ここから本文です

ベンチャー法務の部屋

製造業の行く末

先日、ライフネット生命の出口社長とお話しさせていただいたときに、製造業は、究極的には、「最高の機械で、最安の労働力をつかって世界中に売るモデル」しかないという話をされていたので、気になって考えていました(趣旨を正確に理解できていないかもしれませんので、異なっていた場合はご容赦ください。)。

おそらく「最安の労働力」の意味するところは、コストパフォーマンスの最も高いという意味であろうと思います。私は、この出口社長の意見は、製造業の1つの側面を適確に言い表しておられると考えます。

現実にサムスンやユニクロは、このモデルでしょう。日本の多くの製造業が苦しいと「言われている」背景には、このようなモデルが一つの成功モデルであることにも起因すると思います。

とはいえ、一方で、製造業には別の生き残り方もあるのではないかとも思います。例えば、エルメス社です。(エルメス製品について私が解説するのは無謀もよいところですが、)全ての商品が、非常に厳しいチェックを経て、多くの商品が今もmade in Franceです。みなさん、高くても買います。値下げしたら、喜ぶ人より、がっかりする人の方が多そうです。このエルメス社には、先程のモデルは当てはまらないことは自明です。最高の機械で、コストパフォーマンスの高い労働力をつかっても、エルメス製品ではないと消費者は判断するでしょう。これは、高級ブランド戦略とでも呼べるモデルでしょう。

日本の電化機器でも、例えば、炊飯器はある程度、高級ブランド戦略での生き残りに成功しているのではないかと思います。ただ炊くだけの炊飯器と全く値段が違いますが、それでもかなり売れているようで、中国の富裕層も日本への旅行の土産に購入すると言う話はよく聞きます。掃除機や扇風機ですら、この方向性で成功している商品があります。

法律家の私がこのようなマーケティングやブランディングについて話をするのは、専門外と言われてしまえばその通りです。ただ、日本の製造業の行く末をふと考えたときに、まだまだこのような戦略での生き残り策はありそうですし、ダイソン等の例は、製造業でのベンチャー企業が高級ブランド戦略で勝負しても、可能性があることを伝えているように思います。

ところで、私の本業の法務に関連してこの戦略を考えてみます。ベンチャー企業や中小企業がこのような高級ブランド戦略をとる場合に重要なのは、知的財産権の戦略、特に商標権や意匠権も含めた抜かりない出願が必須です。しかも、この知的財産権の戦略は、サムスンやユニクロのモデルをとる場合でも、決して軽視してはならないものです。

時々、中小企業の担当者の方と話をしていると、「これまで~しなくても、問題は起きなかった」という話を聞きます。「~しなくても」には、「契約書に気を払わなくても」「知的財産権のことを考えなくても」等が入ります。しかし、それは、(1)日本国内の特定の狭い世界だから通用した、(2)問題は起きなかったが、より利益をあげるチャンスを失っていた、(3)運が良かったのいずれか又は全部の可能性があります。

知的財産権や法務に資金を投じる習慣がなかった会社にとっては、これらに投資することに当初は抵抗感があることも多いでしょうけれども、将来、足元をすくわれないためにも、より利益を上げるためにも、一度、コストとリターン(リスク低減)を比較して、戦略を再検討されることをお薦めします。

2010年11月10日 08:30|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||1件のコメント

中小企業・ベンチャー企業とウィーン売買条約

昨日、大阪弁護士会で、ウィーン売買条約についての研修がありました。

ウィーン売買条約は、昨年8月に日本でも発効し、日本法を準拠法とする国際物品売買にも適用されることになりました。厳密な適用範囲については、同条約第1章をご参照ください。また、加盟国と加盟時期については、UNCITALのページを確認してください。

現在、単に日本法を準拠法と記載した国際物品売買契約については、日本の民法に優先してウィーン売買条約が適用されることになります。例えば、中国の会社が売主で、日本の会社が買主の場合、物品の売買契約書において準拠法を日本と規定した場合であっても、契約書を作成しなかった場合であっても、ウィーン売買条約が適用されます。非加盟国の会社が売主の場合は、法の適用に関する通則法第8条第2項により、非加盟国の現地法が適用される可能性が高いとのことでした(この場合は、契約書で準拠法を変更するか、ウィーン売買条約が適用される旨を明記した方がコスト的に有利な可能性があります。)。

昨日の研修では、日本の大手法律事務所では、このウィーン売買条約の適用を排除しておくことが現時点での「ベストプラクティス」(諸リスクを勘案した場合のベターな選択?)という興味深い議論がありました。

おそらく、「将来、問題が生じた場合に、日本の法律家が日本法によって対応するのであれば適切な解が得られる可能性が高く、また紛争の相手方との間で共通の認識を持てるであろうが、ウィーン売買条約について適切なアドバイスを受けられる可能性は低く、その解釈でまず揉める可能性があるのではないか」というリスクが最初にあるのだろうと思います。

ただ、そのほかにも、現実的なリスクもあるように思われます。齋藤教授の論文等(※1)を拝見すると、売主に不利になる可能性があるものとして、同条約の第35条(物品の適合性)やクレーム提起期間が「物品の引渡しから2年間」とされている点(同条約第39条第2項)があり、買主に不利になる可能性があるものとして、検査通知義務にかかる第38条・第39条等があるようです。危険の移転時期も日本法は売主サイドの規定になっていますが、ウィーン売買条約は日本法よりは多少買主サイドになっているように思われます(それでも比較法的には売主寄りと評価されそうです。)。

一方、同条約の使い勝手のよさそうな規定としては、不安の抗弁権を明記した同条約第71条、第72条が挙げられそうです。

これらのデメリットとメリットを勘案した上で、且つ同条約の判例の集積や文献が少ないことから、現実的には、(弁護士等が契約書を作成するのであれば)同条約を明示で排除する流れが続きそうです。

とはいえ、いくつかのケース、例えば、契約書が無い場合、単に準拠法が日本法とされている場合(但し発効以前のものからの継続的売買契約に対する適用については議論があります。)、契約締結時に準拠法での中立を目指した等の結果ウィーン売買条約が第一義的に適用されることとなった場合等では、今後、交渉の前提及び日本の裁判所等で、ウィーン売買条約が表に出てくることがあり得ます。

昨今は、中小企業のみならず、ベンチャー企業でも、国際取引は決して珍しいものではありません。物品の売買をするケースも少なくありません。国際的な貿易をする会社の役員及び実務担当者や法律家は、ウィーン売買条約の適用の可能性を常に頭の片隅においておくべきでしょう。

※1 参考文献:齋藤彰著「ウィーン売買条約と日本 ―日本の法律家が国際統一私法と正しく向き合うために」(『国際商取引学会年報2010 vol.12』  212頁~)

2010年11月09日 11:30|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||1件のコメント

お知らせ『利益を守る、大きな損失を未然に防ぐ、ITベンチャーのための契約知識』

 
EBA(enfac business academia)さんにて、『利益を守る、大きな損失を未然に防ぐ、ITベンチャーのための契約知識』というタイトルで、契約書についてお話をさせていただくことになりました。

ライセンス契約やシステム開発契約、代理店契約を中心に、IT企業はもちろんのこと、そのほかの開発系の会社さんにもお役にたてる内容とさせていただく予定です。今まで契約書を正式に結んでこなかった、自社の雛型が現場にあっていない様に思う、システム開発と知的財産権の関係を理解したい等の御要望にお応えできるようにする所存ですので、経営者や役員の方のみならず、契約の前段階で折衝にあたられる営業担当の方やエンジニアの方にも有用です。

日時と場所は、以下のとおりです。

日時: 12月1日(水) 午後7時開始
場所: 大阪 梅田駅周辺(予定)

お申し込みは、こちらからどうぞ。多数の御参加をお待ちしています。

企業の法務部門の役割(2)

「企業の法務部門の役割(1)」の続きです。

今回は、特に外部に相談した方がよいケースを掘り下げて考えてみます。

(6) 知的財産権が関連している場合

多くのIT企業がシステム等を内部で作るか、外注するかという判断をすることがあります。知的財産権の帰属が関係する開発委託契約は、その製作の過程で生じた知的財産権の帰属について予め明確にしておいた方がよいです。特に重要なシステムを外注する場合は、重要です。また、受託する場合も同様です。

ビジネスモデルが特許と深くかかわっているケース、特に産学連携や大学発ベンチャーの場合や研究開発が中心の会社の場合、特許権が誰に帰属するかという問題は重要です。共同開発契約において、特許権の帰属は重要となりますので、運用・管理の方法も含めて、外部の法律の専門家に相談しておいた方が安全です。

(7) ネットを通じて不特定多数と取引する場合

まず、本人確認をした上で、その後の本人に有効に効果帰属させる必要があります。また、各項目について消費者契約法等を踏まえ、有効な内容としておく必要があります。少なくとも電子商取引に関する準則に準拠した内容にしておく必要があります。

(8) 下請法等の法律により契約書を作成することが義務付けられている場合

外注するケースで下請事業者の方が規模が小さいケースでは、下請法が適用される場合(公正取引委員会のHPhttp://www.jftc.go.jp/sitauke/index.html参照)があります。昨今問題になるのは、個人のシステム・エンジニアに業務委託する場合にこの法律が適用される可能性がある場合がありますので、要注意です。

(9) 広義の資本取引

資本取引については、会社法上の有効性や税務上のリスクを検討した上で、金融商品取引法で有価証券届出書の提出が必要とならないようにすること等が必要となります。また、登記が必要となることがほとんどです。新株予約権の発行や種類株式の発行の場面では、登記申請まで併せて弁護士に依頼するケースも多いです。

(10) 将来の開示書類に、「重要な契約」として記載することとなる可能性が高い場合

上場企業の有価証券報告書をご覧いただければわかるとおり、開示書類には、【経営上の重要な契約等】として、重要な契約を列挙し、概要を記載します。具体的にどのような契約を定めるべきかは、開示府令(企業内容等の開示に関する内閣府令)というものに規定されていますが、およそ「事業の全部若しくは主要な部分の賃貸借又は経営の委任、他人と事業上の損益全部を共通にする契約、技術援助契約その他の経営上の重要な契約」は、対象となります(他にも対象となる契約はあります)。

したがって、概要が開示されることを前提に、契約期間や解除条件を含めて、契約文言を詰めておく必要があります。

さらに、(契約書の有無にかかわらず)契約の締結自体が何らかの法律に反する可能性があることもあります。こればかりは、その法律を知らないと、そもそも危ないかどうかすら気づきませんので、当然、外部に相談するというオプションも採ることができません。したがって、ベンチャー企業・中小企業の役員の方々に、その感度を磨いていただく必要があります。そして、危ないかもと思ったら、すぐに弁護士に相談してください。法律相談だけであればリーガル・コストはほとんどかかりません。

よく法律に抵触しがち(で見落とされがち)なパターンとして思いつくあたりとしては、健康関連の表記→薬事法、お金を集める→出資法、法律事件処理・債権回収→弁護士法、規模の小さい事業者(個人のシステム・エンジニア等)への外注→下請法、有価証券の取引の仲介→金融商品取引法、マーケティングに懸賞を利用→景品表示法等です。これらの場合は、最悪のケースでは刑事罰が科せられることになりますので、これらの事業をする場合には、日頃から意識を高めておく必要があります。

他にも、ファイナンスもどきの循環取引等の会計的に危険な取引もありますので、外部の専門家と都度気軽に相談できる体制を保持しておくことは中小企業・ベンチャー企業の経営者にとっては重要です。

2010年10月26日 08:00|カテゴリー:企業法務||1件のコメント

企業の法務部門の役割(1)

会社の法務部の役割については、契約実務に加え、コンプライアンス、内部統制への要請という観点から、ここ20年くらいで大きく変容してきました。ただ、この領域については、若輩の私が述べるよりも現場に即し、且つ優れた論文や雑誌の特集等があるので、そちらをご覧いただいた方がよいように思います。現役の法務担当者の方が書かれた最近のものとしては、NBL930号から935号にかけて掲載された「日本の契約実務と契約法」(三菱商事株式会社法務部・ニューヨーク州弁護士 小林一郎氏著)や、ビジネス法務12月号「機能する次世代「法務部長」の役割とは」(ソフトバンク株式会社法務部長 須崎將人氏著)等が挙げられます。

ただ、これらの特集は、大規模な企業が想定されていることも少なくなく、未公開企業や中小企業・ベンチャー企業の法務の現場ではなかなか適用するのが難しいかもしれません。

そこで、ベンチャー企業・中小企業が法務とどう向き合うかという問題を少し考えてみたいと思います。ただ、ベンチャー企業・中小企業と法務という問題は多岐にわたりますので、今回は、その中でも、契約実務に限って、検討します。

一般論としては、契約を締結する場合には契約書を作成した方がよいとされています。想定外のことが起きて紛争になった場合、債務不履行が生じた場合に、紛争を防止したり、迅速に債権回収することが目的の大部分でしょう。しかし、卸の業界や広告代理店の業界、伝統的な製造業の業界等で、長年の信頼関係のあるケースや業界慣行のあるケースでは、契約書がないのが当たり前で、その方が上手くいくとされていることは少なくありません。その多くの場合が、発注書と請書だけで取引が進むことや、口約束だけでビジネスがスタートしていることさえあります。これらの実務は、ある意味、効率的であり、経済合理性の観点から、わざわざ契約書を作成しなくても問題ないケースだと思われます。

とはいえ、どんなケースでも、契約書を作成しない方がよいなんていうことはありません。中小企業やベンチャー企業で契約書が必要であると考えられる場合を思いつくところで列挙してみたいと思います。

(1) 信頼関係が築けていない場合
(2) 予め不履行の危惧がある場合
(3) 契約内容の理解が一致できているか確信が持てない場合
(4) 取引金額が大きい場合
(5) 自社の秘密を提供する場合
(6) 知的財産権が関連している場合
(7) ネットを通じて不特定多数と取引する場合(プラットフォーム作成の場合を含む。)
(8) 下請法等の法律により契約書を作成することが義務付けられている場合
(9) 広義の資本取引(新株発行や新株予約権の発行、株式の譲渡や合弁契約、株式交換等のM&Aの場合)
(10) 【上場を目指す会社の場合】 将来の開示書類に、「重要な契約」として記載することとなる可能性が高い契約
(順不同)
等です。

ベンチャー企業や中小企業では、法務部がないケースがありますので、役員がどうするかを判断しなければなりません。選択肢としては、(a)契約書をつくらない、(b)社内で契約書を作る、(c)外部に契約書作成を依頼する(内部で作成して外部にチェックしてもらう)の3つが考えられます。

もちろん、上記の場合でも、常に(c)が適切ということではなく、ケース・バイ・ケースで対応することになります。一見、契約書が必要そうであるが、いざとなれば○○すればいいということもあるでしょう。金額で小さいので、何かあれば取引を打ち切ればよいだけというケース等です。一方、契約書を雛型的に利用する場合等、当初に一度、弁護士のチェックを経ておけば安心というケースもあるでしょう。

しかし、ベンチャー企業・中小企業の役員の方々には、(c)外部に契約書作成を依頼する(内部で作成して外部にチェックしてもらう)ことをお薦めする場合があります。それは、(6)知的財産権が関連している場合、(7)ネットを通じて不特定多数と取引する場合、(8)下請法等の法律により契約書を作成することが義務付けられている場合、(9)広義の資本取引、(10)将来の開示書類に、「重要な契約」として記載することとなる可能性が高い契約です。

いずれも後から修正することが厳しく、取り返しのつかないことになるケースが少なくないからです。

(次回に続く)

2010年10月25日 10:30|カテゴリー:企業法務||1件のコメント

ベンチャー企業とコンプライアンス

今回は、「ベンチャー企業がどの程度法律を順守しようとしなければならないか」という、少々危険な話題に取り組んでみたいと思います。「ベンチャー企業がどの程度法律を順守しなければならないか」ではありません。「順守しようとしなければならないか」です。

私も弁護士である以上、どんな企業であっても法律を順守しなければならないと申し上げなければならない立場にあることは十分承知しています。

とはいえ、一方では、どんな会社でも、とりわけ非公開の会社が全ての法律を完璧に順守し、リーガル・リスクを回避するための最大限の努力をするということは、相当難しいのではないかとも思っています。

例えば、非公開の取締役会設置会社で、設立以降、3ヶ月に1回以上取締役会を開催して代表取締役が自己の職務の執行の状況を報告し、取締役会の議事録を会社法施行規則第101条に基づいて作成し、全ての変更の登記を変更が生じたとき(例外あり)から2週間以内に登記申請し、毎年定時株主総会終結後遅滞なく決算公告をしている会社は、どの程度あるでしょうか。おそらく数パーセント以下、ひょっとすると1%を切るのではないでしょうか。

会社の役員の方から、個別に上記の手続について「~しなければならないでしょうか」とか、「~順守するための体制を構築しておかなければならないでしょうか」という質問がなされれば、回答は、常に「Yes」となります。

ここで、私が問題にしたいのは、法律問題の間に優先順位はないのか、さらにいえば、有限のリソース(時間・人・金等)の中でどの程度コンプライアンス(法令遵守)にリソースを割くべきかという問題です。

たとえば、自社のビジネスモデルが薬事法に照らし合わせると違法である可能性が高そうだとか、金融商品取引法上登録が必要そうだといった場合、今度の株式発行については有価証券届出書が必要そうだ、会社の販売する食品に身体に悪影響を及ぼす物質が混入されていた等といった場合、これらの場合には会社がどれだけ小さくても、始めたばかりの会社であっても、直ぐに全力で対応しなければならないでしょうし、また、予め防止策を講じておく必要もあると思います。

しかし、役員と従業員を併せて数名程度の規模の会社で、有害物質混入の問題が発覚して直ちに対処しなければならないといった状況にあるケースで、「被害者の把握や公の機関への報告等より、明日に期限の迫っている登記申請を優先せよ」という人はいないと思います。一般的に、立ち上げたばかりの会社の社長の頭の中は、常に「どうやって稼ぐか」「企業価値を最大化するか」「資金繰りは大丈夫か」といった問題が占めているのが普通で、何よりもまず「議事録が法的に不備が無いようにしよう」と考える社長はいないでしょう。勿論、これらは極端な例であることは重々承知しています。とはいえ、これらの思考実験は、法律問題の間に優先順位があり、限られたリソースの中で、営業や開発や総務といった部門と、法務部門を並べた場合に、いつでもどんな場合でも「法務」が優先することはないことを示していると思います。

結局のところ、会社の規模、成長段階、社会的影響力、利益の大きさ等に応じて、求められる「法律を順守しようとする姿勢」の程度は異なるのではないでしょうか。

これはある意味、当たり前の結論かもしれません。特に、経営者や起業家の皆様にとっては、「そりゃそうだよ。もちろん法律は大事だと思ってるし、出来る限り順守しようと思っている。でも、まずはどれだけ儲けられるかであって、最初から法律のことを考えていると発想が窮屈になるよ。」という考えをお持ちの方が多いとだろうというのが私の実感です。

では、設立したばかりの会社や規模の小さい会社は、法律を後回しにしてよいかというと、そうではありません。優先順位を意識してメリハリをつけること、そして何が危ないかと察知する感度が重要だと思います。特に、ビジネスモデルの適法性、重要な契約書の作成、重要な資産・知的財産権にかかわること、金融取引、第三者の権利(特に、生命・身体)を侵害する可能性のあること、刑事罰の対象となることについては、規模の大小にかかわらず、意識して頂いた方がよいと思います。そして、何でも自分(役員個人)で解決しようとしないで、直ぐに気軽に相談できるメンターを持っておくことは、感度を高くしておくことに、非常に有益であると考えます。そのことは、会社にとっての将来のリスクを大きく低減させることに繋がるでしょう。

P.S.  IPOを目指している会社様につきましては、法務上留意すべき事項はさらに増えます。その内容については、こちら(講演「IPOを目指す会社の法務上の留意点 ~反社会的勢力排除を中心に~」)で触れようと思っておりますので、ご興味のある方は、お越しください。

2010年10月15日 16:30|カテゴリー:企業法務||2件のコメント

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その4)

以前、企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容について検討しました。
その1
その2
その3


今回、さらに付け加えておいた方がよいと考えたことを、今回備忘録的にエントリーにしておきたいと思います。


それは、会社の従業員に対する調査権です。もう少し具体的に言えば、従業員が業務のために利用する机の引き出しやロッカー、パソコン等の電子機器や記録媒体について、会社は、いつでも管理している従業員に断ることなく調査できる旨の内容等です。場合によっては、調査権者を会社の親会社やグループ会社、それらの監査役等と広く設定しておくことや、所持品等の調査を行い得る場合も含めることも検討しても良いかもしれません。


本来、会社が業務のために従業員に使用許諾している備品や電子機器等は、会社が管理・所有するものですので、原則としては、いつでも調査できるはずです。とはいえ、従業員のプライバシー権等の人格権の問題もあり、所持品検査等の侵害性が強い方法による調査は、違法となる可能性があります。判例では、所持品検査等の調査については、合理的な理由があること、妥当な方法と程度であること、制度として画一的に実施すること、就業規則等の明示の根拠があること等が適法と言えるための条件と考えられています。


より一般化して考えると、従業員に対する調査については、調査の態様や程度を勘案した上で、(i)必要性、(ii)相当性、(iii)手続的適正の3つの観点から判断されることになると考えます。


そこで、(iii)の手続的適正を満たすために、予め従業員からの誓約書に、会社の従業員に対する調査権を規定しておくことが良いのではないだろうか、ということです。

誓約書の作成について検討されている場合、会社がいつどのような範囲で調査できるのかを明確にして誓約書に規定することを、ご検討いただければ幸いです。

p.s. 実は、このエントリーのきっかけとなったのは、山口利昭先生の『内部告発・内部通報 -その「光」と「影」- (守れるか企業の信用、どうなる通報者の権利)』という本の出版記念講演です。この本では、過去事例や判例も多く掲載されており、会社のコンプライアンスを担当する部署の方や、会社のヘルプラインを担当する社外の弁護士にも必携かと思います。

2010年10月08日 08:30|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

解除条項について考える(2) ~事業譲渡契約の解除・表明保証条項と解除権~


前回のエントリー「解除条項について考える(1) ~意外と取扱いが難しい~」の続きです。

今回は、事業譲渡契約の解除と、表明保証条項は解除権と結び付くかという点を考えてみたいと思います。

■ 事業譲渡契約

事業譲渡契約は、基本的には、「事業」を売り買いする契約です。したがって、売買の対象が「事業」であるだけで、売買契約と同様に、解除条項は有効であるように見えます。しかし、実のところ、事業譲渡契約の解除は、ペナルティーとして脆弱なことが多いといわざるを得ません。

事業譲渡契約は、その履行(=事業譲渡)において、第三者を巻き込みます。とくに、取引先の移転は、相手方の同意を得て、契約の地位の移転を移転する行為ですし、従業員の異動は、雇用契約の合意解除+新規雇用という形をとります。したがって、事業譲渡契約の解除は、再び相手方から契約移転の同意を得る必要や、新規に成立した雇用契約を合意して解除する必要があります。

契約の相手方が契約移転に応じない場合や、事業の譲渡人が再度の雇用に応じない場合は、譲受人側に契約が残り続ける可能性がありますので、遡及効という効果が事実上、達成できず、解除がペナルティーとして意味をなさないことになってしまいます。それどころか、譲受人が解除権を行使したにもかかわらず、自らの原状回復義務が履行できない等という状況も起きかねません。

譲受人側が解除を企図しても、譲渡代金は取り戻せるかよくわからない上、従業員から解雇権の濫用等として労働問題に巻き込まれるリスクを負うかもしれない・・・という状況が付きまとう可能性があります。

この点は、M&Aのスキーム選択においても意外と見過ごされがちですので、注意が必要です。

■ 表明保証条項

表明保証は、M&A関連の契約や投資契約等、多くの契約に規定されています。ただ、表明保証違反は、直ちに解除権の発生につながるわけではないということが見過ごされがちです。

そもそも、表明保証条項は、ある当事者の契約締結時の「状態」「事実関係」を表明し、保証したものであり、「~します」という約束ではありません。法律的に表現するとは、債権債務関係を規定するものではないということになります。したがって、「Xは、Yが本契約のいずれかの条項に違反した場合、ただちに本契約を解除することができる。」と規定していても、表明保証違反の事実の発覚が、ストレートに、この「いずれかの条項に違反した」に該当するかは微妙です。

民法では、このような問題は、債務不履行(契約違反)の問題としてとらえるのではなく、意思表示の瑕疵・欠缺(けんけつ)の問題として、錯誤や詐欺として処理することが想定されています。しかし、錯誤や詐欺により、契約(にかかる意思表示)を無効や取消しと主張するのは、ハードルが高いことが多いです。そこで、表明保証条項を規定した場合は、「表明保証に反していたことが判明したこと」を解除権発動のリストに加えておくことが望ましいと考えます。



これまでに挙げた例の他にも、解除権が問題となるケースとしては、軽微な義務違反と判断されてしまうことへの対応 (軽微な債務不履行は、解除権が発生しないことがあり得るため、当事者にとって当該債務の不履行が重要な意味を持つ場合は、特に解除権が発生することを明確にしておくべき)や、破産等の解除権の発生要件としても否認権の対象となり得ること等の留意点があります。

契約を結ぶ場合は、契約違反時のペナルティーを意識することが重要なのは、前回申し上げた通りです。ただ、ペナルティーとして「解除権」を念頭におく場合には、そもそも解除に意味があるのか、他の法理で解除が実現できない可能性はないか、解除権と結びついているか、等に注意しながら御検討下さい。

2010年09月30日 17:30|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

解除条項について考える(1) ~意外と取扱いが難しい~

契約実務の現場では、契約が成立した場合にその条項は、(i)裁判所が有効と判断し、最終的に執行につながるか、(ii)仮に、執行にまでつながらなくても、事実上の交渉力に転化できるか、ということを意識しながら、条文作成やチェックを行わなければなりません。

実務的には、「破った場合のペナルティーが明確でない条項はあまり意味がない」 (∵執行によって相手にダメージを与えられなければ意味がない)、 「無効かも知れなくても、入れておいても損はない」 (∵有効だったら御の字で、無効の可能性があっても有効ならばダメージを受けるという状況そのものにより交渉力を得られるだろう)等と考えながら条文構造を検討します。この話は、会社の法務を担当されている方は、よく御存じかと思います。

契約のペナルティーの代表は、解除と損害賠償請求です。今回は、この解除条項を取り上げたいと思います。

解除条項は、基本的には、契約しなかった状況に戻る(戻す)義務が発生することを意味します。法律的には、既に履行した債務については(債権者に)原状復帰の義務が発生し(遡及効)、未だに履行されていない債務については(債務者が)履行義務から解放されるのが原則です。既履行債務の巻き戻しの意味がないタイプの契約は、将来において、互いに履行義務から解放されるという効果のみ発生する(将来効)ことになります(賃貸借契約や委任契約等)。

解除にはこのような効果があることから、一般に契約違反があると、損害賠償請求できるかということと並んで、解除できるかということが当事者の大きな関心事になります。そこで、様々な契約書では、解除条項が定められ、解除権が発生する場合のリストや無催告特約が規定されることになります。

この解除条項は、典型的な契約では、かなり威力を発揮します。売買契約では、「お金払わないなら、物を返せ!」とか、逆に「物を引き渡さないなら、お金返せ!」と言えますし、賃貸借契約であれば「賃料を払わないなら、部屋から出ていけ!」と言えることになります(借地借家法等で解除権に制約が生じることはあります。)。

とはいえ、なんでもかんでも、契約違反→解除権発生と規定することが正しいわけではありません。解除条項は、先ほど述べた「ペナルティー」として有効に機能しない場合があり、有効に機能しない(or有効に機能しない可能性が高い)にもかかわらず、解除条項が規定されているケースや、「ペナルティー」を解除条項に頼り切っているケースが散見されますので、整理してみたいと思います。

■ 秘密保持契約

秘密保持契約に違反した場合、契約解除は全く意味がありません。考えていただけるとわかりますが、「Xは、YがXに提供した秘密を保持しなければならない」との規定をXが破った場合、すなわちXが秘密を漏えいした場合に、秘密保持契約を解除しても、意味がありません。秘密保持契約を解除しても、今後のXの秘密漏えいが適法化されるだけです。これでは、ペナルティーのつもりが、逆に適法化という結果になってしまい、望ましくありません。

秘密保持契約のペナルティーとしては、解除条項は意味がありません。仮に規定するのであれば、秘密保持契約は、他に締結した契約(共同開発契約、業務委託契約等)の付属又は前段階として締結されることが多いですので、秘密保持契約違反の場合、当事者間で締結している他の契約を解除できる旨を規定することが考えられます(他の契約を解除する場合でも秘密保持契約・条項自体は存続するようにしておく等の設計が必要)。

なお、余談ですが、秘密保持契約は、損害賠償請求条項もペナルティーとして機能しにくいという特徴があります。秘密と損害の因果関係が立証しにくい、損害額が算定しにくいというのが、理由です。したがって、秘密保持契約では、(i)損害の範囲を幅広く定めておくとともに、(ii)運用面において、秘密が漏えいしない体制(秘密に触れる人を限定する、本当に重要な部分は秘匿しておく等)を出来る限り築くことが重要となってきます。

■ 投資契約

投資契約違反の契約解除も、難しい問題があります。

そもそも投資契約とは、何でしょうか。

投資契約とは、投資家が投資先企業に対して出資し、株を引き受ける場合に、投資家と投資先企業の間で締結される契約です。典型的には、ベンチャー・キャピタルがベンチャー企業に出資する場合に、締結されます。契約内容は多岐にわたりますが、報告義務、誓約事項、取締役選任権、表明保証や投資家の先買権等があります。

投資先企業が投資契約に違反する行為をした場合(たとえば、契約上、定款変更は投資家の事前承諾を得なければならないとされていたにもかかわらず、投資家の事前の承諾なく、定款を変更した場合)、解除権は、ペナルティーとして有効でしょうか。

実のところ、投資契約も秘密保持契約と同じく、投資家にとっては、投資先企業に守ってもらわないと意味のない契約ですので、将来効=今後、投資契約を守らなくてよいよ、というのは、全く意味がありません。

では、遡及効は、どうでしょうか。すなわち、新株の引き受けを解消するというペナルティーです。これは、そもそも会社法的に無効の可能性が高いです。一度、発行されてしまった新株は、後から、取り消したり、無効を主張することは、非常に難しいのです。錯誤や詐欺・脅迫を原因とする場合であっても、株主となった日から1年又は株主としての権利行使後は、無効又は取消しの主張ができないとされています。したがって、解除を原因とする遡及的無効も認められない可能性が高いでしょう。

したがって、投資契約に解除条項を規定しても意味はほとんどありません。実務では、解除条項の代わりに、投資家の株式買取請求権を規定します。投資先企業が投資契約に反すると、投資家が保有する株式を買い取らせる権利を株式買取請求権といいます。これで事実上、解除と同じ効果を生み出す意図があります。ただ、この株式買取請求権も行使すると、投資先企業にとっては自己株式の取得になってしまうことから、自己株式の取得規制という壁を乗り越えなければなりません。そのため、経営株主も買取義務者に入っていることが多いです。

((2)に続く予定)

2010年09月28日 15:30|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

「起業に大学教育は必要か」という議論

表題の議論は、形やテーマを変えて、度々耳にするもので、いま起業を考えている学生にとって関心の高い議論でしょう。

「起業するのに、学位を取る必要があるのか、大学に行く必要があるのか」というテーマです。

具体例としては、マイクロソフト社の創立者であるビル・ゲイツ氏やFacebookの創立者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、ハーバードを中退して、会社を設立し、億万長者になったといったものが挙げられるでしょうし、日本でもライブドア社の堀江貴文氏は東大中退です。古くは、松下幸之助さんを始めとする日本のアントレプレナーには、大学にすら通っておられない方も少なくありません。

Professor Says Michael Arrington Lives In An Ivory Tower (TCTV)


ここに引用させていただいた動画及び記事は、「大学教育の価値」と「優れた起業家への道」の関係についての議論です。論者は、Michael Arrington氏 (Stanford Law School出身の弁護士であり、TechCrunchのファウンダーでもあるアントレプレナー)とVivek Wadhwa氏 (UCバークレー客員教授、ハーバード法科大学院上級研究員、およびデューク大学常任理事であり、自身も2つの会社のアントレプレナー)のお二人の間で交わされています。

私自身は、


会社を作るためには、経理、マーケティング、知的財産権、会社法などの知識を理解しておく必要がある。ビジネスの世界に入ってしばらくするまで、君たちは契約交渉のやり方や、人との接し方、従業員の管理や育成、そして顧客に売る方法を知らない。さらに重要なのは、自分が始めたことをやり遂げることの大切さを学ばない学生は、成功できないことだ ― それには忍耐力と決断力が必要だ。

私から学生たちへのアドバイスは、教育は、受けられる間はできるだけ受けよ。最低でも学部、可能なら修士の学位を修了すること。(引用終わり)


というVivek Wadhwa氏の意見に賛成する者で、私自身は、体験も踏まえて、大学教育に価値があると信じています。

勿論、学位なぞに拘わらずに成功している起業家を否定するものではありません。むしろ尊敬の念を覚えています。だからといって、学生から「起業したいのですが、中退した方がよいでしょうか」と質問されても、基本的には「No」と回答するでしょう。まず第一に、「学位なぞに拘わらずに成功している起業家」は、そもそも「起業したいのですが、中退した方がよいでしょうか」等という質問はしないでしょうし、その点で迷うくらいならやめておけばよいと考えます。また、「学位なぞに拘わらず、成功している起業家」がみな大学教育を否定しているわけでもなく、それ相応の知識や経験等を他の手段で身につけているケースも少なくないからです(例えば、本田宗一郎さんは、浜松高等工業学校(現:静岡大学工学部)機械科の聴講生でした。)。

先程の両者の議論で、より重要で、興味深いのは、

A piece of advice both panelists agreed on was to never forget the importance of ethics. As Arrington said, “Never hurt anyone to benefit yourself…but do something amazing, however you define it, and change the world”.


という部分です。すなわち “never forget the importance of ethics”(倫理の重要性を忘れるな!)ということに異論はなかったということです。どこかの国の検察官に、口を酸っぱくして、何度も繰り返したい内容です。。。(どこかの国の検察官についての話は、長くなりそうなので、いずれまた。本件では、学校教育+司法修習を受けたからといって、それだけでは倫理的な行動を維持し続けることはできないことが立証されてしまいました。)

私個人としては、起業こそが経済を下支えしており、新たな雇用を生み出すものであると考えていますし、起業を活性化することに貢献することを自身の目的としています。そして、起業には、志や目標、理念といった部分と、会計や法律等の知識や営業や交渉等の技術といった部分の両方が車の両輪のように必要であり、且つ、その両方において、倫理的であること、利益のために誰かを傷つけないことという土台が必要であると考えています。

最後は、大学教育の必要性から少しずれてしまいましたが、上の議論からの私の雑感です。

2010年09月27日 14:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||1件のコメント