ここから本文です

ベンチャー法務の部屋

株式譲渡の手続を確実に進めるために

中小企業(非上場企業)やベンチャー企業(非上場企業)をクライアントとする弁護士が、しばしば直面する事態の1つに、「過去の株式譲渡が有効になされたのか、よくわからない」ということがあります。株式譲渡の有効性が明確に証拠化されていないと、IPO時やM&A時に株主が誰であるか確定しなくなる事態や、株主間で議決権の帰属に争いが生じる等の事態が発生してしまうことがあります。

今回は、非上場企業の大半を占める譲渡制限会社の「あるべき株式譲渡手続」について、解説します。

1 事前の情報確認

前提として、
(1)株券発行会社であるか、株券不発行会社であるか、
(2)譲渡承認機関が取締役会か、その他(株主総会、代表取締役等)であるか、
を確認する必要があります。

(1)の株券発行会社であるか、株券不発行会社であるかは、定款及び全部(現在)事項証明書で確認します。株券発行会社であれば、その旨が全部(現在)事項証明書に記載されますが、株券不発行会社であれば、記載はありません。
 平成17年の会社法施行前から存続する会社は、株券発行会社のままである可能性が比較的高いので、要注意です。株券不発行会社であることと、株券発行会社の株券不所持制度は、別物ですが、混同されていることがありますので、こちらも注意が必要です。株券不発行会社では、株券を発行するという事態が生じませんが、株券発行会社の株券不所持制度は、株式譲渡時には株券を発行する必要があるが、その他の時は会社に株券を預けて不所持状態とする制度です。

(2)の譲渡承認機関については、「当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。」といった規定が定款にあり、また、全部(現在)事項証明書にも記載されていますので、こちらで確認する必要があります。

2 当事者間(譲渡人・譲受人間)の手続

株券不発行会社の場合は、当事者間は、株式を譲渡する旨の意思表示のみで契約が成立し、株式譲渡が有効となります。但し、売買であるのか、贈与であるのか、売買である場合には、譲渡価額がいくらであるのか、等を書面化して明確にした方がよいです。株式譲渡契約書に記載すべき事項については、ブログ「株式譲渡契約に関する注意点(1)」を参考にして下さい。

なお、売買の場合は、譲渡対価が支払われていないと、解除権が発生し得ることになりますので、通帳に振り込む、領収書を取得する形で、支払い完了についても、証拠化した方がよいと考えます。

株券発行会社の場合は、当事者間における株式を譲渡する旨の意思表示により契約が成立しますが、株式譲渡は株券の交付が効力発生要件ですので、契約の後に、実際に株券を交付する必要があります。株券不所持制度が採用されている場合、株券を会社から譲渡人に交付してもらい、譲渡人が譲受人に株券を交付し、譲受人が受け取った株券を会社に引き渡すという、少し儀式的な手続を履行することになります。

3 株式譲渡と会社との関係

(1) 譲渡承認の請求
会社に対しては、株式譲渡の承認決定機関に対し、譲渡人から、又は譲渡人と譲受人の共同で、承認するように請求します。この際に、譲渡が承認されない場合に、譲渡先を指定してもらいたい場合は、併せてその旨も請求します。

より詳細には、会社に対して、(i)譲渡する株式の数、(ii)株式を譲り受ける者の氏名または名称(株式取得者からの請求の場合は、取得者の氏名または名称)を明らかにして(会社法138条1号、2号)、当該譲渡を承認するか否かの決定を請求をします(会社法136条、137条1項)。

株式の譲受人による承認の請求の場合は、原則として、株主(譲渡人)と共同で承認請求を行わなければなりません(会社法137条2項)。例外として、譲渡人やその一般承継人に対して承認請求を命ずる判決を証する書面を提供して請求した場合などは(会社法施行規則24条)、単独で行うことができます。

会社は、かかる譲渡承認の請求を受けた場合は、譲渡承認の決定機関において、承認します。

会社が承認しない場合の手続は、今回、割愛します。

(2)承認決定の通知
会社が、譲渡を承認した場合には、その決定内容を請求者に通知しなければなりません(会社法139条2項)。なお、譲渡承認請求の日から2週間(定款で短縮することも可能です)以内に通知をしなかったときは、会社は譲渡の承認の決定をしたものとみなされます(会社法145条1号)。
 したがって、会社が承認しない場合は、2週間以内にその旨を通知しなければなりませんので注意が必要です。この期限は、請求者と会社との合意で変更することができます(会社法145条ただし書)。

(3)株主名簿の名義書換
譲渡人(現在の名義人)と株式取得者が共同して名義書換請求を行い、会社が株主名簿を書き換えるというのが、通常の流れです。

譲渡人(現在の名義人)と株式取得者が共同して名義書換請求を行うことで、会社は、株主名簿の名義を変更する義務が生じます。また、株券発行会社の場合、譲受人は、単独で、株券を提示して名義書換請求することができます(会社法133条2項、同法施行規則22条2項1号)。

なお、会社は、適切な株式譲渡を確認すれば、自己の危険において、名義書換未了であっても、基準日以前から株式を取得していた者を株主と認め、同人の権利行使を認容することは差し支えないと解されています。

名義書換請求についても、書面化して残すことが明確化のためには重要です。

最後に、株主名簿に記載すべき事項は、下記のとおり、会社法に定められています。エクセルのファイルで、氏名と数のみが記載されている株主名簿を散見しますが、正式な株主名簿とはいえませんので、ご留意下さい。
(株主名簿)
第百二十一条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。
一 株主の氏名又は名称及び住所
二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
三 第一号の株主が株式を取得した日
四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号

(文責:森理俊)

2018年10月26日 23:28|カテゴリー:企業法務コメントはまだありません

古物営業の許可について(1)

第1 はじめに

 

平成29年12月21日、警察庁の有識者会議は、古物営業の在り方に関する報告書をまとめました。

 

同会議では、時代の流れに合わせた古物営業の形態の変化等に伴い、現在のニーズに即した古物営業の在り方について検討が行われました。

 

ところで、皆さんは、「時代の流れに合わせた古物営業の形態の変化」という言葉にピンとくるでしょうか。「古物営業って質屋さんのことじゃないの?質屋さんって減ってるのでは?」という方も多いのではないでしょうか。

 

ところが、「現在のニーズに即した古物営業の在り方」という言葉にもあるように、「古物営業」は現代社会においても我々の生活の一部になっています。たとえば、メルカリ、ヤフオクといったインターネットの発達、古本市場、ブックオフ、コメ兵といった店舗の全国展開によって、我々は容易に中古品を売却し、購入することができるようになりました。このように、時代の流れに合わせた古物営業の形態の変化等に伴い、古物営業法は避けては通れない法律となっています。

 

そこで、今回は、「古物営業法」とはどのような法律なのか、ということについて紹介し、次回以降、メルカリやヤフオク、リサイクルショップやフリーマーケットと古物営業法の関係、そして、「古物営業の在り方に関する有識者会議」ではどのようなことが議論され、古物営業法がどのような方向に向かおうとしているのかについても紹介したいと思います。

 

 

第2 古物営業法とは

 

1 趣旨

 

そもそも、古物営業法とはどういう目的で定められた法律なのでしょうか。

 

この点について、古物営業法は第1条でその目的について、「盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため、古物営業に係る業務について必要な規制等を行い、もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り、及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする。」と定めています。

 

すなわち、古物商が盗品等の処分先として利用されることが多いことから、盗品売買の防止等を図ろう、というのが古物営業法の目的です。古物営業法はこの目的を達成するために、古物営業を許可制として、種々の規制を加えています。

 

したがって、これから古物営業法に関わる問題を考えていくにあたっては、この古物営業法の目的を念頭においておく必要があります。

 

 

2 どういう時に許可がいるの?

 

それでは、古物営業法は、どのような場合に許可を要すると定めているのでしょうか。

 

(1)「古物営業」とは

 

古物営業法は、第2条第2項において、次の3つの営業を、「古物営業」と定めています。

 

①古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業(例:リサイクルショップ)

 

②古物市場(古物商間の古物の売買又は交換のための市場)を経営する営業(例:古物商のみが参加できる古物売買・交換の場)

 

③古物の売買をしようとする者のあっせんを競りの方法(政令で定める電子情報処理組織を使用する競りの方法その他の政令で定めるものに限る。)により行う営業(例:インターネットオークション(古物営業法施行令第3条)(古物営業研究会著 2訂版「わかりやすい古物営業の実務」14頁、3頁参照)。

 

なお、①については、次の2つの営業形態については規制対象から除外されています。

 

ア (古物の買取りを行わず)古物を売却することのみを行うもの

 

イ 自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの

 

これらが①から除外された理由は、盗品等の混入のおそれが低いためです。

 

アの例としては、無償、または引取り料を徴収して引き取った古物を修理、再生等して販売する形態のリサイクルショップが挙げられます。もっとも、古物の買取を行っている場合には、古物営業に該当することになります。また、いわゆるバザーやフリーマーケットについては、その取引されている古物の価額や、開催の頻度、古物の買受の代価の多寡やその収益の使用目的等を総合的に判断し、営利目的で反復継続して古物の取引を行っていると認められる場合には、古物営業に該当するとされています。(平成7年9月11日警察庁丁生企発104号「古物営業関係法令の解釈基準等について」4頁参照。)

 

イの例としては、AがBに売却した物品をAがBから第三者を介在させずに買い戻すといった行為だけを行うものが挙げられます。

 

(2)「古物」とは?

 

それでは、「古物営業」で取引の対象となる「古物」とは何をいうのでしょうか。

 

古物営業法は、第2条第1項において、

 

① 一度使用された物品

 

② 使用されない物品で使用のために取引されたもの

 

③ これらの物品に「幾分の手入れ」をしたもの

 

を、「古物」と定めています。

 

まず、古物営業法第2条第1項にいう「使用」とは、物品をその本来の用法に従って使用することをいい、衣類についての「使用」は着用、自動車についての「使用」は運行の用に供することをいいます。

 

次に、古物営業法第2条第1項にいう「使用のために取引されたもの」(上記②)とは、自己が使用し、又は他人に使用させる目的で購入されたものをいいます。したがって、小売店等から一度でも一般消費者の手に渡った物品は、それが未だ使用されていない物品であっても「古物」に該当します。例えば、消費者が贈答目的で購入した商品券や食器セットは、「使用のために取引されたもの」に該当するとされています。(平成7年9月11日警察庁丁生企発104号「古物営業関係法令の解釈基準等について」2頁参照。)

 

また、「幾分の手入れ」(上記③)とは、物品の本来の性質、用途に変化を及ぼさない形で修理等を行うことをいい、例えば、絵画については表面を修補すること、刀については研ぎ直すことをいうとされています。(同上)

 

なお、「物品」には、鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手等は含まれますが、船舶、航空機、工作機械等の大型機械類は含まれません。

 

(3)まとめ

 

したがって、(2)に挙げた「古物」を対象とした、(1)の「古物営業」を営もうとする場合には、都道府県公安委員会の許可を受けなければならない(古物営業法第3条1項、2項)ことになります。

 

 

上記の知識を前提として、次回は、メルカリやヤフオク、リサイクルショップやフリーマーケットと古物営業法の関係、そして、「古物営業の在り方に関する有識者会議」ではどのようなことが議論され、古物営業法がどのような方向に向かおうとしているのかについて紹介したいと思います。

 

(文責:三村雅一)

 

2018年05月21日 18:20|カテゴリー:その他, 企業法務コメントはまだありません

「固定残業代」に関連する判例(最高裁平成29年7月7日小法廷判決)の紹介

今回は、「固定残業代」に関連する判例として、最高裁平成29年7月7日小法廷判決を紹介します。

 

1 概説

経営者の方々から、「割増賃金を、予め固定額で基本給や諸手当に含める方法で支払うことに問題はありませんか。」という相談が寄せられることがあります。今回紹介する判例は、時間外労働に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意をしていた医師が、時間外労働に対する割増賃金並びにこれに係る付加金の支払等を求めた事案です。

 

本判決は、
①通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できること、
②その上で、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額の額を下回らない場合には、
労働基準法37条に定める割増賃金の支払いがされたと認められる旨示しました。
(当然、①の通常の労働時間に対応する賃金部分が最低賃金を下回らないことも必要となります。)

 

経営者の方々としては、本件のように、「時間外労働に対する割増賃金を年俸に含める」という合意をしていたからといって安心できないという点に注意が必要です。

 

それでは、固定残業代の制度を導入する場合、具体的にどのような定めをおけばよいのでしょうか。以下、参考になる条項案を示します。

 

第●条(固定残業手当)
A:基本給には、第〇条に定める時間外勤務手当の●時間相当分(割増賃金計算の基礎となる時給単価×1.25×●)が含まれるものとする。
B:基本給のうち、●万円を、第〇条に定める時間外勤務手当として支給する。

 

この規定は、基本給に固定残業代を含める場合の規定です。
Aのように時間を表示するパターン、Bのように額を表示するパターンが考えられます。

 

 

第●条(固定残業手当)
・□□手当は、第〇条に定める時間外勤務手当の●時間相当分(割増賃金計算の基礎となる時給単価×1.25×●)が含まれるものとする。
・□□手当は、その全額を第〇条に定める時間外勤務手当として支給する。

 

この規定は、固定残業代を「業務手当」等の名目で基本給とは別途支給する場合の規定です。同じく、時間を表示するパターン、額を表示するパターンが考えられます。

 

 

第●条(固定残業手当)
1 従業員には時間外勤務手当の支払いに充てるものとして毎月定額の固定残業手当を支給することがある。
2 会社が固定残業手当を支給するときは、1ヶ月の時間外勤務手当の金額が固定残業手当の金額を超えた場合に限り、超過額を別に支給する。また、深夜割増賃金、休日割増賃金が発生したときは、固定残業手当と別にこれを支給する。

 

この規定は、従業員によって固定残業代が異なる場合に用いる規定です。
固定残業手当として支給する場合のルールを明確に規定しています。

 

判例によると、このような規定を設けた上で、給与明細を確認したときに、通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できることが必要とされています。したがって、タイムカード等による労働時間の管理が必要となることは当然の前提となります。

 

それでは、判例の紹介に移ります。

 

2 事案の概要
医師であるXは、医療法人Yに雇用されており、その年俸は1700万円とされていました。XY間の雇用契約においては、時間外勤務に対する給与はYの医師時間外勤務給与規程(以下「本件時間外規程」といいます。)の定めによるとされており、本件時間外規程は、時間外手当の対象となる業務は、原則として、病院収入に直接貢献する業務又は必要不可欠な緊急業務に限ること、通常業務の延長とみなされる時間外業務は、時間外手当の対象とならないこと等を定めていました。また、XY間の雇用契約においては、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については、年俸に含まれることが合意されていましたが、その年俸のうち、いくらが時間外労働等に対する割増賃金に当たるのかは明らかにされていませんでした。

 

本件は、Yから解雇処分を受けたXが、解雇の無効を争うとともに、時間外労働等に対する割増賃金並びにこれに係る付加金の支払等を求めた事案です。以下、本記事においては、割増賃金の部分についてのみ述べます。

 

3 争点
時間外割増賃金が年俸に含まれているか否か(年俸の支払いによって時間外労働等に対する割増賃金が支払われたと言えるか。)。

 

4 裁判所の判断
まず、割増賃金を予め基本給等に含めて支払うという方法自体について、労働基準法37条は、労働基準法37条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定(以下「労働基準法37条等」という。)に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまると解され、労働者に支払われる基本給や諸手当(以下「基本給等」という。)にあらかじめ含める方法により割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではない、と述べ、その方法自体を直ちに違法とは判断しませんでした。

 

もっとも、他方、割増賃金を予め基本給等に含める方法で支払う場合において、使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、その判断の前提として、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である、としました。

 

その上で、上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等により定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである、としました。

 

そして、本件においては、XとYの間に、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については、年俸1700万円に含まれるという合意があったものの、このうち時間外労働に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったことから、Xに支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない、したがって、年俸の支払いによってXの時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできない、としました。

 

5 本判決について
(1) 使用者が時間外・休日労働の規定(労働基準法33条1項2項・36条)によって労働時間を延長し、もしくは休日に労働させた場合、または午後10時から午前5時までの間の深夜に労働させた場合においては、その時間またはその日の労働については、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額に一定の割増率を乗じた割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条)(菅野和夫「労働法[第11版補正版]」492頁~493頁)。

 

(2) もっとも、割増賃金の規定が使用者に命じているのは、時間外・休日・深夜労働に対し同規定の基準を満たす一定額以上の割増賃金を支払うことであるので、そのような額の割増賃金が支払われる限りは、法所定の計算方法をそのまま用いなくてもよいとされています。(菅野和夫「労働法[第11版補正版]」498頁)

 

実務でも、法所定の計算方法をそのまま用いずに割増賃金について「固定残業代」として支払う方法が採用される場合があります。固定残業代としては、①時間外労働等に対して定額の手当を支給する定額手当制と、②基本給の中に割増賃金を組み込んで支給する定額給制の方法が考えられます。この点については、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない場合には、労働基準法37条違反とならない」とされていることから(昭和24年1月28日基収3947号)、割増賃金不払いの法違反も成立しないこととなります。

 

そして、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない」か否かを判断するためには、①であれば、基本給と割増賃金に相当する部分を、②であれば、定額給のうち割増賃金に相当する部分とそれ以外の部分を明確に区別しておかなければならないとされています。さらに、①②とも、割増賃金に相当する額が、労働基準法37条所定の計算方法に基づく割増賃金を満たしている必要があります。

 

(3) また、年俸制と割増賃金との関係については、「年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであって、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができ、かつ、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上支払われている場合は、労働基準法第37条に違反しない」とされています(平成12年3月8日基収第78号)。

 

(4) 本判決で示された内容は、本判決が引用する過去の最高裁判例(最二小判平成6年6月13日、最一小判平成24年3月8日、最三小判平成29年2月28日)において明らかにされてきた理解に沿うものです。また、本判決の特徴としては、労働者の労働の特徴や高額の報酬額を問題とせずに、専ら、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができるか、という観点から年俸の中に時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が含まれていたかを判断している点が挙げられるとされています。

 

このように、割増賃金について、労働基準法37条所定の計算によらずに固定残業代として支払うことが許されるか、という問題については最高裁として上記の一定の基準が示されていることが認められます。

 

今後、固定残業代の制度を導入する場合には、本判決及び本判決が引用する最高裁判例が示す基準、すなわち、①通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できること、②その上で、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額の額を下回らないかを検討して、労働基準法37条に定める割増賃金の支払いがされたといえるか否かを判断する、という基準にご留意頂く必要があります。

 

(文責:三村雅一)

2018年04月13日 11:44|カテゴリー:企業法務, 未分類コメントはまだありません

定型約款に関する民法改正(2)

前回は、改正民法における定型約款に関する規定の概要についてご説明しました。今回からは、その各論について紹介します。

 

改正民法第548条の2は第1項で、定型取引合意をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす、として、約款の内容が契約内容とみなされるための要件について定めています。

 

ここで、

(1)どういった約款が改正民法の規定する約款に関するルールの適用対象となるのか、

(2)どのような場合に、契約当事者の一方が作成した約款を契約内容とみなすことができるのか、が問題となります。

 

(1)について

まず、改正民法は、新たに設けられる約款規定の対象となる約款=定型約款について、「①定型取引において、②契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義しています。

 

①について

改正民法は、「定型取引」について、

ア ある特定の者が不特定多数の者を相手として行う取引であり、かつ、

イ 内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの

と定めています。

 

アについては、相手の個性に着目しない取引であると説明されており、労働契約等、相手の個性に着目した取引はこのアの要件を満たさないとされています(部会資料86-2 1頁)。

 

イについては、一方当事者において契約内容を定めることの合理性が一般的に認められている取引でなければならないとされています。すなわち、多数の人々にとって有用なサービスが平等な基準で提供される場合、サービスの性質上、多数の人々にとって平等な基準で提供されることが要請される場合など、具体的には、銀行取引における預金規定などがこれに当たるとされます。

 

②について

一方当事者から示された契約条項の内容を他方当事者が十分に吟味することが通常とされる場合には、この要件を満たさないことになります。

 

したがって、事業者間取引において利用される契約書のひな型や約款については、相手方の個性に着目する場合には①アの要件を欠き、交渉力の格差によって契約内容が画一的なものになっている場合には①イの要件を欠き、そのひな型をたたき台として交渉が行われ、条項の修正が行われることが想定されている場合にはこの②の要件を欠くことから、事業者間取引において利用される契約書のひな型や約款については、基本的には定型約款の定義には該当しない、とされています。

 

(2)について

改正民法第548条の2第1項は、(1)①の定型取引を行うことを合意した者が、

①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき

②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき

に、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなすことができる旨定めています。

 

まず、定型取引の合意とは、あくまで定型取引を行うことの合意であり、約款の内容を了解して行う契約の意思までは求められていません。

 

①について

①の合意については、定型約款によることの合意があれば足り、約款の個別の条項の内容を了解することまでは求められていません。

 

②について

①と同じく、定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していれば足り、定款を示された相手方が、個別の約款条項の内容を了解することまでは求められていません。

 

このように、改正民法では定型約款が契約内容になるかどうか、という点について、契約の相手方に対して定型約款の内容の開示や認識可能性を要件としていません。もっとも、次回紹介する第548条の3の規定が存在することに照らしても、実務上は、相手方に対して約款の内容が示されることなく、上記①②の合意がなされることはないと考えられます。

 

なお、取引自体の公共性が高く、かつ、定型約款による契約の補充の必要性が高いもの、すなわち、鉄道・軌道・バス等による旅客の運送に係る取引、高速道路等の通行に係る取引、電気通信役務の提供に係る取引その他の一切の取引については、定型約款を準備した者が定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ「公表」していれば、「表示」までしていなくとも、当事者がその定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなす旨の特別規定を設けています(鉄道営業法第18条ノ2、軌道法第27条ノ2、航空法第134条の3、道路運送法第87条、海上運送法第32条の2、道路整備特別措置法第55条の2、電気通信事業法第167条の2)。

 

上記の通り、改正民法第548条の2第1項に定められた要件を満たした場合、定型約款の個別条項が契約内容となります。もっとも、同条第2項では、第1項の要件を満たした約款条項であっても契約の内容にはならない場合について規定しています。

 

すなわち、

(1)相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項

(2)その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして、第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの

については、合意をしなかったものとみなす旨定められています。

 

本条項の趣旨は、定型約款が一方的に準備されるものであることから、条項内容の合理性が担保されておらず、約款取引を巡るトラブル事例も多いという約款にまつわる問題に照らし、約款を示される相手方を保護することにあります。

 

なお、条項内容自体が不当条項に該当しない場合であっても、同条項における重要な事項について相手方にとって予測し難い内容が含まれているような場合には、その内容を容易に知り得る措置を講じなければ、信義則に反することとなる蓋然性が高いとされています。このように、本条項は、不意打ち条項規制と不当条項規制に関する規定を一本化した規定と言われています。

 

なお、消費者契約において、「定型約款」が使用され、同約款内に不当条項が含まれている場合、消費者は事業者に対し、改正民法第548条の2第2項に基づく主張と、消費者契約法第8条~10条に基づく主張を選択的に行使できることになります。

 

以上の通り、一般的に「約款」と呼ばれているものの全てが改正民法の定型約款に関する規定の対象となるわけではない点には注意が必要であり、個別のケースごとに「定型約款」の要件を満たすかどうかを検討しなければなりません。また、改正民法第548条の2第1項第2号の「表示」とは具体的にどの程度のことをすればよいのか、どのような条項が改正民法第548条の2第2項の定める条項に該当するかなど、判断が困難な部分もありますので、この改正を機に、いわゆる約款を用いた取引を行われている事業者の方々は、一度、弁護士にご相談されることをおすすめ致します。

以上

2018年02月19日 10:58|カテゴリー:企業法務コメントはまだありません

代表取締役の全員が日本に住所を有しない内国株式会社も登記可能になりました

 
法務省は、平成27年3月16日付けで、下記のとおり、取扱いを変更しています。

 「昭和59年9月26日民四第4974号民事局第四課長回答及び昭和60年3月11日民四第1480号民事局第四課長回答の取扱いを廃止し,本日以降,代表取締役の全員が日本に住所を有しない内国株式会社の設立の登記及びその代表取締役の重任若しくは就任の登記について,申請を受理する取扱いとします。」
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00086.html

 従前、代表取締役のうち、少なくとも1名の住所は日本になければ登記申請は受理されませんでした。また、取締役会設置会社以外の会社の場合、取締役の少なくとも1名の住所は日本になければ登記申請は受理されませんでした。

 上記取扱いの変更により、代表取締役の全員が外国に居住していても、登記可能になるものと思われます。なお、取締役会設置会社以外の会社の場合、取締役の全員が外国に居住している場合の登記の取扱いは、上記の取扱いの変更と同様に変更されるかは、明確ではありません(私が変更を発見できていないだけかもしれません)。ただ、同様に変更される可能性はあると思います。

 したがって、海外在住者が代表取締役という内国法人が、事実上、許されることになりました。なお、代表取締役の氏名・住所を登記しなければならない点(会社法第911条第3項第14号)は変わりませんので、登記の添付書面には、当該代表取締役の住所に関する宣誓供述書又は在留証明書が必要になると思われます(実際の登記実務については、ご依頼の弁護士若しくは司法書士、又は法務局にご確認下さい。)。

 また、外国会社が日本において取引を継続しようとするときは、日本における代表者を定めなければならず、この場合に、その日本における代表者の一人以上は、日本に住所を有するものでなければならない点(会社法第817条第1項)に変更はありませんので、注意が必要です。

2015年03月19日 11:23|カテゴリー:企業法務コメントはまだありません

会社法の監査役設置会社と平成26年会社法改正

非常に久しぶりの更新です。
今回は、平成26年会社法(平成26年6月27日公布(法律第90号))改正に関して、ややマイナーではあるものの、会社法務上、見逃せない点を取り上げます。

会社法の監査役設置会社とは、会社法第2条第9号により、監査役の監査の範囲が会計に関するものに限定されていない監査役を置く株式会社をいいます。

すなわち、監査役がいても、「監査役設置会社」ではない株式会社が存在します。
特に、資本金の額が1億円以下の小会社で非公開会社の監査役は、整備法(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)第53条の規定により、定款を変更しない限り、定款に監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定め(会社法第389条第1項)があるものとみなされます。

したがって、大多数の中小企業は、監査役がいたとしても、会社法の「監査役設置会社」ではない場合にあたることになります。

この点が、いわゆる株主代表訴訟を提起しようとする場合に問題になることがあります。
株主代表訴訟を提起しようとする株主は、まず、会社を代表する者(会社法第386条)に対し、提訴請求(責任追及等の訴えの提起の請求)する必要があり、この会社を代表する者を選択する場合に、問題となるのです。

会社法の監査役設置会社の場合、取締役に対する提訴の請求は、監査役宛に行うことになりますが、非監査役設置会社では、代表取締役(会社法第349条第4項)宛となります。非監査役設置会社では、代表取締役の責任を追及するために、その代表取締役宛に、提訴請求をするという、一見奇妙な請求をしなければなりません。

ところで、現在の会社法では、監査役を置く限り、(非監査役設置会社であっても)登記簿上「監査役設置会社」と記録され(会社法第911条第3項第17号)、登記事項証明書を見て「監査役設置会社」と記載されていても、会社法上の監査役設置会社ではないことがあり、混乱を招いていました。株主は、提訴請求前に正確な定款を確保しなければ、監査役設置会社であるか否かが判然としないのです。

今回の会社法改正で、会社法第911条第3項第17号イとして、「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社であるときは、その旨」が登記簿に記録されることになりました。

したがって、今回の会社法改正後、株主代表訴訟を提起したいと考える株主は、会社の現在事項証明書等をチェックして、「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定め」の有無をチェックすることで、監査役階設置会社であるかを知ることができるようになるはずです。

なお、広く影響があるという意味では、今回の会社法改正により、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある場合に、その株式会社は、その旨の登記申請をしなければなりません(会社法施行前から存在する会社で、会社法施行後、特にこの点について定款変更をしていない小会社は、原則として、登記義務が生じます。)。但し、改正法施行時に当該定めのある会社は、改正法施行後最初に監査役が就任し、又は退任するまでの間は、登記をすることを要しないとされています(改正法附則第22条第1項)。

2014年12月05日 16:12|カテゴリー:企業法務コメントはまだありません

金融商品取引法の緊急差止命令


最新の判例時報平成23年4月21日号(No.2104)130頁以下に、金融商品取引法192条1項に基づき、金融商品取引法違反行為の差止めが命じられた事例(東京地裁平成22年11月26日決定)が掲載されています。

この事例は、「抜かずの宝刀」が抜かれたとして、話題になりました。

金融商品取引法192条1項とは、次のようなものです。

金融商品取引法
(裁判所の禁止又は停止命令)
第百九十二条  裁判所は、緊急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣の申立てにより、この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる。
2  裁判所は、前項の規定により発した命令を取り消し、又は変更することができる。
3  前二項の事件は、被申立人の住所地の地方裁判所の管轄とする。
4  第一項及び第二項の裁判については、非訟事件手続法 (明治三十一年法律第十四号)の定めるところによる。

この条文を読むと、金融商品取引法違反や同法に基づく命令違反の行為は、全て対象となるように読めます。政府が緊急性があり、且つ必要性及び相当性があると判断すれば、いつでも申し立てることができ、さらには、審理も短期間で行われることが想定されていると考えられますので、運用には非常に慎重で謙抑的であったと考えられます。

本件は、同法の緊急差止命令が発令された初めての事例ということで、注目を集めました。
本件では、「一種免許なく、募集又は私募の取扱い」→「財務局からの照会」→「金商法違反に該当する行為をしていたことを認める旨の回答」→「警告書」→「当該行為を中止する旨の回答」→「金商法違反の勧誘行為の継続」という流れの結果、緊急差止命令の申立てにいたったようです。

緊急差止命令の相手方となるケースは、非常に稀と考えますので、その意味では、本件は、例外的な事件と言えるかもしれません。
しかし、本件は、どのような事例が「募集又は私募の取扱い」に該当するかの参考事例とも言えます。

本件では、相手方は、ある会社の株式等の取得の申込みの勧誘行為を行うことを引き受けて、一般投資家に対し勧誘・斡旋をし、実際に制約した場合には、発行会社から手数料として出資金の払込価額の3分の1の支払いを受ける旨合意した上で、一般投資家に同社の株式等の取得の斡旋・勧誘を行ったようです。その結果、一般投資家延べ112名が、同社に対して直接又は相手方を経由して、合計9885万円の出資金の払込みを行ったようです。また、この発行会社以外にも、少なくとも4社の株式についても勧誘行為を繰り返していたようです。

この事案は、「私募」どころか「募集」に該当している可能性が十分あり、発行会社の方も問題となりそうな事案です。また、「私募の取扱い」を業として行うことは、第一種金融商品取引業の免許が必要です。なお、「業として」の判断については、裁判所の決定では、「反復継続して」とありますので、営利性より、反復継続性が重要な要素となっているようです。

株式や新株予約権を発行して、資金を集めようとする会社は、「募集」に該当しないかの検討を十分にしていただきたいですし、自社の株主となるように勧誘する行為を、証券会社ではない第三者に依頼すると、その第三者は、「募集又は私募の取扱い」に該当する可能性があるということを、よく理解していただきたいです。「募集」と「私募」の要件及び効果の違い、「募集又は私募の取扱い」の該当性は、実行前に、弁護士に相談することをお勧めします。

2011年04月27日 06:30|カテゴリー:企業法務, 法務関連ニュースコメントはまだありません

震災に伴う労災保険給付(震災に伴う法律上の問題)

震災に伴う労災関連について、質問を受けることが少なくありませんので、この場でも、基本的な情報を共有しておきます。

今回の震災の当日付けで、厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長から、下記の内容を含む、「東北地方太平洋沖地震に伴う労災保険給付の請求に係る事務処理について」(基労補発0311第9号)という文書が、都道府県労働局労働基準部労災補償課長宛に出されています。同文書には、「兵庫県南部地震に伴う労災保険給付の請求に係る事務取扱いの留意点について」(事務連絡第3 号 平成7年1月27日)や「兵庫県南部地震における業務上外等の考え方について」(事務連絡第4 号 平成7年1月30日)も添付されていますので、是非、ご参照ください。

http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T110316K0010.pdf (PDF)

「東北地方太平洋沖地震に伴う労災保険給付の請求に係る事務処理について」

1 労災保険給付請求に係る事業主証明及び診療担当者の証明

今回の地震により、被災労働者の所属事業場等が倒壊した等の理由から、労災保険給付請求書における事業主証明を受けることが困難な場合には、事業主証明がなくとも請求書を受理すること。
また、被災労働者が療養の給付を受けていた医療機関が倒壊した等の理由から、診療担当者の証明が受けられない場合においては、診療担当者の証明がなくとも請求書を受理すること。
なお、この場合、請求書の事業主証明欄の記載事項及び診療担当者の証明欄の記載事項を請求人に記載させ、当該証明を受けられない事情を付記させること。

2 業務上外等の基本的な考え方

今回の地震による業務上外の考え方については、平成7年1月30日付け「兵庫県南部地震における業務上外等の考え方について」に基づき、業務上外及び通勤上外の判断を行って差し支えない。
したがって、個々の労災保険給付請求事案についての業務上外等の判断に当たっては、天災地変による災害については業務起因性等がないとの予断をもって処理することのないよう特に留意すること。

「地震による災害の業務災害又は通勤災害の考え方」

地震による災害事例

1 業務災害

事例1 作業現場でブロック塀が倒れたための災害
ブロック塀に補強のための鉄筋が入っておらず、構造上の脆弱性が認められたので、業務災害と認められる。

事例2 作業場が倒壊したための災害
作業場において、建物が倒壊したことにより被災した場合は、当該建物の構造上の脆弱性が認められたので、業務災害と認められる。

事例3 事務所が土砂崩壊により埋没したための災害
事務所に隣接する山は、急傾斜の山でその表土は風化によってもろくなっていた等不安定な状況にあり、常に崩壊の危険を有していたことから、このような状況下にあった事務所には土砂崩壊による埋没という危険性が認められたので、業務災害と認められる。

事例4 バス運転手の落石による災害
崖下を通過する交通機関は、常に落石等による災害を被る危険を有していることから、業務災害と認められる。

事例5 工場又は倉庫から屋外へ避難する際の災害や避難の途中車庫内のバイクに衝突した災害
業務中に事業場施設に危険な事態が生じたため避難したものであり、当該避難行為は業務に付随する行為として、業務災害と認められる。

事例6 トラック運転手が走行中、高速道路の崩壊により被災した災害
高速道路の構造上の脆弱性が現実化したものと認められ、危険環境下において被災したものとして、業務災害と認められる。

2 通勤災害

事例1 通勤途上において列車利用中、列車が脱線したことによる災害
通勤途上において、利用中の列車が脱線したことは、通勤に通常伴う危険が現実化したものであることから、通勤災害と認められる。

事例2 通勤途上、歩道橋を渡っている際に足をとられて転倒したことによる災害
通勤途上において、歩道橋を渡っている際に転倒したことは、通勤に通常伴う危険が現実化したものであることから、通勤災害と認められる。

2011年04月11日 06:30|カテゴリー:企業法務コメントはまだありません

お知らせ「Startup Engine 2011」の開催

大変、ご無沙汰しております。諸事情により、更新が滞っておりました。

今日は、5月20日に開催予定の「Startup Engine 2011」というイベントについてのお知らせです。

来る5月20日の午後1時から、大阪中之島の国際会議場にて、「Startup Engine 2011」というイベントを開催させていただきます。

関西では、ベンチャーや起業に関連したイベントが少なくなりつつあるという話を聞き、全くの手弁当で、友人知人に声をかけて、志に賛同してくださる方々と立ち上げたイベントです。

今こそ、関西が頑張るべき時であるという声は少なくありません。関西は、古代から江戸時代や近代にかけて、起業や金融という意味では、最先端の地でした。今も、高い技術や志を持つ方が大勢いらっしゃいます。また、商人の地、大阪だけではなく、伝統と新しい価値が融合する地、京都、先端技術の拠点を持つ古都奈良、新しい文化とバイオベンチャー等のシードも多い神戸等、素晴らしい土地が近接しているという地の利があります。一方で、ここ数年、「最近の関西・大阪は元気がない」という言葉を聞くことも少なくありませんでした。

そこで、微力ながらも、関西でも、起業家精神とそれを支えるネットワークを構築するため、そして、その土壌を耕し続けるため、志を同じくする人と一緒に、関西、そして日本が、新しい産業のエンジンとなることを祈念して、「Startup Engine 2011」というイベントを開催させていただく運びとなりました。

新進気鋭の素晴らしいスピーカーに、お話をいただけることになっております。
僭越ながら、私も最後にお話をさせていただく機会を設けさせていただいています。

【日 時】 2011年5月20日(金)13:00〜17:30
【会 場】 大阪国際会議場
【後援・協力】 [後援]大阪証券取引所 [協力]株式会社 幕末
【セッション】
Session 1 ライフネット生命の挑戦

ライフネット生命保険株式会社 代表取締役副社長 岩瀬 大輔 様

Session 2 マイノリティのすすめ

日本マイクロソフト株式会社 コミュニケーションズ・セクター

クラウド・ソリューション営業部 統括部長 今井 早苗 様

Session 3 等身大の経営者が語るBuyout

株式会社オークファン 代表取締役 武永 修一 様
ジンガジャパン株式会社 ジェネラル・マネージャー 山田 進太郎 様
株式会社美人時計 専務取締役 早 剛史 様
株式会社アトランティス 代表取締役社長 CEO 木村 新司 様

Session 4 目指せ!Good to Great~起業を支えるプロフェッショナルの立場から~

アントレプレナーファクトリー 代表取締役嶋内秀之
武田公認会計士事務所 公認会計士武田雄治
山本・森・松尾法律事務所 弁護士森理俊

【参加費】 一般席:3,000円(税込)  学生席:1,000円(税込)
※学生席には限りがございます。
【ウェブページ】http://startup-engine.com/
【懇親会】 夜6時から、開催予定(参加費5000円)

お申し込みは、こちらからお願いいたします。

なお、夜6時からの懇親会には、スピーカーの方の中からも参加していただける予定です。

起業について関心のある方、企業内部で新しいことに挑戦する方、ベンチャー企業への就職や転職を考えたことのある方、ベンチャー・キャピタル等の投資家の方、証券会社等の金融機関で上場やバイアウトを担当されている方、中小企業・ベンチャー企業のサポートをしているプロフェッショナルの方など、多くの方のご参加をお待ちしています。

不可抗力について(震災に伴う法律上の問題)

今回は、大地震や津波により、契約上の義務を果たせなかった場合、責任を負うのか、という問題について、検討します。

契約上、不可抗力条項がある場合は、その規定に従うことになります。不可抗力条項が規定されている大抵の場合は、免責事由となっているはずです。

問題は、特約で不可抗力条項が定められていなかった場合です。

典型的なケースとしては、工場が津波により被害を受けたので、納品できなくなったというケースです(特に、契約書の取り交わしはなく、発注書と請書のみのやりとりだったという場合です。)。

このような場合でも、不可抗力であるとして、遅滞や履行できないこと(履行不能)については責任を負わないのが原則です(理論上、不特定物の提供義務を負っている場合は、市場で同種同等の物を調達し得る限り、捜索して提供する義務が発生しますが、他の保有者が発見できない場合や調達価額が不相当に高額な場合は、免責されるか、事情変更の原則の適用が検討され得る事案といえる可能性があります。)。

但し、このような原則の例外として、金銭債務(お金を支払う義務)があります。金銭債務の履行については、不可抗力は抗弁となりません(民法第419条第3項)。

民法
(金銭債務の特則)
第419条
1  金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2  前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3  第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

不可抗力により履行不能となった場合に、反対給付(典型的には売買契約における金銭の支払義務)が残るかという問題は、次に検討すべき課題となります。この問題を、危険負担といいます。危険負担については、後日、検討する予定です。

2011年03月24日 06:30|カテゴリー:企業法務, 法務関連ニュースコメントはまだありません