ここから本文です

ベンチャー法務の部屋

いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か

1 「いわゆる有償ストック・オプションと「報酬等」規定」(弥永真正著)と題する論文

旬刊商事法務No.2158(2018年2月15日号)に、「いわゆる有償ストック・オプションと「報酬等」規定」(弥永真正著)と題する論文が掲載されています。

これは、企業会計基準委員会が平成30年1月12日に、「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(実務対応報告第三六号)を公表したことを契機として権利確定条件付き有償新株予約権を取締役に付与した場合に、会社法第361条第1項に基づいて報酬等の付与として、株主総会の決議が必要であるかどうかを議論した論文です。

当職が知る範囲では、従前の解釈は、いわゆる公正な払込金額に相当する額の金銭が払い込まれる有償ストック・オプションは、「財産上の利益」を与えるものではないため、株主総会の決議は不要と解されるという主張が多いように思います。

 

2 ベンチャー企業が、有償ストック・オプションを発行する理由

ここで、ベンチャー企業が、有償ストック・オプションを発行して、役員や従業員に割り当てる理由を確認したいと思います。

ベンチャー企業の経営者には、ベンチャー企業の役員や従業員に対して、時価総額を最大化するという方向性で共通のインセンティブをもってもらうために、株主と同じような利害関係を創りたいという動機があります。その方法として、主に、3つの方法が考えられます。

(1)株式
(2)無償ストック・オプション
(3)有償ストック・オプション

いずれの方法も現実には存在します。

ただ、株式は、株主間契約等で拘束しない限り、会社との関係が切れても保有されてしまうリスク(フリー・ランチのリスク)や株主総会招集通知を送付しなければならないといったデメリットがあり、原則として、避ける方向が多いと思います。

そこで、(2)の無償ストック・オプションか、(3)の有償ストック・オプションが選択肢に上がります。

この2つを分けるのは、税制です。
(2)の無償ストック・オプションについては、いわゆる税制適格が得られないと、権利行使時、すなわち新株予約権が株式に変わったときに、所得税の課税対象となり、納税分の現金が用意できないリスクや所得税の税率の高さといったデメリットがあるため、忌避されることが多いです。(なお、金額が小さいと、これらのリスクやデメリットは大きくないことから、税制非適格の無償ストック・オプションが発行されることも時折見かけます。)

税制適格が得られない場合には、有償ストック・オプションが活用されます。典型的には、大株主の地位にある役員や、役員・従業員ではない外部協力者です。公正な発行価額にて発行された有償ストック・オプションは、いわゆる資本的取引であり、所得税の適用は受けず、また、権利行使時ではなく、株式売却時に課税されるため、上記の無償ストック・オプションのリスクやデメリットがありません。(なお、公正な発行価額にて発行する必要があるため、新株予約権の払込金額の算出が多少面倒かもしれません。)

そのため、ベンチャー企業では、有償ストック・オプションを発行することが少なくありません。

当事務所でも、ストック・オプションのスキーム選択や、要項・契約書の作成について、非常に多く助言を行っており、上記の状況をヒアリングしつつ、適宜アドバイスを行っています。

 

3 会社法上の役員報酬規制

会社法では、取締役の報酬等(職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益)については、額、具体的な算定方法、又は内容を、定款又は株主総会の決議によって定めなければならないと規定されています(会社法第361条第1項)。

その理由は、いわゆる「お手盛り」の防止、すなわち、取締役が自らの報酬を自由に決定できるとすると、好きなだけ高く設定することができ、その分、株主が損をするということにあるとされています。

また、取締役会決議では、充分に牽制機能が働かないことや、株主としても有能な取締役を失わないためにどの程度の「報酬等」を付与するかを考えるべき立場になることが理由とされています。ただ、個人的には、上場企業の場合に、この後者の理由が妥当するのかは、疑問の余地がないわけではありません。

さらに、金銭対価以外の場合には、報酬等としての合理性を判断する機会を株主に与えるという趣旨もあるとされています。

 

4 いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か

上記の論文では、「「権利確定条件付き有償新株予約権」が会社法361条にいう「報酬等」に常に当たらないことが自明であるとはいえない」と小括しています。

同論文は、基本的に、開示している「権利確定条件付き有償新株予約権」を調査しているようであり、上場企業が念頭に置かれていると思われます。

とはいえ、会社法第361条は、上場企業にも非上場企業にも適用されますので、仮に、「権利確定条件付き有償新株予約権」が会社法361条にいう「報酬等」に該当する可能性があると解釈すると、安全を見て、非上場企業でも、取締役に新株予約権を発行する際には、株主総会の報酬決議をしなければならないということになります。

ベンチャー企業の実務上は、正直なところ、あまり手続的な実益が乏しいにもかかわらず、報酬決議を取得することは更なる手間を要することになり、あまり好ましい事態ではないように思われます。具体的には、非上場企業では、第三者割当により新株予約権を発行するに際しては、株主総会の決議を経ることになり(会社法第238条第2項、第240条第1項)、少なくとも会社法第239条第1項の枠取り決議が必要です。しかしながら、報酬決議も必要だとすると、付与時にも、株主総会の決議を経なければならなくなります。

枠取り決議では、付与対象者が不明であるので、再度の株主総会決議には、役員への付与を承認するという意義があるという考え方もあり得ますが、普通は、枠取り決議時に、およそどのような属性の者に付与するのかについて、予め株主に説明した上で、承認を得ていることが普通でしょうから、実務的には、二度手間が生じるように思われます。また、枠取り決議の要件は、出席株主の3分の2であり(会社法第309条第2項第6号)、報酬決議より要件が厳しいという点から、要件が緩い報酬決議をさらに必要としなくても良いとも考えられます。さらには、非上場企業が具体的な「報酬等の額」を算出することはかなり負担が多いように思われます。

少なくとも、非上場企業においては、公正な発行価額にて発行された有償ストック・オプションについては、発行手続において株主総会決議を経ている以上、いわゆる「お手盛り」の防止や、報酬等としての合理性を判断する機会を株主に与えるという趣旨も達成できるのであり、さらに株主総会の報酬決議を必要とする、取締役への実質的な地位や特権的な機会の付与があるとはいえず、「財産上の利益」がないと解して、報酬決議を不要と解釈することは十分に可能であると考えられます。

なお、以上は、弁護士森理俊の個人的見解に過ぎず、特定の裁判の結果を保証するものではなく、また、当事務所を代表して意見を述べるものでもありません。

 

2018年04月04日 10:57|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません
1