は、この「相当な注意」とは・・・という点について判示される可能性も十分あり得ると考えます。IPO 関係者やベンチャー・キャピタリストにとって、要注目の裁判となります。

被告当事者は、証券会社の他、役員、監査法人や証券取引所等が挙がっているようですが、免責要件がそれぞれ異なりますし、「不知」の立証も異なるでしょうから、一部の被告のみ責任が認められる可能性もあります。そのあたりも要注目です。

なお、この「相当な注意」についての話は、10月26日(火)の講演でも触れさせていただく予定です。

【追記:10/1】

※ 10月26日(火)の講演は、事前のエントリーが必須となります。エントリーをされていない方は、事前に、当職から池銀キャピタル様に連絡する必要がありますので、必ず御連絡いただきますようお願い申し上げます。当日、エントリー無しにお越しになった場合、入室できない可能性もありますので、御留意下さい。

上場すべきか、上場せざるべきか。その判断は、いつも悩ましい・・・


Facebook のファウンダー、Mark Zuckerberg 氏が上場についての次のような意見を表明したとのことである。

Mark Zuckerberg、「Facebookを近々上場するつもりはない」

われわれはFacebookを近々上場するつもりはない。われわれの株式上場に関する考えは他の多くの企業とは異なっている。多くの企業にとって株式上場こそが目的であり、上場の成功を目指して経営を最適化しようとする。われわれにとっては上場ははゴールではない。ある時点で上場が適切な選択であるようになれば上場するだろう。われわれは外部からの投資を受け入れているし、自社株を社員に給与している。最終的にこれらの株式が現金化できるようにすることは私の責務だと思う。しかし上場が短期的に行われなければならないとは考えていない。Facebook が持てる可能性を最大限に発揮できるようにすることが最優先の責務だ。(引用終わり)

この意見は、正論であり、何ら反論できるところがない。上場は会社という組織にとってのゴールではない。多くの一般投資家から資金を集めることは、その資金で事業を拡大し、引いては、会社がより永続的に発展するためになされるべきことだからである。

一方で、上場することを、going publicとも表現するように、公の会社になるという側面がある。情報を公開し、一般の株主が増えることにより、同族の経営者ではなく、より多くの株主に認められた人材を経営者とすることに資する、公の目で監視され不適切な行為が是正され易いというメリットがある反面、経営者の独断で行うようなリスキーな意思決定がしにくくなる。上場すると、高いコンプライアンスを求められ、意思決定に対するチェック機能が厳密になるのである。

google社は、経営陣の経営の自由を確保しながら、public companyとなるために、経営陣に種類株式を発行したまま上場するという手段に出たが、このような手段をとれる会社は、ほとんどない。

Facebook 社が大きなリスクを伴う開発計画が有するために、上場を延期して、非公開会社であるうちにチャレンジするということ自体はもっともな判断である。上場すると、そのようなリスクの高い経営判断は、取締役の忠実義務や善管注意義務に反すると株主に追及されかねない。ただ、以前のエントリー「ベンチャー企業のファイナンス方法の選択」でも指摘したように、VCやエンジェルから資金調達している限り、そのようなリスキーなチャレンジを理由とする上場延期をいつまでも続けるわけにはいかないのもまた現実なのである。一般的な上場準備会社にとって、上場に適した時期は、そう何度も訪れてくれるものではない。チャンスがあるのであれば、トライすべきであり、一度チャンスを逃すと、次のチャンスは当分の間訪れないことも決して稀なことではない。

そのために、法律面を含めて、変なところで上場審査に引っかかって、延期にならないようにするためにも、早い段階からIPOを意識した準備が必要である。

To go public, or not to go public: that is the question.

大学発ベンチャーのとるべき行動

先週末にアップした「ベンチャー企業のファイナンス方法の選択」の続きである。

先日、紹介した内閣府の「日本の大学発ベンチャーが悲惨な失敗をしないためのポイント ハイテク・ベンチャー不毛の地での賢い立振舞について ~モジュール化時代の日本凋落の真因 その2~」 (PDFファイル)には、「大学発ベンチャーの取るべき正しい行動」として、以下のリストがあげられていましたので、検討したい。

・融資(debt)には手を出さない。個人保証もしない。原則として、エクイティ+若干の自己資金。補助金も裏負担・支払時期などの変動リスクに十分留意する。

・成功の見込みがなくなった時点で、早期に清算する。(累積赤字を抱え込み、破綻を待つのは愚の骨頂。)

・バーン・レート(手元資金量/毎日の出費=残存可能日数)を極力引き下げる。

・創業時にマーケットの専門家を参加させる。

・できれば、創業メンバーに外国人を入れる。(出身国市場を直接・間接に理解し、パートナーシップやビジネス交渉の際に力を発揮する。資金調達等でもネットワークを利用できる可能性が高い。シリコンバレーでは自然にこうしたチームができる。)これによって、最初からグローバルな発想ができる。

これを1つずつ検討する。

1.融資(debt)には手を出さない。個人保証もしない。原則として、エクイティ+若干の自己資金。補助金も裏負担・支払時期などの変動リスクに十分留意する。

大学発ベンチャーを始めとする研究開発先行型のベンチャーは、当初、投資ばかりで、収益が生まれない状況が続くことが多い。このようなビジネスモデルでは、新株発行による資金調達の方が適していることは、前回、述べたとおりである。

融資(debt)は絶対に現金ということではないであろうが、シードやアーリーの段階ではしないほうがよい。多分、借入をしようとしても、銀行が貸してくれないことが多いであろうが、創業1年未満の場合等、公的金融・公的保証を通じて借入ができてしまうことがある。安定的な収益が得られているのであれば、安定収益とのバランスで、借入をすることは悪いことではないが、その場合であっても、控え目にするべきであろう。基本的に、急成長を目指すハイリスク・ハイリターンのビジネスモデルであるベンチャー企業には、融資(debt)は、向いていないのは確かである。

前回も指摘したが、新株発行に際して締結される投資契約や株主間契約における、経営株主の買取条項は、借入の際の個人保証とはかなり異なる。経営株主の買取条項は、ある程度受け入れるのはやむを得ない。

原則として、エクイティ+若干の自己資金。とある点は、どのような意味であるかは完全には測りかねる。ただ、経営者が自己資金を入れていない場合、エクイティによる調達は難しいであろうし、経営株主の持ち分が低すぎると、IPOに際しては「安定株主がいないので、安定株主を作って下さい」等と主幹事の証券会社から指摘を受けることがある。VC(ベンチャー・キャピタル)やエンジェルの持分は、低めに抑えたいというのが社長の心情であることが多いであろうが、現実にバランスをとるのは、なかなか難しい。

2.成功の見込みがなくなった時点で、早期に清算する。(累積赤字を抱え込み、破綻を待つのは愚の骨頂。)

これはその通り。成功の可能性があるのであれば、追加投資でしのぐなり、他の方法で、生き延びるなり、検討していただいて、その成果を残す方向で検討してほしいが、成功の可能性が相当程度低くなった時点で、清算するべきであろう。借入や買掛金がない場合、「破産」ではなく、会社法上の「清算」となることが多いので、それほど手間や費用はかからない。清算するためには、株主への説明及び説得が必要なのは勿論である。会社法上、会社の解散は、株主総会の特別決議が必要である。

ただ、現実に、「成功の見込みがなくなった」と判断するのは、難しい。VCファンドも、ファンドの出資者(LP:有限責任組合員)に説明責任を負う以上、なぜ失敗と判断したのか、なぜ失敗したのかを説明しなければならないため、株主に誠意をもって説得する必要がある。

3.バーン・レート(手元資金量/毎日の出費=残存可能日数)を極力引き下げる。

わかりにくい表現であるが、おそらく、月々の支出額を引き下げて、残存可能日数を極力大きくしろという趣旨と思われる。

個人的には、やや疑問である。すなわち、やみくもに資金を出し惜しみするのは、出資の趣旨から外れることがあるからである。ビジネスモデルとの兼ね合いで、意味のない設備投資は、当然控えるべきであり、削るべき支出は極力減らすべきである。たとえば、椅子や机に高いお金を出したり、意味なく高い賃料のところに入ったり、必要最小限の人材以外の人を雇用したり、高いサーバーを導入したり、といった支出は避けるべきである。最近は、全員がスマートフォンを持って、無料のクラウドサービスを利用すれば、この手の設備投資は極力抑えられるようになってきている。

とはいえ、本来の目的遂行のためにお金を使わないことは、投資家側からすると何のために出資したのかということにもなりかねない。必要なコンサルタントは、どんどん雇って、プロジェクトをどんどんと前に進めることが必要である。そのスピードのためにVCからの資金があると言っても過言ではない。ここでは「コンサルタントを雇う」という表現としたが、最近の日本でも、様々な業務分野で、業務受託という形で参加するコンサルタントやプロフェッショナルが増えてきたので、このような各分野のコンサルタントやプロフェッショナルを、(雇用契約は出来る限り避けて)業務委託の形で、活用すべきである。本業以外の仕事や、本業の価値をさらに高める仕事を、アウトソースすべき場合は少なくない。仮に、自分で勉強すればできるといっても、プロの方が確実だし、時間のことを考えると、結局、費用対効果が良いことが多い。

4.創業時にマーケットの専門家を参加させる。

これは先の段落と通じる話であり、マーケティングなしで、開発することは、趣味の世界では許されても、投資家から出資を受けて行うビジネスの世界では許されない。ただ、マーケティングといっても、見込み顧客が求めているモノやサービスを作ることのみを意味するのではないことは、よく指摘されるところではある。これ以上は、私の専門外ではあるが、いずれにせよ、どれだけ技術系の会社であっても、マーケットの専門家は必要である。

本で読んだ知識であるが、シリコンバレーのIT系ベンチャーでは、Marketing Communications Specialistというスペシャリストが活用されることがあるようだ。シードやアーリーのステージでは、マスメディアやネット広告を大量に使うようなタイプの宣伝は、資金不足で難しいことが多い。そこで、少ない予算で大きな成果を上げられるようなPRを考えるスペシャリストが登場するというわけだ。日本で、真のMarketing Communications Specialistがどの程度いるのかはわからないが、是非、積極的な活用を検討されたい。

5.できれば、創業メンバーに外国人を入れる。

これも、理想としては、その通りである。スタートアップから海外を意識することの重要性は、いろいろなところで語られている。日本のベンチャー企業でも、海外の著名エンジェル投資家から資金調達できる時代である(mygengoの例等)。ただ、現実には、難しいことが多いかもしれない。また、当然のことながら、外国人であれば誰でもよいわけではない。それなりに、ビジネスの経験やベンチャーの経験のない外国人を仲間に入れても、あまり大きな意味はないであろう。できれば、シリコンバレーにいたことのある人間か、どこかでベンチャーを立ち上げたことのある人間が良い。

まとめると、内閣府のレポートについては、資金の使い方等に少し捕捉をさせていただく形になったものの、総じて同意する。議論の中で、「アメリカでは、世界中から優秀な起業家を集めるための「起業ビザ新設」の議論が進んでいる」なる記載があるが、日本でも、経済特区制度等を活用して、このような仕組みができないであろうか。優れたベンチャー企業を多く生み出すことは、経済を活性化し、眠っている人的資産・知的資産を活用することに繋がり、雇用を生み出す。折角、立ち上げたベンチャー企業であるので、実情に即して、内閣府のアドバイスを活用して頂けると、よい循環が生まれるのではないだろうか。

2010年09月14日 08:30|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

ベンチャー企業のファイナンス方法の選択


資金調達(ファイナンス)方法の選択は、会社の一生を左右する。

会社の投資資金や運転資金を、誰から、どのように調達するかは、経営者が決めるべき、重要な経営判断事項である。ファイナンスによって、会社は、生きもするし、死にもするといっても過言ではない。

会社が誰からも資金を調達することなく、利益を上げ、その利益で、次の投資をしたり、運転資金の拡大に対応できるのであれば、理想である。

しかし、そのような会社は、皆無といって、差し支えないであろう。少なくとも、設立時には、発起人から資金を得るし、その後も、誰からも資金を受け入れない会社は多くはない。逆に、ファイナンスをしないことが会社にとってチャンスを失う場合もあり、成長スピードが要求される業界ではファイナンスしないことが致命傷となるケースさえある。したがって、会社が誰かから資金を調達することは、普通の事業会社であれば、経験することである。

ファイナンスは、大きく分けると2種類ある。借入と増資である。この2つは、根本的に異なるので、その特質に応じて、上手く利用する必要がある。


1.借入

法的にいえば、金銭消費貸借契約ということになる。上場企業ともなれば、社債の発行という形をとることもあるが、調達サイドにとっての性格は大きくは変わらない。

主なプレーヤー(資金供給者)は、銀行である。

MBAのファイナンス講座的には、(1)期待収益率が低いとか、(2)タックスシールドがあるとか、ということになるだろうが、実務的に一番大きな特徴は、「返さなければならない」ということだ。さらに、附随した大きな特徴は、「社長の連帯保証を求められることがほとんど」ということである。よく、「利息だけ支払って、借り換えをしていけばよい」という話があるが、相手(銀行)が借り換えに応じてくれず、支払期日までに支払うことができなければ、その時点で、破産+社長の個人破産である。いわゆる貸し渋りが起きてしまえば、研究開発がどれだけ上手くいっていても、会社は終わりということである。

内閣府が作成した「日本の大学発ベンチャーが悲惨な失敗をしないためのポイント ハイテク・ベンチャー不毛の地での賢い立振舞について ~モジュール化時代の日本凋落の真因 その2~」 (PDFファイル)という優れた資料では、この点について、明快に指摘している。

・先が「読める」世界で有効。フォロワー型経済では的確に機能する。財務分析、他社比較ができる。
・リスクは禁忌。失敗を金利ではカバーできず、日本の場合は、担保や個人保証(生命保険を含む)でカバーし、実績重視のため口座開設さえ数年を要する。
・ベンチャーの失敗時には再起不能となる。財産没収、一家離散という経済的死のみならず、物理的死も。
・不確実な事象、例えば、開発の遅れ、交渉の遅れ、入金の遅れ、補助金の見込み違い、突然の解約、社内紛争、役員離脱、知財訴訟などが確率pで発生する創業ベンチャーは確定返済期限のある銀行融資に頼ってはいけない(確率pで、会社と人生が破綻する)。国際水準のハイテク・ベンチャーで、銀行融資で立ち上げたものは、日本を除き皆無。


政府作成の文書とは思えないような、やや過激な表現も散見されるが、決して大袈裟ではない。

「返さなければならない」という性質をもつ借入資金は、開発等の消えてなくなることには使えない。先の読むことが比較的容易なビジネスであれば、借入は優れたファイナンス手法ではある。例えば、これまで100店舗展開してきて、さらに1店舗出すという飲食チェーン店や量販店を想定してもらえば、よい。しかし、多くのベンチャー企業では、先を読むことができないケースが多い。その場合に、借入に手を出すことは、最終的に会社の首を絞めることがある。

時に、CB(新株予約権付社債)であれば、よいということをいう経営者もいるが、CBといえども、基本的には借入であるので、上記と同じリスクを抱えていることを認識しなければならない。(実務上、ベンチャー企業のCB発行の場面では、個人保証は免除されるケースはある。)CBの場合は、上手くいけば、最終的に返さなくてよくなるかもしれないという利点があるので、借入よりはベンチャー企業向きであるが、当面、すなわち株式に転換されるまでの期間において、会社が抱えるリスクとしては、借入と何も変わらない。


2.増資

増資とは直接的には会計上の資本金の増加であるが、実質的には株式の発行による資金調達を意味する。新株発行ともいう。

非上場のベンチャー企業における主なプレーヤー(資金供給者)は、ベンチャー・キャピタル(VC)とエンジェル(個人投資家)である。

会社法的には、「第三者割当」という方法を採ることがほとんどである。

増資による資金調達の最大のメリットは、「返さなくてよい」ということに尽きる。ベンチャー企業にとって、このメリットは計り知れないくらい大きい。したがって、原則として、ベンチャー企業は、増資(新株発行)により資金調達するのが基本である。

先程の内閣府の「日本の大学発ベンチャーが悲惨な失敗をしないためのポイント ハイテク・ベンチャー不毛の地での賢い立振舞について ~モジュール化時代の日本凋落の真因 その2~」 (PDFファイル)では、

・読めない世界に適応する。技術トレンドを熟知している、先端技術・新市場・チームの潜在価値を読めるなど「技術の目利き」が必須。自らの経験とネットワークを駆使した「ハンズオン」によるリスク低減・価値創造の能力も重要。
・リスクは積極的に取る(変化を先読みして、現在価値と自分が投資しサポートした場合の将来価値の差をキャピタルゲインとして獲得する)。ポートフォリオ投資を活用し、打率3割で一流(=数本の大きなキャピタルゲインによって7割の失敗を許容する)。
・起業家側のリスクは少なく、失敗しても再起可能。家族扶養権は、連邦破産法第522条や州法が保証してくれる。起業家が失うものは少ない。(日本には、国際水準のキャピタリストは少数である。証券・金融系列の日本のVC会社では、個人保証をとり、買取条項を入れるところも多く、本来のequity financeから大きく逸脱していることに留意が必要。)


とある。

日本では、家族扶養権について、破産法が保証してくれるなんてことはないが、基本は同じである。「個人保証」「買取条項」については、誤解していただきたくないのは、日本であっても、単にお金が返せないというだけでは、まずこれらの条項は発動しないということである。通常、買取条項の発動は、投資契約違反、表明保証違反等の場合に限定されている。VCファンドの満期到来が買取条項に入っているケースがあり、この点については議論があるが、投資家(VC)サイドとしては満期前に現金化しなければならないため、やむを得ない部分もある。社長個人も買取義務を負わさせられるのは、会社に買取義務を負わせたところで、会社法上の自己株式取得規制の壁(財源規制等)に阻まれ実効性がないためである。契約違反や表明保証違反等であれば、社長が買取義務を負うのは不当ではないという価値判断が背景にある。

ベンチャー企業は、増資(新株発行)により資金調達するのが基本といっても、調達を試みる会社は、なぜ「返さなくてよい」お金を出してくれるのかについては、理解しておかなければならない。株式の引き受け手は、なぜこのような高いリスクをとるのか。それは、リターンが大きいからに他ならない。期待収益率が高い資金と言い換えることも可能であろう。貸付によって得られる利益は最大限利息制限法の最高限度額(年15%)である。帰ってこないお金を提供するのに、このようなリターンしか得られないのでは割に合わない。株式を引き受けることにより、将来、その株を売って大きく利益を得られると考えるので、ベンチャー・キャピタルやエンジェルは、資金を提供するのである。したがって、増資(新株発行)によって資金調達をしたベンチャー企業は、最終的に上場かM&Aによって、株主が株式を売却できるようにしなければならない。上場すれば、株価が数倍になることも珍しくはない。

逆にいえば、最終的に上場かM&Aによって、株主が利益を得られるようなプランを事前に描けなければ、ベンチャー企業は、ベンチャー・キャピタルやエンジェルから資金を得ることができない。

以上がベンチャー企業のファイナンス方法の選択の基本である。

ファイナンス方法は詳細な論点はいろいろとあるが、ここに書いた基本は変わらないので、常に念頭におかれて検討していただくのが良いと思う。

2010年09月10日 08:00|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません