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ベンチャー法務の部屋

サイト構築業務における見積書と請負代金の確定についての裁判例


金融・商事判例の2010年11月1日号No.1352の13頁に、サイト構築業者にとって有用と思われる裁判例がありましたので、ご紹介します。札幌地裁平成22年9月15日判決(請求認容・確定)(単独)です。

判示内容の概略は、注文者(被告)のサイトの構築業務を請け負った請負人(原告)がサイトの個別内容が確定するごとに注文者に見積書を提出していた場合において、注文者が当該見積書の金額に不満を述べていても、具体的な金額の交渉を求めることはしなかった、またはサイト構築業務の中止を求めることがなかったという要素がある場合は、見積書の請負代金での請負契約が成立するとしたもののようです。

判決の原本にあたっていないため、ある程度の推測を前提に検討することになってしまいますが、おそらく金額入りの契約書は、特に交わされなかったか、当初交わされたとしても、その後に生じた仕様変更毎には交わされた書面はなかったということだと思います。この内容だけ読むと、黙示の同意があったと評価されてもやむを得ないと思われますので、妥当な結論と思われます。

今後の実務に生かすとすれば、注文者は、納得のできない見積書が来た時点で、書面(最低でもメール)に残る形で、「金額を下げてほしい。下げることができないのであれば、追加の作業は止めてくれ。」と明確にしなければならないという点になるでしょう。放置しておくと、そのまま見積書の内容で契約が成立したと判断されてもやむを得ないということになります。

請負人側もこの例では構築費の請求が認容されましたが、具体的なやりとりによっては、請求できなくなるリスクもあります。サイト構築に限らず、システム開発等の業務委託契約は、法理論的に、完全に整備されているわけではなく、実務上も、後から追加や変更といったことが度々起きるため、トラブルになりやすいです。契約書で明確にしておくことは勿論のこと、一つ一つの意思の伝達を証拠化しておく(何月何日に誰が誰に何を伝えたのかも含めて明確にしておく)ことが身を守るために重要です。

本判例では、請負契約であることが当然の前提とされていて、この点が争われたのかどうかわかりません。そもそも論点になり得なかったのかもしれません。ただ、一般的には、システム開発等の業務委託契約は、請負契約か準委任契約か、区別が難しいことがあります。おそらく、この裁判例にいたるまでの交渉で、解除をするとどうなるのか、途中で仕様を変更するとどうなるのかといった検討があったものと思われますが、その部分に影響する論点でもありますので、やはり、これらの効果についても予め契約書で明確にしておくのが望ましいと言えると思います。

2010年11月05日 11:50|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 法務関連ニュース||1件のコメント

お知らせ「いま、社外取締役に求められる独立性とは?(関西企業に社外取締役は必要か?)」


本日、2つ目のお知らせです。以前、お知らせ「いま日本企業に求められる独立社外取締役とは?」(仮)の開催というエントリーにで、ご紹介させていただいた件の詳細が決まりましたので、お知らせします。

日時: 12月8日(水) 午後2時から午後5時まで
場所: 大阪弁護士会館2階ホール
内容: 基調講演「いま、なぜ社外取締役か?」 中央大学法科大学院教授 経済産業省企業統治研究会委員 大杉謙一先生
討論会「関西企業に社外取締役は必要か?」

となっております。

モデレーターは、「ビジネス法務の部屋」でおなじみの山口利昭先生です。詳しい内容は、山口先生のエントリーをご参考下さい。

お申し込みについては、以下の山口先生のエントリーからの引用のとおりです。

各種お申し込みの方法がございますが、同友会、大証参加企業以外の方で、「あの有名なおおすぎ先生の講演が聴きたい」、「いま議論されている社外取締役制度を知りたい」、もしくは「コワイもの見たさ」で(笑)、聴講をご希望の方は、NPO法人全国社外取締役ネットワークのHPからお申し込みいただけますと幸いです。(参加は無料ですが、事前のお申し込みが必要となりますので宜しくお願いいたします)一応700名まで収容できる大ホールなので大丈夫かとは思いますが、もし参加希望者が多い場合にはごめんなさいです。<m(__)m>(引用終わり)


生憎、私は、諸事情により参加できませんが、山口先生より事前準備の苦労話をお聞かせいただき、大変、盛り上がりそうな雰囲気が今から伝わっております。ご興味のある方は、是非ご参加ください。

本日、1件目のお知らせである『利益を守る、大きな損失を未然に防ぐ、ITベンチャーのための契約知識』(12月1日開催)の方も、宜しくお願いいたします。

2010年11月04日 16:00|カテゴリー:法務関連ニュース||コメントはまだありません

非上場会社の社長がtwitter、重要事項公表は問題?


今朝(11月1日朝刊)の日経に、

(リーガル3分間ゼミ)社長がツイッター、重要事項公表は問題? インサイダーに該当も


という記事が掲載されていました。

この記事は、自社の社長が最近、「ツイッター」に書き込みを始めたが、新しい事業や経営戦略にも言及しており、何か問題はないだろうかと悩む広報担当者の問題を取り扱ったもので、金融商品取引法上のインサイダー取引規制や風説の流布の問題、そして上場企業としての開示姿勢の問題として、この問題を取り上げていました。

では、非上場会社の社長がtwitterをした場合には、何か問題になるのでしょうか。

インサイダー取引規制は、上場会社等及びその子会社の業務に関する重要事実が問題となります。また、この規制の対象となる会社関係者に含まれる役員については、当該上場会社等並びにその親会社及び子会社の役員が問題となります。(上場企業等とは、「第二条第一項第五号、第七号又は第九号に掲げる有価証券(政令で定めるものを除く。)で金融商品取引所に上場されているもの、店頭売買有価証券又は取扱有価証券に該当するものその他の政令で定める有価証券の発行者」を意味します。金融商品取引法第163条第1項)

したがって、非上場会社の社長が自社の新しい事業や経営戦略についてtwitterで言及しても、通常は、インサイダー取引規制の問題は発生しません。但し、取引の相手方が上場企業等の場合は、たとえ契約の交渉段階だったとしても、その上場企業等の「会社関係者」としてインサイダー取引規制の問題が生じる可能性がありますので、この点には注意が必要です。

風説の流布についても、状況は似ており、「有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又は有価証券等(有価証券若しくはオプション又はデリバティブ取引に係る金融商品(有価証券を除く。)若しくは金融指標をいう。)の相場の変動を図る目的」の場合にのみ問題となりますので(金融商品取引法第158条)、非上場会社が発行する株式は、有価証券の募集等に該当しない限り、基本的に金融商品取引法上の「風説の流布」が問題になることはありません。但し、欺罔行為と判断されて、別途、詐欺等を構成する可能性は否定できません。

また、非上場企業であっても、締結している秘密保持契約違反に該当する可能性がありますし、特許や実用新案に関する場合は新規性の喪失の問題が生じる可能性もあります。また、事業戦略上の問題が発生する可能性(戦略がライバル企業に漏れる等)があり、取締役としての善管注意義務違反の問題が生じる可能性もあります。

したがって、非上場企業の社長がtwitterをした場合には、

(1) 上場会社等やその関連する会社についての重要事実や取引のうち手続に則った公表が為されていない情報には触れない

(2) 自社のことであっても虚偽の話や不確かな話はしない

(3) 秘密保持契約の対象となっている事項や知的財産権が絡む話題、会社の経営戦略上重要な情報には触れない

といった点に留意する必要があると考えます。

2010年11月01日 11:30|カテゴリー:法務関連ニュース||1件のコメント

「会社計算規則の一部を改正する省令」(平成22年9月30日法務省令第33号)の改正

 
2010年09月30日付けで会社計算規則が改正されています。
内容的には、包括利益に関する表示に関する事項であり、会計事項ですが、備忘のため紹介させていただきます。

「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について:命令等の公布日・決定日2010年09月30日

2010年10月18日 15:00|カテゴリー:法務関連ニュース||コメントはまだありません

DeNA社による米国のゲーム開発会社の買収

先日のエントリーで少し取り上げさせていただいた南場智子社長が経営するDeNA社が米国のゲーム会社であるNgmoco社を買収したというニュースがありました。DeNA社は、先月も米国企業の買収や資本提携を発表しており、その世界戦略が本気であることをうかがわせます。


米国ngmoco社の買収について ~世界No.1のソーシャルゲームプラットフォームの構築を加速~ (DeNA社 プレスリリース)

DeNA、米ゲーム開発会社を買収 最大342億円で (日本経済新聞)

Japanese company DeNA buys iPhone game developer Ngmoco for $400 million (Los Angels Times)

ディー・エヌ・エーのngmocoの買収は本当だった――買収額は最大で4.03億ドル (Tech Crunch Japan)

DeNAのNgmoco買収でベンチャーキャピタルのKleiner Perkinsには1億ドルの利益 (Tech Crunch Japan)
Kleiner Perkins Harvests Over $100 Million From Ngmoco Acquisition
(原文)

このニュースが注目されているのは、その買収金額($403M)の大きさと、日本の会社が米国のstart-up企業を買収したという珍しさにあると思います。ただ、米国のベンチャー企業のExitとして、日本企業からの買収というのは、従来あまり想定されていなかったと思いますが、そもそも買収してくれるのであれば、米国も日本もないというのが、シリコンバレーのスタイルではないかと思います。

今回のディールのプレスリリース「米国ngmoco 社の買収、第三者割当による新株式発行及び新株予約権発行に関するお知らせ」 (PDFファイル)や「米国「ngmoco社」 買収合意について」 (PDFファイル) を拝見させていただくと、そのスキームは、新株予約権発行、子会社設立、三角合併、合併を組み合わせたものであることがわかります。また、買収金額$403M(1ドル85円の換算で、約342億円)の中身ですが、全てが現金ではなく、株式や新株予約権が含まれていることや、一部($100M)は、Ngmoco社の業績に応じて支払われるインセンティブ報酬(アーンアウト対価)であることもわかります。以下は、同社の資料による対価の内容です。


■クロージング(買収実行)時合計3.03億米ドル(約257億円)
普通株式1.46億米ドル(約124億円)
新株予約権0.27億米ドル(約23億円)
現金1.28億米ドル(約109億円)
■アーンアウト(業績連動型) 合計最大1.00億米ドル(約85億円)相当
普通株式0.31億米ドル(約26億円)相当
新株予約権0.12億米ドル(約10億円)相当
現金0.56億米ドル(約48億円)


2010年の9月30日現在のDeNA社の発行済み株式数は1億4589万株であり、今回の第三者割当増資による新株式発行5,006,210株に、新株予約権の行使により交付される普通株式及びアーンアウト対価として交付される普通株式(合計、最大で2,888,070株)を加えても789万株であり、5%強の希薄化度合いということになります(資料によると、アーンアウト対価も含めると、本件買収総合計で最大5.4%(議決権ベース5.5%))。本日、同社の株式の希薄化が懸念されたため株価が下落した旨の報道がありましたが、希薄化の程度は想像よりは大きくないという印象でしょうか。発表後のDeNA社の時価総額でも3190億円(10月13日現在 前日比-7.75%)であることを考えると、それなりに納得できる数字かもしれません。

円高や手持ち現金の多さ(2010年8月31日現在、現預金は342億円)が間接的な条件となった可能性はあると思います。

おそらく日本の投資家が衝撃を受けた理由は、Ngmoco社の直近2009年12月期の決算では、連結売上高が$3,156,000(約2億6800円)、連結営業赤字が$10.886,000(約9億2500円)とのことであり(但し、Ngmoco社の直近2009年12月期の連結純資産は、$26,711,000(約22億7000円)。)、いくらシナジー効果があるといっても、対価が高すぎるのではないかといった懸念にあるのかと思われます。

この点は、私には、全く判断できないところですが、インターネット業界はスピードが極めて重要であり、その中で、「M&Aによって時間を買う」という動機と、「1位の企業が多くの富を得る」というIT業界の特徴が背景にあるのではないかと推察いたします。

なお、上記の最後の記事にあるように、シリコンバレーの有力なベンチャー・キャピタルであるKleiner Perkins Caufield & Byersは、今回のディールで、少なくとも投資金額の7.5倍の金額($10M→$75M+α)を得ることとなったようで、Ngmoco社の株主側から見た場合、今回のディール・投資は成功といえるでしょう。日本のスタートアップ企業でも、このようなダイナミックな動きがどんどんあると、ベンチャー企業の生態系が活性化して、面白いのではないでしょうか。

2010年10月14日 08:30|カテゴリー:法務関連ニュース||1件のコメント

厚生労働省のメールマガジン

厚生労働省が企業の経営者や実務担当者向けに人事労務関係の情報を発信するメールマガジンを創刊しています。

厚労省人事労務マガジン


内容は、その道のプロフェッショナルの方には、基本的な内容が多いかと思いますが、意外と忘れがちであることや、奨励金の内容があるようです。

例えば、労働条件通知書のモデル様式について、いろいろな本には掲載されていますが、厚生労働省ホームページに掲載されていることは、意外と忘れてしまいがちです。

労働条件通知書のモデル様式(注:PDFファイルです。)


企業法務関係者や人事労務担当者には、使えるメールマガジンになるかもしれません。

2010年10月12日 08:30|カテゴリー:法務関連ニュース||コメントはまだありません

第三者委員会に必要な弁護士の力

本日(9月6日)の日本経済新聞 朝刊では、「日弁連がガイドライン作り 国広正・弁護士に聞く」という記事があった。

要約すると、

“世の中には、いいかげんな第三者委員会が沢山ある”

“すべての利害関係者のため(でなければ、第三者委員会を名乗るな!)”

“必要な弁護士の力とは、「事実探求力」と「経営陣を説き伏せる力」だ”

ということだった。

また、使えるテクニックとして、第三者委員会を就任する際の委任契約に、日弁連のガイドラインに準拠して調査する旨を規定しておくことが提案されていた。

この記事自体に、反論はない。ただ、その通りと思う反面、ガイドラインによって、第三者委員会や委員たる弁護士の性質や責任の難しさが浮き上がってきたように思う。

第三者委員会というのは、その名のとおり、第三者性が最も重視される。

一方で、依頼主は、会社であり、その委員に対価を支払うことを決めた人は経営陣である。

そのため、監査法人と同じようなジレンマ、すなわち、どこまで依頼主及び経営陣に厳しくできるか、ということが鋭く問われることになる。

監査法人の場合は、そのジレンマはある程度(経営陣には)認識されている上、手抜き監査についての監査法人側の責任(法的責任や手を抜いた場合の行政処分等)も大きいため、経営陣が監査法人からの調査を受け入れる素地が多少なりともあるのではないかと、推察する。

一方、会社の経営陣が弁護士に第三者委員会の委員を依頼する場合、経営陣は、「今回の事件について、出来る限り丸く収めたい」という希望を持っているということは割と多いのではないか。

第三者委員会の調査によって、会社にさらに(少なくとも短期的に)大きなダメージが発生する可能性もあり、依頼者の利益の実現に努めなければならない、依頼者の意思の尊重という弁護士倫理との間で、難しい問題が発生する。

その意味で、第三者委員会の中立性や独立性の維持というのは、言うは易く、行うは難しである。

また、事案探究力というのも、一筋縄ではいかない問題である。何しろ、第三者委員会に強制捜査権はない。書類の隠ぺい工作や虚偽の供述をなされてしまうと、事案の探求は困難を極める。経験値から、“あるはずの書類”の在り処を問うて、虚偽の供述を見抜く力が必要であり、しかも、自白の強要等も避けなければならないという高度な(場合によっては、弁護士には不慣れな)能力が求められる。実際に、第三者委員会の委員に虚偽の供述を述べた経営陣もいる。

第三者委員会の委員に就任される先生は、どのような委任契約を締結されているのかわからないが、このあたりを踏まえて、会社は弁護士の要求する文書は必ず出すとか、調査への協力義務や誠実回答義務、調査の結果によって会社が被る損害についての免責等の規定がないと、受けることはできないであろう。このあたり、コンプライアンスにお詳しい先生方にお聞きしたいところだ。

【参考】

「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」 2010年7月15日 日本弁護士連合会

PDFファイル: 「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」

2010年09月06日 12:00|カテゴリー:企業法務, 法務関連ニュース||コメントはまだありません