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ベンチャー法務の部屋

美容医療①

当事務所の弁護士にはそれぞれ専門分野があり、その分野に関しては特に日頃から研鑽を積み、重点的に取り扱っています。私の専門分野のひとつに、「美容医療」があります。私が通常取り扱うのはクリニック側であり、美容医療クリニックの顧問弁護士も務めさせて頂き、美容医療クリニック向けに、クレーム対策や説明義務違反に関するセミナーも開催しています。

さて、美容医療の内容は、二重まぶたの手術、鼻やフェイスラインの美容整形、レーザー等によるニキビやシミの除去、脂肪吸引、脱毛、ヒアルロン酸等の注射、美容歯科など、多様化しています。このような美容医療の多様化に伴って、美容医療に関する法律問題についても同様に多様化しているといえます。具体的には、多様化する施術に関するクレームや訴訟への対応だけでなく、トラブル予防に向けたインフォームドコンセントのための書類作成、医療広告規制の問題、最近では主に中国の投資家による日本の美容医療クリニックの買収を含めた投資といった案件など、幅広い内容が含まれます。

これから、美容医療に関する法律問題について、ご紹介していきますが、まずは、美容医療が一般の医療とどう異なるのか、一般医療と比較した場合の美容医療の特徴について紹介したいと思います。

まず、美容医療の特徴として、「目的」の違いが挙げられます。すなわち、美容医療については、一般的に患者の疾患を治癒させることを目的とするものではなく、身体の審美性の向上や、精神的な不満を解消することを目的としたものであるという特徴が挙げられます。

次に、美容医療には、救命や健康回復のために行われるものではなく、一般的に緊急性が認められず、医学的な必要性が認められないという特徴があります。

また、ほとんどの美容医療が自由診療のために治療費が高額になりがちであるという特徴も挙げられます。

この点、裁判例においても、美容医療は、「より美しくなりたいとの個人の主観的願望を満足させるために行われるものであって、生命ないし健康の維持に必須不可欠なものではない」とされました。(神戸地判平成13年11月15日)

このような美容医療の特徴は、美容医療を行う医師の負う義務にも大きな影響を及ぼすことになります。今後、美容医療における医療行為上の注意義務、説明義務の内容や、クレーム対応における注意点などについて紹介しますが、その前提として、今回紹介した美容医療の特徴について頭に置いておいて頂くことが重要となります。

(文責:三村雅一)

2018年11月02日 11:03|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

みなし残業代(固定残業代)に関する最高裁判決

みなし残業代(固定残業代ともいいます。)を賃金体系に含めている企業が増えているように思いますが、先日、みなし残業代に関する新たな最高裁判決(最高裁第一小法廷平成30年7月19日、以下「本件最高裁判決」といいます。)が出ましたので、簡単に、ご紹介します。

まず、みなし残業代とは、一般に、労働基準が定める割増賃金(残業代)の算定方法に基づく支払いに代えて、一定額の手当を支払う方法のことをいいます(名称としては、営業手当等の名称が付されている場合が多いように思います。)。
一般に、みなし残業代が法律上有効であるといえるためには、少なくとも、基本給と明確に区別できることが必要とされています。なお、この点に関する詳細や、みなし残業代を就業規則で規定する際の注意点等については、弊所の三村雅一弁護士が執筆した以前のブログ(ベンチャー法務の部屋「固定残業代に関連する判例(最高裁平成29年7月7日小法廷判決)の紹介」)をご参照ください。

「固定残業代」に関連する判例(最高裁平成29年7月7日小法廷判決)の紹介

本件最高裁判決の事案の概要は、以下のとおりです。

 企業と従業員の雇用契約では、基本給46万1500円、業務手当10万1000円とされていました。
 雇用契約書には、「月額562,500円(残業手当含む)」、「給与明細書表示(月額給与461,500円 業務手当101,000円)」と記載されていました。
 採用条件確認書には「月額給与461,500円」、「業務手当101,000円 みなし時間外手当」、「時間外勤務手当の取扱い 年収に見込み残業代を含む」、「時間外手当は、みなし残業時間を超えた場合はこの限りではない」と記載されていました。
 賃金規程には「業務手当は、一賃金支払い期において時間外労働があったものとみなして時間手当の代わりとして支給する。」との記載がありました。
 上記の条件下で、従業員が企業に対し、みなし残業代とは認められないと主張し、業務手当とは別に、残業代の支払いを請求しました。

原審(東京高裁)では、業務手当が何時間分の時間外手当に当たるのかが従業員に伝えられておらず、時間外労働の合計時間を測定することができないこと等から、業務手当を上回る時間外手当が発生しているか否かを被上告人が認識することができないものであって、業務手当の支払いを法定の時間外手当の全部又は一部の支払いとみなすことはできないと判断しました。

これに対し、最高裁は、以下のように判断し、原審(東京高裁)を覆したうえで、従業員に対して支払われるべき賃金額等を審理させるため、原審に差し戻しました。

まず、最高裁は、みなし残業代を採用すること自体が労働基準法第37条に反するものではなく、定額の手当を支払うことにより、割増賃金の全部または一部を支払うことができることを確認しました。
そのうえで、雇用契約において、ある手当が時間外労働等に対する対価として支払
われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体
的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断をすべきであると判断しました。

本件においては、本件雇用契約書、採用条件確認書及び賃金規程において、業務手当が時間外労働に対する対価である旨が記載されていたことや、業務手当が1ヵ月当たりの平均所定労働時間をもとに算定すると、約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当し、実際の時間外労働等の状況と大きく乖離するものではなかったこと等から、業務手当の支払いをもって、時間外労働等に対する賃金の支払とみることができると判断しました。

本件は、雇用契約書等の記載において、業務手当が時間外労働の対価であることが明確に記載されていたことが重要な前提であると考えられます。そのうえで、みなし残業代が、何時間分の時間外手当に該当するものかを明確にしていないケースであっても、みなし残業代として有効であると判断できる場合があることを示したものであると考えられます。
もっとも、本件最高裁判決は、みなし残業代として有効である理由として、いくつかの考慮要素を挙げていますので、実務において、これから就業規則や賃金規程等の作成や修正等をする場合には、弁護士に相談して頂いた方が無難であると考えます。

(文責:藤井宣行)

2018年08月29日 18:25|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

不動産実務における即決和解

訴え提起前の和解という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
今回は、特に不動産業に携わる方々に、この訴え提起前の和解という制度をご紹介したいと思います。

1 訴え提起前の和解とは

訴え提起前の和解は、裁判上の和解の一種で、民事上の争いのある当事者が、判決を求める訴訟を提起する前に、簡易裁判所に和解の申立てをし、紛争を解決する手続です(民事訴訟法第275条第1項)。この手続を、即決和解手続と呼びます。以下、訴え提起前の和解のことを即決和解と呼びます。この即決和解手続については、当事者間に合意があり、かつ、裁判所がその合意を相当と認めた場合に和解が成立し、合意内容が和解調書に記載されることにより、確定判決と同一の効力を有することになります(民事訴訟法第267条)。

2 ケース1

建物賃貸借契約において、賃借人の賃料不払いがあったため、賃貸人・賃借人で協議を行った結果、滞納賃料について分割で支払うことを条件に建物の明渡しを1年間猶予することで合意した。

この場合、賃借人の、①滞納賃料の支払い、②建物の明渡しという義務の履行を確保する手段として、①については、滞納賃料の支払方法に関する合意内容を公正証書で定めるという方法が考えられます。公正証書を作成することによって、仮に合意通りに支払いが行われなかった場合、強制執行が可能となります。しかし、②の建物の明渡しについては、公正証書による強制執行の対象ではないため(民事執行法第22条第5号)、公正証書を作成したとしても、明渡期限に明渡しがされなければ、改めて訴訟を提起して判決を得て、強制執行手続をとらなければなりません。
そこで、①②について併せてこの即決和解の手続をとっておけば、改めて訴訟手続をとらなくとも、和解調書に基づく強制執行手続が可能となります。

3 ケース2

賃借人が使用中の収益物件が売買の対象となり、買主がその建物を自己使用したい場合、取り壊したい場合など、売買契約後は賃借人の継続利用を予定していない場合には、売買契約の中に以下のような条項が設けられることがあります。

第●条(賃借人退去)
1 売主は、平成●年●月●日までに、自己の費用と責任において本物件賃借人を完全退去させるものとする。
2 前項の賃借人立ち退きを、前項の期日から概ね1ヶ月を目処として履行する旨の本物件明渡しに関する即決和解が、売主と賃借人の間で成立している場合、買主は売主へ売買代金の残代金を支払い、本物件の引渡しを受けるものとする。

このような場合には、売主が賃借人との間で事前に退去交渉を行い、退去に関する合意を成立させることが多いと思われますが、仮に賃借人がその合意に反して明渡期限までに明渡しを行わなかった場合であっても、売主と賃借人との間で即決和解が成立していれば、買主が引渡しを受けた後に改めて建物明渡請求訴訟を行う必要はなくなります。

4 即決和解の手続の具体的内容

(1) 賃貸人・賃借人間の事前の話し合い
即決和解の手続は、事前に当事者間での合意が成立していることが前提です。したがって、即決和解を申し立てる前に、当事者間での合意を成立させる必要があります。なお、申立てから和解期日指定まで平均1か月程度を要することから、建物等の明渡し、金銭の支払いの日程については、この点を考慮に入れて定める必要があります。

(2) 申立て
相手方の普通裁判籍(普通裁判籍については、民事訴訟法第4条第2項から第6項を参照)(相手方が自然人の場合、第一次的には相手方の住所地によって定まります(民事訴訟号台4条第2項))の所在地を管轄する簡易裁判所に申立てを行います。なお、上記ケース2の条項のように、即決和解を成立させなければならない期限が決まっている場合には、申立てに先立って裁判所との間で事実関係や期日候補日について打ち合わせをしておくことでその後の手続がスムーズに進みます。

(3) 申立書審査
申立てがあると、裁判所が申立書を審査し、書類の追完、和解条項の修正等を経て、和解期日の指定手続に入ります。和解期日については、当事者双方が出席する必要があるため、双方が裁判所に出頭できる日を打ち合わせ、裁判所に希望日を連絡します。なお、当事者に代理人(弁護士等)が就く場合には、当事者は出席する必要はありません。
なお、希望日については、裁判所に連絡をした日からある程度先の日を伝える必要があります。これは、裁判所から相手方に対して期日呼出状等を送付する必要があるためであり、仮に相手方に代理人が就いていたとしても、期日呼出状自体は相手方本人が受け取る必要があります。

(4) 和解期日
和解期日当日、当事者双方(代理人の場合は代理人)が和解条項について合意し、かつ、裁判所が相当と認めた場合に和解が成立し、和解調書が作成されることになります。和解調書正本は、原則、和解期日当日に双方に交付されます。

即決和解の手続は以上のとおりとなります。

手続自体が複雑なわけではありませんが、弁護士が代理人に就いて裁判所との事前の細かいやり取りを行うことで手続が非常にスムーズに進みます。即決和解手続が必要になった場合にはぜひ一度ご相談下さい。

(文責:三村雅一)

2018年08月17日 17:32|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

仮想通貨と所得税

先日、「国税庁、仮想通貨所得の確定申告促す方法の簡略化など環境整備へ」という報道を目にしました。
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180716/mca1807160500001-n1.htm

仮想通貨の取引と所得税に関し、国税庁は、2017年12月1日付で、「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」を公表し、また、国税庁ウェブサイトのタックスアンサーでも、仮想通貨の取引に関して損益が生じた場合の取扱いを公表しています
http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1524.htm

そこでは、仮想通貨の取引に関して損益が生じた場合には、原則として、雑所得(取引規模等によって、例外的に事業所得)に該当するとされています。

そもそも、所得税法では、課税対象となる所得の種類として、10種類を規定しています。そのうちの1つの種類として、譲渡所得という分類がありますが、これについては、所得税法33条1項が、「譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。」と規定しています。

ビットコイン等の仮想通貨の取引に関しては、ある人が、仮想通貨を相対で売却したり、または、経済的価値のある物と交換(交換対象が仮想通貨の場合もあれば、そうでない場合もあるでしょう)することがあります。仮想通貨を売却や交換等の方法で譲渡した人は、その対価としての経済的価値を取得するのですから、譲渡によって得られた所得は、仮想通貨という「資産」を「譲渡」したとして、譲渡所得に該当すると考えるのが素直な解釈とも思えます。

では、国税庁は、なぜ譲渡所得ではなく、原則として雑所得(例外的に事業所得)と判断しているのでしょうか。国税庁のウェブサイト等では、この点について明確に説明しているものは見当たりませんでしたが、おそらく、仮想通貨は、譲渡の対象となる「資産」ではなく、決済手段であると考えているからだと思います。すなわち、一般に、外貨の為替取引を行い、差損が生じた場合には譲渡所得ではなく雑所得として処理するものとされていますが、これは、通貨という決済手段に関する取引であり、所得税法が譲渡所得として予定している「資産」の「譲渡」には性質的に該当しないとの考え方が存在するものと考えられます。仮想通貨についても、資金決済に関する法律でその内容が定義されるといったことからも、有価証券等の資産としての性格より通貨等の決済手段としての色彩が強いという判断が背後にあるものと考えられます。

もちろん、国税庁の考え方が、法律(ここでは所得税法)の解釈のあり方として、常に正しいわけではありませんので、この点について、裁判所で争われた場合に、譲渡所得に該当すると判断される可能性を否定するものではありませんが、譲渡所得の根本的な考え方に関連する興味深い議論であると思います。

                                                  以上

(文責:藤井宣行)

2018年07月19日 09:25|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

「固定残業代」に関連する判例(最高裁平成29年7月7日小法廷判決)の紹介

今回は、「固定残業代」に関連する判例として、最高裁平成29年7月7日小法廷判決を紹介します。

 

1 概説

経営者の方々から、「割増賃金を、予め固定額で基本給や諸手当に含める方法で支払うことに問題はありませんか。」という相談が寄せられることがあります。今回紹介する判例は、時間外労働に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意をしていた医師が、時間外労働に対する割増賃金並びにこれに係る付加金の支払等を求めた事案です。

 

本判決は、
①通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できること、
②その上で、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額の額を下回らない場合には、
労働基準法37条に定める割増賃金の支払いがされたと認められる旨示しました。
(当然、①の通常の労働時間に対応する賃金部分が最低賃金を下回らないことも必要となります。)

 

経営者の方々としては、本件のように、「時間外労働に対する割増賃金を年俸に含める」という合意をしていたからといって安心できないという点に注意が必要です。

 

それでは、固定残業代の制度を導入する場合、具体的にどのような定めをおけばよいのでしょうか。以下、参考になる条項案を示します。

 

第●条(固定残業手当)
A:基本給には、第〇条に定める時間外勤務手当の●時間相当分(割増賃金計算の基礎となる時給単価×1.25×●)が含まれるものとする。
B:基本給のうち、●万円を、第〇条に定める時間外勤務手当として支給する。

 

この規定は、基本給に固定残業代を含める場合の規定です。
Aのように時間を表示するパターン、Bのように額を表示するパターンが考えられます。

 

 

第●条(固定残業手当)
・□□手当は、第〇条に定める時間外勤務手当の●時間相当分(割増賃金計算の基礎となる時給単価×1.25×●)が含まれるものとする。
・□□手当は、その全額を第〇条に定める時間外勤務手当として支給する。

 

この規定は、固定残業代を「業務手当」等の名目で基本給とは別途支給する場合の規定です。同じく、時間を表示するパターン、額を表示するパターンが考えられます。

 

 

第●条(固定残業手当)
1 従業員には時間外勤務手当の支払いに充てるものとして毎月定額の固定残業手当を支給することがある。
2 会社が固定残業手当を支給するときは、1ヶ月の時間外勤務手当の金額が固定残業手当の金額を超えた場合に限り、超過額を別に支給する。また、深夜割増賃金、休日割増賃金が発生したときは、固定残業手当と別にこれを支給する。

 

この規定は、従業員によって固定残業代が異なる場合に用いる規定です。
固定残業手当として支給する場合のルールを明確に規定しています。

 

判例によると、このような規定を設けた上で、給与明細を確認したときに、通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できることが必要とされています。したがって、タイムカード等による労働時間の管理が必要となることは当然の前提となります。

 

それでは、判例の紹介に移ります。

 

2 事案の概要
医師であるXは、医療法人Yに雇用されており、その年俸は1700万円とされていました。XY間の雇用契約においては、時間外勤務に対する給与はYの医師時間外勤務給与規程(以下「本件時間外規程」といいます。)の定めによるとされており、本件時間外規程は、時間外手当の対象となる業務は、原則として、病院収入に直接貢献する業務又は必要不可欠な緊急業務に限ること、通常業務の延長とみなされる時間外業務は、時間外手当の対象とならないこと等を定めていました。また、XY間の雇用契約においては、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については、年俸に含まれることが合意されていましたが、その年俸のうち、いくらが時間外労働等に対する割増賃金に当たるのかは明らかにされていませんでした。

 

本件は、Yから解雇処分を受けたXが、解雇の無効を争うとともに、時間外労働等に対する割増賃金並びにこれに係る付加金の支払等を求めた事案です。以下、本記事においては、割増賃金の部分についてのみ述べます。

 

3 争点
時間外割増賃金が年俸に含まれているか否か(年俸の支払いによって時間外労働等に対する割増賃金が支払われたと言えるか。)。

 

4 裁判所の判断
まず、割増賃金を予め基本給等に含めて支払うという方法自体について、労働基準法37条は、労働基準法37条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定(以下「労働基準法37条等」という。)に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまると解され、労働者に支払われる基本給や諸手当(以下「基本給等」という。)にあらかじめ含める方法により割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではない、と述べ、その方法自体を直ちに違法とは判断しませんでした。

 

もっとも、他方、割増賃金を予め基本給等に含める方法で支払う場合において、使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、その判断の前提として、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である、としました。

 

その上で、上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等により定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである、としました。

 

そして、本件においては、XとYの間に、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については、年俸1700万円に含まれるという合意があったものの、このうち時間外労働に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったことから、Xに支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない、したがって、年俸の支払いによってXの時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできない、としました。

 

5 本判決について
(1) 使用者が時間外・休日労働の規定(労働基準法33条1項2項・36条)によって労働時間を延長し、もしくは休日に労働させた場合、または午後10時から午前5時までの間の深夜に労働させた場合においては、その時間またはその日の労働については、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額に一定の割増率を乗じた割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条)(菅野和夫「労働法[第11版補正版]」492頁~493頁)。

 

(2) もっとも、割増賃金の規定が使用者に命じているのは、時間外・休日・深夜労働に対し同規定の基準を満たす一定額以上の割増賃金を支払うことであるので、そのような額の割増賃金が支払われる限りは、法所定の計算方法をそのまま用いなくてもよいとされています。(菅野和夫「労働法[第11版補正版]」498頁)

 

実務でも、法所定の計算方法をそのまま用いずに割増賃金について「固定残業代」として支払う方法が採用される場合があります。固定残業代としては、①時間外労働等に対して定額の手当を支給する定額手当制と、②基本給の中に割増賃金を組み込んで支給する定額給制の方法が考えられます。この点については、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない場合には、労働基準法37条違反とならない」とされていることから(昭和24年1月28日基収3947号)、割増賃金不払いの法違反も成立しないこととなります。

 

そして、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない」か否かを判断するためには、①であれば、基本給と割増賃金に相当する部分を、②であれば、定額給のうち割増賃金に相当する部分とそれ以外の部分を明確に区別しておかなければならないとされています。さらに、①②とも、割増賃金に相当する額が、労働基準法37条所定の計算方法に基づく割増賃金を満たしている必要があります。

 

(3) また、年俸制と割増賃金との関係については、「年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであって、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができ、かつ、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上支払われている場合は、労働基準法第37条に違反しない」とされています(平成12年3月8日基収第78号)。

 

(4) 本判決で示された内容は、本判決が引用する過去の最高裁判例(最二小判平成6年6月13日、最一小判平成24年3月8日、最三小判平成29年2月28日)において明らかにされてきた理解に沿うものです。また、本判決の特徴としては、労働者の労働の特徴や高額の報酬額を問題とせずに、専ら、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができるか、という観点から年俸の中に時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が含まれていたかを判断している点が挙げられるとされています。

 

このように、割増賃金について、労働基準法37条所定の計算によらずに固定残業代として支払うことが許されるか、という問題については最高裁として上記の一定の基準が示されていることが認められます。

 

今後、固定残業代の制度を導入する場合には、本判決及び本判決が引用する最高裁判例が示す基準、すなわち、①通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できること、②その上で、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額の額を下回らないかを検討して、労働基準法37条に定める割増賃金の支払いがされたといえるか否かを判断する、という基準にご留意頂く必要があります。

 

(文責:三村雅一)

2018年04月13日 11:44|カテゴリー:企業法務, 未分類コメントはまだありません

定型約款に関する民法改正(3)

これまで2回にわたって定型約款に関する民法改正について紹介してきました。今回が最終回になります。

 

1 定型約款の内容の表示(第548条の3)

 

前回紹介したように、改正民法は、第548条の2第1項で、定型約款が契約内容となるための要件として、①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、②定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき、と規定しています。このように、改正民法は、原則として定型約款を契約内容とするための要件として、定型約款の内容の開示を求めていません。

もっとも、定型約款を用いた取引を行う場合、定型約款を示される相手方としては、契約の内容となる約款の内容を知っておかなければ不安であることから、実務上は、契約前に約款の内容が示されることが通常であると考えられます。

改正民法第548条の3は、この約款内容の開示に関し、(1)定型約款準備者から約款の内容について任意の開示がされていない場合に開示を求めることができるのか、(2)定型取引合意前に約款の内容が開示されなかった場合にまで定型約款が契約内容となるのか、といった点について定めた規定です。

 

(1)について

まず、第548条の3は、第1項で、定型約款準備者の相手方に対する定型約款の内容に関する開示義務を定めています。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、改めて開示する必要はありません。

 

(2)について

次に、同条第2項は、「定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。」として、定型約款準備者が契約締結前に正当な理由なく第1項の開示請求を拒んだ場合には、定型約款は契約内容とならない旨定めています。

また、同じく定型約款準備者が第1項に定める開示義務に違反した場合には、相手方に対し、それによって被った損害の賠償義務を負うことになります。

 

なお、本条に定める開示をもって、重要な約款事項について信義則上の情報提供義務・説明義務を果たしたことにはならない点には注意が必要です。

 

本条第2項で、開示義務に違反した場合には定型約款が契約内容とならないとされていること、また、開示義務に違反したことによる損害賠償義務を負いうること、さらに、第548条の2の第1項第2号において、予め定型約款の内容を開示していたときには定型約款が契約内容となるとみなされることに照らせば、実務的には事前に定型約款を契約の内容とする旨を相手方に示すとともに、定型約款の内容を記載した書面等を相手方に交付しておくべきであると考えられます(第一東京弁護士会 司法制度調査委員会編 「改正債権法の逐条解説」262頁参照)。

 

2 定型約款の変更

 

定型約款により契約が成立した後に内容を変更する必要が生じた場合について定めているのが第548条の4です。

 

本来、一度成立した契約の内容を変更するためには、相手方の同意が必要であるのが原則です。もっとも、定款取引は不特定多数の相手方を対象としていることが多く、個別の同意を得ることは現実的に不可能です。

 

この点について、約款変更の要件に関する明確な規定や運用が定まっていなかったため、改正民法第548条の4は、(1)定型約款に基づく契約を締結した後に定型約款準備者が約款の内容を変更するための要件、(2)その際の手続等について明らかにする規定になっています。

 

(1)約款変更の要件について

①定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき

②定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

には、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなされます。

 

②の要件を満たすか否かの判断の際の考慮要素として挙げられている事情についてはあくまで例示列挙であり、これ以外にも、例えば、相手方に解除権の付与など、相手方が被る不利益を軽減する措置が講じられているか否かといった事情も考慮要素となります。

 

なお、[定型約款中に、「定款を変更することができる」旨の定めがあること]については、約款変更のための要件ではありませんが、これも上記考慮要素の一つとされていることから、定型約款を作成する際には、定型約款中に、「定款を変更することができる」旨の定めを置くことをおすすめします。

 

(2)約款変更の際の手続について

本条2項では、定型約款準備者は、定型約款の変更をするときは、

①約款変更の効力発生時期を定め、かつ

②定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知する

必要があります。

 

本条3項では、(1)②の方法による変更の場合、すなわち、定型約款の変更が相手方の利益に適合するという判断に基づく場合ではなく、合理性の基準を満たすという判断に基づく場合については、効力発生時期までに上記周知をしなければ変更の効力を生じないとされています。

 

なお、周知→効力発生という手続を踏まなければならないことは規定されているものの、周知から効力発生までにどの程度の時間を置けばよいのかについては具体的に定められていません。この点については、周知という手続が、定款の変更によって不利益を受ける相手方を保護するための手続である以上、不利益への対抗措置を講じるのに十分な時間か否かが判断基準とされると考えられます。

 

最後に、本条4項においては、第548条の2第2項のみなし合意除外規定を適用しない旨確認的に規定されています。これは、定型約款変更の有効性に関する本条1項1号及び2号における判断は、第548条の2第2項の判断よりも慎重かつ厳格に行われるものであることを理由とするものです。

 

3 改正民法施行日前の契約について

改正民法施行日以後の定型取引については、改正民法が適用されます。

この点、附則第33条第1項本文は、改正民法の施行日前に締結された定型取引にかかる契約についても、定型約款に関する改正民法の規定が適用される旨定めています。ただし、附則第33条第1項ただし書は、旧法の規定によって生じた効力を妨げないと規定していることから、旧法のもとで有効なものとされていた約款条項が改正民法の定型約款に関する規定によって無効なものとされることはありません。また、施行日前に、相手方から反対の意思が書面・電磁的記録によって示された場合には、附則第33条第1項は適用されません(附則第33条第2項、第3項)。

 

以上

2018年03月20日 17:16|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

定型約款に関する民法改正(1)

皆様は、携帯電話や旅行、保険の契約の際など、細かい文字でびっしりと記載された約款をご覧になられたことがあるかと思います。このように、現代社会においては、多くの場面で事業者側が作成した約款に基づく取引が行われています。

 

一般的に、こういった約款を使用した取引では、約款を示された側において、契約前にその約款の条項の内容全てについて説明を受けることは極めて稀であり、条項の内容を認識しないままに契約を締結してしまうということが多々あります。私自身、弁護士という仕事をしていますが、業務以外で約款を全て読んだことなどありません。

 

さて、私も含めてになりますが、契約前に約款について十分な検討をしないことによって、契約を締結した後に、「そんな条項が約款にあったのは知らなかった。」という形で、認識していなかった約款の条項に関するトラブルが発生することがあります。

 

そこで今回のブログでは、平成29年5月26日に成立した、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)(同年6月2日公布)において、新たに設けられることとなった「定型約款」に関する規定について紹介します。なお、今回の改正は、一部の規定を除き、平成32年(2020年)4月1日から施行されます。(用語について、施行前であることから、改正前の民法を「現行民法」、改正後の民法を「改正民法」と呼ぶことにします。)

 

まず、現行民法には、約款に関する規定は存在しません。もっとも、原則として、約款の内容について同意があった場合(保険契約において、「約款の内容について同意します」という欄にチェックを入れる場合や、オンライン契約の際に、まず約款の確認を求められ、「同意しました」のボックスについてクリックを求められる場合など。)には約款の内容についても契約の内容となる、というのが一般的な解釈でしょう。この点、約款に記載された内容が契約内容となるかが争われた裁判例においても、「保険加入者は反証のない限り約款の内容による意思で契約をしたものと推定すべきである」と判示した裁判例(大審院大正4年12月24日判決)が存在します。もっとも、当事者が約款に記載された条項について認識していなかった場合に、同条項について、「合意の対象になっているものとは言いがたく、これに当事者を拘束する効力を認めることは相当でない。」旨判示した裁判例(山口地裁昭和62年5月21日判決)も存在するなど、約款の拘束力の根拠について議論されたり、約款に関するルールについてより明確なものとすべきであるとの要請が高まっていました。

 

そこで、今回の民法改正においては、約款を用いた取引におけるルールを明確化すべく、定型約款に関する規定が新設されました。

 

具体的には、改正民法では、第548条の2において、約款の定義、約款に含まれる個別の条項が契約内容とされるための要件を、第548条の3において、約款の内容の表示義務及び同義務に違反した場合の効果を、第548条の4において約款内容の変更のための要件を定めています。

 

事業者の皆様の中には、改正民法第548条の2~同条の4の対象となる「定型約款」を用いた取引を行っている方もが多くおられます。この点、定型約款に関する改正民法は、改正法施行日以後の定型取引だけでなく、改正民法施行日前に締結された定型取引にも適用される旨を定めています(改正民法附則第33条第1項)。したがって、実務に与える影響は決して小さいものではなく、皆様にも知っておいて頂く必要性が高いものであると考え、紹介させて頂きました。

 

なお、改正民法第548条の2~同条の4の詳細については、今後随時アップさせて頂く予定にしております。また、当事務所では、実務に与える影響が大きいと思われる改正を中心に、改正民法に関するセミナーを開催する予定にしておりますので、この点についても詳細が決まり次第アップさせて頂きます。

 

参考文献:「新旧対象でわかる 改正債権法の逐条解説」(第一東京弁護士会 司法制度調査委員会 編)、「実務解説 改正債権法」(日本弁護士連合会 編)

2018年01月24日 12:29|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

株式譲渡契約に関する注意点(1)

前回のブログでは、株式譲渡契約における価格調整条項の内容に関する裁判例を紹介し、株式譲渡価格決定の基礎となる対象会社の財産状況が試算された日(基準日)から実際の株式譲渡の日までの間に時間的間隔がある場合に注意すべき点について説明をしました。

もっとも、株式譲渡契約においては、その他にも注意すべき点が多々存在するため、その注意点について説明をしたいと思います。

 

1 譲渡の合意

株式譲渡契約とは、株式の売買契約を意味します。そこで、まずは、目的物となる株式を特定し、その所有権の移転を約するとともに、その対価である代金を定める必要があります。

 

(1)株式の特定

譲渡の対象となる株式を明確に特定する必要があります。

一般的に、発行会社、株式の種類及び数で特定します。

なお、対象会社が株券発行会社の場合には、株券番号によっても特定を行う方法が考えられます。

 

(2)譲渡価格

譲渡価格の算定方法には様々な方法があるものの、株式譲渡契約書には、当事者間で合意した価格を記載します。

もっとも、株式譲渡契約の締結から実際に株式譲渡が行われる日までの間に時間的間隔がある場合には、両時点において対象会社の価値が変動する場合があります。

そのため、事後的に価格調整を行うための価格調整条項を設けることが考えられます。但し、前回のブログで紹介した裁判例のように、価格調整条項を設けていたとしても、どの範囲の変動が価格調整の対象になるのか、ということが争われることがあるため、この点についても事前により明確に定めておくことが望ましいと考えます。

 

上記売買契約の一般的な内容に加え、株式譲渡によってある企業の株式を取得するということは、その企業そのものを取得するという側面があるため、通常の売買契約とは異なる視点で注意をしなければならない点がありますので、以下、説明します。

 

2 株式の譲渡と譲渡代金の支払い

 

(1)譲渡日に加え、時間や場所等について定めることが考えられます。

 

(2)同時履行の確保

対象会社の株式の移転と、対価である代金の支払いとは、同時履行の関係にあるのが原則であり(民法533条)、この原則に従って、契約と同時に株式は移転し、対価の支払義務が生じることとなります。

そのため、株式の移転に必要な書類交付の履行時期と、代金の支払時期や条件を明確にすることが考えられます。

 

(3)株式譲渡に要する手続

株式譲渡に必要な会社法上の手続は、①対象会社が株券発行会社か否か、②当該株式が譲渡制限株式であるか否かによって異なります。

 

①まず、対象会社が株券発行会社である場合、株券の交付が株式譲渡の効力発生要件であるため(会社法128条1項)、株券の交付が必要となります。したがって、株券が発行されていない場合には、株券を発行してもらい交付を受けることとなります。もっとも、株券を所持することで喪失する危険性があるため、譲受人から会社に対して株券不所持の申し出(会社法217条1項)を行うことが考えられます。

次に、株主名簿の書換えが会社に対する対抗要件として必要となります(会社法130条1項、2項)。

一方、対象会社が株券不発行会社である場合、株券の交付は必要とされませんが、会社その他の第三者に対する対抗要件として株式名簿の書換えが必要となります(会社法第130条1項)。

 

②当該株式が譲渡制限株式である場合、対象株式を譲渡するためには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければなりません(会社法139条1項)。もっとも、定款に別の定めがある場合(会社法139条1項但書)もあるため、対象会社の譲渡承認機関については定款または登記簿謄本確認が必要です。

 

上記①②の内容によって、株式の所有権の移転に必要とされる資料や手続が異なることから、契約の際には注意が必要となります。

 

 

次回も引き続き、株式譲渡契約に関する注意点について説明をします。

 

(文責:三村雅一)

2017年10月29日 14:47|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

株式譲渡契約に関する判例の紹介

ベンチャー法務の部屋、第2回ブログでは「株式譲渡契約」に関連する判例として、東京地裁平成28年6月3日判決を紹介します。

 

1 事案の概要

X株式会社が、YからYの所有する株式会社Aの発行済全株式を譲り受ける旨の契約を締結しました。同契約においては、①Aの純資産が基準日現在の純資産と比較して増加または減少した場合には、譲渡価格から増減分を調整し、精算を行うこと、②Yは、Aに簿外債務及び偶発性債務が存在しないことを表明保証し、仮に同表明及び保証が正確でなかったことによりXに損害が発生した場合には、その損害を賠償し、又は譲渡価格の変更に応じること、が合意されていました。

その後、株式譲渡が実行されたが、実行後に、XがYに対し、株式譲渡実行前における、Aの純資産額が変動したこと及び簿外債務の存在が判明したことから、株式譲渡契約上の価格調整条項(上記①)に基づく譲渡価格の減額及びYの表明保証違反に基づく損害賠償(上記②)を求めた事案です。

 

2 争点

株式譲渡契約上の価格調整条項に基づく譲渡価格の減額の当否

 

3 裁判所の判断

上記争点においては、不動産について、譲渡価格の調整に際して考慮すべき資産となるか否かが争われたところ(不動産以外の点については、積極的に争われませんでした。)、裁判所は、「株式譲渡契約において、譲渡代金を精算する旨の条項が設けられる趣旨は譲渡価格決定の基礎となる対象会社の財産状況が試算された日(基準日)から実際の株式譲渡の日までの間に、対象会社の流動資産自体又はその評価に変動が生じる可能性があることを考慮してのものであると解される」とし、「不動産は、固定資産であって、基準日から譲渡日までの間という比較的短期間(本件では約1ヶ月半)であれば、かかる変動が生じる可能性は低いというべきであるから、精算金の額を計算するに際して考慮するべき資産とはならない」と判示しました。

 

4 本判決について

本判決が述べるように、本件のような価格調整条項が設けられる趣旨は、譲渡価格決定の基礎となる対象会社の財産状況が試算された日(基準日)から実際の株式譲渡の日までの間に時間的間隔が生じる場合には、その間に対象会社の資産・負債額が変動する可能性がある点にあります。

もっとも、どの範囲の変動が価格調整の対象になるのか、という点が、本件裁判で争われた主な内容でした。

本件では、問題となった不動産の評価額が譲渡価格の決定にあたって当事者間で合意されていたこと、基準貸借対照表において、評価額の変動が生じる可能性がある項目については事前に印を付していたこと、基準日から株式譲渡日までの期間が比較的短期間であったこと(約1ヶ月半)といった事実関係から、同不動産を譲渡価格の調整に際して考慮すべき資産とはならないと判示しました。

このように、本判決は、上記の個別事情を前提とした事例判断ではあるものの、株式譲渡契約において、譲渡価格決定の基礎となる対象会社の財産状況が試算された日(基準日)から実際の株式譲渡の日までの間に時間的間隔が生じる場合の紛争予防の観点から参考になる判例であると考えます。

 

 

次回は、本判決の内容も踏まえて、株式譲渡契約の際の注意点について検討します。

(文責:三村雅一)

2017年10月19日 10:55|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

お知らせ「Startup Engine 2014」の開催

今年も、昨年に引き続き、起業家やそれをサポートする方々を対象とした『スタートアップエンジン2014』を開催することになりました。今年の場所は、昨今ベンチャー界隈でホットな、大阪イノベーションハブ(グランフロント大阪 ナレッジキャピタルタワーC 7階)です!

今回は、
   イー・ガーディアン株式会社 代表取締役社長 高谷 康久 様、
   株式会社サイバーエージェント 人事本部 全社人事部長 武田 丈宏 様、
のご講演のほか、
   一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会会長 安達 俊久 様
   イー・ガーディアン株式会社 代表取締役社長 高谷 康久 様
   有限責任 あずさ監査法人 パートナー/公認会計士 三宅 潔 様
   株式会社東京証券取引所 執行役員(上場推進担当) 村田 雅幸 様、
という豪華ラインナップで、株式上場の最前線をテーマに、パネルディスカッションをする予定です。

また、イベントの後には、ネットワーキングディナーを開催する予定です。
概要は、こちらからご覧いただけます。

【日 時】 2014年6月13日(金) 13:30~17:30
【会 場】大阪イノベーションハブ(グランフロント大阪 ナレッジキャピタルタワーC 7階) 案内図(PDF)
【参加費】 一般:4,000円(税込) 学生は50名先着で無料!
【ウェブページ】 http://startup-engine.com/event/663
【ネットワーキングディナー】 夜6時から、開催予定(参加費2,000円)(先着40名様)

お申し込みは、こちらからお願いします。

起業について関心のある方、企業内部で新しいことに挑戦する方、ベンチャー企業への 就職や転職を考えたことのある方、ベンチャー・キャピタル等の投資家の方、証券会社等の金融機関で上場やバイアウトを担当されている方、中小企業・ベン チャー企業のサポートをしているプロフェッショナルの方など、多くの方のご参加をお待ちしています。

2014年05月20日 20:15|カテゴリー:未分類コメントはまだありません