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ベンチャー法務の部屋

自動運転と法①

1 日本における交通事故の数
最近、立て続けに自動車による事故が発生し、連日ニュースで取り上げられました。
警察庁交通局発表の「平成30年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」によると、平成30年の交通事故については、発生件数43万0601件(前年比-4万1564件、-8.8%)、うち死亡事故3449件(同-181件、-5.0%)、死者数3532人(同-162人、-4.4%)、負傷者数52万5846人(同-5万5004人、-9.5%)となっています。
この点、交通事故発生件数については、平成16年の95万2720件をピークに半数以下に減っており、死者数については、昭和45年の1万6765人をピークに約5分の1まで減っています。交通事故は、保有自動車数の増加と共に増えてきたと言われていますが、交通インフラの整備や自動車自体の性能の向上等によって、その数自体は減少し、死者数も減少していることは事実です。
しかし、平成30年の統計からは、平均すると、未だ1日に約1180件の交通事故が発生し、約1440人の方が負傷され、約10人の方が命を落としていることが分かり、この数は決して少ないとは言えないというのが私の印象です。(なお、上記「交通事故」とは、道路交通法第2条第1項第1号に規定する道路において、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うもの(人身事故)をいい、物損事故は含まれていません。)
ふと、4~5年程前に損害保険会社の方から聞いた話を思い出しました。
その方は、自動運転の技術が進めば交通事故は激減する、保険会社としても、自動運転システムを搭載している自動車については事故を起こす可能性が低いことから保険料を値下げする予定である、といった話をされていました。
「自動運転」という言葉はよく耳にするものの、一体、自動運転の技術はどこまで進んでいるのか、また自動運転の実現にはどのような法的課題が考えられるのか、ということについて今回と次回の2回で紹介したいと思います。

2 自動運転とは
まず、「自動運転」は、人=運転手と、車=システムが担う運転動作の比率や技術到達度、走行可能エリアの限定度合いなどによって、アメリカの「自動車技術会」(SAE)が示した基準に基づいて、レベル0から5の6つの段階に分類されています。
そして、各レベルについて、国土交通省は以下のように説明しています
自動運転のレベル分けについて

まず、自動運転レベル0は、全くシステムが介入することなく、ドライバーがすべての運転タスクを実施します。

自動運転レベル1は、「運転支援」であり、システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施します。例えば、自動ブレーキ、前の車に付いて走る、車線からはみ出さないといった内容です。

自動運転レベル2は、「特定条件下での自動運転機能」であり、システムが前後・左右双方の車両制御を実施します。例えば、車線を維持しながら前の車に付いて走る、高速道路での自動運転モード機能(遅い車がいれば自動で追い越す)という内容です。

なお、レベル2までは運転手がシステムを常に監督する必要があり、自動運転の主体は「人」ということになります。

自動運転レベル3は、「条件付自動運転」であり、システムが全ての運転タスクを実施するが、システムの介入要求等に対して運転手が適切に対応することが必要となるという状態のことを指します。レベル2との大きな違いは、原則的にはシステム側の責任において全ての自動運転が行われるという点です。

自動運転レベル4は、「特定条件下における完全自動運転」であり、特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施します。レベル3との違いは、緊急時にも運転手が対応せず、全てシステム側が自動運転の主体として責任を持つことにあります。もっとも、レベル4は「特定条件下」における完全自動運転であることから、限定されたエリア外を走行する場合に備えるため、ハンドルやアクセルなどは必要になると考えられています。

そして、自動運転レベル5は、「完全自動運転」であり、常にシステムが全ての運転タスクを実施します。運転手を必要とせず、どこでも自動運転で走行が可能な状態のことを指します。そのため、ハンドルやアクセル、ブレーキなども必要とされません。

3 現在発売されている自動車
日本においては、2016年8月に国産車としては初めてレベル2の自動運転機能搭載ミニバン「セレナ」を日産自動車が発売しました。
さらに2017年7月には、アウディが世界で初めて、自動運転レベル3に対応する自動運転機能を「新型Audi A8」に搭載すると発表し、2018年1月に販売を開始しました。
また、つい先日の記事で、日産は2019年5月16日、運転支援システム「プロパイロット」のアップデート版「プロパイロット2.0」を発表し、今秋発売予定のスカイライン(マイナーチェンジモデル)に搭載する旨が紹介されていました。このプロパイロット2.0の大きな特徴は、一定条件において高速道路の同一車線内で手放し運転を実現したこと及び自動追い抜き機能にあるとのことです。この自動追い抜き機能とは、前方にドライバーが設定した速度より遅い車が走行しているとき、システムが追い抜き可能と判断すると、メーターパネル内のインフォメーション・ディスプレイに表示するとともに、音でドライバーに知らせ、続いてドライバーが、ステアリングにあるスイッチを押すと、自動で右側の車線へ変更する。そして、追い抜きが完了すると、車線変更可能なタイミングをシステムが判断し、元の車線に戻る、という内容とのことです。
国土交通省によれば、今後2020年を目途として高速道路等一定条件下での自動運転モード機能を有する「自動パイロット」(レベル3)、限定地域での無人自動運転移動サービス(レベル4)、2025年を目途として高速道路での完全自動運転(レベル5)を目標として掲げています。

4 自動運転と法
自動運転技術の進歩に伴い、法的な課題も多々発生します。
すでに警察庁は2018年12月20日、自動運転社会の到来を見据え、道路交通法の改正案を発表しました。同改正案は、緊急時以外はシステムが運転を担う自動運転レベル3について、人が即座に運転を交代できる状況であることを前提に、スマートフォンや携帯電話の利用のほか、読書をすることなども認める内容となっています。そして、今回の道路交通法の改正の施行目標は2020年前半とされています。
それだけでなく、特に、レベル3以降の自動運転システムにおいては、原則的にはシステム側の責任において全ての自動運転が行われるところ、レベル3以降の自動運転システム利用中の事故について、自賠法の「運行供用者責任」をどのように考えるか、自動運転システムのハッキングにより引き起こされた事故の損害(自動車の保有者が運行供用者責任を負わない場合)についてどのように考えるかなど、検討すべき法的課題は多々あると言われています。

この点については、次回詳しく取り上げたいと思います。

以上

(文責:三村雅一)

2019年05月21日 09:55|カテゴリー:企業法務|タグ: , , コメントはまだありません

特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(チケット不正転売禁止法)について(2)

前回のブログで、平成30年12月8日に、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(以下「チケット不正転売禁止法」といいます。)が成立し、平成30年12月14日に、平成30年法律第103号として公布されたことを紹介しました。

この新規立法の背景にあると考えられている2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックについて、今月18日にチケット販売の方法が発表されました。
東京2020組織委員会(以下「組織委員会」といいます。)のホームページによると、チケットは2019年5月9日から公式チケット販売サイトで抽選申込受付が開始され、組織委員会が指定した公式チケット販売事業者によるチケットの販売も予定されているとのことです。なお、同ホームページによると、開会式のチケット価格は、2020円~30万円、閉会式のチケット価格は、2020円~22万円とされています。
半世紀ぶりに国内で開かれるオリンピックであり、おそらく私を含め、このブログを読んで頂いている方々にとっては、生涯で最後の国内で開かれるオリンピックとなることから、そのチケットも人気が高騰することが必至であると思われます。したがって、組織委員会としては、高額転売を防ぐための対策を進めています。
同対策の一環として、組織委員会は18日に、メルカリ、ヤフオク、ラクマが、チケットの出品を禁止することを表明したと発表しました。組織委員会は、今後、海外の業者などにも出品禁止を働きかけていくとのことです。
組織委員会のホームページによると、オリンピックのチケットはチケット不正転売禁止法の適用を受けるものであることが明記されています。それでは、東京オリンピックのチケットについて、転売の可否はどのように判断されるのでしょうか。
まず、前回のおさらいになりますが、チケット不正転売禁止法においては、不正転売(第3条)及び不正転売を目的としたチケットの譲受け(第4条)が禁止されます。そして、同法において「不正転売」とは、「興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。」(同法第2条第4項)とされていることから、チケット不正転売禁止法上は、興行主である組織委員会の事前の同意を得ず、定価を上回る価格で転売を行うことは禁止されることになります。なお、チケット不正転売禁止法第3条、第4条に違反した場合、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」という罰則規定が設けられています(同法第9条第1項)。
この点、チケット不正転売禁止法の施行は2019年6月14日であり、東京オリンピックのチケットの発売が開始される5月9日には未だ施行されていませんが、東京2020チケット購入・利用規約によると、第35条において転売は原則禁止された上で、例外規定として第36条が設けられています。

第36条(転売禁止の例外)
1.当法人から直接購入したチケットの第三者への譲渡は、東京2020公式チケットリセールサービスを利用した購入価格での再販売のみが認められます。ただし、チケット購入者は、チケット購入者の親族または友人、同僚その他の知人に対する場合に限り、同サービスによらずチケットを譲渡することができます。この場合でも、譲渡代金その他の譲渡対価として、チケットの券面額を超えた金銭または利益を受領してはなりません。

したがって、(1)「東京2020公式チケットリセールサービス」を利用する場合、(2)同サービスを利用しない場合であっても、チケット購入者の親族または友人、同僚その他の知人に対して定価以下で譲渡する場合には、転売が認められています。このように、東京オリンピックのチケット規約の転売に関する規定は、チケット不正転売禁止法における内容とほぼ同一の内容となっています。

また、例外規定であるチケット規約第36条は、チケット不正転売禁止法第5条第2項で努力義務として定められている、「興行主等以外の者が興行主の同意を得て興行入場券を譲渡することができる機会の提供その他の必要な措置」にあたるものであると思われます。

特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律第5条
1 興行主等は,特定興行入場券の不正転売を防止するため,興行を行う場所に入場しようとする者が入場資格者と同一の者であることを確認するための措置その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
2 前項に定めるもののほか,興行主等は,興行入場券の適正な流通が確保されるよう,興行主等以外の者が興行主の同意を得て興行入場券を譲渡することができる機会の提供その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
3 国及び地方公共団体は,興行主等に対し,特定興行入場券の不正転売の防止その他の興行入場券の適正な流通の確保のために必要な措置に関し必要な助言及び協力を行うよう努めるものとすること。

転売防止を重視するあまり、誤ってチケットを購入したり、事情変更によってチケットが不要となった消費者の利益が軽視されるという問題が生じている中で、東京オリンピックの組織員会が設けた上記のチケットに関するシステムは、興行主、チケットを求める消費者、購入したチケットが不要となった消費者の三者の利益を守れるという点で、今後の興行におけるチケット販売の大きな参考になるのではないかと考えます。
以上

(文責:三村 雅一)

2019年04月24日 10:53|カテゴリー:企業法務|タグ: , , コメントはまだありません

労働条件通知書の電子メール等による提供

大企業でも、ベンチャー企業でも、個人でも、人を雇用する場合には、労働契約を締結し、その際に、労働条件通知書を交付しなければなりません(労働基準法第15条、同法施行規則第5条第1項、第3項)。

昨日(2019年3月31日)までは、労働契約締結時に労働条件を書面で通知しなければならないと定められていましたが、一定の場合にはFAXやSNS等による通知が可能となりました(平成31年4月1日から施行)。詳しい条文は、末尾をご確認下さい。

ポイントは、次の点です。

(1) 労働者が希望した方法によること

FAXや電子メール等にする場合は、当該方法によることを、労働者が希望している必要があります。この希望については、「書面」という要件はありませんので、口頭でもFAXでも電子メール等でもよいことになります。実務上は、使用者:「電子メール等での交付でいいね」、労働者「はい」というやり取りが予想されますが、希望の立証責任は、使用者側にあることを考えると、できれば、電子メール等やウェブへの入力で、「労働条件通知書の交付は、電子メール等によることを希望します。」という文言で、返信又はチェックボックスにチェックしてもらうようにすれば、より安全であると考えます。

なお、規則には、「当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。」とありますので、労働者の希望を聴取するに際しては、FAXなのか、電子メール等か、いずれの方法を希望するのかを、明確にしてもらう必要がありそうです。

(2) 労働条件通知書の内容は事実と同じものとすること

労働条件通知書の内容に虚偽があってはならないのは、当たり前のことですが、今回の規則改正で、規定されました(規則第5条第2項)。労働契約書と労働条件通知書の内容が、一致していない事例はないわけではありませんので、合致するようにしましょう。労働契約書に、規則第1項第1号から第4号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)が記載されているのであれば、労働契約書自体の交付とした方が、内容のずれを防ぐためにも、安全であると考えます。

(3) 電子メール等により送信する場合は、その受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信によること

対象となる労働者を、「受信をする者」として特定して情報を伝達するために用いられる電気通信を採用しなければなりません。「本年の新卒採用者の労働条件は、以下のウェブページを参照してください。」として、URLを指定する方法では、この要件は満たさないことになります。
基本的には、個人のアドレス宛の電子メールか、SNSであればいわゆるDM機能を採用することが求められると解されます。
ファックスの場合は、ファックス番号の指定が(類型的に)受信者特定になると判断されたためか、本号の内容は要件にはなっていません。

(4) 電子メール等により送信する場合は、当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものにすること
印刷可能なファイルやテキストデータで、送信する必要があります。プリントアウト禁止のPDFファイルは駄目ということだと思われます。
ファックスの場合は、印刷禁止機能がないためか、本号の内容は要件にはなっていません。

本日(2019年4月1日)以降は、労働者宛の電子メールに、「当社とあなたとの労働契約の内容は、以下のとおりです。」と記載して、以下の内容を含めた労働条件を通知すれば、書面での労働条件通知書の交付が不要となります。

  • 労働契約の期間に関する事項
  • 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
  • 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
  • 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  • 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

労働条件通知書は厚生労働省が出している雛形( サンプル )が有名ですが、必ずしもこの書式による必要はなくこの雛形に書かれている要素が記載されていれば他の様式でも問題ありません。
したがって、上記の要素がメール本文や添付ファイル(印刷可能なものに限る)に記載されていれば、労働条件の通知として認められるようになりましたので、是非、ご活用ください。

【関連条文】

労働基準法第15条(労働条件の明示)
第1項 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
第2項 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
第3項 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

旧・労働基準法施行規則第5条
第1項 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七 安全及び衛生に関する事項
八 職業訓練に関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十 表彰及び制裁に関する事項
十一 休職に関する事項
第2項 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、前項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
第3項 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。

新・労働基準法施行規則第5条第2項~第4項(第1項は旧規則と同じ)
第2項 使用者は、法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。
第3項 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、第一項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
第4項 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

なお、本件に関する厚生労働省の関連ウェブは、こちらです。

(文責:森 理俊)

2019年04月03日 15:02|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

株式会社の利益相反取引と関連当事者取引

今回は、ベンチャー企業からの法律相談で頻出する、株式会社の利益相反取引と関連当事者取引がテーマです。

株式会社の利益相反取引と関連当事者取引は、いずれも、会社と会社の役員等との取引に関する規制であり、時折、混乱が見られることから、今回、整理します。

1 利益相反取引と関連当事者取引の特徴と違い(概要)

利益相反取引は、会社法に基づく手続規制があります。全ての株式会社が対象となり、機関承認が必要となります。

一方、関連当事者取引は、会社計算規則や財務諸表等規則(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則)、開示府令(企業内容等の開示に関する内閣府令)に基づく開示規制があります。主に上場企業が開示する際のルールであり、監査法人や証券会社からの審査において、問題となり得るものであるという点に違いがあります。

関連当事者取引は、利益相反取引より大きな概念であり、利益相反取引であれば関連当事者取引である(利益相反取引⊆関連当事者取引)という関係にあります。

2 株式会社の利益相反取引

株式会社は、利益相反取引であれば、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)において、事前に、重要な事実を開示して、承認を得る必要があります(会社365I,356I)。また、取締役会設置会社の場合は、取締役会において、事後に、重要な事実を開示して、報告をする必要があります(会社365II)。

さらに、利益相反取引を行って、その結果、会社に損害が生じた場合は、その取引に関し任務懈怠のある取締役は、会社に対する損害賠償義務を負います(例外あり)。また、利益相反取引について承認等の手続違背がある場合、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、損害の額と推定されます(会社423II)。

実務上、会社の取締役や監査役、法務担当者は、利益相反取引に該当するか否かについて、直ぐに判断できる能力があれば理想的です。少なくとも、これから行おうとする取引について、「利益相反っぽい」と感じて、利益相反取引が必要か、調査する指示ができる体制を構築した方がよいです。取締役や法務担当者が気付かないで、利益相反取引を進めると、後から大きな問題に発展することがあり得ますが、誰も気付かないと、承認決議をする切欠を失いますので、誰かが気づける状態にしておく必要があります。

利益相反取引は、①直接取引、すなわち、取締役が当事者として、または他人の代理人・代表者として、会社と取引しようとする場合、又は②間接取引、すなわち、会社が取締役の債務を保証する等、取締役以外の者との間で会社、取締役間の利害が相反する取引をしようとする場合に、該当します。いずれも、取締役が、会社の利益の犠牲において自己又は第三者の利益を図ろうとすることを防止する趣旨で設けられています。

典型例は、取引相手や取引相手の代表者が、会社の取締役個人である場合です。

利益相反取引に該当するかどうか、判別できなければ、取引を強行せずに、顧問弁護士等の弁護士に相談していただいた方がよいでしょう。

3 株式会社の関連当事者取引

関連当事者取引は、親会社や法人主要株主等、子会社等、兄弟会社等、役員やその近親者等といった、会社に関連する者との取引です。「関連当事者」は、かなり広い概念ですので、詳しくは、後述の【関連当事者の定義に関する規定】をご確認下さい。

関連当事者取引であっても、利益相反取引に該当しない場合は、株主総会や取締役会での承認といった手続は不要です。また、非上場で、会計監査人を設置していない場合等は、意識する必要はありません。

しかし、上場会社等の財務諸表提出会社や、将来IPOを考えている会社は、常に留意する必要があります。

具体的には、関連当事者取引に該当する場合は、重要であると判断されれば、計算書類の注記表や目論見書、有価証券報告書等にて、開示しなければならないため、他の取引との比較の観点等から、一般投資家等への開示に耐えられるだけの公正な内容となっているかを意識して、契約内容を決定した方がよいということになります。

4 関連法規

以下は、利益相反取引と関係会社取引に関連する規定です。ご参考にしてください。なお、本稿執筆後の法改正等には対応していない可能性がありますので、ご留意下さい。

【利益相反取引に関する規定】

会社法
(競業及び利益相反取引の制限)
第356条第1項 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
第2項 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号の取引については、適用しない。

(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
第365条第1項 取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
第2項 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第423条第1項 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第2項 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
第3項 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
第4項 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。

【関連当事者の定義に関する規定】

会社計算規則
第112条第4項
前三項に規定する「関連当事者」とは、次に掲げる者をいう。
 一 当該株式会社の親会社
 二 当該株式会社の子会社
 三 当該株式会社の親会社の子会社(当該親会社が会社でない場合にあっては、当該親会社の子会社に相当するものを含む。)
 四 当該株式会社のその他の関係会社(当該株式会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社をいう。以下この号において同じ。)並びに当該その他の関係会社の親会社(当該その他の関係会社が株式会社でない場合にあっては、親会社に相当するもの)及び子会社(当該その他の関係会社が会社でない場合にあっては、子会社に相当するもの)
 五 当該株式会社の関連会社及び当該関連会社の子会社(当該関連会社が会社でない場合にあっては、子会社に相当するもの)
 六 当該株式会社の主要株主(自己又は他人の名義をもって当該株式会社の総株主の議決権の総数の百分の十以上の議決権(次に掲げる株式に係る議決権を除く。)を保有している株主をいう。)及びその近親者(二親等内の親族をいう。以下この条において同じ。)
  イ 信託業(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第一項に規定する信託業をいう。)を営む者が信託財産として所有する株式
  ロ 有価証券関連業(金融商品取引法第二十八条第八項に規定する有価証券関連業をいう。)を営む者が引受け又は売出しを行う業務により取得した株式
  ハ 金融商品取引法第百五十六条の二十四第一項に規定する業務を営む者がその業務として所有する株式
 七 当該株式会社の役員及びその近親者
 八 当該株式会社の親会社の役員又はこれらに準ずる者及びその近親者
 九 前三号に掲げる者が他の会社等の議決権の過半数を自己の計算において所有している場合における当該会社等及び当該会社等の子会社(当該会社等が会社でない場合にあっては、子会社に相当するもの)
 十 従業員のための企業年金(当該株式会社と重要な取引(掛金の拠出を除く。)を行う場合に限る。)

財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
第8条第17項
 この規則において「関連当事者」とは、次に掲げる者をいう。
 一 財務諸表提出会社の親会社
 二 財務諸表提出会社の子会社
 三 財務諸表提出会社と同一の親会社をもつ会社等
 四 財務諸表提出会社のその他の関係会社並びに当該その他の関係会社の親会社及び子会社
 五 財務諸表提出会社の関連会社及び当該関連会社の子会社
 六 財務諸表提出会社の主要株主(法第百六十三条第一項に規定する主要株主をいう。以下同じ。)及びその近親者(二親等内の親族をいう。次号及び第八号において同じ。)
 七 財務諸表提出会社の役員及びその近親者
 八 財務諸表提出会社の親会社の役員及びその近親者
 九 前三号に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等及び当該会社等の子会社
 十 従業員のための企業年金(財務諸表提出会社と重要な取引(掛金の拠出を除く。)を行う場合に限る。)

【関連当事者との取引に関する注記に関する規定】

会社計算規則
第112条第1項
 関連当事者との取引に関する注記は、株式会社と関連当事者との間に取引(当該株式会社と第三者との間の取引で当該株式会社と当該関連当事者との間の利益が相反するものを含む。)がある場合における次に掲げる事項であって、重要なものとする。ただし、会計監査人設置会社以外の株式会社にあっては、第四号から第六号まで及び第八号に掲げる事項を省略することができる。
 一 当該関連当事者が会社等であるときは、次に掲げる事項
  イ その名称
  ロ 当該関連当事者の総株主の議決権の総数に占める株式会社が有する議決権の数の割合
  ハ 当該株式会社の総株主の議決権の総数に占める当該関連当事者が有する議決権の数の割合
 二 当該関連当事者が個人であるときは、次に掲げる事項
  イ その氏名
  ロ 当該株式会社の総株主の議決権の総数に占める当該関連当事者が有する議決権の数の割合
 三 当該株式会社と当該関連当事者との関係
 四 取引の内容
 五 取引の種類別の取引金額
 六 取引条件及び取引条件の決定方針
 七 取引により発生した債権又は債務に係る主な項目別の当該事業年度の末日における残高
 八 取引条件の変更があったときは、その旨、変更の内容及び当該変更が計算書類に与えている影響の内容
第2項 関連当事者との間の取引のうち次に掲げる取引については、前項に規定する注記を要しない。
 一 一般競争入札による取引並びに預金利息及び配当金の受取りその他取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引
 二 取締役、会計参与、監査役又は執行役(以下この条において「役員」という。)に対する報酬等の給付
 三 前二号に掲げる取引のほか、当該取引に係る条件につき市場価格その他当該取引に係る公正な価格を勘案して一般の取引の条件と同様のものを決定していることが明白な場合における当該取引
第3項 関連当事者との取引に関する注記は、第一項各号に掲げる区分に従い、関連当事者ごとに表示しなければならない。

(注記表の区分)
第98条第1項
注記表は、次に掲げる項目に区分して表示しなければならない。
  (略)
 十五 関連当事者との取引に関する注記
  (略)

第2項 次の各号に掲げる注記表には、当該各号に定める項目を表示することを要しない。
 一 会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く。)の個別注記表 前項第一号、第五号、第七号、第八号及び第十号から第十八号までに掲げる項目
 二 会計監査人設置会社以外の公開会社の個別注記表 前項第一号、第五号、第十四号及び第十八号に掲げる項目
 三 会計監査人設置会社であって、法第四百四十四条第三項に規定するもの以外の株式会社の個別注記表 前項第十四号に掲げる項目
 四 連結注記表 前項第八号、第十号、第十一号、第十四号、第十五号及び第十八号に掲げる項目
 五 持分会社の個別注記表 前項第一号、第五号及び第七号から第十八号までに掲げる項目

財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
第8条の10第1項
 財務諸表提出会社が関連当事者との取引(当該関連当事者が第三者のために当該財務諸表提出会社との間で行う取引及び当該財務諸表提出会社と第三者との間の取引で当該関連当事者が当該取引に関して当該財務諸表提出会社に重要な影響を及ぼしているものを含む。)を行つている場合には、その重要なものについて、次の各号に掲げる事項を関連当事者ごとに注記しなければならない。ただし、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合は、この限りでない。
 一 当該関連当事者が会社等の場合には、その名称、所在地、資本金又は出資金、事業の内容及び当該関連当事者の議決権に対する当該財務諸表提出会社の所有割合又は当該財務諸表提出会社の議決権に対する当該関連当事者の所有割合
 二 当該関連当事者が個人の場合には、その氏名、職業及び当該財務諸表提出会社の議決権に対する当該関連当事者の所有割合
 三 当該財務諸表提出会社と当該関連当事者との関係
 四 取引の内容
 五 取引の種類別の取引金額
 六 取引条件及び取引条件の決定方針
 七 取引により発生した債権債務に係る主な科目別の期末残高
 八 取引条件の変更があつた場合には、その旨、変更の内容及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容
 九 関連当事者に対する債権が貸倒懸念債権(経営破綻の状態には至つていないが、債務の弁済に重大な問題が生じている、又は生じる可能性の高い債務者に対する債権をいう。)又は破産更生債権等(破産債権、再生債権、更生債権その他これらに準ずる債権をいう。以下同じ。)に区分されている場合には、次に掲げる事項
  イ 当事業年度末の貸倒引当金残高
  ロ 当事業年度に計上した貸倒引当金繰入額等
  ハ 当事業年度に計上した貸倒損失等(一般債権(経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権をいう。)に区分されていた場合において生じた貸倒損失を含む。)
 十 関連当事者との取引に関して、貸倒引当金以外の引当金が設定されている場合において、注記することが適当と認められるものについては、前号に準ずる事項

第2項 前項本文の規定にかかわらず、同項第九号及び第十号に掲げる事項は、第八条第十七項各号に掲げる関連当事者の種類ごとに合算して記載することができる。

第3項 関連当事者との取引のうち次の各号に定める取引については、第一項に規定する注記を要しない。
 一 一般競争入札による取引並びに預金利息及び配当の受取りその他取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引
 二 役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払い

第4項  第一項に掲げる事項は、様式第一号により注記しなければならない。

(文責:森 理俊)

特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律について(1)

1 平成30年12月8日、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(以下「チケット不正転売禁止法」といいます。)が成立し、平成30年12月14日に、平成30年法律第103号として公布されました。
 同法は、特定興行入場券の不正転売を禁止するとともに,その防止等に関する措置等を定めることにより,興行入場券の適正な流通を確保し,もって興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定に寄与するとともに,心豊かな国民生活の実現に資することを目的とし(チケット不正転売禁止法第1条参照)、来年(2020年)の6月14日から施行されることとなります。

2 チケット不正転売法が制定されるに至った背景には、法律のネーミングからも明らかなように、チケットの「不正転売」によって、チケットの「適正な流通」が妨げられていたという事情があります。人気アーティストのライブチケットがインターネットで買い占められて、定価の10倍の価格で売られている、そのためチケットを買いたい人が適正な価格でチケットを買うことができない、といった事態は多々発生していました。
こういったいわゆる「ダフ屋行為」については、各都道府県の迷惑防止条例で取締りが行われてきましたが、条例という性質上、都道府県によって規制が異なったり、インターネットを用いたダフ屋行為も規制の対象外となっていたという問題点がありました。このような問題点に加えて、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されることも今回の新規立法を後押ししたと考えられます(但し、チケット不正転売禁止法の施行は2020年6月14日であることから、東京オリンピック・パラリンピックの開会式が予定されている7月24日には間に合うものの、チケット販売開始時期とされている新春には間に合いません。もっとも、例えば野球やサッカーなどで日本が勝ち進んだ場合のチケットなど、開会式後に高騰することが予測されるチケットの転売には適用されるという意味では、一定の効果はあると考えられます。)。

3 今回のブログでは、チケット不正転売禁止法の概要について紹介します。
(1) まず、チケット不正転売禁止法で禁止されているのは、①特定興行入場券の不正転売(第3条)、②特定興行入場券の不正転売を目的とする特定興行入場券の譲受け(第4条)の2つの行為であり、これらに違反した場合には、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(第9条)という罰則が定められました。
(2) 第3条及び第4条にいう「特定興行入場券」については、第2条第3項に詳しく定義されていますが、概要は以下の通りです。
興行入場券(それを提示することにより興行を行う場所に入場することができる証票)であって、不特定又は多数の者に販売され、かつ、
1 興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該興行入場券の券面に表示し又は当該興行入場券に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に当該興行入場券に係る情報と併せて表示させたものであり、
2 興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者又は座席が指定され、
3 興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、入場資格者が指定された興行入場券については、入場資格者の氏名及び電話番号、電子メールアドレスを、座席が指定された興行入場券については、購入者の氏名及び連絡先を確認する措置を講じ、かつ、その旨を当該入場券の券面等に表示しているもの。
複雑なので簡単に整理すると、この法律の適用を受けるためには、
1 チケットの販売時に、チケット(紙)又は電子データの表示で、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、
2 日時及び場所を指定し、
3 入場資格者か座席を指定した上で、
(i) 入場資格者の場合は「氏名及び電話番号、電子メールアドレス」を、
(ii) 座席の場合は、「購入者の氏名及び連絡先を確認する措置を講じている旨」を、
記載する必要があるということになります。
(3) そして、第3条で禁止されている、「特定興行入場券の不正転売」とは、「興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。」(第2条第4項)とされています。
したがって、定価を下回る価格での転売(有償譲渡)については、この法律の適用を受けないことになりますが、一般的に、定価販売では転売による利益を得ることができないため、定価を下回る価格での転売がこの法律によって規制されなくとも、「不正転売の防止」という法の目的は達成できると考えられます。
(4) さらにチケット不正転売禁止法は、興行入場券の適正な流通の確保に関する措置として、興行主等による特定興行入場券の不正転売の防止等に関する措置(第5条)、相談体制の充実(第6条)、国民の関心及び理解の増進(第7条)、施策の実施に当たっての配慮(第8条)を定めています。
これらの措置の具体的内容については次回以降検討します。

4 以上が、チケット不正転売禁止法の概要です。
  
 次回以降、チケット不正転売禁止法に関する理解を深めるために、「ライブのチケットを購入していたが、都合が悪くなったので転売サイトで売却する行為はチケット不正転売禁止法で規制されるのか?」といった具体的なケースについて、チケット不正転売禁止法の各要件の検討を踏まえて考えたいと思います。

以上

(文責:三村雅一)

2019年02月04日 14:04|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

株式譲渡の手続を確実に進めるために

中小企業(非上場企業)やベンチャー企業(非上場企業)をクライアントとする弁護士が、しばしば直面する事態の1つに、「過去の株式譲渡が有効になされたのか、よくわからない」ということがあります。株式譲渡の有効性が明確に証拠化されていないと、IPO時やM&A時に株主が誰であるか確定しなくなる事態や、株主間で議決権の帰属に争いが生じる等の事態が発生してしまうことがあります。

今回は、非上場企業の大半を占める譲渡制限会社の「あるべき株式譲渡手続」について、解説します。

1 事前の情報確認

前提として、
(1)株券発行会社であるか、株券不発行会社であるか、
(2)譲渡承認機関が取締役会か、その他(株主総会、代表取締役等)であるか、
を確認する必要があります。

(1)の株券発行会社であるか、株券不発行会社であるかは、定款及び全部(現在)事項証明書で確認します。株券発行会社であれば、その旨が全部(現在)事項証明書に記載されますが、株券不発行会社であれば、記載はありません。
 平成17年の会社法施行前から存続する会社は、株券発行会社のままである可能性が比較的高いので、要注意です。株券不発行会社であることと、株券発行会社の株券不所持制度は、別物ですが、混同されていることがありますので、こちらも注意が必要です。株券不発行会社では、株券を発行するという事態が生じませんが、株券発行会社の株券不所持制度は、株式譲渡時には株券を発行する必要があるが、その他の時は会社に株券を預けて不所持状態とする制度です。

(2)の譲渡承認機関については、「当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。」といった規定が定款にあり、また、全部(現在)事項証明書にも記載されていますので、こちらで確認する必要があります。

2 当事者間(譲渡人・譲受人間)の手続

株券不発行会社の場合は、当事者間は、株式を譲渡する旨の意思表示のみで契約が成立し、株式譲渡が有効となります。但し、売買であるのか、贈与であるのか、売買である場合には、譲渡価額がいくらであるのか、等を書面化して明確にした方がよいです。株式譲渡契約書に記載すべき事項については、ブログ「株式譲渡契約に関する注意点(1)」を参考にして下さい。

なお、売買の場合は、譲渡対価が支払われていないと、解除権が発生し得ることになりますので、通帳に振り込む、領収書を取得する形で、支払い完了についても、証拠化した方がよいと考えます。

株券発行会社の場合は、当事者間における株式を譲渡する旨の意思表示により契約が成立しますが、株式譲渡は株券の交付が効力発生要件ですので、契約の後に、実際に株券を交付する必要があります。株券不所持制度が採用されている場合、株券を会社から譲渡人に交付してもらい、譲渡人が譲受人に株券を交付し、譲受人が受け取った株券を会社に引き渡すという、少し儀式的な手続を履行することになります。

3 株式譲渡と会社との関係

(1) 譲渡承認の請求
会社に対しては、株式譲渡の承認決定機関に対し、譲渡人から、又は譲渡人と譲受人の共同で、承認するように請求します。この際に、譲渡が承認されない場合に、譲渡先を指定してもらいたい場合は、併せてその旨も請求します。

より詳細には、会社に対して、(i)譲渡する株式の数、(ii)株式を譲り受ける者の氏名または名称(株式取得者からの請求の場合は、取得者の氏名または名称)を明らかにして(会社法138条1号、2号)、当該譲渡を承認するか否かの決定を請求をします(会社法136条、137条1項)。

株式の譲受人による承認の請求の場合は、原則として、株主(譲渡人)と共同で承認請求を行わなければなりません(会社法137条2項)。例外として、譲渡人やその一般承継人に対して承認請求を命ずる判決を証する書面を提供して請求した場合などは(会社法施行規則24条)、単独で行うことができます。

会社は、かかる譲渡承認の請求を受けた場合は、譲渡承認の決定機関において、承認します。

会社が承認しない場合の手続は、今回、割愛します。

(2)承認決定の通知
会社が、譲渡を承認した場合には、その決定内容を請求者に通知しなければなりません(会社法139条2項)。なお、譲渡承認請求の日から2週間(定款で短縮することも可能です)以内に通知をしなかったときは、会社は譲渡の承認の決定をしたものとみなされます(会社法145条1号)。
 したがって、会社が承認しない場合は、2週間以内にその旨を通知しなければなりませんので注意が必要です。この期限は、請求者と会社との合意で変更することができます(会社法145条ただし書)。

(3)株主名簿の名義書換
譲渡人(現在の名義人)と株式取得者が共同して名義書換請求を行い、会社が株主名簿を書き換えるというのが、通常の流れです。

譲渡人(現在の名義人)と株式取得者が共同して名義書換請求を行うことで、会社は、株主名簿の名義を変更する義務が生じます。また、株券発行会社の場合、譲受人は、単独で、株券を提示して名義書換請求することができます(会社法133条2項、同法施行規則22条2項1号)。

なお、会社は、適切な株式譲渡を確認すれば、自己の危険において、名義書換未了であっても、基準日以前から株式を取得していた者を株主と認め、同人の権利行使を認容することは差し支えないと解されています。

名義書換請求についても、書面化して残すことが明確化のためには重要です。

最後に、株主名簿に記載すべき事項は、下記のとおり、会社法に定められています。エクセルのファイルで、氏名と数のみが記載されている株主名簿を散見しますが、正式な株主名簿とはいえませんので、ご留意下さい。
(株主名簿)
第百二十一条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。
一 株主の氏名又は名称及び住所
二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
三 第一号の株主が株式を取得した日
四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号

(文責:森理俊)

2018年10月26日 23:28|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

古物営業の許可について(1)

第1 はじめに

 

平成29年12月21日、警察庁の有識者会議は、古物営業の在り方に関する報告書をまとめました。

 

同会議では、時代の流れに合わせた古物営業の形態の変化等に伴い、現在のニーズに即した古物営業の在り方について検討が行われました。

 

ところで、皆さんは、「時代の流れに合わせた古物営業の形態の変化」という言葉にピンとくるでしょうか。「古物営業って質屋さんのことじゃないの?質屋さんって減ってるのでは?」という方も多いのではないでしょうか。

 

ところが、「現在のニーズに即した古物営業の在り方」という言葉にもあるように、「古物営業」は現代社会においても我々の生活の一部になっています。たとえば、メルカリ、ヤフオクといったインターネットの発達、古本市場、ブックオフ、コメ兵といった店舗の全国展開によって、我々は容易に中古品を売却し、購入することができるようになりました。このように、時代の流れに合わせた古物営業の形態の変化等に伴い、古物営業法は避けては通れない法律となっています。

 

そこで、今回は、「古物営業法」とはどのような法律なのか、ということについて紹介し、次回以降、メルカリやヤフオク、リサイクルショップやフリーマーケットと古物営業法の関係、そして、「古物営業の在り方に関する有識者会議」ではどのようなことが議論され、古物営業法がどのような方向に向かおうとしているのかについても紹介したいと思います。

 

 

第2 古物営業法とは

 

1 趣旨

 

そもそも、古物営業法とはどういう目的で定められた法律なのでしょうか。

 

この点について、古物営業法は第1条でその目的について、「盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため、古物営業に係る業務について必要な規制等を行い、もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り、及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする。」と定めています。

 

すなわち、古物商が盗品等の処分先として利用されることが多いことから、盗品売買の防止等を図ろう、というのが古物営業法の目的です。古物営業法はこの目的を達成するために、古物営業を許可制として、種々の規制を加えています。

 

したがって、これから古物営業法に関わる問題を考えていくにあたっては、この古物営業法の目的を念頭においておく必要があります。

 

 

2 どういう時に許可がいるの?

 

それでは、古物営業法は、どのような場合に許可を要すると定めているのでしょうか。

 

(1)「古物営業」とは

 

古物営業法は、第2条第2項において、次の3つの営業を、「古物営業」と定めています。

 

①古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業(例:リサイクルショップ)

 

②古物市場(古物商間の古物の売買又は交換のための市場)を経営する営業(例:古物商のみが参加できる古物売買・交換の場)

 

③古物の売買をしようとする者のあっせんを競りの方法(政令で定める電子情報処理組織を使用する競りの方法その他の政令で定めるものに限る。)により行う営業(例:インターネットオークション(古物営業法施行令第3条)(古物営業研究会著 2訂版「わかりやすい古物営業の実務」14頁、3頁参照)。

 

なお、①については、次の2つの営業形態については規制対象から除外されています。

 

ア (古物の買取りを行わず)古物を売却することのみを行うもの

 

イ 自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの

 

これらが①から除外された理由は、盗品等の混入のおそれが低いためです。

 

アの例としては、無償、または引取り料を徴収して引き取った古物を修理、再生等して販売する形態のリサイクルショップが挙げられます。もっとも、古物の買取を行っている場合には、古物営業に該当することになります。また、いわゆるバザーやフリーマーケットについては、その取引されている古物の価額や、開催の頻度、古物の買受の代価の多寡やその収益の使用目的等を総合的に判断し、営利目的で反復継続して古物の取引を行っていると認められる場合には、古物営業に該当するとされています。(平成7年9月11日警察庁丁生企発104号「古物営業関係法令の解釈基準等について」4頁参照。)

 

イの例としては、AがBに売却した物品をAがBから第三者を介在させずに買い戻すといった行為だけを行うものが挙げられます。

 

(2)「古物」とは?

 

それでは、「古物営業」で取引の対象となる「古物」とは何をいうのでしょうか。

 

古物営業法は、第2条第1項において、

 

① 一度使用された物品

 

② 使用されない物品で使用のために取引されたもの

 

③ これらの物品に「幾分の手入れ」をしたもの

 

を、「古物」と定めています。

 

まず、古物営業法第2条第1項にいう「使用」とは、物品をその本来の用法に従って使用することをいい、衣類についての「使用」は着用、自動車についての「使用」は運行の用に供することをいいます。

 

次に、古物営業法第2条第1項にいう「使用のために取引されたもの」(上記②)とは、自己が使用し、又は他人に使用させる目的で購入されたものをいいます。したがって、小売店等から一度でも一般消費者の手に渡った物品は、それが未だ使用されていない物品であっても「古物」に該当します。例えば、消費者が贈答目的で購入した商品券や食器セットは、「使用のために取引されたもの」に該当するとされています。(平成7年9月11日警察庁丁生企発104号「古物営業関係法令の解釈基準等について」2頁参照。)

 

また、「幾分の手入れ」(上記③)とは、物品の本来の性質、用途に変化を及ぼさない形で修理等を行うことをいい、例えば、絵画については表面を修補すること、刀については研ぎ直すことをいうとされています。(同上)

 

なお、「物品」には、鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手等は含まれますが、船舶、航空機、工作機械等の大型機械類は含まれません。

 

(3)まとめ

 

したがって、(2)に挙げた「古物」を対象とした、(1)の「古物営業」を営もうとする場合には、都道府県公安委員会の許可を受けなければならない(古物営業法第3条1項、2項)ことになります。

 

 

上記の知識を前提として、次回は、メルカリやヤフオク、リサイクルショップやフリーマーケットと古物営業法の関係、そして、「古物営業の在り方に関する有識者会議」ではどのようなことが議論され、古物営業法がどのような方向に向かおうとしているのかについて紹介したいと思います。

 

(文責:三村雅一)

 

2018年05月21日 18:20|カテゴリー:その他, 企業法務||コメントはまだありません

「固定残業代」に関連する判例(最高裁平成29年7月7日小法廷判決)の紹介

今回は、「固定残業代」に関連する判例として、最高裁平成29年7月7日小法廷判決を紹介します。

 

1 概説

経営者の方々から、「割増賃金を、予め固定額で基本給や諸手当に含める方法で支払うことに問題はありませんか。」という相談が寄せられることがあります。今回紹介する判例は、時間外労働に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意をしていた医師が、時間外労働に対する割増賃金並びにこれに係る付加金の支払等を求めた事案です。

 

本判決は、
①通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できること、
②その上で、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額の額を下回らない場合には、
労働基準法37条に定める割増賃金の支払いがされたと認められる旨示しました。
(当然、①の通常の労働時間に対応する賃金部分が最低賃金を下回らないことも必要となります。)

 

経営者の方々としては、本件のように、「時間外労働に対する割増賃金を年俸に含める」という合意をしていたからといって安心できないという点に注意が必要です。

 

それでは、固定残業代の制度を導入する場合、具体的にどのような定めをおけばよいのでしょうか。以下、参考になる条項案を示します。

 

第●条(固定残業手当)
A:基本給には、第〇条に定める時間外勤務手当の●時間相当分(割増賃金計算の基礎となる時給単価×1.25×●)が含まれるものとする。
B:基本給のうち、●万円を、第〇条に定める時間外勤務手当として支給する。

 

この規定は、基本給に固定残業代を含める場合の規定です。
Aのように時間を表示するパターン、Bのように額を表示するパターンが考えられます。

 

 

第●条(固定残業手当)
・□□手当は、第〇条に定める時間外勤務手当の●時間相当分(割増賃金計算の基礎となる時給単価×1.25×●)が含まれるものとする。
・□□手当は、その全額を第〇条に定める時間外勤務手当として支給する。

 

この規定は、固定残業代を「業務手当」等の名目で基本給とは別途支給する場合の規定です。同じく、時間を表示するパターン、額を表示するパターンが考えられます。

 

 

第●条(固定残業手当)
1 従業員には時間外勤務手当の支払いに充てるものとして毎月定額の固定残業手当を支給することがある。
2 会社が固定残業手当を支給するときは、1ヶ月の時間外勤務手当の金額が固定残業手当の金額を超えた場合に限り、超過額を別に支給する。また、深夜割増賃金、休日割増賃金が発生したときは、固定残業手当と別にこれを支給する。

 

この規定は、従業員によって固定残業代が異なる場合に用いる規定です。
固定残業手当として支給する場合のルールを明確に規定しています。

 

判例によると、このような規定を設けた上で、給与明細を確認したときに、通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できることが必要とされています。したがって、タイムカード等による労働時間の管理が必要となることは当然の前提となります。

 

それでは、判例の紹介に移ります。

 

2 事案の概要
医師であるXは、医療法人Yに雇用されており、その年俸は1700万円とされていました。XY間の雇用契約においては、時間外勤務に対する給与はYの医師時間外勤務給与規程(以下「本件時間外規程」といいます。)の定めによるとされており、本件時間外規程は、時間外手当の対象となる業務は、原則として、病院収入に直接貢献する業務又は必要不可欠な緊急業務に限ること、通常業務の延長とみなされる時間外業務は、時間外手当の対象とならないこと等を定めていました。また、XY間の雇用契約においては、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については、年俸に含まれることが合意されていましたが、その年俸のうち、いくらが時間外労働等に対する割増賃金に当たるのかは明らかにされていませんでした。

 

本件は、Yから解雇処分を受けたXが、解雇の無効を争うとともに、時間外労働等に対する割増賃金並びにこれに係る付加金の支払等を求めた事案です。以下、本記事においては、割増賃金の部分についてのみ述べます。

 

3 争点
時間外割増賃金が年俸に含まれているか否か(年俸の支払いによって時間外労働等に対する割増賃金が支払われたと言えるか。)。

 

4 裁判所の判断
まず、割増賃金を予め基本給等に含めて支払うという方法自体について、労働基準法37条は、労働基準法37条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定(以下「労働基準法37条等」という。)に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまると解され、労働者に支払われる基本給や諸手当(以下「基本給等」という。)にあらかじめ含める方法により割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではない、と述べ、その方法自体を直ちに違法とは判断しませんでした。

 

もっとも、他方、割増賃金を予め基本給等に含める方法で支払う場合において、使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、その判断の前提として、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である、としました。

 

その上で、上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等により定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである、としました。

 

そして、本件においては、XとYの間に、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については、年俸1700万円に含まれるという合意があったものの、このうち時間外労働に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったことから、Xに支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない、したがって、年俸の支払いによってXの時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできない、としました。

 

5 本判決について
(1) 使用者が時間外・休日労働の規定(労働基準法33条1項2項・36条)によって労働時間を延長し、もしくは休日に労働させた場合、または午後10時から午前5時までの間の深夜に労働させた場合においては、その時間またはその日の労働については、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額に一定の割増率を乗じた割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条)(菅野和夫「労働法[第11版補正版]」492頁~493頁)。

 

(2) もっとも、割増賃金の規定が使用者に命じているのは、時間外・休日・深夜労働に対し同規定の基準を満たす一定額以上の割増賃金を支払うことであるので、そのような額の割増賃金が支払われる限りは、法所定の計算方法をそのまま用いなくてもよいとされています。(菅野和夫「労働法[第11版補正版]」498頁)

 

実務でも、法所定の計算方法をそのまま用いずに割増賃金について「固定残業代」として支払う方法が採用される場合があります。固定残業代としては、①時間外労働等に対して定額の手当を支給する定額手当制と、②基本給の中に割増賃金を組み込んで支給する定額給制の方法が考えられます。この点については、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない場合には、労働基準法37条違反とならない」とされていることから(昭和24年1月28日基収3947号)、割増賃金不払いの法違反も成立しないこととなります。

 

そして、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない」か否かを判断するためには、①であれば、基本給と割増賃金に相当する部分を、②であれば、定額給のうち割増賃金に相当する部分とそれ以外の部分を明確に区別しておかなければならないとされています。さらに、①②とも、割増賃金に相当する額が、労働基準法37条所定の計算方法に基づく割増賃金を満たしている必要があります。

 

(3) また、年俸制と割増賃金との関係については、「年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであって、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができ、かつ、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上支払われている場合は、労働基準法第37条に違反しない」とされています(平成12年3月8日基収第78号)。

 

(4) 本判決で示された内容は、本判決が引用する過去の最高裁判例(最二小判平成6年6月13日、最一小判平成24年3月8日、最三小判平成29年2月28日)において明らかにされてきた理解に沿うものです。また、本判決の特徴としては、労働者の労働の特徴や高額の報酬額を問題とせずに、専ら、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができるか、という観点から年俸の中に時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が含まれていたかを判断している点が挙げられるとされています。

 

このように、割増賃金について、労働基準法37条所定の計算によらずに固定残業代として支払うことが許されるか、という問題については最高裁として上記の一定の基準が示されていることが認められます。

 

今後、固定残業代の制度を導入する場合には、本判決及び本判決が引用する最高裁判例が示す基準、すなわち、①通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できること、②その上で、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額の額を下回らないかを検討して、労働基準法37条に定める割増賃金の支払いがされたといえるか否かを判断する、という基準にご留意頂く必要があります。

 

(文責:三村雅一)

2018年04月13日 11:44|カテゴリー:企業法務, 未分類||コメントはまだありません

定型約款に関する民法改正(2)

前回は、改正民法における定型約款に関する規定の概要についてご説明しました。今回からは、その各論について紹介します。

 

改正民法第548条の2は第1項で、定型取引合意をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす、として、約款の内容が契約内容とみなされるための要件について定めています。

 

ここで、

(1)どういった約款が改正民法の規定する約款に関するルールの適用対象となるのか、

(2)どのような場合に、契約当事者の一方が作成した約款を契約内容とみなすことができるのか、が問題となります。

 

(1)について

まず、改正民法は、新たに設けられる約款規定の対象となる約款=定型約款について、「①定型取引において、②契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義しています。

 

①について

改正民法は、「定型取引」について、

ア ある特定の者が不特定多数の者を相手として行う取引であり、かつ、

イ 内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの

と定めています。

 

アについては、相手の個性に着目しない取引であると説明されており、労働契約等、相手の個性に着目した取引はこのアの要件を満たさないとされています(部会資料86-2 1頁)。

 

イについては、一方当事者において契約内容を定めることの合理性が一般的に認められている取引でなければならないとされています。すなわち、多数の人々にとって有用なサービスが平等な基準で提供される場合、サービスの性質上、多数の人々にとって平等な基準で提供されることが要請される場合など、具体的には、銀行取引における預金規定などがこれに当たるとされます。

 

②について

一方当事者から示された契約条項の内容を他方当事者が十分に吟味することが通常とされる場合には、この要件を満たさないことになります。

 

したがって、事業者間取引において利用される契約書のひな型や約款については、相手方の個性に着目する場合には①アの要件を欠き、交渉力の格差によって契約内容が画一的なものになっている場合には①イの要件を欠き、そのひな型をたたき台として交渉が行われ、条項の修正が行われることが想定されている場合にはこの②の要件を欠くことから、事業者間取引において利用される契約書のひな型や約款については、基本的には定型約款の定義には該当しない、とされています。

 

(2)について

改正民法第548条の2第1項は、(1)①の定型取引を行うことを合意した者が、

①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき

②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき

に、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなすことができる旨定めています。

 

まず、定型取引の合意とは、あくまで定型取引を行うことの合意であり、約款の内容を了解して行う契約の意思までは求められていません。

 

①について

①の合意については、定型約款によることの合意があれば足り、約款の個別の条項の内容を了解することまでは求められていません。

 

②について

①と同じく、定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していれば足り、定款を示された相手方が、個別の約款条項の内容を了解することまでは求められていません。

 

このように、改正民法では定型約款が契約内容になるかどうか、という点について、契約の相手方に対して定型約款の内容の開示や認識可能性を要件としていません。もっとも、次回紹介する第548条の3の規定が存在することに照らしても、実務上は、相手方に対して約款の内容が示されることなく、上記①②の合意がなされることはないと考えられます。

 

なお、取引自体の公共性が高く、かつ、定型約款による契約の補充の必要性が高いもの、すなわち、鉄道・軌道・バス等による旅客の運送に係る取引、高速道路等の通行に係る取引、電気通信役務の提供に係る取引その他の一切の取引については、定型約款を準備した者が定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ「公表」していれば、「表示」までしていなくとも、当事者がその定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなす旨の特別規定を設けています(鉄道営業法第18条ノ2、軌道法第27条ノ2、航空法第134条の3、道路運送法第87条、海上運送法第32条の2、道路整備特別措置法第55条の2、電気通信事業法第167条の2)。

 

上記の通り、改正民法第548条の2第1項に定められた要件を満たした場合、定型約款の個別条項が契約内容となります。もっとも、同条第2項では、第1項の要件を満たした約款条項であっても契約の内容にはならない場合について規定しています。

 

すなわち、

(1)相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項

(2)その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして、第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの

については、合意をしなかったものとみなす旨定められています。

 

本条項の趣旨は、定型約款が一方的に準備されるものであることから、条項内容の合理性が担保されておらず、約款取引を巡るトラブル事例も多いという約款にまつわる問題に照らし、約款を示される相手方を保護することにあります。

 

なお、条項内容自体が不当条項に該当しない場合であっても、同条項における重要な事項について相手方にとって予測し難い内容が含まれているような場合には、その内容を容易に知り得る措置を講じなければ、信義則に反することとなる蓋然性が高いとされています。このように、本条項は、不意打ち条項規制と不当条項規制に関する規定を一本化した規定と言われています。

 

なお、消費者契約において、「定型約款」が使用され、同約款内に不当条項が含まれている場合、消費者は事業者に対し、改正民法第548条の2第2項に基づく主張と、消費者契約法第8条~10条に基づく主張を選択的に行使できることになります。

 

以上の通り、一般的に「約款」と呼ばれているものの全てが改正民法の定型約款に関する規定の対象となるわけではない点には注意が必要であり、個別のケースごとに「定型約款」の要件を満たすかどうかを検討しなければなりません。また、改正民法第548条の2第1項第2号の「表示」とは具体的にどの程度のことをすればよいのか、どのような条項が改正民法第548条の2第2項の定める条項に該当するかなど、判断が困難な部分もありますので、この改正を機に、いわゆる約款を用いた取引を行われている事業者の方々は、一度、弁護士にご相談されることをおすすめ致します。

以上

2018年02月19日 10:58|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

代表取締役の全員が日本に住所を有しない内国株式会社も登記可能になりました

 
法務省は、平成27年3月16日付けで、下記のとおり、取扱いを変更しています。

 「昭和59年9月26日民四第4974号民事局第四課長回答及び昭和60年3月11日民四第1480号民事局第四課長回答の取扱いを廃止し,本日以降,代表取締役の全員が日本に住所を有しない内国株式会社の設立の登記及びその代表取締役の重任若しくは就任の登記について,申請を受理する取扱いとします。」
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00086.html

 従前、代表取締役のうち、少なくとも1名の住所は日本になければ登記申請は受理されませんでした。また、取締役会設置会社以外の会社の場合、取締役の少なくとも1名の住所は日本になければ登記申請は受理されませんでした。

 上記取扱いの変更により、代表取締役の全員が外国に居住していても、登記可能になるものと思われます。なお、取締役会設置会社以外の会社の場合、取締役の全員が外国に居住している場合の登記の取扱いは、上記の取扱いの変更と同様に変更されるかは、明確ではありません(私が変更を発見できていないだけかもしれません)。ただ、同様に変更される可能性はあると思います。

 したがって、海外在住者が代表取締役という内国法人が、事実上、許されることになりました。なお、代表取締役の氏名・住所を登記しなければならない点(会社法第911条第3項第14号)は変わりませんので、登記の添付書面には、当該代表取締役の住所に関する宣誓供述書又は在留証明書が必要になると思われます(実際の登記実務については、ご依頼の弁護士若しくは司法書士、又は法務局にご確認下さい。)。

 また、外国会社が日本において取引を継続しようとするときは、日本における代表者を定めなければならず、この場合に、その日本における代表者の一人以上は、日本に住所を有するものでなければならない点(会社法第817条第1項)に変更はありませんので、注意が必要です。

2015年03月19日 11:23|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません
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