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ベンチャー法務の部屋

種類株式の実務的争点(2) 配当優先

種類株式の実務的争点(2) 配当優先

【目次】
1 残余財産分配優先 ~種類株式の実務的争点(1)
(1) 種類株式の必須項目
(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい
2 配当優先 ~種類株式の実務的争点(2) <今回>~
(1) 種類株式の標準項目
(2)  標準的な定め方は、特定された金額(&調整条項)+参加型+非累積
(3)  「株式取得時の1株あたりの払込金額」と定めることは避けた方がよい
(4) 上記以外の配当優先の定め方
(5) 配当の性質とスタートアップ企業の配当方針

【目次・終わり】

2 配当優先
(1) 種類株式の標準項目
剰余金の配当の優先は、種類株式に、一般的に設けられている項目です。

剰余金の配当は、会社の一部の清算という効果をもたらすものです。そのため、残余財産分配優先と同様の理由で、配当の有限も設けられます。すなわち、投資家は、高い株価・低いシェアで投資する場合に、1株あたり同じ金額で配当されてしまうと、普通株主により高いリスクを引き受けたにもかかわらず、そのリスクに見合わないリターンしか得られないことになりますので、リスクに見合ったリターン(インカムゲイン)を設計する必要があるというものです。

とはいえ、一般的なベンチャー企業は、高い成長を目指しており、会社に生じた剰余金を再投資に回すことで、複利的に成長することが期待されています。投資家側も、配当優先を規定しているからといって、会社に、必ずしも配当をすることを期待しているわけではありません。

また、そもそも、ベンチャー企業は、出費が先行し、当初、フリーキャッシュフローは、マイナスで推移することが多いですので、そもそも剰余金が生じずに、配当もできないケースも少なくありません。

したがって、剰余金の配当について規定されている例は、極めて多く、ベンチャー投資の現場で設計される種類株式では、ほとんどの場合、配当優先が定められていますが、実際に、この規定に基づいて優先配当を実施している例は、極めて少ないものと思われます。

また、残余財産分配優先を定めていない場合に比べ、配当優先を定めていないことは、投資家側のリスクとしては比較的高くはありません。

そのため、残余財産分配優先の規定があるが、配当優先の規定はないといったケースもないわけではありません。

(2)  標準的な定め方は、特定された金額(&調整条項)+参加型+非累積
スタートアップ企業への投資において、標準的な配当優先条項は、一定の金額を優先した後、さらに配当する場合には、種類株主と普通株主に対して、平等に、1株につき同額を分配するというものです。一定の金額とは、「A種優先分配額の○%に相当する剰余金」と定めるケースもあれば、「○円」と定めるケースもあります。

「○円」と定めると、残余財産分配優先条項と同じような調整条項を配当優先でも設けなければなりませんので、「A種優先分配額(A種優先分配額が調整された場合にはその調整後の金額を意味する。)の○%に相当する剰余金」とすると、調整条項が統一されますので、わかりやすく規定できると思われます。

また、残余財産の分配とは異なり、剰余金の配当は、複数回実施することができますので、「但し、既に同じ事業年度中に設けられた基準日によりA種優先株主又はA種優先登録質権者に対して剰余金の配当を行ったときは 、その額を控除した額とする。」といった定めをすることが多いです。

参加型/非参加型は、残余財産優先分配条項と同じ議論ですので、ここでは割愛します。

非累積/累積は、ある事業年度において行なわれた配当の額が優先配当額に達しない場合、不足額が翌事業年度以降に累積し続け、累積した不足額については、翌事業年度以降、優先配当額の配当の前に、さらに優先的に配当されるとするものです。配当自体が稀であり、配当の累積は、ベンチャー企業に酷なイメージをもたらすことから、非累積がほとんどであると思われます。

(3)  「株式取得時の1株あたりの払込金額」と定めることは避けた方がよい

定款で、優先配当額として「株式取得時の1株あたりの払込金額の○%」を定めることは、避けた方がよいでしょう。理由は、残余財産分配のときの議論と同じです。

(4) 上記以外の配当優先の定め方

種類株式の内容として、議決権を無しにしつつ、配当を優先するという方法は、あり得ます。

このような場合を含め、上記以外の配当優先の定め方として、普通株式に配当する金額の○倍の金額を優先株主に支払うという定め方もあり、上場企業でも、みられるところです。こちらは、投下資本の回収よりも、株式市場で取引されるバリューを意識した定め方と、いえるでしょう。

(5) 配当の性質とスタートアップ企業の配当方針

配当とは、剰余金がある場合に、会社にある現金を株主に戻す行為です。株主全体で把握すると、基本的に以下の取引が成り立つものです。

【配当前】の株式 = 【配当後】の株式 + 配当金

一般的な、配当優先の規定であれば、優先配当をしても、事業年度を超えると、優先配当額がもとに復活しますので、毎年優先配当をすると、普通株主に損ということになってしまいます。そのため、基本的には、スタートアップ企業は、例え剰余金が存在しても、この配当優先の規定が残っている間に、配当をすることは、例外的でしょう。

これを避けるには、優先配当を実施した場合に、配当した金額は、それ以降のA種優先分配額から控除されるものとし、また、残余財産優先分配規定におけるA種優先分配額からも控除されるとするのが、フェアといえるかもしれませんが、あまりそのような規定はみたことがありません。やはり、スタートアップの投資では、投資家も発行会社も、配当は望んでいないため、配当があまり実現されない方向で規定されていても、それほど問題視されないものと思われます。

(文責:森 理俊)

種類株式の実務的争点(1)  残余財産分配優先

日本のベンチャー投資において、この15~20年くらいの歴史のなかで、スタートアップ企業が、新株発行をして、増資をすることで、資金調達をすることは、珍しいことではなくなってきました。勿論、これは、立場によって、感じ方も異なることと思います。

そして、この増資の方法として、種類株式が利用されることも、稀ではなくなってきました。

しかしながら、スタートアップ企業の経営者にとっては、初期の資金調達で、投資家から種類株式の要領(タームシートや定款変更案)を突きつけられると、未だに非常に面食らうものであることも、確かでしょう。種類株式の内容は、専門用語が多く、複雑であり、真意を理解することが容易ではないからです。

しかも、種類株式に関する専門書を読んでも、種類株式の種類として、配当優先、残余財産分配優先、取得請求権付株式、取得条項付株式、拒否権付株式、役員選任権付株式などと、列挙されていて、自社(発行会社)にとって、何が有利な条項で何が不利な条項で、相場と比較して、どの程度ずれているのかも、よくわからないことが多いと思われます。そこで、実務上の観点から、種類株式について、実質上の争点や留意点を検討してみたいと思います。

 

【目次】
1 残余財産分配優先 ~種類株式の実務的争点(1)<今回>~
(1) 種類株式の必須項目
(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい

(注)次回以降は、作成する度に目次に加えます。
【目次・終わり】

 

1 残余財産分配優先
(1) 種類株式の必須項目
残余財産分配の優先は、種類株式に、必ずと言ってよいほど、設けられる項目です。

その理由は、以下のとおりです。

・種類株式の発行によって、投資家に対して第三者割当増資を行うときは、株価(払込金額)が普通株式より高いことが、ほとんどである。また、その際に、その投資家が取得することとなるシェア(議決権割合)は、結果として、1/3にも満たない可能性が高い。

・もし投資家が普通株式を引き受けていると、その投資家は、会社の解散に対して拒否権を持てないことになり(株式会社の解散は、株主総会の特別決議事項で、出席株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の多数が必要。会社法第471条第3号、第309条第2項第11号)、投資直後に会社が解散すると、1株あたり同じ金額の残余財産しか分配されないことになる。そのため、投資家は、高い株価・低いシェアで投資する以上、直ちに解散した場合であっても、少なくとも、投資した金額については、残余財産から優先的に分配されるよう、株式を設計し、直後の解散による投資損といった事態を確実に避ける必要がある。

わかりやすい例として、普通株式を株主Aに90株(払込金額1万円)を発行している株式会社があるとします。このとき、会社にある資産は投資実行時から増減がないとすれば90万円です。その会社が、投資家Bに普通株式10株を割当て、1株あたり払込金額100万円で発行すると、発行直後に、会社にある資産は1090万円です。その後、会社の解散決議を行うと(株主A:90%、株主B:10%であり、株主Bが反対しても可決される。)、清算費用を無視すれば、株主Aに、981万円(1090万円×90%)、株主Bに、109万円(1090万円✕10%)が分配されます。株主Bにとっては、1000万円の投資が、109万円になるわけですから、大損です。

投資家は、高い株価・低いシェアで投資する場合に、このような解散による投資損といった事態を避けるために、普通株式ではなく、残余財産分配を優先する内容の種類株式での投資を望みます。

 

(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
スタートアップ企業への投資において、標準的な残余財産分配優先は、払込価額相当額を優先した後、さらに分配する場合には、種類株主と普通株主に対して、平等に、1株につき同額を分配するというものです(実際の定款では、「A種優先株式1株につき、普通株主又は普通登録質権者に対して普通株式1株につき分配する残余財産にA種取得比率を乗じた額と同額の残余財産」といった形で、種類株式については種類株主が取得請求権を行使した場合に取得できる普通株式数に計算した上で、1株あたり平等に分配されるように設計されます。)。

また、「払込価額相当額」としているのは、株式分割や株式併合、株主割当増資、株式無償割当ての場合に、払込価額を調整する必要がありますので、そのための調整条項がおかれます。例えば、種類株式1株を10株にする株式分割をする場合には、払込価額相当額を、当初の10分の1にするといった調整です。

残余財産分配に関する定め方のバリエーションとしては、非参加型、すなわち、種類株主が払込価額相当額につき優先的に分配を受けた後、残余財産の分配を受けない方法、があり得ますが、一般的ではありません。

また、ほかのバリエーションとして、払込価額の2倍や3倍を優先残余財産分配額とする設計もあります。こちらも、少なくとも今の日本では珍しい設計ではないかと思います。

 

(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい

時折、「A種優先株主又はA種優先登録株式質権者に対し、普通株主又は普通登録株式質権者に先立ち、A種優先株式1株につき、株式取得時の1株あたりの払込金額を分配する。」といった規定が見られます。

この規定自体は、直ちに問題がある規定ではありません。登記手続においても問題とはされないと思います。

しかしながら、(i)定款の種類株式の定款規定を読むだけでは、優先残余財産分配額が判断できないこと(別途、実際の「払込金額」を把握する必要がある)、に加えて、(ii)異なる払込金額でA種優先株式を発行している場合には、先に株価Xで発行されたA種優先株式と後に株価Yで発行されたA種種類株式は、会社法上、異なる種類の株式と判断される可能性があります。特に、(ii)の場合は、別に定められた「取得と引換えに交付すべき普通株式数」に関する規定でも、「取得と引換えに交付すべき普通株式数」が異なる場合が生じることになり、会社法上、異なる種類の株式と判断される可能性が極めて高いです。

そのため、「A種優先株主又はA種優先登録質権者に対し、普通株主又は普通登録質権者に先立ち、A種優先株式1株につき金●円を支払う。」というように、具体的な金額で規定した方がよいでしょう。

(文責:森 理俊)

『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』(経済産業省)

今月(2019年5月)、経済産業省にて『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』が策定されました。

 

1 『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』の策定

昨今、大学発ベンチャーに関連して、大学が保有している知的財産をベンチャー企業に移転する場合等の対価として、新株予約権を取得する例がかなり増えてきたように思います。

先日(2019年5月)、経済産業省は、『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』を策定しました。

私は、これまで実際に国立大学法人の知財移転や新株予約権取得に関与して、助言などを行っており、これまでの関連する動きと併せて概観したいと思います。

 

2 これまでの文部科学省通知などの状況

これまで、文部科学省から、以下の通知において、例えば下記の指摘がありました。

 国立大学法人等は、法第22条第1項各号又は法第29条第1項各号に規定される業務と離れて、収益を目的とした別の業務を行うことはできないが、同項各号の範囲内の業務を行う中で、受益者に対し費用の負担を求め、結果として、収益を伴うことまでは否定されていない。
その対価として現金に代えて株式等を受け入れざるを得ないような場合には、株式等を取得することは法的に可能と解されること。
ただし、国立大学法人等においてその取得を慎重に判断した上で実施するものであることに留意すること。また、この取扱いは、当該対価を現金により支払うことが困難な大学発ベンチャー企業等を対象として想定しているものであり、株式公開企業等の現金による支払が可能な企業について、現金に代えて株式等を取得することは法の趣旨に照らし妥当な取扱いとは解されないこと。

(想定される対価の例)
・国立大学法人等の教育研究活動に支障のない範囲内において、一時的に、国立大学法人等の施設を使用させる対価
・国立大学法人等の教育研究活動の成果を活用し、技術相談業務、技術顧問業務、法律相談業務等、技術的な支援を行い、得る対価など

(文部科学省高等教育局長等 29文科高第410号 平成29年8月1日「国立大学法人及び大学共同利用機関法人が株式及び新株予約権を取得する場合の取扱いについて(通知)」)
注釈:「法」とは国立大学法人法を意味する。太字は筆者による。

また、内閣府及び文部科学省から、以下の通知において、下記の指摘がありました。

法第 34 条の 4 及び第 34 条の 5 は、研究開発法人及び国立大学法人等が支援に伴い株式等を取得することができる場合を、法人発ベンチャーの資力その他の事情を勘案し、特に必要な場合としている。すなわち、支援を行う研究開発法人又は国立大学法人等の研究成果を活用した事業の有望性が高い法人発ベンチャーであって、当該研究開発法人及び国立大学法人等による支援に対し、現金による支払を免除又は軽減することが当該ベンチャーの経営の加速のために特に必要と考えられる場合が対象となる。

法人発ベンチャーから株式等を提供したい旨の意向が示された場合、研究開発法人及び国立大学法人等は、株式等の 価値を公正かつ客観的に評価できるよう、必要に応じて、株式等の取扱いに係る経験等を有する外部専門家の意見を活用しつつ、法人発ベンチャーとの合意の上で取得する株数等を決定する必要がある。

(内閣府 政策統括官(科学技術・イノベーション担当) 文部科学省 科学技術・学術政策局 平成31年1月17日「研究開発法人及び国立大学法人等による成果活用事業者に対する支援に伴う 株式又は新株予約権の取得及び保有に係るガイドライン」)
注釈:「法」とは科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律を意味する。太字は筆者による。

以上を踏まえると、従前から、取得時や保有時に以下の留意事項が考えられていました。

【大学側の取得時の留意点】
・ 新株予約権の取得については、ライセンスの相当性、新株予約権取得の相当性(事業の継続性や回収可能性など)に留意する
・ 新株予約権自体の相当性(数や内容の合理性など)に留意する
・ 実務上、ライセンス等の対価及び新株予約権1個あたりの価値を算出し、ライセンス等の対価を新株予約権1個あたりの価値で割って、個数を算出することが理想である。ただし、現実には、ある程度の仮定を前提とした上での計算をもとに、外部専門家の意見を活用しつつ、法人発ベンチャーとの合意の上で取得する株数等を決定する。

【大学側の保有後の留意点】
・ 特段の事情がない限り、換金可能な状態になり次第可能な限り速やかに売却することが求められる。
・ 自益権(利益配当請求権や残余財産分配請求権)の行使はよいが、議決権の行使など経営参加権等のいわゆる共益権の行使は、原則として認められない。例外あり。

 

3 経済産業省作成の『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』について

経済産業省は、『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』において、基本的な考え方として、以下のとおり、述べています。

「現金による支払を免除又は軽減することが当該ベンチャーの経営の加速のために特に必要と考えられる場合」である基準については、ベンチャー企業の成り立ちや将来的な事業計画、また大学との関わりは多様であり、株式・新株予約権の取得の妥当性を画一的な基準で判断することは困難です。そのため、株式・新株予約権の取得可否の判断は、対象とする企業がその時点で保有しているキャッシュの多寡だけではなく、ライセンスに伴って現金による支払を免除又は軽減することがその企業の事業計画を勘案すると必要かどうか、また、企業側が希望しているかどうかという視点で検討することが適切であると言えます(p.19)。

また、考慮するための要素として、「新株予約権取得の判断を行うための事業計画を確認し、現金を回収できることが一定程度見込まれること」「新株予約権を取得するタイミングとして、シード期が一般的であるが、例外もあり各ケースに合わせた対応をすること」「事業内容と大学ミッ ションとの関連性を整理するとともに、事業内容の公正性などを確認すること」等が挙げられています(p.20)。

 

4 今後の動き

今回の『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』の策定は、これまでの議論状況を整理し、一覧性を高めたものといえます。実務上の留意点も、これまでと比して、変化したというものではなく、わかりやすく整理されたといえます。

これまでも、日本の大学が知的財産権のライセンスに伴って大学発ベンチャーから新株予約権を取得する場合はありましたが、これが加速するものと思われます。

当事務所では、これまで、国立大学法人を中心に、大学発ベンチャーから新株予約権を取得するに際して、「ライセンス契約書」及び「新株予約権割当契約書」の作成をサポートしたり、新株予約権を取得することの相当性の要件の確認などの業務を提供したりしてきました。

これからも大学発ベンチャーが、このような仕組みを使って、ますます加速することを強く期待しています。

文責:森 理俊

株式会社の利益相反取引と関連当事者取引

今回は、ベンチャー企業からの法律相談で頻出する、株式会社の利益相反取引と関連当事者取引がテーマです。

株式会社の利益相反取引と関連当事者取引は、いずれも、会社と会社の役員等との取引に関する規制であり、時折、混乱が見られることから、今回、整理します。

1 利益相反取引と関連当事者取引の特徴と違い(概要)

利益相反取引は、会社法に基づく手続規制があります。全ての株式会社が対象となり、機関承認が必要となります。

一方、関連当事者取引は、会社計算規則や財務諸表等規則(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則)、開示府令(企業内容等の開示に関する内閣府令)に基づく開示規制があります。主に上場企業が開示する際のルールであり、監査法人や証券会社からの審査において、問題となり得るものであるという点に違いがあります。

関連当事者取引は、利益相反取引より大きな概念であり、利益相反取引であれば関連当事者取引である(利益相反取引⊆関連当事者取引)という関係にあります。

2 株式会社の利益相反取引

株式会社は、利益相反取引であれば、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)において、事前に、重要な事実を開示して、承認を得る必要があります(会社365I,356I)。また、取締役会設置会社の場合は、取締役会において、事後に、重要な事実を開示して、報告をする必要があります(会社365II)。

さらに、利益相反取引を行って、その結果、会社に損害が生じた場合は、その取引に関し任務懈怠のある取締役は、会社に対する損害賠償義務を負います(例外あり)。また、利益相反取引について承認等の手続違背がある場合、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、損害の額と推定されます(会社423II)。

実務上、会社の取締役や監査役、法務担当者は、利益相反取引に該当するか否かについて、直ぐに判断できる能力があれば理想的です。少なくとも、これから行おうとする取引について、「利益相反っぽい」と感じて、利益相反取引が必要か、調査する指示ができる体制を構築した方がよいです。取締役や法務担当者が気付かないで、利益相反取引を進めると、後から大きな問題に発展することがあり得ますが、誰も気付かないと、承認決議をする切欠を失いますので、誰かが気づける状態にしておく必要があります。

利益相反取引は、①直接取引、すなわち、取締役が当事者として、または他人の代理人・代表者として、会社と取引しようとする場合、又は②間接取引、すなわち、会社が取締役の債務を保証する等、取締役以外の者との間で会社、取締役間の利害が相反する取引をしようとする場合に、該当します。いずれも、取締役が、会社の利益の犠牲において自己又は第三者の利益を図ろうとすることを防止する趣旨で設けられています。

典型例は、取引相手や取引相手の代表者が、会社の取締役個人である場合です。

利益相反取引に該当するかどうか、判別できなければ、取引を強行せずに、顧問弁護士等の弁護士に相談していただいた方がよいでしょう。

3 株式会社の関連当事者取引

関連当事者取引は、親会社や法人主要株主等、子会社等、兄弟会社等、役員やその近親者等といった、会社に関連する者との取引です。「関連当事者」は、かなり広い概念ですので、詳しくは、後述の【関連当事者の定義に関する規定】をご確認下さい。

関連当事者取引であっても、利益相反取引に該当しない場合は、株主総会や取締役会での承認といった手続は不要です。また、非上場で、会計監査人を設置していない場合等は、意識する必要はありません。

しかし、上場会社等の財務諸表提出会社や、将来IPOを考えている会社は、常に留意する必要があります。

具体的には、関連当事者取引に該当する場合は、重要であると判断されれば、計算書類の注記表や目論見書、有価証券報告書等にて、開示しなければならないため、他の取引との比較の観点等から、一般投資家等への開示に耐えられるだけの公正な内容となっているかを意識して、契約内容を決定した方がよいということになります。

4 関連法規

以下は、利益相反取引と関係会社取引に関連する規定です。ご参考にしてください。なお、本稿執筆後の法改正等には対応していない可能性がありますので、ご留意下さい。

【利益相反取引に関する規定】

会社法
(競業及び利益相反取引の制限)
第356条第1項 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
第2項 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号の取引については、適用しない。

(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
第365条第1項 取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
第2項 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第423条第1項 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第2項 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
第3項 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
第4項 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。

【関連当事者の定義に関する規定】

会社計算規則
第112条第4項
前三項に規定する「関連当事者」とは、次に掲げる者をいう。
 一 当該株式会社の親会社
 二 当該株式会社の子会社
 三 当該株式会社の親会社の子会社(当該親会社が会社でない場合にあっては、当該親会社の子会社に相当するものを含む。)
 四 当該株式会社のその他の関係会社(当該株式会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社をいう。以下この号において同じ。)並びに当該その他の関係会社の親会社(当該その他の関係会社が株式会社でない場合にあっては、親会社に相当するもの)及び子会社(当該その他の関係会社が会社でない場合にあっては、子会社に相当するもの)
 五 当該株式会社の関連会社及び当該関連会社の子会社(当該関連会社が会社でない場合にあっては、子会社に相当するもの)
 六 当該株式会社の主要株主(自己又は他人の名義をもって当該株式会社の総株主の議決権の総数の百分の十以上の議決権(次に掲げる株式に係る議決権を除く。)を保有している株主をいう。)及びその近親者(二親等内の親族をいう。以下この条において同じ。)
  イ 信託業(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第一項に規定する信託業をいう。)を営む者が信託財産として所有する株式
  ロ 有価証券関連業(金融商品取引法第二十八条第八項に規定する有価証券関連業をいう。)を営む者が引受け又は売出しを行う業務により取得した株式
  ハ 金融商品取引法第百五十六条の二十四第一項に規定する業務を営む者がその業務として所有する株式
 七 当該株式会社の役員及びその近親者
 八 当該株式会社の親会社の役員又はこれらに準ずる者及びその近親者
 九 前三号に掲げる者が他の会社等の議決権の過半数を自己の計算において所有している場合における当該会社等及び当該会社等の子会社(当該会社等が会社でない場合にあっては、子会社に相当するもの)
 十 従業員のための企業年金(当該株式会社と重要な取引(掛金の拠出を除く。)を行う場合に限る。)

財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
第8条第17項
 この規則において「関連当事者」とは、次に掲げる者をいう。
 一 財務諸表提出会社の親会社
 二 財務諸表提出会社の子会社
 三 財務諸表提出会社と同一の親会社をもつ会社等
 四 財務諸表提出会社のその他の関係会社並びに当該その他の関係会社の親会社及び子会社
 五 財務諸表提出会社の関連会社及び当該関連会社の子会社
 六 財務諸表提出会社の主要株主(法第百六十三条第一項に規定する主要株主をいう。以下同じ。)及びその近親者(二親等内の親族をいう。次号及び第八号において同じ。)
 七 財務諸表提出会社の役員及びその近親者
 八 財務諸表提出会社の親会社の役員及びその近親者
 九 前三号に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等及び当該会社等の子会社
 十 従業員のための企業年金(財務諸表提出会社と重要な取引(掛金の拠出を除く。)を行う場合に限る。)

【関連当事者との取引に関する注記に関する規定】

会社計算規則
第112条第1項
 関連当事者との取引に関する注記は、株式会社と関連当事者との間に取引(当該株式会社と第三者との間の取引で当該株式会社と当該関連当事者との間の利益が相反するものを含む。)がある場合における次に掲げる事項であって、重要なものとする。ただし、会計監査人設置会社以外の株式会社にあっては、第四号から第六号まで及び第八号に掲げる事項を省略することができる。
 一 当該関連当事者が会社等であるときは、次に掲げる事項
  イ その名称
  ロ 当該関連当事者の総株主の議決権の総数に占める株式会社が有する議決権の数の割合
  ハ 当該株式会社の総株主の議決権の総数に占める当該関連当事者が有する議決権の数の割合
 二 当該関連当事者が個人であるときは、次に掲げる事項
  イ その氏名
  ロ 当該株式会社の総株主の議決権の総数に占める当該関連当事者が有する議決権の数の割合
 三 当該株式会社と当該関連当事者との関係
 四 取引の内容
 五 取引の種類別の取引金額
 六 取引条件及び取引条件の決定方針
 七 取引により発生した債権又は債務に係る主な項目別の当該事業年度の末日における残高
 八 取引条件の変更があったときは、その旨、変更の内容及び当該変更が計算書類に与えている影響の内容
第2項 関連当事者との間の取引のうち次に掲げる取引については、前項に規定する注記を要しない。
 一 一般競争入札による取引並びに預金利息及び配当金の受取りその他取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引
 二 取締役、会計参与、監査役又は執行役(以下この条において「役員」という。)に対する報酬等の給付
 三 前二号に掲げる取引のほか、当該取引に係る条件につき市場価格その他当該取引に係る公正な価格を勘案して一般の取引の条件と同様のものを決定していることが明白な場合における当該取引
第3項 関連当事者との取引に関する注記は、第一項各号に掲げる区分に従い、関連当事者ごとに表示しなければならない。

(注記表の区分)
第98条第1項
注記表は、次に掲げる項目に区分して表示しなければならない。
  (略)
 十五 関連当事者との取引に関する注記
  (略)

第2項 次の各号に掲げる注記表には、当該各号に定める項目を表示することを要しない。
 一 会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く。)の個別注記表 前項第一号、第五号、第七号、第八号及び第十号から第十八号までに掲げる項目
 二 会計監査人設置会社以外の公開会社の個別注記表 前項第一号、第五号、第十四号及び第十八号に掲げる項目
 三 会計監査人設置会社であって、法第四百四十四条第三項に規定するもの以外の株式会社の個別注記表 前項第十四号に掲げる項目
 四 連結注記表 前項第八号、第十号、第十一号、第十四号、第十五号及び第十八号に掲げる項目
 五 持分会社の個別注記表 前項第一号、第五号及び第七号から第十八号までに掲げる項目

財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
第8条の10第1項
 財務諸表提出会社が関連当事者との取引(当該関連当事者が第三者のために当該財務諸表提出会社との間で行う取引及び当該財務諸表提出会社と第三者との間の取引で当該関連当事者が当該取引に関して当該財務諸表提出会社に重要な影響を及ぼしているものを含む。)を行つている場合には、その重要なものについて、次の各号に掲げる事項を関連当事者ごとに注記しなければならない。ただし、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合は、この限りでない。
 一 当該関連当事者が会社等の場合には、その名称、所在地、資本金又は出資金、事業の内容及び当該関連当事者の議決権に対する当該財務諸表提出会社の所有割合又は当該財務諸表提出会社の議決権に対する当該関連当事者の所有割合
 二 当該関連当事者が個人の場合には、その氏名、職業及び当該財務諸表提出会社の議決権に対する当該関連当事者の所有割合
 三 当該財務諸表提出会社と当該関連当事者との関係
 四 取引の内容
 五 取引の種類別の取引金額
 六 取引条件及び取引条件の決定方針
 七 取引により発生した債権債務に係る主な科目別の期末残高
 八 取引条件の変更があつた場合には、その旨、変更の内容及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容
 九 関連当事者に対する債権が貸倒懸念債権(経営破綻の状態には至つていないが、債務の弁済に重大な問題が生じている、又は生じる可能性の高い債務者に対する債権をいう。)又は破産更生債権等(破産債権、再生債権、更生債権その他これらに準ずる債権をいう。以下同じ。)に区分されている場合には、次に掲げる事項
  イ 当事業年度末の貸倒引当金残高
  ロ 当事業年度に計上した貸倒引当金繰入額等
  ハ 当事業年度に計上した貸倒損失等(一般債権(経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権をいう。)に区分されていた場合において生じた貸倒損失を含む。)
 十 関連当事者との取引に関して、貸倒引当金以外の引当金が設定されている場合において、注記することが適当と認められるものについては、前号に準ずる事項

第2項 前項本文の規定にかかわらず、同項第九号及び第十号に掲げる事項は、第八条第十七項各号に掲げる関連当事者の種類ごとに合算して記載することができる。

第3項 関連当事者との取引のうち次の各号に定める取引については、第一項に規定する注記を要しない。
 一 一般競争入札による取引並びに預金利息及び配当の受取りその他取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引
 二 役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払い

第4項  第一項に掲げる事項は、様式第一号により注記しなければならない。

(文責:森 理俊)

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