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国際法務の部屋

情報化社会とともに進む中国の執行に関する最新動向(その二)

中国では、「執行難」を解決するための有効な措置として、大きく分けて二点が挙げられます。一つは、前回述べたように、裁判所と銀行等の金融機構との連動システムによる、被執行人の口座情報、金融資産情報の共有です。もう一つは、判決により確定された義務を意図的に履行しない被執行者への厳しい制裁措置です。

2010年、最高人民法院は、被執行者による高度消費への制限に関する司法解釈を公布し、2015年に同司法解釈をより厳しく改正しました。これによれば、判決に確定された義務を履行しない被執行者による9種類の消費が制限されます。被執行者が法人の場合、その法定代表者、主要責任者等が前述した消費制限を受けることとなります。9種類の消費制限のうち、飛行機や新幹線(中国語:高鉄)のチケットを買えないことや、星付のホテルに泊まることができないことは、業務及び生活に多大な影響を与えるため、被執行者に義務を履行するよう促す効果があります。統計によれば、2018年3月までに、延べ人数で合計10,148,000人が飛行機チケット購入制限を受け、3,912,000人が新幹線チケット購入制限を受けたそうです。

一方、2013年、最高人民法院は、信用喪失被執行者リストの公開に関する司法解釈を公布し、2017年に同司法解釈をより厳しく改正しました。判決により確定された義務を履行しない被執行者が、同司法解釈に定める状況に該当すれば、信用喪失被執行者リストに記載され、最高人民法院の執行情報サイトにおいて公開されることとなります。同司法解釈に定める状況とは、(1)履行能力があるのに、発効した法律文書に確定された義務を履行しないこと、(2)証拠の偽造または暴力、脅迫などで執行を妨害、抵抗すること、(3)虚偽の訴訟、仲裁または財産の隠匿、移転などで執行を忌避すること、(4)財産報告制度に違反すること、(5)消費制限命令に違反すること、(6)正当な理由なく執行に関する和解協議を履行しないことが挙げられます。統計によれば、2018年3月まで、合計9,961,000人が信用喪失被執行者リストに記載されたそうです。

同司法解釈によれば、裁判所は、信用懲戒措置として、信用喪失被執行者の情報を行政機関、与信管理機構、業界協会などに通報します。これにより、政府調達、入札、行政許認可、融資、資質認定などの局面において、同被執行者が不利益を受けることとなります。

さらに、裁判所は、信用喪失被執行者リストを執行情報サイトにおいて公開するとともに、新聞、ラジオ、テレビ、インターネットなどのルートで社会に公開することもできます。実務上、一部の地方では、裁判所がこのような社会公開措置に力を入れ、たとえば、列車駅や高速道路などの公共施設に設置されるスクリーンに信用喪失被執行者リストを流したり、公共バスの側面に信用喪失被執行者の氏名、写真等を載せたり(下記の写真をご参照ください)、信用喪失被執行者へ電話する際、電信会社の設置により、その携帯の着信メロディーに信用喪失被執行者であることを提示したりするなど、様々な社会公開措置が執られます。

このような強力な社会公開措置は、「2、3年をかけて執行難を基本的に解決する」決意が示されており、信用喪失被執行者への督促、懲戒効果があります。しかし、被執行者を集中して制裁するためのキャンペーンのようにも感じられ、間接強制措置が濫用され、被執行者の正当な権利を過度に侵害する傾向もあるのではないかと、懸念する声もあります。

このように、情報化社会の進行を背景として、中国の裁判所は、情報の共有、連動措置を最大限に利用し、そのうえ、判決により確定された義務を意図的に履行しない被執行者を厳しく制裁し、これらを通じて「執行難」の解決に努めています。執行申請者の立場からは、これは望ましい動向ですので、今後、日系企業が執行申請者になる場合、積極的に強制執行措置を申請するようお薦めします。一方、被執行者にされるリスクがある場合は、間接強制措置の法的効果、その解消方法などについて、早めに弁護士に相談したほうが良いでしょう。

文責:李航(中国弁護士)

2018年07月10日 15:14|カテゴリー:|コメントはまだありません

「我が国企業による海外M&A研究会」報告書(平成30年3月 経済産業省 )について(その1)

少し前のことになりますが、平成30年3月に、経済産業省が、「我が国企業による海外M&A研究会報告書」を発表しました(以下、「報告書」といいます)。

報告書では、目的として、概要、「日本企業が海外の企業を買収するいわゆる海外 M&A(In-Out M&A)は、激しいグローバル競争の中で、日本企業がスピード感を持った成長を実現していくうえで重要かつ有効なツールとなっている。」、「この海外M&Aに関しては、問題点やリスクが注目を集めることも少なくない。海外M&Aには、制度・言語・文化面の違い、情報の非対称性、めまぐるしく変化する状況への迅速・果断な対応の必要性、文化や成り立ちの異なる海外企業との統合等、国内の M&A や自社の現地法人設立による海外進出と比較しても、難度が高い側面がある。」、「その一方で、業種や企業規模の如何によらず、海外M&A をうまく活用して着実にグローバルな成長につなげることもできる。」。「そこで、日本企業が今後、海外 M&A に取り組んでいくための羅針盤となるべく参考になるポイントを整理し、海外M&Aを活用した成長を志向している日本企業が、本報告書を参考に自分なりのやり方を見出し、案件の成功・企業価値の向上につなげる一助となることが本報告書の目的である。」と記載されています。

そして、報告書の第2章では、海外M&Aを実施していくうえでのポイントとして、海外M&Aの本質と成長につなげるための3つの要素(①M&A戦略ストーリーの構想力、②海外M&Aの実行力、③グローバル経営力)を理解する必要があるとされています。

本稿では、上記②の要素である「海外M&Aの実行力」のうち、「デュー・デリジェンス(DD)-優先順位付けに基づいて仮説検証する」をご紹介し、次稿では、「契約交渉-冷静にリスクに対処する」をご紹介します。

報告書によると、「デュー・デリジェンス(DD)-優先順位付けに基づいて仮説検証する」という部分について、

  • M&A プロセスにおけるDDは、ディールクローズに向け、対象企業の実態を 調査・精査する方法として広く一般的に行われている
  • DDの対象領域は、財務 DD、ビジネス DD、法務 DD、人事DD、ITDD、環境 DD、また最近では人権 DD 等多岐にわたり、調査手法も対象領域によりさまざまである
  • 目的意識を明確に(何を精査するための質問なのかを理解する等)し、限られた時間を有効活用することがDDの成否の鍵を握る
  • 入札案件の場合は顕著であるが、DDの時間は極めて限られている一方で、大規模案件の場合には、世界各地に有している子会社も少なくとも重要なものについては調査の対象になるため、精査項目も膨大となる。したがって、事前に仮説を設定しないまま DD を実施すれば、必要性・問題意識が不明確な項目も含めて網羅的な調査に終始することになる。その結果、浅く広い情報が得られるだけにとどまるうえ、情報量が膨大であるがゆえに、何が本当のリスク要因なのか理解しきれないまま DDが終了してしまうことになる。したがって、事前に重要な調査ポイントの仮説を設定することが必要となる
  • 回答内容によってディールブレイクに繫がるような “Must Have”事項なのか、参考情報として得たい “Nice to Have”事項なのか、各質問事項を分類し、調査の優先順位を明確にすることが必要である(たとえば法務 DD では、競争法や腐敗行為防止法等のコンプライアンス、紛争等にかかわる調査は”Must Have”事項といえる)
  • コンプライアンスDDが重要である。特に新興国では、贈収賄関連法違反のリスク(いわゆる corruption risk)が高く、FCPA(腐敗行為防止法) 違反が生じやすいことから、新興国M&Aに際しては専門家を用いたコンプライアンスDDの必要性が高いことに留意すべきである
  • DDの目的は、調査を行うこと自体ではない。DDで明らかになった事実から買収の成否に与える影響を分析・精査して、M&A のプロセスを進めるべきか否か、(進めるとしても)発見されたリスクについてなんらかの回避措置を検討すべきか、無視しても構わないものであるか等を分析し判断することである。DDの結果に基づき、経営トップも含めてしっかり議論・検証することが非常に重要である

など示唆に富んだ指摘が数多くなされており、DDを行う上での指針として、海外におけるM&Aに限らず非常に参考になります。

次稿では、DD等で発覚した懸案事項やリスクについて、対象企業との交渉や契約にどのように反映させていくべきかを検討した、「契約交渉-冷静にリスクに対処する」の部分をご紹介する予定です。

参考Webサイト(経済産業省)

http://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180327003/20180327003.html

文責:河野雄介

2018年07月10日 15:03|カテゴリー:|コメントはまだありません

中国における立退き

中国で、民間企業の工場や、個人の住居等が、地元政府から立退きを要求され、「無理矢理に」立ち退かされたといったニュース等を目にされたことがあるかもしれません。

こういったニュースを目にすると、「だから中国でのビジネスは怖い(危ない)」といった感想を持ってしまうかもしれませんね。

 

たしかに、以前は、強引な立退きがされたこともあり、中国でも社会問題化したことがあるのは事実です。

 

現在は、立退きに関しては、「国有土地上家屋収用及び補償条例」という法律があり、そこでは、土地収用に関する補償の方針について公布し、公衆の意見を募集し、かつ、意見募集情況及び公衆の意見に基づき修正した情況を速やかに公表することを政府等に義務付けています(同条例10条、11条)。

同条例27条では、「いかなる法人及び個人も暴力、威嚇を実施する又は規定に違反して給水、熱供給、ガス供給、電力供給及び道路通行を中断する等の不法方式により収用対象者の立退きを強制してはならない。建設業者が立退き活動に関与することを禁止する。」と規定しており、手続的な適正さについても、一定程度、法令上担保されています。

また、立退きを受ける場合には、収用対象家屋の価値(家屋収用決定の公告日の収用対象家屋に類似する不動産の市場価格を下回ってはならない)、家屋収用により発生した生産、営業停止に伴なう損害に対する補償を受けることができるとも規定されています(同条例27条)。

 

実際に、私が関係した案件でも、立退交渉に際し、弁護士が介入して政府と交渉することにより、適正な補償を得ることができたケースもあります。

 

他方で、中国法上、不動産権利所属登記を行っておらず、かつ不動産権利証書を取得していなければ、当該不動産に関する法律上の保護を受けることができませんので、上記の法令を根拠とした交渉を進めることは困難になります。

これも私が関係した案件で、20年以上前に、工場や社員寮等を建設し、登記手続等は行っていなかったものの、政府等から問題にされたことはなかったという事例です。当事者の意思としては、「政府が黙認していたではないか」という心情がありましたが、上記のとおり法律上の保護を受けれずに満足な補償を得られなかったケースがあります(日系企業においても、中国の会社が設立した会社を買収した場合や、中国側との合弁契約で、現地に関するコントロールをすべて中国方に任せていた場合等に、このようなケースが生じやすいように思います。)。

 

このように、中国では、近年、急速に法治の面も進歩しており、冒頭に記載したような抽象的な印象論ではなく、緻密に現在の法令の調査、及び、自社の法令適合性等を分析・検討したうえで、経営判断をすることが重要です。

(文責:藤井宣行)

以上

2018年06月27日 11:10|カテゴリー:|コメントはまだありません

中国における電子送達の普及について

中国民事訴訟法第87条1項では、民事訴訟における訴訟資料の送達について、「人民法院は、送達を受けるべき者の同意を経て、ファクシミリ、電子メール等の送達を受けるべき者の受領が確認できる方式によって訴訟文書の送達を行うことができる。但し、判決書、裁定書、調解書は除く。」と規定されています。

そして、2017年7月19日に公布された、最高人民法院の「民事送達業務の強化に関する若干意見」によると、当事者の同意があれば、電子送達が可能であり、電子送達の例として、ファックスや電子メールに加えて、中国における通信手段として一般的に普及している「微信」(WeChat)による送達も可能であると明記されています。

さらに、この最高人民法院の民事送達業務の強化に関する若干意見を受けて、北京市高級人民法院が発布した「送達業務に関する規定の集約を推進するための規定(試行)」では、①第2条において当事者には優先的に電子送達を選択させること、②第3条では北京法院における送達を集約するプラットフォームを作ること、③第5条及び第6条において、訴訟の第一審、第二審及び執行手続における送達に利用するための送達住所確認書の統一的なひな形を人民法院が作成し活用すること、④第19条において、当事者が電子送達に同意して送達住所確認書において選択した「微信」(We Chat)や電子メール、ファックス等の方法で電子送達が行われるが、判決書、裁定書、調解書は電子送達の対象とはならないこと等が規定されています。そして、第5条に規定されている送達住所確認書の具体的なひな形が、添付資料としてつけられており参考になります。

中国においては、北京以外の都市においても電子送達を優先する動きがみられ、今後は訴訟当事者の同意を前提として、訴訟文書の電子送達が普及していくものと思われます。

文責:河野雄介

2018年06月08日 13:43|カテゴリー:|コメントはまだありません

情報化社会とともに進む中国の執行に関する最新動向(その一)

本稿と次稿の2回の連載で、情報化社会へ急速に進んでいる中国において、近年の執行に関する最新動向を紹介します。
中国ビジネスにおいて、手方が金銭債務を履行してくれない場合、債権回収のための訴訟提起は重要な法的手段の一つとして挙げられます。ところが、せっかく勝訴判決が下されたのに、相手方が判決を無視し金銭債務を履行しなかった場合、強制執行を裁判所に申請しても奏功しないことが多いです。結局、多大な時間や労力をかけたのに、債権回収が実現できないという経験をされた日系企業も多いと思います。
中国では、「執行難」という問題が深刻であると言われてきています。われわれ弁護士としても、訴訟案件に関する相談の際、勝訴の可能性が高い案件でも、将来の執行リスクを予測し、ケースによっては執行に訴訟以上の時間や労力をかける覚悟を持たなければならないと、予めクライアントに伝えることがあります。
「執行難」の背景には、「法治社会」への途上国として、判決の権威性を守る国民意識が弱い以外に、判決の権威性を守るための有効な手段がまだ十分でなく、特に社会信用システムの未整備など、現実面の要因も指摘されます。それを受け、最高人民法院は、「執行難」を解決するための有効な措置を検討し、一連の手を打ってきました。2016年3月に開催された全人代において、最高人民法院長の周強氏の報告では、「2、3年をかけて必ず「執行難」を基本的に解決する」と決意を表明しました。
そのための有効な措置として、大きく分けて二点、挙げられます。
一つは、裁判所と銀行等の金融機構との連動システムによる、被執行人の口座情報、金融資産情報の共有です。
最高人民法院は、2014年から中国銀行業監督管理委員会、中国人民銀行(中央銀行)と共同して、執行を利便化するための被執行人の口座情報、金融資産情報の連動システムの構築を始めました。これまでは、裁判所が強制執行の申請を受けた場合、被執行人の財産情報を把握せず、またはそれを調べることができるとしても、執行案件の担当裁判官の人手不足の関係で、その財産情報の提供をまず執行申請者に要求することが一般的でした。財産情報の探索に困窮した執行申請人が、やむを得ず不法な手段を使ってしまう例もみられました。
口座情報、金融資産情報の連動システムが始動してから、裁判官が被執行人の個人名又は社名の情報を得るだけで、同システムでそれを検索し、全国銀行21行および地方銀行数十行にある被執行人名義の口座情報、金融財産情報を調べることができるようになりました。また、裁判官が同システムで被執行人の口座を凍結し、残高を差し引くこともできます。以前は、裁判官が被執行人の口座情報を探すために各金融機構に回り、口座凍結、残高の差引きなどはすべて金融機構の協力を得ることが必要でした。同システムの利用により、これら執行作業の効率は非常に高くなりました。
なお、近年、中国では電子決済が非常に流行しており、Alipay(中国語:支付宝)をはじめ第三者支払プラットフォームには数億人のユーザがいます。同システムでは第三者支払プラットフォームにある口座情報も調べることができます。ただ、現段階において、裁判所が同システムで口座を凍結し、残高を差引くことはまだできません。その場合、第三者支払いプラットフォームに執行協力通知書を発行し、その協力を要請する必要があります。
(文責:李航 中国弁護士)

2018年06月04日 23:08|カテゴリー:|コメントはまだありません

中国企業とのライセンス契約と源泉徴収

日本企業が、中国企業に対し、特許やノウハウ等をライセンスして、ロイヤリティを受領する契約を締結する場合があります。今回は、こういった契約に関する注意点をご紹介します。

まず、日本企業が中国企業からロイヤリティを受領する契約を締結する場合、当該日本企業が中国国内に拠点等を設定していない場合等は、当該日本企業は非居住企業になります(中国企業所得税法2条3項(日本の法人税法に相当するものです。以下「法」といいます。)。

非居住企業の場合、中国において納税義務が生じる対象は、中国での国内源泉所得であり(法3条3項)、この事例において日本企業が受領するロイヤリティは中国での国内源泉所得に該当します(中国企業所得税法実施条例7条)。

そして、非居住企業が中国での国内源泉所得を取得した場合には、支払者に源泉徴収義務を課しています(法36条)。

したがって、上記のケースでは、日本企業が受領するロイヤリティは、中国での源泉徴収の対象となります。

この場合、ライセンス契約書等に、「ロイヤリティの金額は1000万円とする」といった規定がなされていた場合、後日、紛争が生じることがあります。すなわち、源泉徴収が20%だと仮定すると、日本企業に着金すべき金額が800万円なのか、1000万円なのかについて、当事者間で意見の相違が生じることがあります。
契約書の「1000万円」との記載について、一方は、源泉徴収前の金額であると主張し、他方は、源泉徴収後の金額であると主張することがあります。こういった紛争を避けるために、契約書作成段階において、後日、当事者間において見解の相違が生じないように、「関連法令が要求する源泉控除後の金額1000万円を支払う」といった適切な文言を選択する必要があります。
(文責:藤井宣行)
以上

2018年05月25日 16:43|カテゴリー:|コメントはまだありません

アクシス国際法律事務所参画のご挨拶(李航 中国弁護士)

このたび、オブ・カウンセルとしてアクシス国際法律事務所に参画いたしましたので、ご挨拶を申し上げます。

アクシス国際法律事務所は、中国をはじめ、ASEAN諸国、欧米などに海外展開を行われるクライアント向けのリーガルサービスに力を入れております。私は中国弁護士として、2009年4月から主に北京・天津現地の日系企業向けの中国法サービスを提供して参りまして、今年4月から弁護士10年目に入りました。現地法人(独資・合弁)の設立をはじめ、契約審査や労働問題を含めた企業の日常運営・管理、組織再編・M&A、清算・撤退、紛争解決など、中国法務の全般にわたる法的サポートの経験を有しています。

「中国法務」といえば、特に中国進出をすでに経験された日系企業にとっては馴染みのない概念ではないかもしれませんが、「中国法務」の内実は、常に時代と共に進化しています。中国には13億人を超える巨大市場に加え、近年、生活水準の向上に伴い「中産階層」と呼ばれる人々の数が急増し、「世界の工場」から「世界の市場」へ変化を遂げています。また、電子取引の急速な進化に伴い、IT技術を活用した新しいビジネスモデルが続々と生み出されています。多くの日系企業が、新しいビジネスチャンスを敏感に捉え、積極的に取り組んでいることは、日頃の弁護士としての業務を通じて実感しているところです。これからも、中国ビジネスはより多様化、複雑化していくことが予想されますので、新しい事業を行う際の法的問題の検討には、時代に即した専門知識と経験が必要となります。

海と山に恵まれる神戸で4年間留学生活を暮らした私は、神戸の皆様をはじめ、多くの日本の方にお世話になりました。また、渉外弁護士を目指し、留学期間中、ほぼ毎月、大阪で行われた中国法務交流会に参加した際に、関西地域で活躍される日中両国の弁護士や企業法務担当者の方々と交流した場面は、今でも鮮明に記憶にあります。それから10年が経った今、大阪の川縁を歩くと、その頃とあまり変わらない景色が目に入り、「逝者如斯夫。不舎晝夜。(逝く者は斯くの如きか。昼夜を舎(お)かず。)」という論語の言葉を思い出します。世間の景気がどのような場面であろうとも、渉外弁護士になった頃の初心を忘れず、常にクライアントの信頼を得られるように探求する姿勢を忘れずにいきたいと考えております。

これから、アクシス国際法律事務所の一員として、ご支援とご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

文責:李航(中国弁護士)

2018年05月14日 13:05|カテゴリー:|コメントはまだありません

国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書について

平成30年4月、経済産業省より、「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」(以下、「研究会報告書」といいます)が発表されました。

研究会報告書では、第1章で日本企業の経営環境の変化と法務機能に対する時代の要請について、第2章で日米企業の法務部門の実態について、第3章でこれからの日本企業に求められる法務機能について、第4章で課題と克服について、第5章で関係機関による課題対応の在り方について報告されています。

渉外法務を含めた企業法務に携わる弁護士としてとくに興味深かったのは、第1章と第3章の部分ですので、本稿で取り上げさせていただきます。

まず、第1章では、日本は、少子・高齢化の進展やエネルギー・環境問題といった大きな社会問題に直面しており、2050年過ぎには人口が1億人を割るなど、長期的な人口減少が予測されており、国内の需要減少が続く中で、日本企業にとって、グローバルなビジネス展開の加速は、喫緊の課題となっていると問題提起をしたうえで、日本経済を取り巻く環境変化として、①ビジネスのグローバル化のさらなる進展に伴い、多様なリーガルイシューに対応する必要性が高まったこと、②第4次産業革命(IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット、シェアリングエコノミー等)のイノベーションの加速に伴い法制度が整備されていない市場の創出・拡大が進んでおり、各企業にとっては、これまで経験したことのない新たなリーガルイシューに対応する必要性が増していること、③2017年秋から、製造業のデータ改ざん等の問題が明らかになったが、企業の社会的責任に対する期待や要求の高まりから、企業のレピュテーションリスクは増大しており、SNSの普及によりレピュテーションリスクは従前よりも広く拡散する傾向にあり、コンプライアンスの強化の重要性が高まっていることを挙げています。

次に、第3章では、上記の日本経済を取り巻く環境変化に対応するための法務の機能として、守り(ガーディアン機能)と攻め(パートナー機能)の2つの観点から整理しています。

まず、守り(ガーディアン)の機能としては、①「最後の砦」として企業の良心となること(「合法かどうか」の判断だけでなく、ビジネス環境・経済・社会・政治・テクノロジー等に関する知識を踏まえた上で、「正しいかどうか」を判断する必要がある)、②コンプライアンス・ルールの策定と業務プロセスの構築及び徹底(グローバルレベルで変わりゆくレギュレーションを自社ビジネスに落とし込み、自社のルール、契約、オペレーションを最適なものとし、企業が法令に則って活動するように業務プロセスを構築しモニタリングする)、③契約による自社のリスクのコントロール、④自社の損害を最小限に抑えるための行動(民事訴訟で訴えられた場合の応訴、消費者クレームや不祥事への対応)が挙げられています。

他方で、攻め(パートナー)の機能としては、①ビジネスの視点に基づいたアドバイスと提案、②ファシリテーターとしての行動(集まってくる情報をもとに、必要な作業とスケジュールを把握した上で、社内外のリソースを迅速に確保・差配し、案件を進行させる)、③ビジョン(社会に提示できる新しい価値)とロジック(現行法における一定の解釈で成立し得るか)を携えた行動、④法令・契約に基づいた正当な主張(取引上のトラブルによる損害の賠償請求など)が挙げられています。

さらに、第3章では、企業が、外部弁護士を活用すべき場面として、①高い専門性が必要となるとき(社内でノウハウが蓄積しない分野)、②セカンドオピニオンを取りたいとき(リスク、インパクトの大きな事案についてステークホルダーへの説明責任を果たすため)、③訴訟、行政処分等へ対応するとき、④中立性・客観性が求められるとき(ex.第三者委員会の委員への委嘱)、⑤リソースが足りないときが挙げられています。

上記の第1章及び第3章を読んで、当事務所としても、日本経済を取り巻く環境変化に対応できるように最新のビジネス及び法律上の知見の習得を怠らず、守りと攻めの2つの法務機能を意識しつつ、外部弁護士に求められる上記の役割をあまねく充足できるように日々研鑽を積む必要があると感じました。

以下、経済産業省のリンクを挙げておきます。

http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002.html

 

文責:河野雄介

 

2018年05月14日 10:15|カテゴリー:|コメントはまだありません

売掛金の貸倒損失

今回は、税務面について、日本と中国での違いをご紹介いたします。

 

日本では、法人の貸倒損失について、法人税法22条3項3号で損金の額に算入するものとされていますが、貸倒損失該当性については明確に規定されていません。これを受けて、実務上の指針である法人税法基本通達では、9-6-1、9-6-2及び9-6-3において、具体的に規定しています(なお、通達は法的拘束力を有するものではないため、これらの通達に該当しない場合でも、貸倒損失に含まれる場合が存在しえますので、ご留意ください。)。

 

例えば、同9-6-2では、次のように規定されています。

 

9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。

 

実務では、これを前提に、取引先の資産状況や支払い能力示す資料を収集しておくことになります。

 

中国においても、上記とほぼ同様の規定がおかれています。すなわち、「財政部・国家税務総局の企業の税前控除政策に関する通知」4条で、貸倒損失として処理できる場合について、「債務者から期限経過後3年以上返済が行われず、かつ、債務を完全弁済する能力がすでにないことを証明する証拠が確実であること」等が規定されています。取引先が、債務を弁済する能力を喪失していることを立証しなければなりませんので、契約書、弁済を求める交渉の経緯、訴訟等がなされた場合には判決書、及び、入手できるのであれば取引先の計算書類等をいかに確保するかが重要になります。これらの客観的資料を可能な限り整備したうえで、税務職員に対し、法的根拠を示し、論理的に、粘り強く説明することが重要でしょう。

(文責:藤井宣行)

2018年04月20日 15:34|カテゴリー:|コメントはまだありません

中国における民事訴訟と出国制限リスクについて

第1 はじめに
今回は、設例をもとに、中国において民事訴訟を提起された場合の出国制限リスクについて検討したいと思います。

第2 設例
日本企業A社が、中国に100%出資子会社として、現地法人B社を持っており、A社の代表取締役CがB社の法定代表者を兼務しているとします。この中国現地法人B社を被告として、中国の人民法院に民事訴訟が提起された後に、Cが中国に入国した場合、Cの出国が制限されるリスクはあるのでしょうか。

第3 回答
出国制限については、中国民事訴訟法255条で、「被執行人が法律文書により確定された義務を履行しない場合には、人民法院は、当該被執行人に対し、出国制限並びに信用情報システム記録及びメディアを通じた義務不履行情報の公表並びに法律に定めるその他の措置を自ら行い、又は関係単位に協力を求めてこれらの措置を行うことができる。」と規定されています。
そして、中国の最高人民法院が制定した、「『民事訴訟』の執行手続の適用における若干問題に関する解釈」において、①被執行人が単位(法人を含む)である場合は、その法定代表者に対して出国制限を行うことができる(同解釈37条)、②被執行人に対して出国制限を行う場合は、執行申立人が執行人民法院に書面の申し立てを提出しなければならず、必要がある場合は、執行人民法院が職権により決定することができる(同解釈36条)と規定されています。
そうすると、B社の敗訴判決が確定したにもかかわらず、判決で認められた義務を履行しない場合には、B社の法定代表者であるCは相手方当事者から出国制限措置の申し立てまたは人民法院による職権判断により出国制限の決定をされてしまうリスクがあります。とくに、勝訴判決が確定した相手方当事者は、当該確定判決に基づいてB社による任意の履行を得るための戦略として、Cの出国制限の申し立てをしてくる可能性がありますので、Cとしては敗訴判決が確定し、当該判決に基づいた履行を行っていない場合の中国への入国は避けた方がよいでしょう。
他方で、判決が確定していない段階であれば、上記の中国民事訴訟法255条に基づいた出国制限措置がとられることはありません。
もっとも、上記の民事訴訟法の規定とは別に、中国の出入国管理法の第28条では、「外国人が次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、出国を許可しない」と規定されているところ、同条2号において「未決の民事事件があり、人民法院が出国不許可の決定をした場合」が挙げられています。
このように、中国において民事訴訟が提起され、敗訴判決が確定していない段階であったとしても、人民法院によりCに対して出国不許可の決定がなされるリスクは残っています。したがって、中国において民事訴訟を提起された企業の法定代表者は、たとえ判決確定前であっても、不要不急の中国への入国は差し控えた方が無難といえます。

文責 河野雄介

 

2018年04月04日 22:03|カテゴリー:|コメントはまだありません