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国際法務の部屋

日中間におけるクロスボーダー契約での仲裁条項の定め方

以前、本ブログにおいて、「日中間におけるクロスボーダー契約での裁判管轄の定め方」で、その名のとおり、日本企業が中国企業と契約を締結する際の、裁判管轄の定め方について、注意点等をご紹介しました(未読の方は、ご覧いただけると嬉しいです。)。

 

今日は、これと関連して、仲裁条項の定め方について、注意点等をご紹介します。

 

そもそも、仲裁についてですが、いわゆる訴訟が国家機関である裁判所において裁判官によって判断が下されるものであるのに対して、仲裁とは、私人である第三者(仲裁機関)が判断をする点が特徴です。

仲裁は、当事者が仲裁機関の判断に服する旨を合意(仲裁合意)をして、その合意に基づいて紛争を解決する手段です。仲裁法という法律がその内容を規定しています。

 

日本の仲裁機関としては、代表的なものとして、一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA)が挙げられます。

中国では、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)が代表的な仲裁機関として挙げられます。なお、CIETACには、以前、分裂騒動があり、話題になったことがあります。CIETACから分裂した組織は、現在、SHIACやSCIAといった名称の仲裁機関として活動しています。

 

さて、日中間の契約締結時に、仲裁を選択するか、訴訟(裁判)を選択するかについては、さまざまな要素を検討する必要があります。

まず、日本の裁判所での判決を中国で強制執行することはできないとされており、また、中国の裁判所での判決を日本で強制執行することもできないとされていますので、財産の所在や原告となる可能性の程度等を考慮しながら、訴訟を選択してもよいのか検討する必要があります。

また、訴訟の場合、控訴することが可能ですが、仲裁の場合は不服申立が予定されておらず、相対的には早期に解決することができるといわれています。

費用面においては、訴訟の場合に裁判所に収める金額よりは、仲裁機関に収める金額の方が高額ですが、JCAAと比較すると、CIETACに収める金額は低額であるといえます。

判断者の信頼性についてですが、中国の裁判所でも、北京や上海といった都市部では裁判官の質も高まっており、日本の裁判所と比較して大きく劣るということはないように思います。また、CIETACの仲裁人候補者のリストには、外国人も掲載されていますし、国際的な案件を取り扱った経験が豊富な弁護士や、国際法の学者も掲載されているので、クロスボーダー案件の場合、仲裁の方が、裁判所よりも取引の内容や実情の理解という点では優れているということもできます。

 

紛争解決条項で仲裁を選択した場合でも、仲裁合意の規定の仕方には、注意が必要です。条項によっては、仲裁合意が無効とされ、結局、中国の裁判所で訴訟をするしか選択肢がない、という事態にもなりかねません。

例えば、中国の司法解釈では、仲裁合意において、裁判所への訴訟提起もできる旨を規定しているものは、無効にすると規定されています[1]

他にも、仲裁合意が無効とされる原因は多くありますので、仲裁合意を規定する際には、慎重な検討が必要となります。

 

本ブログは、一般的な事項に関して意見を述べたものであり、具体的な法律問題に関する意見や回答等を述べたものではありません。個別の事件等に関しては、専門家にご相談ください。

(文責:藤井宣行)

[1] 中国仲裁法の適用に関する若干問題の解釈[2008]

 

2018年01月31日 10:19|カテゴリー:|コメントはまだありません

日本における「会社の目的」と中国における「経営範囲」について

日本の会社法では、会社はその目的を定款に記載し、かつ登記しなければならないと定められています。そして、判例によると、定款所定の目的外の行為は、取引相手方の善意・悪意を問わず無効になると解されています(大判明治36年1月29日民録9輯102頁)。また、定款所定の目的の逸脱は、①取締役等の善管注意義務違反に基づく損害賠償責任事由、②取締役等の行為の差止請求事由、③監査役等の取締役等への報告事由、④役員の解任事由、⑤会社の解散命令事由等として問題となるとされています(江頭憲治郎著「株式会社法(第7版)」(有斐閣)33頁)。

もっとも、最高裁の判例によると、定款に記載された目的自体に含まれない行為であっても目的遂行に必要な行為は目的の範囲に属するものと解すべきであり、その目的遂行に必要かどうかは、問題となっている行為が、会社の定款記載の目的に現実に必要であるかどうかの基準によるべきではなく、定款の記載自体から観察して、客観的に抽象的に必要かどうかという基準に従って決すべきだとされています(昭和27年2月15日最高裁判所民事判例集6巻2号77頁)。このように会社の目的について広く解釈する日本の判例法理では、定款所定の目的の範囲外であると判断されることはほとんどなく、定款所定の目的により会社の権利能力が制限される場面もほぼ皆無といっていいでしょう。

他方で、中国においては、会社の経営活動について、営業許可証に記載された「経営範囲」により厳格な制限がなされており、経営範囲を逸脱した場合は、罰金、営業許可の取り消しなどの処分を科されることになります。ただ、中国においても、経営範囲を逸脱した契約がすべて無効になるわけではない点に注意が必要です。最高人民法院の「中華人民共和国契約法」の適用に関する解釈(一)の第10条では、当事者が経営範囲を超えて契約を締結した場合でも、人民法院はこれによって契約が無効であるとの認定は行わないことを原則としており、例外的に、国家により経営が制限されるもの、経営に特別な許可を受けるべきもの、経営が法律や行政法規で禁止されているものについては、経営範囲を逸脱した契約は無効となるとされています。このように、経営範囲を逸脱した契約が無効となるリスクがある以上は、契約の相手方が中国企業の場合には、当該取引が相手方の経営範囲内のものであるか否かを確認した方が無難であるといえます。

文責:弁護士河野雄介

2018年01月12日 15:06|カテゴリー:|コメントはまだありません
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