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ベンチャー法務の部屋

株式譲渡の手続を確実に進めるために

中小企業(非上場企業)やベンチャー企業(非上場企業)をクライアントとする弁護士が、しばしば直面する事態の1つに、「過去の株式譲渡が有効になされたのか、よくわからない」ということがあります。株式譲渡の有効性が明確に証拠化されていないと、IPO時やM&A時に株主が誰であるか確定しなくなる事態や、株主間で議決権の帰属に争いが生じる等の事態が発生してしまうことがあります。

今回は、非上場企業の大半を占める譲渡制限会社の「あるべき株式譲渡手続」について、解説します。

1 事前の情報確認

前提として、
(1)株券発行会社であるか、株券不発行会社であるか、
(2)譲渡承認機関が取締役会か、その他(株主総会、代表取締役等)であるか、
を確認する必要があります。

(1)の株券発行会社であるか、株券不発行会社であるかは、定款及び全部(現在)事項証明書で確認します。株券発行会社であれば、その旨が全部(現在)事項証明書に記載されますが、株券不発行会社であれば、記載はありません。
 平成17年の会社法施行前から存続する会社は、株券発行会社のままである可能性が比較的高いので、要注意です。株券不発行会社であることと、株券発行会社の株券不所持制度は、別物ですが、混同されていることがありますので、こちらも注意が必要です。株券不発行会社では、株券を発行するという事態が生じませんが、株券発行会社の株券不所持制度は、株式譲渡時には株券を発行する必要があるが、その他の時は会社に株券を預けて不所持状態とする制度です。

(2)の譲渡承認機関については、「当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。」といった規定が定款にあり、また、全部(現在)事項証明書にも記載されていますので、こちらで確認する必要があります。

2 当事者間(譲渡人・譲受人間)の手続

株券不発行会社の場合は、当事者間は、株式を譲渡する旨の意思表示のみで契約が成立し、株式譲渡が有効となります。但し、売買であるのか、贈与であるのか、売買である場合には、譲渡価額がいくらであるのか、等を書面化して明確にした方がよいです。株式譲渡契約書に記載すべき事項については、ブログ「株式譲渡契約に関する注意点(1)」を参考にして下さい。

なお、売買の場合は、譲渡対価が支払われていないと、解除権が発生し得ることになりますので、通帳に振り込む、領収書を取得する形で、支払い完了についても、証拠化した方がよいと考えます。

株券発行会社の場合は、当事者間における株式を譲渡する旨の意思表示により契約が成立しますが、株式譲渡は株券の交付が効力発生要件ですので、契約の後に、実際に株券を交付する必要があります。株券不所持制度が採用されている場合、株券を会社から譲渡人に交付してもらい、譲渡人が譲受人に株券を交付し、譲受人が受け取った株券を会社に引き渡すという、少し儀式的な手続を履行することになります。

3 株式譲渡と会社との関係

(1) 譲渡承認の請求
会社に対しては、株式譲渡の承認決定機関に対し、譲渡人から、又は譲渡人と譲受人の共同で、承認するように請求します。この際に、譲渡が承認されない場合に、譲渡先を指定してもらいたい場合は、併せてその旨も請求します。

より詳細には、会社に対して、(i)譲渡する株式の数、(ii)株式を譲り受ける者の氏名または名称(株式取得者からの請求の場合は、取得者の氏名または名称)を明らかにして(会社法138条1号、2号)、当該譲渡を承認するか否かの決定を請求をします(会社法136条、137条1項)。

株式の譲受人による承認の請求の場合は、原則として、株主(譲渡人)と共同で承認請求を行わなければなりません(会社法137条2項)。例外として、譲渡人やその一般承継人に対して承認請求を命ずる判決を証する書面を提供して請求した場合などは(会社法施行規則24条)、単独で行うことができます。

会社は、かかる譲渡承認の請求を受けた場合は、譲渡承認の決定機関において、承認します。

会社が承認しない場合の手続は、今回、割愛します。

(2)承認決定の通知
会社が、譲渡を承認した場合には、その決定内容を請求者に通知しなければなりません(会社法139条2項)。なお、譲渡承認請求の日から2週間(定款で短縮することも可能です)以内に通知をしなかったときは、会社は譲渡の承認の決定をしたものとみなされます(会社法145条1号)。
 したがって、会社が承認しない場合は、2週間以内にその旨を通知しなければなりませんので注意が必要です。この期限は、請求者と会社との合意で変更することができます(会社法145条ただし書)。

(3)株主名簿の名義書換
譲渡人(現在の名義人)と株式取得者が共同して名義書換請求を行い、会社が株主名簿を書き換えるというのが、通常の流れです。

譲渡人(現在の名義人)と株式取得者が共同して名義書換請求を行うことで、会社は、株主名簿の名義を変更する義務が生じます。また、株券発行会社の場合、譲受人は、単独で、株券を提示して名義書換請求することができます(会社法133条2項、同法施行規則22条2項1号)。

なお、会社は、適切な株式譲渡を確認すれば、自己の危険において、名義書換未了であっても、基準日以前から株式を取得していた者を株主と認め、同人の権利行使を認容することは差し支えないと解されています。

名義書換請求についても、書面化して残すことが明確化のためには重要です。

最後に、株主名簿に記載すべき事項は、下記のとおり、会社法に定められています。エクセルのファイルで、氏名と数のみが記載されている株主名簿を散見しますが、正式な株主名簿とはいえませんので、ご留意下さい。
(株主名簿)
第百二十一条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。
一 株主の氏名又は名称及び住所
二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
三 第一号の株主が株式を取得した日
四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号

(文責:森理俊)

2018年10月26日 23:28|カテゴリー:企業法務コメントはまだありません

裁判手続等のIT化とODR

いま、日本の裁判手続は急速にIT化に向けた動きが進んでいます。
これまでの、そして今の日本の訴訟手続は、紙とファックスが中心です。

日本のIT化の現状に即して考えても、紙とファックスは、不合理な側面が否めず、同時にセキュリティの観点からも脆弱であると言わざるを得ません。

弁護士がmicrosoft word等のソフトで電子的に作成した書面を、一度プリントアウトして、紙面に押印し、その後、ファックス送信して、それをさらに裁判所でプリントアウトしたものをファイリングするという、どう考えても不効率なことを今も続けているのが民事裁判の現実です。その後、裁判所が、判決を書くのに電子データがほしいといって、データの入ったCD等を裁判所に届けさせるというのは、どう考えても愚かしいとしか思えません。
また、ファックスは、数字10桁程度の送信先の指定方法で、暗号化もパスワードによる保護もされていない状態で、電子情報を送信するという前時代的な方法です。このようなセキュアではない方法は、裁判に関する秘匿すべき要請の高い情報のやり取りとして適切かというと、かなり疑問な面があります。また、送信されたデータにはパスワードが付されていませんので、誤送信すると、その時点で取り返しがつきません。

以上の理由がどれだけ意識されているのかはわかりませんが、日本でも、ようやく「世界的に見て日本の裁判手続のIT化は遅れている。紛争解決インフラの国際的競争力強化、裁判に関わる事務負担の合理化、費用対効果の総合的観点からも推進すべき」という問題意識から、3つのeが推進されることになりました。

この流れに関する情報は、首相官邸のウェブページにあり、上記の問題意識は、『裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて』に記されています。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/index.html

『裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて』
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/pdf/report.pdf

3つのeとは、e提出:e-Filing、e法廷:e-Court、e事件管理:e-Case Managementです。これらの詳細について詳しく知りたい方は、上記の「取りまとめ」をご確認下さい。

このうち、まず最初に、現行法で可能な範囲で、具体的には、書面による準備手続を活用して、テレビ会議システム(具体的には、Skype等)を利用して、争点整理の充実化を図ることが検討されています。

日本弁護士連合会は、この「取りまとめ」の内容に対し、どのような意見を形成すべきか、検討するために、関連委員会及び単位会に対して、意見照会がなされました。大阪弁護士会でも、短期間で意見を取りまとめて、提出しました(私も、関わらせていただいています。)。勿論、大阪弁護士会内部でも、結論が形成できていない論点も多くあり、両論併記で残っている部分があります。

個人的には、e-Courtよりも、先にe-Filingやe-Case Managementを推進してほしいところであり、とはいえe-Case Managementは開発業務に相当時間とコストを要すると思われる為、e-Filingから進めてほしいと考えています。また、もしe-Courtを進めるのであれば、まず、無駄な期日や作業、移動時間を減らすために、柔軟に手続を選択して、両当事者が裁判所に来なくても、論点整理できそうな場合は、どんどん書面による準備手続等を活用する等して、論点整理を進めてほしいと思います。あと、保全手続や保全異議審の一部など、代理人と裁判所で話が進むような手続も、ウェブ会議を積極的に活用してほしいと思います。
一方、証人尋問は、入院患者が証人になるような場合は例外的に活用できるようにするのは肯定するとしても、原則として法廷で行うということは、裁判の公開の原則にも適っていますので、e-Courtに最もなじみにくい場面だと考えます。

いずれにせよ、裁判手続等のIT化の流れはここ数年に大きく加速することが予想されます。要注目です。

加えて、IT化が進められそうなのは、裁判手続だけではありません。ADR(Alternative Dispute Resolution)と呼ばれる裁判外の紛争解決手続も、オンライン化の流れにあります。

今年の9月21日に、ODR(Online Dispute Resolution)に関するシンポジウムが東京で開催されました。
http://www.law.hit-u.ac.jp/content/images/bl/symposium/180921onlinedisputeresolution.pdf

一橋大学法学研究科 渡邊真由先生のプレゼン資料(2018/07/27, 日本ADR協会)は、こちらです。
https://japan-adr.or.jp/sympo2018docs/7.pdf

世の中には、少額のオンラインでのCtoCのトラブル(ネット・オークションでのトラブル)や、リアルでも数万円から数十万円前後の金銭等のトラブル(賃金不払い、貸金未返済など)は少なくありませんが、裁判所が充分な紛争解決手段を提供できているとはいえず、弁護士を始めとするプロフェッショナルも、費用対効果が良くないこと等を理由に積極的に取り組んできませんでした。

米国では、eBayやPayPal等の民間企業が、人間の関与をほとんどなくして、システムだけで解決できるような紛争解決システムを提供し、高い割合で活用されているようであり、日本でも、今後、発展が期待され、同時に、押し進められるべき分野であるように感じます。

こちらもここ数年で急速に進化する可能性があり、目が離せません。

(文責:森理俊)

2018年10月01日 10:50|カテゴリー:法務関連ニュースコメントはまだありません
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