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ベンチャー法務の部屋

裁判手続等のIT化とODR

いま、日本の裁判手続は急速にIT化に向けた動きが進んでいます。
これまでの、そして今の日本の訴訟手続は、紙とファックスが中心です。

日本のIT化の現状に即して考えても、紙とファックスは、不合理な側面が否めず、同時にセキュリティの観点からも脆弱であると言わざるを得ません。

弁護士がmicrosoft word等のソフトで電子的に作成した書面を、一度プリントアウトして、紙面に押印し、その後、ファックス送信して、それをさらに裁判所でプリントアウトしたものをファイリングするという、どう考えても不効率なことを今も続けているのが民事裁判の現実です。その後、裁判所が、判決を書くのに電子データがほしいといって、データの入ったCD等を裁判所に届けさせるというのは、どう考えても愚かしいとしか思えません。
また、ファックスは、数字10桁程度の送信先の指定方法で、暗号化もパスワードによる保護もされていない状態で、電子情報を送信するという前時代的な方法です。このようなセキュアではない方法は、裁判に関する秘匿すべき要請の高い情報のやり取りとして適切かというと、かなり疑問な面があります。また、送信されたデータにはパスワードが付されていませんので、誤送信すると、その時点で取り返しがつきません。

以上の理由がどれだけ意識されているのかはわかりませんが、日本でも、ようやく「世界的に見て日本の裁判手続のIT化は遅れている。紛争解決インフラの国際的競争力強化、裁判に関わる事務負担の合理化、費用対効果の総合的観点からも推進すべき」という問題意識から、3つのeが推進されることになりました。

この流れに関する情報は、首相官邸のウェブページにあり、上記の問題意識は、『裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて』に記されています。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/index.html

『裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて』
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/pdf/report.pdf

3つのeとは、e提出:e-Filing、e法廷:e-Court、e事件管理:e-Case Managementです。これらの詳細について詳しく知りたい方は、上記の「取りまとめ」をご確認下さい。

このうち、まず最初に、現行法で可能な範囲で、具体的には、書面による準備手続を活用して、テレビ会議システム(具体的には、Skype等)を利用して、争点整理の充実化を図ることが検討されています。

日本弁護士連合会は、この「取りまとめ」の内容に対し、どのような意見を形成すべきか、検討するために、関連委員会及び単位会に対して、意見照会がなされました。大阪弁護士会でも、短期間で意見を取りまとめて、提出しました(私も、関わらせていただいています。)。勿論、大阪弁護士会内部でも、結論が形成できていない論点も多くあり、両論併記で残っている部分があります。

個人的には、e-Courtよりも、先にe-Filingやe-Case Managementを推進してほしいところであり、とはいえe-Case Managementは開発業務に相当時間とコストを要すると思われる為、e-Filingから進めてほしいと考えています。また、もしe-Courtを進めるのであれば、まず、無駄な期日や作業、移動時間を減らすために、柔軟に手続を選択して、両当事者が裁判所に来なくても、論点整理できそうな場合は、どんどん書面による準備手続等を活用する等して、論点整理を進めてほしいと思います。あと、保全手続や保全異議審の一部など、代理人と裁判所で話が進むような手続も、ウェブ会議を積極的に活用してほしいと思います。
一方、証人尋問は、入院患者が証人になるような場合は例外的に活用できるようにするのは肯定するとしても、原則として法廷で行うということは、裁判の公開の原則にも適っていますので、e-Courtに最もなじみにくい場面だと考えます。

いずれにせよ、裁判手続等のIT化の流れはここ数年に大きく加速することが予想されます。要注目です。

加えて、IT化が進められそうなのは、裁判手続だけではありません。ADR(Alternative Dispute Resolution)と呼ばれる裁判外の紛争解決手続も、オンライン化の流れにあります。

今年の9月21日に、ODR(Online Dispute Resolution)に関するシンポジウムが東京で開催されました。
http://www.law.hit-u.ac.jp/content/images/bl/symposium/180921onlinedisputeresolution.pdf

一橋大学法学研究科 渡邊真由先生のプレゼン資料(2018/07/27, 日本ADR協会)は、こちらです。
https://japan-adr.or.jp/sympo2018docs/7.pdf

世の中には、少額のオンラインでのCtoCのトラブル(ネット・オークションでのトラブル)や、リアルでも数万円から数十万円前後の金銭等のトラブル(賃金不払い、貸金未返済など)は少なくありませんが、裁判所が充分な紛争解決手段を提供できているとはいえず、弁護士を始めとするプロフェッショナルも、費用対効果が良くないこと等を理由に積極的に取り組んできませんでした。

米国では、eBayやPayPal等の民間企業が、人間の関与をほとんどなくして、システムだけで解決できるような紛争解決システムを提供し、高い割合で活用されているようであり、日本でも、今後、発展が期待され、同時に、押し進められるべき分野であるように感じます。

こちらもここ数年で急速に進化する可能性があり、目が離せません。

(文責:森理俊)

2018年10月01日 10:50|カテゴリー:法務関連ニュースコメントはまだありません

金融商品取引法の緊急差止命令


最新の判例時報平成23年4月21日号(No.2104)130頁以下に、金融商品取引法192条1項に基づき、金融商品取引法違反行為の差止めが命じられた事例(東京地裁平成22年11月26日決定)が掲載されています。

この事例は、「抜かずの宝刀」が抜かれたとして、話題になりました。

金融商品取引法192条1項とは、次のようなものです。

金融商品取引法
(裁判所の禁止又は停止命令)
第百九十二条  裁判所は、緊急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣の申立てにより、この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる。
2  裁判所は、前項の規定により発した命令を取り消し、又は変更することができる。
3  前二項の事件は、被申立人の住所地の地方裁判所の管轄とする。
4  第一項及び第二項の裁判については、非訟事件手続法 (明治三十一年法律第十四号)の定めるところによる。

この条文を読むと、金融商品取引法違反や同法に基づく命令違反の行為は、全て対象となるように読めます。政府が緊急性があり、且つ必要性及び相当性があると判断すれば、いつでも申し立てることができ、さらには、審理も短期間で行われることが想定されていると考えられますので、運用には非常に慎重で謙抑的であったと考えられます。

本件は、同法の緊急差止命令が発令された初めての事例ということで、注目を集めました。
本件では、「一種免許なく、募集又は私募の取扱い」→「財務局からの照会」→「金商法違反に該当する行為をしていたことを認める旨の回答」→「警告書」→「当該行為を中止する旨の回答」→「金商法違反の勧誘行為の継続」という流れの結果、緊急差止命令の申立てにいたったようです。

緊急差止命令の相手方となるケースは、非常に稀と考えますので、その意味では、本件は、例外的な事件と言えるかもしれません。
しかし、本件は、どのような事例が「募集又は私募の取扱い」に該当するかの参考事例とも言えます。

本件では、相手方は、ある会社の株式等の取得の申込みの勧誘行為を行うことを引き受けて、一般投資家に対し勧誘・斡旋をし、実際に制約した場合には、発行会社から手数料として出資金の払込価額の3分の1の支払いを受ける旨合意した上で、一般投資家に同社の株式等の取得の斡旋・勧誘を行ったようです。その結果、一般投資家延べ112名が、同社に対して直接又は相手方を経由して、合計9885万円の出資金の払込みを行ったようです。また、この発行会社以外にも、少なくとも4社の株式についても勧誘行為を繰り返していたようです。

この事案は、「私募」どころか「募集」に該当している可能性が十分あり、発行会社の方も問題となりそうな事案です。また、「私募の取扱い」を業として行うことは、第一種金融商品取引業の免許が必要です。なお、「業として」の判断については、裁判所の決定では、「反復継続して」とありますので、営利性より、反復継続性が重要な要素となっているようです。

株式や新株予約権を発行して、資金を集めようとする会社は、「募集」に該当しないかの検討を十分にしていただきたいですし、自社の株主となるように勧誘する行為を、証券会社ではない第三者に依頼すると、その第三者は、「募集又は私募の取扱い」に該当する可能性があるということを、よく理解していただきたいです。「募集」と「私募」の要件及び効果の違い、「募集又は私募の取扱い」の該当性は、実行前に、弁護士に相談することをお勧めします。

2011年04月27日 06:30|カテゴリー:企業法務, 法務関連ニュースコメントはまだありません

お知らせ「Startup Engine 2011」の開催

大変、ご無沙汰しております。諸事情により、更新が滞っておりました。

今日は、5月20日に開催予定の「Startup Engine 2011」というイベントについてのお知らせです。

来る5月20日の午後1時から、大阪中之島の国際会議場にて、「Startup Engine 2011」というイベントを開催させていただきます。

関西では、ベンチャーや起業に関連したイベントが少なくなりつつあるという話を聞き、全くの手弁当で、友人知人に声をかけて、志に賛同してくださる方々と立ち上げたイベントです。

今こそ、関西が頑張るべき時であるという声は少なくありません。関西は、古代から江戸時代や近代にかけて、起業や金融という意味では、最先端の地でした。今も、高い技術や志を持つ方が大勢いらっしゃいます。また、商人の地、大阪だけではなく、伝統と新しい価値が融合する地、京都、先端技術の拠点を持つ古都奈良、新しい文化とバイオベンチャー等のシードも多い神戸等、素晴らしい土地が近接しているという地の利があります。一方で、ここ数年、「最近の関西・大阪は元気がない」という言葉を聞くことも少なくありませんでした。

そこで、微力ながらも、関西でも、起業家精神とそれを支えるネットワークを構築するため、そして、その土壌を耕し続けるため、志を同じくする人と一緒に、関西、そして日本が、新しい産業のエンジンとなることを祈念して、「Startup Engine 2011」というイベントを開催させていただく運びとなりました。

新進気鋭の素晴らしいスピーカーに、お話をいただけることになっております。
僭越ながら、私も最後にお話をさせていただく機会を設けさせていただいています。

【日 時】 2011年5月20日(金)13:00〜17:30
【会 場】 大阪国際会議場
【後援・協力】 [後援]大阪証券取引所 [協力]株式会社 幕末
【セッション】
Session 1 ライフネット生命の挑戦

ライフネット生命保険株式会社 代表取締役副社長 岩瀬 大輔 様

Session 2 マイノリティのすすめ

日本マイクロソフト株式会社 コミュニケーションズ・セクター

クラウド・ソリューション営業部 統括部長 今井 早苗 様

Session 3 等身大の経営者が語るBuyout

株式会社オークファン 代表取締役 武永 修一 様
ジンガジャパン株式会社 ジェネラル・マネージャー 山田 進太郎 様
株式会社美人時計 専務取締役 早 剛史 様
株式会社アトランティス 代表取締役社長 CEO 木村 新司 様

Session 4 目指せ!Good to Great~起業を支えるプロフェッショナルの立場から~

アントレプレナーファクトリー 代表取締役嶋内秀之
武田公認会計士事務所 公認会計士武田雄治
山本・森・松尾法律事務所 弁護士森理俊

【参加費】 一般席:3,000円(税込)  学生席:1,000円(税込)
※学生席には限りがございます。
【ウェブページ】http://startup-engine.com/
【懇親会】 夜6時から、開催予定(参加費5000円)

お申し込みは、こちらからお願いいたします。

なお、夜6時からの懇親会には、スピーカーの方の中からも参加していただける予定です。

起業について関心のある方、企業内部で新しいことに挑戦する方、ベンチャー企業への就職や転職を考えたことのある方、ベンチャー・キャピタル等の投資家の方、証券会社等の金融機関で上場やバイアウトを担当されている方、中小企業・ベンチャー企業のサポートをしているプロフェッショナルの方など、多くの方のご参加をお待ちしています。

不可抗力について(震災に伴う法律上の問題)

今回は、大地震や津波により、契約上の義務を果たせなかった場合、責任を負うのか、という問題について、検討します。

契約上、不可抗力条項がある場合は、その規定に従うことになります。不可抗力条項が規定されている大抵の場合は、免責事由となっているはずです。

問題は、特約で不可抗力条項が定められていなかった場合です。

典型的なケースとしては、工場が津波により被害を受けたので、納品できなくなったというケースです(特に、契約書の取り交わしはなく、発注書と請書のみのやりとりだったという場合です。)。

このような場合でも、不可抗力であるとして、遅滞や履行できないこと(履行不能)については責任を負わないのが原則です(理論上、不特定物の提供義務を負っている場合は、市場で同種同等の物を調達し得る限り、捜索して提供する義務が発生しますが、他の保有者が発見できない場合や調達価額が不相当に高額な場合は、免責されるか、事情変更の原則の適用が検討され得る事案といえる可能性があります。)。

但し、このような原則の例外として、金銭債務(お金を支払う義務)があります。金銭債務の履行については、不可抗力は抗弁となりません(民法第419条第3項)。

民法
(金銭債務の特則)
第419条
1  金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2  前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3  第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

不可抗力により履行不能となった場合に、反対給付(典型的には売買契約における金銭の支払義務)が残るかという問題は、次に検討すべき課題となります。この問題を、危険負担といいます。危険負担については、後日、検討する予定です。

2011年03月24日 06:30|カテゴリー:企業法務, 法務関連ニュースコメントはまだありません

民事訴訟法上の真実擬制が認められた事例

2011年3月1日号の金融・商事判例No.1360の17頁には、貸金業者から取引履歴が破棄されているため開示されない場合において債務者の主張する当該期間の取引について民事訴訟法第224条第2項及び第3項に定める真実擬制が認められるか否かが争われた裁判例が掲載されています。


貸金業者からお金を借りた個人が、取引履歴により立証しようとした主張について、真実と認めることができるかを検討するに、「民事訴訟法224条3項は、裁判所は、その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができると規定しているのであって、相当の合理性があると認めることのできる主張であればともかく、いかなる主張であっても真実と認めなければならないものではない。」とした上で、当該案件については、原告の主張する推計値をもって一つのあり得る合理的な推測といえるのであって、相応の合理性を認めることができる・・・当裁判所は、原判決別紙1記載のとおりの取引が存在したものと真実擬制を認めるものである。
(平成22年12月15日東京高等裁判所第11民事部判決)


この真実擬制が適用されたケースがどの程度あるのか、調査できていませんが、応用範囲は広いものと考えます。

もちろん、この規定に頼って、訴訟を進めるのはリスクがあると考えますが、証拠収集上の困難がある事件については、頭の片隅においておくべき規定ではないでしょうか。

参考
民事訴訟法
(当事者が文書提出命令に従わない場合等の効果)
第224条
第1項  当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。
第2項  当事者が相手方の使用を妨げる目的で提出の義務がある文書を滅失させ、その他これを使用することができないようにしたときも、前項と同様とする。
第3項  前二項に規定する場合において、相手方が、当該文書の記載に関して具体的な主張をすること及び当該文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるときは、裁判所は、その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる。

2011年03月10日 06:30|カテゴリー:法務関連ニュースコメントはまだありません

法制審議会「会社法制部会」への企業側からの意見

昨年(平成22年)の会社法制部会の審議事項について、先月(2月)28日に、経済同友会から意見が出されていますので、紹介します。

法制審議会「会社法制部会」への意見

会社法制部会の内容については、こちらをご覧下さい。第4回から第6回あたりまでが、今回の経済同友会の意見の対象となっているトピックが議題となっています。

過去の関連記事は、「会社法改正の動向と株価算定事件についてのメモ」「昨今の会社法制に関する話題」等ですので、こちらも参考にしてください。

 企業経営者の立場で望むのは、経済関連の法制が結果として個々の企業が活性化、国際競争力を向上させ、ひいては日本経済全体の成長に貢献することである。過度な規制で、結果的に企業活動が萎縮するようなことがあってはならない。

 こうした観点からすると、現在、法制審議会「会社法制部会」(以下「部会」)で検討されている項目は、本当に今現在、法改正まですべき切迫した事情(いわゆる立法事実)があるのか、疑問に感じるものが多い。もし今回の会社法見直しの発端に、「会社法で規制緩和が行き過ぎ、企業の規律が失われ、不祥事や違法・脱法行為が増えた」といった認識があるのであれば、それは企業実務の実感とは明らかに異なるものである。金融商品取引法(以下「金商法」)や証券取引所規則はじめ、会社法以外で新たなルールが次々と設けられ、全体としては、企業に対する規律はむしろ増えているように感じる。ごく一部の違法・脱法行為者の事例を一般化して規制を強化しても、確信犯的に法の間隙を縫ってくる者を完全に防 ぐことは不可能であるし、また規制強化の結果、非常に煩雑な手続きを企業全体に課すことになれば、適正なガバナンスを構築し、法令を遵守している大多数の企業の負担増となり、むしろ、日本経済が全体として国際競争力を失う可能性が大である。

 また、部会では、諸外国にある制度を導入しようという志向も強いように見受けられる。しかしながら、一方で各国の会社法制は、その他の経済関連法制や税制、司法制度、更には雇用慣行、会社帰属意識その他の社会・文化的背景の下で設計され、機能しているものでもある。もちろん、経済のグローバル化が進む中、国際的ルールとの不整合により、日本企業が国際競争上不利となる事態は避けなければならないが、法律の一部分だけを単独で日本に移入しても、必ずしも意図通りに機能する保証はなく、それどころか弊害さえ招きかねない点もまた認識すべきである。

(公益社団法人経済同友会 平成22年2月28日「法制審議会「会社法制部会」への意見」1頁より)

経済同友会は、規制の対象となる会社の集団ですので、規制強化に反対という立場を採ることは容易に想像できますが、それを差し引いたとしても、真剣に耳を傾けるべき意見が少なくないように思います。特に、「特に株式市場で広く投資家から資金を集める上場企業では、社外取締役を少なくとも1名導入すべきであるし、さらには複数名導入することが望ましい。但し、社外取締役を、上場大企業から中小企業・個人企業までカバーする「会社法」で強制すべきかどうかは別次元の問題である。」(2頁)といった意見や、「何より、日本の産業構造転換と国際競争力強化、資本市場のダイナミズム向上の為には、特に大企業はスピンオフ(企業発ベンチャー)を推進し、国もこうした流れを支援すべきものである。だが、 日本では、従業員の会社への帰属意識の強さもあり、一挙に 100%全て外に出す訳にいかないことも多く、 まず 51%とか60%保有で上場し、投資家の信頼を得つつ、徐々に独立色を高めて、やがて完全分離することが現実的である。こうした流れのステップとして、親子上場は不可欠な選択肢である。」(6頁)といった意見は、現場の声として有用と考えます。

このような現場の意見を踏まえつつ、より議論が充実したものとなることを願っております。

2011年03月03日 06:30|カテゴリー:企業法務, 法務関連ニュースコメントはまだありません

先月の裁判例(2011年1月の裁判例)

先月(1月)26日に、東京地裁民事第8部において、株主総会決議不存在確認等請求事件で、決議不存在を認める判決がありました(商事法務No.1924 60頁)。

主な内容は、以下のとおりです。
(1)適法な議長不信任・議長交代の動議がないままに、議長を交代した後の取締役解任決議は、議長でない者によって採決が行われたことになり、不存在である。
(2)(1)の株主総会決議を追認する株主総会決議についても、適切ではない代表取締役によって招集手続きが行われた点には瑕疵があるものの、株主が1人であるところ、その1人株主が出席してなされたと考えられるため存在する。
(3)(2)の株主総会により追認決議が行われたとしても、(1)の株主総会が有効になるものではなく、その間の((1)で解任された取締役の)報酬請求権は、認める。
(4)(2)の株主総会の解任に正当な理由が無いとして、会社法339条2項に基づき損害賠償請求権を認める。

株主総会の決議不存在が認められるケースは、それほど多くありませんので、ご紹介します。

2011年02月28日 16:00|カテゴリー:企業法務, 法務関連ニュースコメントはまだありません

新株予約権無償割当て

今日は、新株予約権無償割当てというテーマについて考えます。

新株予約権無償割当てとは、会社法第277条に規定されている資金調達方法で、「株主(種類株式発行会社にあっては、ある種類の種類株主)に対して新たに払込みをさせない」新株予約権の割当てです。

要するに、現在の株主全員に各株主の保有株式数に応じて、無償で新株予約権をあげるスキームです。割当を受けた株主は、お金を払って新株式を引き受けるか、お金を払わないかを選択することができます。お金を払わないと、他の株主がお金を払って新株式を得ると、その分、持ち株比率が低下することになります。ご存知の方は、「株主割当増資」と近いのではないかと考えられると思いますが、その通りです。特に、旧商法では、全株主に新株引受権を付与するという発想が原則でしたので、これに近いといえるでしょう。

実は、今の会社法では、株主割当てと新株予約権無償割当ての両方の仕組みがあります。ただ、要件が少し違いますので、ケースに応じて、使い分けることになります。特に、新株予約権無償割当てには、(1)取締役会設置会社では取締役会のみで発行できる、(2)新株予約権なので、新株予約権の行使条件にアレンジを加えることができる、という2つの大きな特徴があります。

(1)の特徴は、取締役会設置会社の株主割当増資については、取締役会のみで発行しようとすると定款の定め(会社202条3項2号)が必要であるのに対し(但し、整備法76条3項に注意)、新株予約権無償割当ては、原則として取締役会という点であり、時に役立つ可能性があります。

(2)の特徴は、ブルドックソース事件で如何なく利用されましたので、覚えておられる方もいるのではないでしょうか。同事件では、全株主に1株につき3個の新株予約権が無償で割り当てられましたが、その新株予約権とは、行使条件において、スティール・パートナーズ関係者は行使できないというものであり、代わりに対価を払う内容のものでした。その適法性は、最高裁まで争われ、最高裁判所平成19年8月7日決定にて、「株主平等の原則の趣旨に反するものということはできない」「当該新株予約権無償割当てを著しく不公正な方法によるものということはできない」という結論がだされるに到りました。

余談ですが、この件では、双方とも無傷ではなく、特に、ブルドックソース側は、平成20年3月期の決算で、営業利益6 億7000万円に対し、当期純損失19億1200万円(イカリソースののれん代(5 億9 千4 百万円)を含む。)を計上しています。新株予約権の取得に伴う支払額は21億1400万円、公開買付の対応に伴う支払額は6億6900万円とのことであり、20億以上もの大金が費消されたことになります。

ところで、先月19日に、金融庁から「「金融庁・開示制度ワーキング・グループ報告」~ 新株予約権無償割当てによる増資(いわゆる「ライツ・オファリング」)に係る制度整備について ~」と題する報道発表がありました。


新株予約権無償割当てによる増資(いわゆる「ライツ・オファリング」)とは、「公募増資」、「第三者割当増資」と並んで、企業の増資手法の一つであり、株主全員に新株予約権を無償で割り当てることによる増資手法である。株主は割り当てられた新株予約権を行使して金銭を払い込み、株式を取得することができるが、新株予約権を行使せずに市場で売却することも可能である。したがって、持分比率の低下を嫌う株主は新株予約権の行使によりそれを回避でき、追加出資を嫌う株主は新株予約権の売却により追加負担を回避できるという特徴を有する。(引用終わり)


この政策の趣旨は、上場企業において、新株予約権無償割当てによる資金調達を容易にすることです。

これをきっかけに、上場企業では、株主割当増資ではなく、新株予約権無償割当てによる増資が増えるかもしれませんので、上場企業の財務担当者やPO担当者は、要チェックだと思います。

「公正な価格」についての判断に回帰分析の手法を用いられた裁判例


株価算定事件について、昨年10月に参考となる裁判例がありましたので、ご紹介します。


インテリジェンス株式買取価格決定申立事件抗告審決定
平成22年10月19日東京高裁決定平成22年(ラ)第798号(金融・商事判例No.1354,14頁、 商事法務No.1921,57頁)

回帰分析の手法は、一般的に科学的根拠に基づく合理的手法であるというべきであるところ、本件におけるNERA意見書の回帰分析の手法を用いたジャスダック指数の変動率に基づく本件恒等式は抗告人株式価格の価格変動を予測するにつき高い信頼水準で統計的に有意であると認められるから、本件恒等式により補正された本件株式交換の効力発生日前の価格をもって算定することが、本件株式交換の計画公表前の一定期間の市場株式価格の平均値をもって算定することよりも、より高い合理性を備えるものというべきである。
そして、恒等式の変動係数を当てはめる市場インデックス、業界インデックス等(本件ではジャスダック指数の変動率)は、投機的思惑等一定の偶発的な要素の影響を受ける面もあるので、偶発的要素による影響を排除するためにも、株式交換の効力発生日前の一定期間の平均値をもって抗告人株式の有する基準時の客観的価値を判断するのが相当であるところ、審問の全趣旨によれば、本件における上記の期間としては、本件株式交換の効力発生日の前日からその前1か月間の平均値をもって算定した価格をもって、本件株式の「公正な価格」とするのが相当であると解される。
(引用終わり)


上場企業の株価算定の実務は、東京地方裁判所商事部を中心に、ある程度、定着しつつあるようにも感じます。とはいえ、本件は、第1審の東京地裁決定で「相手方が主張する回帰分析的手法を用いた算定を行うことは相当と認められず、相手方の上記主張は採用することができない。」と決定されていたものを、東京高裁により、第1審決定を変更して、回帰分析という手法に基づく変更(本件では、減額での変更)が認められたものです。

特別抗告・許可抗告中とのことですので、今後、最高裁決定により変更される可能性はあります。東京高裁が東京地裁商事部の決定等を変更した後、最高裁が東京地裁商事部の判断を支持するケースは、決して少なくありませんので、要注意です。

2011年01月31日 19:00|カテゴリー:法務関連ニュースコメントはまだありません

「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の開始

法務省から、「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集(パブリックコメント)が開始されています。

詳細は、e-Govの「「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集」をご参照ください。

主な内容としては、会計に関するものであり、定義規定の増設・改訂や注記に関する規定の整備、監査報告等に関する規定の整備等となっています。

基本的には会計実務に影響する内容と考えます。

ところで、今回の改正案には、「遡及適用」「誤謬」「誤謬の訂正」「会計上の見積り」「会計上の見積りの変更」といった定義が追加されました。もちろんIFRS時代を見越してのものであると考えます。過年度の決算書類の修正という問題は、会社法上も難しい論点をはらんでいるところではありますが、そういった論点も、類型化される等して、どんどん整理されていくのかもしれません。

2011年01月25日 20:00|カテゴリー:法務関連ニュースコメントはまだありません