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国際法務の部屋

海外公務員贈賄と司法取引について

海外の公務員に、日本企業の担当者が贈賄を行った場合、当該国における贈賄罪等により処罰されるのはもとより、日本の不正競争防止法によっても処罰の対象となります。

日本の不正競争防止法18条1項は、「何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。」と規定しており、法18条1項に違反した者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せられ、又はこれが併科されます(法21条2項7号)。また、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、法18条1項に違反した場合は、法人に対しても3億円以下の罰金刑が科されます(法22条1項3号)。

このように、日本企業の担当者等が、海外の公務員等に対して贈賄を行った場合は、当該担当者に加えて、法人も処罰の対象となります(個人及び法人の両方が処罰されることから、「両罰規定」と表現されることもあります)。

この両罰規定が初めて適用されたのは、ベトナム公務員に対する不正利益供与事案(東京地裁平成21年1月29日判例時報2046号159頁)でした。この事案では、東京都内に本店を置く日本法人の従業員等であった4名が、ベトナムホーチミン市における幹線道路建設事業に関するコンサルタント業務を受注した謝礼等の趣旨で、同事業担当幹部に対して2度にわたり、それぞれ約60万米ドル、約20万米ドルの利益を供与した行為が不正競争防止法違反にあたるとして、従業員等4名に、それぞれ懲役2年6月、懲役2年、懲役1年6月、懲役1年8月(それぞれ執行猶予3年)、日本法人に罰金 7、000万円が科されました。

このように、法人に対しても両罰規定による罰金刑が科せられることから、担当者が海外公務員等に贈賄を行った情報が内部通報等でもたらされた場合の法人の対応としては、弁護士等の第三者に依頼して調査を行い、担当者による海外公務員の贈賄の事実が確認された場合は、検察庁に情報を提供して日本版司法取引の適用を検討することが考えられます。但し、法人が、この制度を実際に活用するかどうかについては、他のより良い方法がないか、将来におけるデメリットの影響、十分に証拠が収集されているか等を、慎重に総合的に考慮した方がよいでしょう。

ここで、日本版司法取引制度とは、正式には「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」といわれ、2018年6月1日より施行されている、検察官と被疑者・被告人およびその弁護人が協議し、被疑者・被告人が「他人」の刑事事件の捜査・公判に協力するのと引換えに、自分の事件を不起訴または軽い求刑にしてもらうことなどを合意するという制度です。

実際に、この日本版司法取引制度が用いられた初めての事案は、タイの発電所事業を巡る現地公務員への贈賄事件であり、タイの現地公務員への贈賄を了承した元幹部3人を不正競争防止法違反(海外公務員への贈賄)の罪で在宅起訴し、法人は不起訴とされたと報道されています。

ただ、不正贈賄事例で重要なことは、法人の処罰を免れることではなく、当該法人として、再発防止のための対策(組織体制の整備、社内における教育活動の実施、監査体制の強化、贈賄防止のための基本方針や社内規定の策定や公表など)を迅速かつ確実に講じるということであると考えます。

以上

(文責:河野 雄介)

2018年12月11日 21:07|カテゴリー:|コメントはまだありません

セミナー「ASEAN諸国における子会社の贈賄・不正の実例と対策」について

海外子会社の贈賄・不正の実例と防止のポイント、ASEAN各国のコンプライアンスの特徴等をテーマとして、下記のとおりセミナーをさせていただくことになりましたのでお知らせいたします。

主  催  株式会社 京都銀行

共  催  日本貿易振興機構(ジェトロ)京都貿易情報センター

テーマ ASEAN諸国における子会社の贈賄・不正の実例と対策 ~現地任せの落とし穴~

日 時 2018年11月19日(月)15:00~17:00

会 場 京都銀行 金融大学校 桂川キャンパス(京都市南区久世高田町376番地7)

【講演】海外子会社の贈賄・不正の実例と防止のコツ!

講 師:アクシス国際法律事務所  弁護士 河野 雄介

【パネルディスカッション】ASEAN各国におけるコンプライアンスの特徴

パネリスト:Kelvin Chia Partnership

パートナー弁護士MARLON WUI

同シニアアソシエイト弁護士LEOPOLDO MOSELINA

アクシス国際法律事務所  弁護士 河野 雄介

プレスリリースはこちらです

2018年11月12日 17:56|カテゴリー:|コメントはまだありません

海外贈賄防止デュー・ディリジェンスについて

1 はじめに

日本企業がM&Aにより海外企業を買収するケースが増えています。その際、当該買収対象会社が贈賄を行っていないかの確認は重要です。なぜなら、M&Aにより買収した海外子会社であったとしても、日本企業が海外事業において贈賄に関与したとなれば、日本の刑事罰(不正競争防止法違反)はもとより、米国の連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)等の違反として罰金等の対象となったり、社会的信用の失墜、取引先からの取引停止処分を受けたりなど企業価値の毀損に直結する重大なリスクにつながるからです。

そこで、本稿では、日本弁護士連合会が作成した海外贈賄防止ガイダンスの手引の記載を参考に、海外企業を買収する際の、海外贈賄防止デュー・ディリジェンス(以下、「海外贈賄防止DD」といいます)の手順をご紹介します。

2 買収契約締結前に実施する海外贈賄防止DDについて

買収契約締結前においては以下の事項に留意して海外贈賄防止DDを実施する必要があります。

  • 買収計画段階において、対象事業の活動国、業界、事業形態に応じた贈賄リスクの評価を実施する。
  • 海外贈賄防止DDを、買収のための法務監査及び財務監査と並行して早期に計画し、リスクの程度に応じた人的・物的資源の配分を行う。
  • 海外贈賄防止DDにおける確認内容としては、(i)買収対象企業において海外贈賄防止体制が構築されているか、(ii)経営トップ、主要役職員のコンプライアンス意識の高さ、(iii)事業活動のエージェント等の第三者への依存度、(iv)第三者の活動国以外の国に存在する銀行口座への支払の有無、(v)接待・贈答・招聘・寄付等に関する費用支出、頻度、態様、(vi)現金口座の管理状況及びファシリテーション・ペイメントの支払の有無、(vii)許認可の取得、通関に関する費用の支出状況、(viii)政府関係者の親族の雇用の有無、(ix)内部通報体制の構築状況、(x)買収先企業又は経営陣の前科・前歴・行政処分歴、(xi)贈賄を防止するのに十分な会計制度の存在等が考えられます。
  • 海外贈賄防止DDの手段としては、提供された資料の精査、ヒアリング、贈賄を防止するのに十分な内部統制が存在するかの実地調査を必要に応じて、法律事務所、会計事務所、調査会社等を起用して実施します。

3 海外贈賄防止DD実施後の対応について

海外贈賄防止DDを実施した後、買収契約を締結するにおいて以下の事項に留意する必要があります。

  • 海外贈賄防止DDの結果、贈賄問題を発見した場合においてその問題が買収の目的を達成できる程度である場合は、買収契約の誓約条項において、必要に応じて、買収対象企業をして、関与役職員の処分、発見事項に関連した追加調査及び報告、経営トップの贈賄防止への強い姿勢を示す誓約書の提出、又は実行可能な再発防止策の検討と導入などを実施させる内容の売主の誓約条項を合意する。また、リスクや処理費用を考慮した買収金額の調整を行う。
  • 海外贈賄防止DDの結果、買収の目的を達成できない程度に贈賄リスクが高い問題を発見した場合には、買収の取りやめ又は贈賄リスクが高い部分の事業を含まない買収への計画変更を行う。
  • 買収契約において、当該買収対象事業につき贈賄問題が存在しないことを内容とする売主の表明保証条項を合意する。支払いを

4 買収完了後の対応について

買収完了後には、以下の事項に留意します。

  • 買収完了前の海外贈賄防止DDにおいてインサイダー規制又は売主の非協力により十分な情報を入手できない場合には、買収完了後直ちに一定の期間を設けて贈賄リスクが高い分野を中心に十分な海外贈賄防止DDを実施する。
  • 買収完了後に発見した贈賄問題については、当局への通報の検討、関与役職員の処分、又は再発防止策の導入のほか、買収契約における表明保証条項を行使するなどして買収に関連する贈賄リスクを最小限にするように努める。
  • 買収完了後、自社の基本方針及び社内規程を含む海外贈賄防止の内部統制を買収対象事業に対して速やかに適用し、買収対象事業のモニタリングを実施する。
  • 買収対価の支払いを二段階としておき、買収後、一定期間調査を行った後に残代金を支払うような契約としておく。

参考文献:海外贈賄防止ガイダンスの手引(日本弁護士連合会)

 

2018年11月12日 17:39|カテゴリー:|コメントはまだありません

中国子会社(現地法人)の不正調査

先日、クライアントの中国子会社(現地法人)での不正調査案件で、中国に出張してきました。当該中国子会社は、上海からタクシーで2時間程度の某都市にあり、上海浦東空港から、車で向かいました。

 

高速道路で上海市を出て、当該某都市に入ってすぐの地点にある料金所で、警察官が、私達の乗っている車をとめ、タクシーの運転手に対し、「誰をのせているんだ」と聞きました。運転手が「外国人だ」と答えたところ、警察官は私を見て、「韓国人か?」と聞かれたので、説明するのも面倒なので頷いたら、「行ってよい」と言われました。

中国語の分からない同乗者に、やりとりを説明していたら、運転手が、「さっきの話しの内容、分かったのか?え、日本人なん?まったくパスポートも確認しないなら、いちいち聞くなよ」と言っていました。

スーツを着た3人が、車で別の市から入ってきたので確認するという警備の厳しさと、とりあえず声をかけたら確認まではしないという緩やかさを見て、私としては、中国に来たなという実感を持ちました。

 

 

現地調査では、当該現地法人では、ガバナンスの体制に甘い点が多くあったことから、まずは、制度設計を根本から構築しなおすことにしました。また、役員の報告義務、親会社または株主が保有する調査権限の活用についても社内ルール化することになりました。海外子会社の不正調査において、このようなガバナンスの制度面を構築及び活用することは非常に重要です。不正を行っていた者の処分についても、別途、手続を進めています。

 

また、日々の業務において、そのような制度を、どのように運用するかについても、同じように重要です。日本の大企業でも、ガバナンスの制度について最先端と評価されていたにもかかわらず、不祥事を防止できなかった事例がありました。運用面に問題があれば、立派なガバナンスの制度も効果を発揮しないということは、国内でも海外子会社でも同様ですね。

 

ガバナンスの制度の運用面に関連して、海外子会社の場合は、日本人が総経理等の高級管理職を占めるべきか、それとも、現地スタッフに任せるべきか、という議論をよく耳にします。日本人の方が、本社の立場からすれば、安心感があるという面は否定できないでしょう。しかし、現地法人の日本人総経理が不正を行っていたというケースも、何度も経験したことがあります。また、現地スタッフのモチベーションという意味では、総経理等になれるという目標を示した方が、良い点もあるでしょう。

個人的には、どちらが良いという「正解」はなく、会社の規模、ヒューマンリソース、及び、現地法人の成長ステージ等の観点から、状況に応じて判断せざるを得ないと考えています。重要なことは、管理職が日本人であれ外国人であれ、日本本社が、適切な距離感で常に「見ている」という感覚を現地法人に持たせることだと考えています。監督権限を適切に行使し、不正行為をすれば露見しそうだという緊張感を持たせ、同時に、事情も分からずに遠くから指示だけするといった存在ではなく、現地子会社の状況や苦労を正確に理解してくれているという共感を持たせることを実現することにより、海外子会社の不正を未然に防止できる確率は飛躍的に高まるものと信じています。

以上

(文責:藤井宣行)

2018年10月19日 11:43|カテゴリー:|コメントはまだありません

ASEANにおける現地法人の外国公務員贈賄、不正調査などの実例と防止策セミナーについて

 

ASEANに現地法人や提携工場を有する日系企業が、外国公務員贈賄規制、不正調査、サプライチェーンにおけるフェアトレード(公平貿易)、現地法人の内部統制など実務上直面する様々な問題は、発覚してから対応するケースが多いのが実情です。

そこで、日本本社側から相談を受ける機会の多い弁護士、ASEANにおける不正調査やPMIの実務経験が豊富な会計士、現地に拠点を有する法律事務所の弁護士がそれぞれの立場から最新動向や実例を交えながら事前対策のポイントについて解説する、「ASEANにおける現地法人の外国公務員贈賄、不正調査などの実例と防止策セミナー」を下記の内容にて開催させていただくことになりました。

このリンクよりお申込みいただけますので、ご参加いただけますと幸いです。

 

開催日時:平成30年11月20日(火)14:00~17:00

場  所:神戸商工貿易センタービル14階会議室(神戸貿易協会内)

神戸市中央区浜辺通5-1-14

定  員:50名

主  催:

ひょうご・神戸国際ビジネススクエア 【神戸市海外ビジネスセンター、ひょうご海外ビジネスセンター、ジェトロ神戸】

アクシス国際法律事務所esnetworks Asia Global(エスネットワークスグループ)

ケルビンチアパートナーシップ

共  催:神戸商工会議所、神戸市機械金属工業会、兵庫工業会

 

プログラム:

第一部 (14:00-14:50)

「海外子会社コンプライアンス、海外贈賄防止に関する規律と実例」

講師:アクシス国際法律事務所弁護士河野雄介

第二部 (14:50-15:40)

「ASEANでの不正事例とその確認/防止のポイント」

講師:es Networks Asia Global (Singapore) Director 公認会計士熊谷伸吾

第三部 (15:50-16:40)

「ASEANの子会社コンプライアンスについての実務」

講師:ケルビンチアパートナーシップ弁護士MARLON WUI

【セミナーのご案内PDFはこちらです】

ASEANにおける現地法人の外国公務員贈賄、不正調査などの実例と防止策セミナー

2018年10月19日 11:26|カテゴリー:|コメントはまだありません

中国における特許、商標侵害訴訟におけるライセンシーの原告適格について

本稿では、中国企業に特許の実施または商標の使用を許諾する場合、第三者が特許権または商標権を侵害する行為が発生した際、ライセンシーである中国企業は、原告として第三者を相手に民事訴訟を提起することができるか否かを検討します。

 

一 ライセンスの類型

1 特許ライセンス

最高人民法院が公布した「技術契約紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」 25 条によれば、中国における特許ライセンスの種類は、以下の三つあります。

(1)独占的実施許諾

独占的実施許諾は、ライセンサーが、契約に定めた実施許諾範囲内において、一つのライセンシーのみに実施権を許諾し、ライセンサー自身も当該特許を実施できないライセンスです。

(2)排他的実施許諾

排他的実施許諾は、ライセンサーが、契約に定めた特許実施許諾範囲内において、単独のライセンシーのみに実施権を許諾するが、そのライセンシー以外にライセンサー自身も当該特許を実施することができるライセンスです。

(3)通常実施許諾

通常実施許諾は、ライセンサーが、契約に定めた特許実施許諾範囲内において、ライセンシーに実施権を許諾するが、更に他の者に実施権を許諾することもでき、自ら特許を実施することもできるライセンスです。

 

2 商標ライセンス

上述した特許ライセンスの類型は、商標ライセンスにおいても、ほぼ同様な類型が規定されています。最高人民法院が公布した「商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」3条によれば、中国における商標ライセンスの種類は、以下の三つあります。

(1)独占的使用許諾

独占的使用許諾は、商標登録者が約定した期間・地域・方法で、ライセンシーにのみ登録商標の使用を許諾し、商標登録者は当該登録商標を使用することができないライセンスです。

(2)排他的使用許諾

排他的使用許諾は、商標登録者が約定した期間・地域・方法で、ライセンシーにのみ登録商標の使用を許諾し、商標登録者自身が当該登録商標を使用することができるが、別途、他の者に当該登録商標の使用を許諾することはできないライセンスです。

(3)通常使用許諾

通常使用許諾は、商標登録者が約定した期間・地域・方法で、ライセンシーに登録商標の使用を許諾し、自分自身も使用することができ、また他の者に使用を許諾することもできるライセンスです。

 

二 原告適格について

第三者による侵害行為が発生した場合、ライセンスの類型により、ライセンシーが第三者を相手に民事訴訟を提起することができるか否か、いわゆる原告の適格に関して、特許と商標の状況は異なります。

商標の場合、「商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」4条によれば、

  • 独占的使用許諾契約の場合、ライセンシーは自ら訴訟を提起することができる。
  • 排他的使用許諾契約の場合、ライセンシーと商標登録者と共同して訴訟を提起することができ、また商標登録者が訴訟を提起しない場合、ライセンシーが自ら訴訟を提起することができる。
  • 通常使用許諾契約の場合、ライセンシーは商標登録者から明確な授権を得て、訴訟を提起することができる。

このように、それぞれ条件が異なりますが、商標ライセンスの三つ類型において、ライセンシーのいずれも、その原告適格が認められます。

 

上述したように、特許ライセンスの類型は商標ライセンスの類型とほぼ同様であるため、特許ライセンスのライセンシーの原告適格、条件も、商標ライセンスの場合と同様ではないか、と思われがちですが、実際にはそうではありません。

中国現行法上、特許ライセンスのライセンシーが第三者(侵害者)を相手に民事訴訟を提起する資格を直接規定する法的根拠はありません。

といっても、裁判上、特許権侵害案件において、人民法院はライセンシーが原告適格を有するか否かを論じる際、最高人民法院が公布した「訴訟前に特許権侵害行為の停止における法律適用問題に関する若干規定」をよく引用します。同規定1条によれば、

  • 特許権者または利害関係者は、特許権侵害者に侵害行為を停止させる命令を、訴訟前に人民法院に申請することができる。
  • 「利害関係者」には、特許ライセンスのライセンシーが含まれる。
  • 独占的実施許諾契約の場合、ライセンシーが単独で人民法院に停止命令を申請できる。
  • 排他的実施許諾契約の場合、特許権者が停止命令を申請しなければ、ライセンシーが人民法院に申請できる。

同規定12条によれば、人民法院が侵害行為の停止を命じてから15日以内に、特許権者または利害関係者が訴訟を提起しなければ、裁判所は停止命令を解除することとなります。以上の規定から、独占的実施許諾および排他的実施許諾のライセンシーが原告適格を有するという解釈も可能です。また、排他的実施許諾契約の場合、裁判上、ライセンシーと特許権者と共同して訴訟を提起することも認められます。

 

また、特許ライセンスの場合、通常実施権のライセンシーは原告適格を付与されていないことに留意すべきです。この点は商標ライセンスの場合と異なります。商標の通常使用許諾のライセンシーの場合は、商標登録者から明確な授権を得て、訴訟を提起することができるとされています。

 

3 まとめ

特許と商標ライセンスにおいて、それぞれの類型、第三者侵害案件におけるライセンシーの原告適格について、下表に整理しました。

ライセンスの類型 ライセンシーの原告適格
特許 独占的実施許諾 ライセンシーが自ら訴訟を提起できる。
排他的実施許諾 ライセンシーと特許権者と共同して訴訟を提起することができる。

特許権者が訴訟を提起しない場合、ライセンシーが自ら訴訟を提起することができる。

通常実施許諾 訴訟提起の資格はない。
商標 独占的使用許諾 ライセンシーが自ら訴訟を提起することができる
排他的使用許諾 商標登録者と共同して訴訟を提起することができる。

商標登録者が訴訟を提起しない場合、ライセンシーが自ら訴訟を提起することができる。

通常使用許諾 商標登録者から明確な授権を得て、ライセンシーが訴訟を提起することができる。

 

(文責:李航 中国弁護士)

2018年10月10日 23:27|カテゴリー:|コメントはまだありません

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会における、「持続可能性に配慮した調達コード」について

1 はじめに

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「大会」といいいます)の運営のための、原材料調達等について、大会の組織委員会は、

(1)どのように供給されているのかを重視する

(2)どこから採り、何を使って作られているのかを重視する

(3)サプライチェーンへの働きかけを重視する

(4)資源の有効活用を重視する

という4つの基本原則(「基本4原則」)を掲げています。

具体的には、(1)については、大会の組織委員会は、人権の尊重(製造過程における差別やハラスメントの排除、不法な強制立ち退き等の権利侵害のない物品・サービスの提供)、適正な労務管理と労働環境への配慮(強制労働や児童労働がなされていないこと、安全衛生が確保されていること、労働者の諸権利が法令に照らして確保されていること)、公正な取引(贈賄等の腐敗行為の禁止、ダンピングや買いたたきなどの不公正取引がないこと)、適正な環境保全への配慮(低炭素エネルギーや、省エネルギーの推進、環境負荷の低減など)を重視するとされています。

(2)については、大会の組織委員会は、①地球環境の保全のために、森林・海洋などの資源の保全や生物多様性に配慮した適切な採取・栽培、低炭素エネルギーの活用、省エネルギーの推進、大気・水質・土壌等の環境に配慮した原材料の使用に努めること、②人権や地域住民の生活、社会の安定に対して悪影響を及ぼす原材料(強制労働により採掘された原材料、紛争鉱物、違法伐採木材等)の使用の回避を求めること、③リユース品及び再生資源を含む原材料の使用並びに容器包装等の最小化に努めることを、サプライヤーやライセンシーに対して求めるとされています。

(3)については、組織委員会は、サプライヤー及びライセンシーに対し、組織委員会が調達する物品・サービス等について、サプライチェーンにおいても本調達コード並びにトレーサビリティー及び透明性の確保に努めるよう求めるとされています。

(4)については、組織委員会は、①調達にあたって調達総量をできるだけ抑制したうえで、新品だけでなく、再使用品やリース・レンタル品の活用も検討すること、②サプライヤー及びライセンシーに対し、日本の「もったいない精神」を活かして、可能な限り再使用・再生利用が容易な資材・物品を提供することや使用時の省エネルギー等に配慮した物品・サービスを提供することを求めること、③調達した物品の再使用及び再生利用を推進することとされています。

 

2 持続可能性に関する確認について

そして、上記の基本4原則を受けて、持続可能性に関する確認について、大会の組織委員会では、2018年3月以降に調達手続きを開始する案件については、事業者の選定にあたり、持続可能性の確保に向けた取組状況に関するチェックリストや誓約書の提出を求めることとなっているようです。

このチェックリストの様式や記載例、誓約書の雛形もウェブページからダウンロードすることができます。

3 まとめ

上記の基本4原則や、持続可能性の確保に向けた取り組み状況のチェックリストは、大会への物品やサービスの納入を考えていない場合であっても、会社における環境問題、人権問題、労働問題(国際的労働基準の遵守・尊重、結社の自由や団体交渉権の尊重、強制労働の禁止、児童労働の禁止、雇用及び職業における差別の禁止、賃金の適正な支払、長時間労働の禁止、労働環境の整備)、公務員に対する贈賄等の腐敗防止、公正な取引慣行の推進(独占禁止法や下請法の遵守)、知的財産権の保護、紛争や犯罪に関与する原材料の使用防止、マーケティングにおける不当表示等の防止、情報の適切な管理(個人情報保護)などの取り組み状況について確認されるうえで、有用な視点、ツールとなります。

また、ご紹介したようなトレンドは、すでに契約実務にも取り込まれており、特に、欧米の規模の大きな企業が提示してくる製造委託契約書や売買契約書には、上記のような取り組み状況について、詳細な規定がCode of Business Conduct and Ethics(業務遂行及び倫理に関するコード)等の表題で別紙として設けられ、契約書本文内で、当該コード記載の内容につき遵守する義務を負い、当該コードの記載内容の違反は契約違反となるとの条項が設けられることが多くなってきました。

このように、普段から基本4原則やチェックリストを確認し、各項目について不十分な部分や遵守できていない部分があれば、随時改善を行っておかれると、大会に物品やサービスを提供することになった場合も含めて、いざというときに有用であると考えます。

参考Webサイト(持続可能性に配慮した調達コード

文責:河野雄介

2018年10月10日 23:21|カテゴリー:|コメントはまだありません

JETRO(国際取引法務に係る相談弁護士業務)

先日、JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)で、「TPP加盟国およびその他の国・地域への事業展開(進出および輸出)に取り組もうとする、あるいは取り組みを拡大する中堅・中小企業等を対象に、各企業の事業計画とその進捗状況およびニーズに応じて、海外への事業展開を前提とした国際取引法務について専門的知見を以って支援を行い、それら企業等の海外進出、輸出増大の実現を目指す。」ことを目的として、国際取引法務に関する助言・アドバイスを行う弁護士を、10名程度、募集しました。

 

上記の目的は、クロスボーダーな経済活動を行うクライアントに対し、適切なリーガル・サービスを提供し、それによって、クライアントと共に成長するという、アクシス国際法律事務所及び私の想いにも合致することから、当所の河野弁護士とともに応募しました。その結果、書類選考の後、面接を経て、無事、採択されました。しかも、募集人数10名程度の中、当所から、河野弁護士と私の2名が採択されました。

これは、当所が、平素、クロスボーダーな経済活動を行うクライアントに対し、適切なリーガル・サービスを提供すべく務めていることが、多少なりとも寄与したのではないかと考えています。

 

今回の応募・採択を通じ、今後も、これまで以上に研鑽を積み、クライアントの皆さまに適切なリーガル・サービスを提供することによって、JETROの上記目的である、「企業の海外進出、輸出増大の実現」に貢献すべく、努力を惜しまずに業務に取り組もうと、改めて思いました。

(文責:藤井宣行)

2018年09月25日 09:59|カテゴリー:|コメントはまだありません

「我が国企業による海外M&A研究会」報告書(平成30年3月 経済産業省 )について~その2

 

1 はじめに

前回は、平成30年3月に、経済産業省が発表した「我が国企業による海外M&A研究会報告書」(以下、「報告書」といいます)のうち、「デュー・デリジェンス(DD)-優先順位付けに基づいて仮説検証する」をご紹介しました。

本稿では、DD等で発覚した懸案事項やリスクについて、対象企業との交渉や契約にどのように反映させていくべきかを検討した、「契約交渉-冷静にリスクに対処する」の部分(報告書44~50頁)をご紹介します。

報告書では、懸案事項やリスクへの対処方法は、一般的に、

① 買収価格への反映(潜在的債務等リスクの定量化)

② 取引条件(補償、クロージング条件等)による対応

③ PMI(Post Merger Ingegration)プロセスを通じたリスクの緩和

④ M&A交渉からの撤退

の4つの手法が考えられ、問題になっているリスクの性質やインパクトを正しく評価しつつ、これらの手法を(組み合わせも含め)適切に選択していく必要があるとされています。このうち、本稿では、①と②について報告書がさらに分析している部分を紹介します。

①買収価格への反映(潜在的債務等リスクの定量化)に関する報告書の記載

ディールの過程で発見された懸案事項・リスクのうち、その現状維持・回復やリスク回避のために必要な追加投資等が定量的に算出可能なものについては、買収価格に反映する(買収価格を減額する)ことが考えられる。対応コストを適切に算出できなかった場合、クロージング後に想定以上のコストが必要となり、結果として買い手の買収コスト増につながるリスクもある。

(筆者注:たとえば、DDの結果土壌汚染が発見された場合にその汚染を除去する費用を買収価格から差し引くといった事例が考えられます。)

②取引条件(補償、クロージング条件等)による対応についての報告書の記載

買収契約:総論

海外M&Aにおいては契約書が極めて重要である。この買収契約の巧拙が、想定した内容・条件での取引の実行を確保し、その後のPMIを円滑に進めてM&Aの成果を上げていくうえでの大きな鍵となりうることを認識しておくべきである。買収契約で盛り込まれていない事項について、クロージング後にあらためて交渉することはかなりの困難を伴う。契約書において漏れのないよう適切に手当てすることが必須条件となる。その際、買い手が案件の重要事項や対象企業のリスクを正確に把握できていれば、それに対する契約上の手当ての内容を具体的に設定することができる。具体的な提案の方が売り手に受け入れられやすく、クロージングに向けた協力関係を構築することにも役立つ。その際、買い手が案件の重要事項や対象企業のリスクを正確に把握できていれば、それに対する契約上の手当ての内容を具体的に設定することができる。買収契約において、契約締結後のPMIを見据えた規定を含めることも重要といえる。具体的には、統合準備委員会の設置や委員会での検討項目等についても買収契約の中で合意し、買収先に協力を依頼しておくことで、PMIに向けた準備を円滑に進めることができる。

イ 買収契約:各論

買収契約におけるリスクの手当てという観点からは、以下の規定が重要であり、通 常これらが交渉の重要なポイントとなる。

(ア)クロージング条件(Conditions Precedent

主として、当該条件が充足されるまでは取引を実行する義務を負わないという規定(例:DD における重大な発見事項が解消されることを買い手のクロージング条件とする)。

(イ)表明保証(Representations & Warranties

主として、売り手が買い手に対し、対象企業に関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明し保証すること。買収前DDの補完となる。

(ウ)誓約事項(Covenants

売り手又は買い手が、クロージング前又は後において、一定の行為を行う又は行わない旨の約束・義務。

(エ)補償(Indemnification

一方当事者について表明保証違反又は誓約・義務違反があった場合に、相手方が被った損害を補償する旨の合意。違反がなくても一定の事項から生じる損害を補償する旨の合意(特別補償)がなされることもある。補償期間や補償金額の制限が設けられることが多い。案件の重要事項や対象企業のリスクを正確に把握している場合、コベナンツやクロージング条件を具体的に設定でき、有効な手段として機能する。売り手はその条件を呑まないと契約締結に至らないため、クロージングに向けて協力関係が構築できる。一方で、案件の重要事項やリスクが明確に把握できていないと契約交渉時点で「買い手の満足する○○にすること」といった曖昧な提案になってしまいがちである(条件が曖昧なほど売り手は条件をのまず、妥協点が緩くなる)。

ウ 表明保証保険

表明保証保険とは、表明保証違反に起因して被保険者(多くの場合、買い手)が被る経済的損失を填補する保険をいう。近年、M&A において表明保証保険を活用する企業が増えており、特に、海外のPE ファンドによる売却案件等では、買い手による表明保証保険の利用が前提となる場合もある。M&Aのリスク低減の方法としての表明保証保険は日本企業にとっても効果的な選択肢の一つになりうる。買い手にとっては、表明保証違反に基づく補償に関して、売り手が十分な補償期間・補償金額に合意しない場合(売り手の補償責任の上乗せ)や、売主の履行能力や財政状態に懸念がある場合(売り手の信用力の補完)等において、一定範囲で保険填補を受けられるというメリットがある。一方で当事者が認識していた表明保証違反や罰金・課徴金等のように保険の範囲から除外されるものがあるほか、そもそも保険会社が満足するDDを行っていることが前提となっている(DDを代替するものではない)ことに留意する必要がある。

2 まとめ

M&Aにあたっては、上記に記載されている条項をより具体的に定める必要があると同時に、その他の解除条項(Termination Clause)や損害賠償条項(Remedy Clause)等についても詳細に規定する必要があります。また、表明保証保険については、M&Aの買手側は、そのメリット及びデメリットを理解し、表明保証保険の対象範囲もよく確認して利用を検討する必要があります。

 

参考Webサイト(経済産業省)

http://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180327003/20180327003.html

文責:河野雄介

2018年08月10日 18:57|カテゴリー:|コメントはまだありません

債務不履行企業の法定代表者以外の者が制裁対象とされるリスクについて

はじめに

本稿は、中国最高人民法院の判例をもとに、判決により確定された義務を意図的に履行しない被執行人が企業である場合、その法定代表者以外の者が制裁対象とされるリスクについて検討します。

判例紹介:(2017)最高法執復73号

日系企業A社(シンガポール法人)が中国企業B社を訴えた国際貨物売買契約紛争案件において、山東省高級人民法院は、B社がA社に対し貨物代金X米ドルを支払うと判決を下しました。

B社が所定期間内に上述した金銭債務を履行しないため、A社は強制執行を申請しました。強制執行期間中、B社が依然として金銭債務を履行せず、それにもかかわらず、法定代表者の変更手続を行いました。

A社の申請を受け、山東省高級人民法院は、B社の元法定代表者Cが、B社が本件債務を履行する否かに影響を及ぼす直接責任者であると認定し、Cに対する出国制限措置を命じました。

Cは当該命令に不服申立てし、最高人民法院に対し再審査を提起しました。最高人民法院は審査を経て、Cの請求を却下しました。

解説

出国制限については、中国民事訴訟法255条によれば、被執行人が法律文書により確定された義務を履行しない場合、人民法院は、当該被執行人に対して出国制限を行うことができるとされています。

そして、最高人民法院が制定した、「『民事訴訟法』の執行手続の適用における若干問題に関する解釈」(以下「執行司法解釈」)によれば、被執行人が単位である場合、その法定代表者、主要責任者または債務履行に影響を及ぼす直接責任者に対して出国制限を行うことができる(執行司法解釈37条)とされています。

判決より確定された義務を履行しない企業の法定代表者が、相手方当事者から出国制限措置の申請または人民法院による職権判断により出国制限をされてしまうリスクについて、2018年4月4日に本ブログに掲載した「中国における民事訴訟と出国制限リスクについて」で解説しました。法定代表者のほか、単位の主要責任者、債務履行に影響を及ぼす直接責任者も、執行司法解釈37条により出国制限措置の対象とされています。

本判例において、最高人民法院による調査で、①Cが本件取引のB社側の決定者であること、②本件紛争発生時、CがB社の法定代表者を務めていたこと、③強制執行申請時、Cが債務履行についてA社と協議し続けたことを判明したうえ、CはB社が本件債務を履行するか否かについて決定的な影響力を有する人物であると認定しました。その結果、Cが執行司法解釈37条に定める「債務履行に影響を及ぼす直接責任者」とされ、出国制限措置を命じられました。

出国制限の制裁対象のほか、最高人民法院が制定した、「被執行人による高度消費への制限に関する若干規定」(以下「消費制限司法解釈」という)によれば、判決より確定された義務を履行しない被執行人による9種類の消費が制限されます。被執行人が法人の場合、その法定代表者、主要責任者、債務履行に影響を及ぼす直接責任者、実質的支配人が前述した消費制限を受けることとなります。9種類の消費制限のうち、飛行機や新幹線(中国語:高鉄)のチケットを買えないことや、星付のホテルに泊まることができないことは、業務および生活に多大な影響を与える制裁措置といえます。消費制限司法解釈の詳細は、2018年7月10日に本ブログに掲載した「情報化社会とともに進む中国の執行に関する最新動向(その二)」をご参照ください。

上述した法定代表者以外の者が出国制限または消費制限の対象とされることは、法律上可能ですが、実務上、その判例はあまり見当たりませんでした。主要責任者、債務履行に影響を及ぼす直接責任者、実質的支配人をどう認定するか、裁判上まだ明確な基準はありませんが、本判例は最高人民法院による執行に関する再審査裁定という珍しい手続によるものであり、その認定が他の人民法院の判断にあたっても参考にされると思われます。近年、最高人民法院が「執行難」を解決することに努めており、法律文書より確定された義務を意図的に履行しない被執行人を厳しく制裁している背景からすると、今後、本判例のように、法定代表者以外の者を制裁対象とする裁判例が増えると思われます。

(文責 李航 中国弁護士)

2018年08月03日 17:03|カテゴリー:|コメントはまだありません