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ベンチャー法務の部屋

会社の未来は4つしかない


みなさんが何かの事業を行うために、会社を設立するとき、会社の未来にどの程度、想いを馳せるでしょうか。

理念や志、経営戦略、ビジネスモデル、事業ドメイン、マーケティング、資金調達、、、etc.起業家や経営者が考えることはたくさんあります。

それらは極めて重要なことばかりであり、実際に起業家や経営者は考えていることでしょう。

しかし、会社が順調に成長した場合、どのような未来になるかまで考えられているケースは、多くないように感じます。

事業会社の未来は、基本的に以下の4つしかありません。

① 上場(IPO)
② 買収される(M&A)
③ 事業承継(相続)
④ 破産・清算(事実上の破綻も含む)

そして、この4つの未来のどれを志向するかは、予め決めておいた方がよいでしょう。もちろん、状況に応じて、途中で変わることは十分ありうることですので、実際には、「現時点では」「ざっくりとしたイメージとして」という形になることが多いでしょう。また、ビジネスモデル等の経営戦略によってどれを志向すべきかということが自ずと決まる場合もあり得ます。

①の上場(IPO)とは、基本的には「公の会社になる」ということです。いつでもだれても会社の株式を買ってもよいという状態になりますので、株式市場に対して常に誠実な態度と取らなければなりません。上場には、優れた人材が集まりやすい、市場から資金を調達することができる、上場前からの株主やストック・オプション保有者が上場とともに個人資産を形成できる、会社の事業継続が大株主の相続問題に巻き込まれにくい(全く巻き込まれないわけではない)等といったメリットがあります。一方、重要な会計情報等を開示しつづけなければならないという義務が課されます。したがって、ある程度の規模であることや将来の企業成長が予想されることが求められますし、継続開示に耐えうるような社内体制の整備も求められます。社長の地位は、多くの株主に信任が得られそうな人物のなかから現社長や取締役会が選ぶことになります。

②の買収(M&A)とは、基本的には「どこかの会社のものになる」ということです。上場会社の子会社になる場合は、その上場会社の傘下に入るということを意味し、事実上の上場に近い効果もあります。100%子会社になる場合や全部の事業の譲渡の場合では、既存の株主は、これまでの株式に代わって現金や株式を手にすることになります。社長のイスは、親会社の意向で決まります。

③の事業承継(相続)とは、「非公開会社で居続ける」場合です。多くの日本の中小企業がこれに当てはまります。この場合、「次の社長はだれか」という事業経営の後継者の問題と、「大株主の保有する株式をだれが相続するか」という相続問題の両方を解決しなければなりません。

④の破産・清算は、最初から志向する人はいません。夜逃げでからっぽに幽霊会社になるケースもこれに含まれます。破産の場合は、社長も併せて個人破産するケースがほとんどです。利益を生み出す事業が残っている場合は、民事再生や会社更生という手段がとられることもあります。

①から③までのどれを志向するか、明確になっていると、ファイナンスの戦略だけでなく、社内体制の準備もできます。チャンスがあれば、上場することや買収されることを考えている場合、いつ提案があっても、提出を求められた資料を提出できるように資料を整理しておくでしょう。M&Aの場面では、事業の継続性についてのリスク高い場合、売却価格が下がってしまいます。普段からの社内体制の整備しだいで、相当の金額の差になるかもしれません。将来、①のIPOや②のM&Aを考えている場合は、早い段階から弁護士に相談して、ビジネスモデルや契約書、各種議事録をチェックしてもらうことが、外から見た会社のリスク評価を下げることに繋がるのです。

①でも②でもない場合は、会社の主要株主の株式が相続されることに想いを馳せておかなければ、主要株主が亡くなった後に、会社が相続問題に巻き込まれるリスクが高くなります。株式は、法定相続されると、相続人間で共有されてしまいます。100株を保有する株主について相続が生じ、相続人が、妻1人、子2人の場合、その100株は、妻50株、子25株ずつとなるのではなく、その100株総てが共有となってしまうのです。こうなると遺産分割協議か株式の権利の行使者を誰にするかの合意がまとまるまで、原則として権利行使できなくなります。遺言でその株式を誰に相続するかを予め決めておくことが会社を継続することに繋がります。

これから起業される方、起業して間もない方におかれても、上記の①から③までのどれを志向するのか、頭の片隅にでも置いていただけると、よいのではないでしょうか。

2010年09月22日 08:30|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

中国企業とライセンス契約を結ぶときの留意点

いま、私は、近畿経済産業局が主催している「平成22年度中国ビジネス知財戦略基盤定着支援事業」に参加し、中国の知的財産に関する法律を学びつつ、実務的な対応を検討しています。この企画、講師の弁護士・弁理士の先生方の知識レベルが高いことは勿論のこと、参加者の皆さんのレベル・意識も高く、大変刺激的です。また、支援受入企業側も、これだけの人数で議論した結果によって、プロフェッショナルからのコンサルティングを受けることができますので、双方にとって、非常に良い企画だと思います。講師の先生方には、感謝しても、しきれないくらい、多くのことを教えていただいています。

ところで、この企画において、中国の契約法353条と355条と行政法規である技術輸出入管理条例24条3項の関係についての議論がありました。非常にマニアックな論点なので、悪しからず・・・

それぞれの条文は、以下の内容である。

【関連条文:中国法】
契約法353 :  特許実施により第三者の権利を害した場合、実施許諾者が責任を負う。但し、当事者間に別途の約定がある場合はこの限りではない。
契約法355 :  技術輸出入契約…について、法律、行政法規に別段の規定がある場合は、その規定に従う。
技術輸出入管理条例(行政法規)24 III : 技術を受け入れた側が提供を受けた技術を使用し、第三者の合法的権益を害した場合、提供者が責任を負う。

【問題点】
契約法353は、任意法規規定であるため、ライセンス契約において、ライセンシー側の責任とする旨の規定を定めても、有効と解される。しかし、契約法355及び技術輸出入管理条例24 IIIによって、任意法規性が奪われ、「技術」を受け入れる旨の契約で、第三者の権利侵害はライセンシーの責任と規定しても、無効と解されるおそれがある。

具体的には、日本企業が保有している特許権について、中国企業にライセンスする場合や、中国企業から開発委託を受けて日本の知的財産権を利用して製作した成果物を引き渡す場合に、問題となる。すなわち、中国企業側の特許実施や成果物利用に際して、第三者の権利を侵害しても、(契約での規定に拘わらず)日本企業が責任を負わなければならない可能性がある。

【検討の前提】
そもそも、「法律」は任意法規であるのに、「条例(行政法規)」に強硬法規性を持たせることへの疑問もあるが、中国法において、契約の自由をどこまで徹底されるのかという根本問題に関連しそうであるし、中国の法体系秩序の問題にもかかわるので、ここでは避ける。また、結果として、渉外ライセンサーを国内ライセンサーより不利益に扱うことになるので、WTOに反するのではないかとの疑問も呈されるが、実務では、どうしようもない可能性が高いので、ここでは立ち入らない。

【検討】
ここでは、日本企業が中国企業にライセンスする場合を念頭に置いて、実務的に解決する方法がないかを考えてみる。

通常(日本国内の会社同士の契約等で、ライセンサー側が強い場合)、ライセンス契約や業務委託契約において、第三者からの侵害については、以下のような規定を置く。

■規定例(ライセンス契約)(ライセンサー優位の内容)■
ライセンシーが本発明の実施により、第三者の権利を侵害するに至ったときにおいても、ライセンサーは、その侵害についての責任を一切負わないものとする。

■規定例(業務委託契約)】(受託者優位の内容)■
委託者による成果物の利用に関して第三者の権利を侵害した場合、受託者は、その侵害についての責任を一切負わないものとする。

※ サンプルなので、簡略化した条文例を用いています。

しかし、技術輸出入管理条例24 IIIによると、提供者が責任を負うと規定しており、このような規定を設けても、無効になる可能性が高く、その場合、ライセンサーや受託者(日本企業側)が責任を負わなければならない。

■対策案1■
無効を覚悟で、規定する。そして、無効になった場合に備えて、他の規定を置く。

■対策案2■
ライセンサー側に訴え等が提起された場合に、協力すべきとする協力義務規定を置く。

■対策案3■
ライセンスの対象を出来る限り限定して、そもそも権利侵害が生じにくいようにする。

■対策案4■
ライセンサーが被った損害をさらにライセンシーに求償できる旨を規定しておく。

とりあえず、いま、考えられるのは、このようなところである。これらの対策案は、相互に矛盾しないので、実務に合ったものを適宜利用することになるだろう。■対策案1■の他の規定とは、対策案2や4の規定や、分離可能性条項と呼ばれる、「ある規定が無効となっても、他の規定は有効です。」という内容の条項を念頭に置いている。■対策案4■は、中国の人民法院の解釈で無効にされてしまう可能性も十分にあるが、理論的には、「第三者との関係では技術輸出入管理条例24 IIIで提供者が責任を負うが、当事者間では、技術を受け入れた側がその損害を負担する」と定めることは、技術輸出入管理条例24 IIIに反しないという解釈も成り立ちうるのではないかという発想に基づくものである。

いずれにせよ、問題が起きた場合には、訴訟になる前に解決できる方がよい。訴訟外での交渉では、仮に無効になるかもしれない条項があったとしても、有効となる可能性によって交渉力が得られることもあるので、適宜御検討いただきたい。

(検討終わり)

この見解は、私が備忘録的に作成したものですので、実際にライセンス契約や業務委託契約等を作成する場合は、中国法の専門家を含めた専門家の意見を参考にして下さい。(このエントリーを参考にして作成して頂いても、私は責任を負えません。)

2010年09月17日 08:30|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

有価証券届出書虚偽記載とベンチャー企業

昨日(15日)、新聞等において、「エフオーアイ社が、実際の売上高はわずか3億円弱しかなかったのに、約118億円とウソの記載をしていた疑いで、強制捜査された」旨が報じられていました。


日本経済新聞「エフオーアイ社長を逮捕 115億円粉飾決算の疑い 」

東証マザーズに上場していた半導体製造装置メーカー「エフオーアイ」(相模原市、破産手続き中)の粉飾決算で、さいたま地検は15日、上場時に約115億円の売上高を水増ししていた疑いが強まったとして、同社社長、奥村裕容疑者(60)を金融商品取引法違反(有価証券届出書の虚偽記載の疑いで逮捕した。
証券取引等監視委員会は近く、同法違反容疑で刑事告発する。
上場わずか7カ月で上場廃止となった新興企業を舞台にした粉飾決算は経営トップの逮捕に発展した。同地検と監視委は今後、財務担当の専務(46)らについても逮捕する方針で、粉飾決算の全容解明を目指す。(引用終わり)

日本経済新聞「監視委、エフオーアイ関係先を強制調査 粉飾決算事件」

監視委によると、同社は株式公募を実施する際、2009年3月期の実際の売上高がおよそ3億円だったにもかかわらず、約118億円と架空計上して記載した疑い。同監視委は「売上高の97%を粉飾しており、強制調査による実態解明を要する悪質な事案。告発に向けてさらに調査を進める」としている。(引用終わり)


有価証券届出書の虚偽記載は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又は併科です(金融商品取引法第197条第1号)。

この事件は、売上高の約97%の粉飾であり、最早、粉飾決算というレベルを超えて、詐欺罪(10年以下の懲役。刑法第246条)に近いと思います。調達金額は、50億円以上ということですので、50億円以上の詐欺事件となると、歴史上でもなかなか見当たらないのではないでしょうか。

本件については、ほぼ確信犯的に実行されていたようであり、その騙しの手口の巧妙さやチェック体制についての議論は、多くなされておりますので、ここでは、IPOを目指す会社と、有価証券届出書や目論見書の虚偽記載との関係に、議論を絞って、議論したいと思います。

IPOを目指す会社は、当然ながら、いずれは有価証券届出書や目論見書を作成しなければなりません。上場前に作成しようという段階になり、「正確かどうかわからない」という状態は、問題です。この点は、主幹事証券会社も厳しくチェックします(しているはずです)。

ちなみに、主幹事証券会社も、目論見書等の重要な事項について「虚偽記載等の事実を知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったこと」(金融商品取引法第17条但書)、有価証券届出書のうちの重要な事項について「記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、財務計算書類以外の部分については、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったこと」(金融商品取引法第21条第2項第3号)が立証できない限り、損害賠償責任を負います。したがって、少なくとも、相当の注意を用いたと立証できる程度には、虚偽記載等がないかについての審査を尽くすことになります。これがいわゆる「引受審査」です。主幹事を引き受ける証券会社には、引受審査部という部署があり、この部署が担当します。

この引受審査を通過するには、(当然のことながら、粉飾を誤魔化す手口を巧妙にするのではなく、)予め、審査されても大丈夫なように社内の体制を整えておく必要があります。

例えば、株主の記載が問題となることがあります。有価証券届出書等においては、直近3ヶ月の株式の移動や主要株主が記載されます。ところで、株券発行会社の株式譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ有効ではありません(自己株式の処分を除く。会社法第128条第1項)。これは、いわゆる株券不所持制度を採用していても同じです。したがって、株券発行会社において、過去に株式譲渡が行われている場合、株券の交付が行われていなければ、その株式譲渡が無効である可能性があります。これは、そのまま放置すると、有価証券届出書等の株主の欄や株主が保有している株式数が虚偽である可能性があることを意味します。これらの事実が「重要な事項」か否かは、ケースや程度によることになるでしょうが、審査側としては、放置できる問題ではありません。そこで、IPOを目指す会社としては、その株式譲渡が有効であることを証拠により説明しなければなりません。そこで、実際には、株券の交付を行い、それを確認する書面を新旧の株主から取得するか、適法であることの意見書を取得する等の方策が採られることが多いです。

他にも、重要な契約について、解除が極めて容易になされる旨の条項が規定されているにもかかわらず、これを記載しないことも虚偽記載になる可能性があります。いくら当事者同士で信頼関係があるとしても、将来的に関係が悪くなって、解除されてしまうことが十分あり得ます。その時に、解除条項が開示されていないことが問題となる可能性は否定できないでしょう。したがって、IPOを目指す会社は、重要な契約については、いくら信頼関係があっても、相手方の一方的な意思表示で解除されてしまうような条項や、容易に条件が満たされてしまうような解除条項は、断固として拒絶しなければなりません。

上場準備の段階になってから、修正するのは大変手間ですし、場合によっては修正しきれず上場が延期になってしまうことさえあります。IPOを目指すベンチャー企業は、早い段階から、将来、有価証券届出書等を作成することを念頭に、社内の体制を構築しておかれることを強くお薦めします。結果的には、コスト的にも、上場のチャンスという意味でも、良い結果に繋がると考えます。

2010年09月16日 08:30|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その3)

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書について、前々回(その1)、前回(その2)の続きです。

3 競業禁止

従業員との間の競業禁止規定には、大きな法律上の制約があります。

それは、「職業選択の自由」です。

憲法第22条第1項の「職業選択の自由」です。小学校か中学校でも社会か公民の時間に勉強するあの「職業選択の自由」です。企業法務で、憲法が出てくることは極めて少ないですが、ここでは例外です。

従業員には職業選択の自由があるために、競業禁止規定が無効になるかもしれないのです。

ただ、職業選択の自由があるといっても、従業員は、自ら誓約しているのですから、私的自治の観点では、それを積極的に放棄したとも解する余地があります。

したがって、「職業選択の自由」と「私的自治(=契約で自ら義務を負うことを選択した)」という2つの法律上の要請が、競業禁止規定をめぐってせめぎ合うことになります。

その結果、職業選択の自由を不当(必要以上)に誓約するような競業禁止規定は、無効になる可能性が高いといえます。

では、実務的には、どうすればよいのでしょうか。

結論からいえば、「常識的な範囲で、且つビジネスに支障が生じることを防ぐために最低限と思われる内容で、競業禁止規定を定めておく」ということになります。

具体的には、年数、地域、事業内容で、範囲を絞って、競業禁止を規定すると、無効にはなりにくいでしょう。

規定案としては、

私は、貴社を退職後●年間は、●地方において、●、●又はこれらに類する事業を行う事業を開始したり、役員や従業員やアドバイザーになる等、携わったりしません。

等という内容が考えられます。

年数について、よく質問されますが、これという回答は難しいです。事業内容や事業の展開の速さ等にもよります。ただ、「3年」とされているケースが割と多いような気がします。

地域も、元の会社の事業範囲との比較で決めることになります。広ければ広いほど、無効になる可能性は高くなりますが、地域の制約が意味のない業界(IT等)では、地域を制限しないことも考えられます。

事業内容は、必ず明記しなければなりません。ある程度、曖昧な表現になってもやむを得ないとは思いますが、それなりに特定できる表現、例えば、「○○を販売する事業」等としておくことが考えられます。

【関連法令】

日本国憲法

第22条第1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

2010年09月08日 09:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その2)

前回、「企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容」の続きです。

2 知的財産権(特に、特許)の帰属

知的財産権は、主に以下の2つが大きなポイントでしょう。

・ 知的財産権の会社への譲渡

・ 出願しないことの誓約

ここでは、特許権が要注意です。

特許法第35条第3項第4項では、「職務発明」については、契約その他で承継させることを決めた場合、合理的な相当な対価を支払うことが定められています。また、同じ特許法第35条第2項では、「職務発明」以外の発明について、会社に帰属させるような内容の契約は、無効としています。

したがって、職務発明の範囲を法律に照らし合わせて明確にしたうえで、特許等を受ける権利を譲渡することを規定しておく必要があります。この時、会社の特許等の出願について協力する義務も一緒に記載しておけば、より良いでしょう。相当な対価については、別途、知的財産管理規程等で対応するのが通常かと思います。

(続く)

【関連法令】

特許法

(職務発明)
第三十五条  使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
2  従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。
3  従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
4  契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。
5  前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる場合には、第三項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。

2010年09月07日 09:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

第三者委員会に必要な弁護士の力

本日(9月6日)の日本経済新聞 朝刊では、「日弁連がガイドライン作り 国広正・弁護士に聞く」という記事があった。

要約すると、

“世の中には、いいかげんな第三者委員会が沢山ある”

“すべての利害関係者のため(でなければ、第三者委員会を名乗るな!)”

“必要な弁護士の力とは、「事実探求力」と「経営陣を説き伏せる力」だ”

ということだった。

また、使えるテクニックとして、第三者委員会を就任する際の委任契約に、日弁連のガイドラインに準拠して調査する旨を規定しておくことが提案されていた。

この記事自体に、反論はない。ただ、その通りと思う反面、ガイドラインによって、第三者委員会や委員たる弁護士の性質や責任の難しさが浮き上がってきたように思う。

第三者委員会というのは、その名のとおり、第三者性が最も重視される。

一方で、依頼主は、会社であり、その委員に対価を支払うことを決めた人は経営陣である。

そのため、監査法人と同じようなジレンマ、すなわち、どこまで依頼主及び経営陣に厳しくできるか、ということが鋭く問われることになる。

監査法人の場合は、そのジレンマはある程度(経営陣には)認識されている上、手抜き監査についての監査法人側の責任(法的責任や手を抜いた場合の行政処分等)も大きいため、経営陣が監査法人からの調査を受け入れる素地が多少なりともあるのではないかと、推察する。

一方、会社の経営陣が弁護士に第三者委員会の委員を依頼する場合、経営陣は、「今回の事件について、出来る限り丸く収めたい」という希望を持っているということは割と多いのではないか。

第三者委員会の調査によって、会社にさらに(少なくとも短期的に)大きなダメージが発生する可能性もあり、依頼者の利益の実現に努めなければならない、依頼者の意思の尊重という弁護士倫理との間で、難しい問題が発生する。

その意味で、第三者委員会の中立性や独立性の維持というのは、言うは易く、行うは難しである。

また、事案探究力というのも、一筋縄ではいかない問題である。何しろ、第三者委員会に強制捜査権はない。書類の隠ぺい工作や虚偽の供述をなされてしまうと、事案の探求は困難を極める。経験値から、“あるはずの書類”の在り処を問うて、虚偽の供述を見抜く力が必要であり、しかも、自白の強要等も避けなければならないという高度な(場合によっては、弁護士には不慣れな)能力が求められる。実際に、第三者委員会の委員に虚偽の供述を述べた経営陣もいる。

第三者委員会の委員に就任される先生は、どのような委任契約を締結されているのかわからないが、このあたりを踏まえて、会社は弁護士の要求する文書は必ず出すとか、調査への協力義務や誠実回答義務、調査の結果によって会社が被る損害についての免責等の規定がないと、受けることはできないであろう。このあたり、コンプライアンスにお詳しい先生方にお聞きしたいところだ。

【参考】

「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」 2010年7月15日 日本弁護士連合会

PDFファイル: 「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」

2010年09月06日 12:00|カテゴリー:企業法務, 法務関連ニュース||コメントはまだありません

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その1)

会社が従業員を採用する場合、従業員から誓約書に署名して、提出してもらうことがあります。これは、従業員に由来する様々なリスクをヘッジするためのものです。辞める時に会社の重要な情報を持ち出さないように・・・、在職中に従業員が発明した特許の取扱い等、従業員との間で予め取り決めておけば防げたはずのトラブルは、少なくありません。今回は、この従業員に提出してもらうべき誓約書の内容について検討します。

第1 タイミングは重要! ~早い方が良い。ベストは入社時~

まず、タイミングです。最も良いのは、入社時です。退職直前では、書いてもらえないリスクが高くなります。ただ、提出してもらわないより、提出してもらった方がよいですから、気付いたらなるべく早く、提出してもらうというのが良いでしょう。就業期間中に、「コンプライアンスを充実させるために、誓約書の作成をお願いすることにしました。」ということでも問題はないと考えます。

第2 3つの内容

肝心の内容は、以下の3つ+αです。

1 秘密保持

2 知的財産権(特に、特許)の帰属

3 競業禁止

(4 反社会的勢力との接触の不存在)

さらに、就業規則との連携も必要です。就業規則より労働者に不利な労働契約は、無効とされてしまう可能性があります(労働契約法第12条)。したがって、従業員から誓約書をもらう際に、併せて就業規則の見直しも検討して下さい。ただ、誓約書の内容が全て無効になるというわけでもありませんので、とりあえず誓約書を先行させてしまうことは実務上は問題ないでしょう。

では、個別に検討します。

1 秘密保持条項

秘密保持条項は、以下の点がポイントになります。

・ 秘密情報を定義する(就業規則や営業秘密管理指針がある場合は、それらの定義を援用することも可)

・ 秘密情報を記載又は包含した書面その他の媒体物の持出禁止・返還義務

・ 退職後の義務

・ 制裁措置(サンクション)の設定(損害賠償・協力義務等)

です。

具体的な文言は、私に別途相談いただきたいのですが、注意して頂きたいのは、制裁措置です。秘密保持違反は、損害の範囲も立証も難しいケースが少なくないですので、損害賠償規定を明確にして、請求できる損害の範囲を広くしておくことがポイントです。また、会社が損害を回復するための行動を採った場合に、それに協力する義務を規定しておくことも有効でしょう。

(続く)

【関連法令】

労働契約法

(就業規則違反の労働契約)
第十二条  就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

2010年09月06日 09:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません