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ベンチャー法務の部屋

種類株式の実務的争点(3) 議決権

これまで、種類株式の実務的争点として、(1)で残余財産分配優先を、(2)で配当優先を、取り上げてきました。

今回は、種類株式における議決権について、実務的な争点を検討します。

【目次】
1 残余財産分配優先 ~種類株式の実務的争点(1)~
(1) 種類株式の必須項目
(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい
2 配当優先 ~種類株式の実務的争点(2) ~
(1) 種類株式の標準項目
(2)  標準的な定め方は、特定された金額(&調整条項)+参加型+非累積
(3)  「株式取得時の1株あたりの払込金額」と定めることは避けた方がよい
(4) 上記以外の配当優先の定め方
(5) 配当の性質とスタートアップ企業の配当方針
3 議決権 ~種類株式の実務的争点(3)<今回> ~
(1)  議決権に関連する会社法の規定
(2)  ベンチャー投資で利用される種類株式の議決権についての実務
(3)  投資契約書等の事前承諾事項と、定款の種類株主総会決議事項の違い
(4)  スタートアップ企業への投資における他の事例

【目次・終わり】

 

(1) 議決権に関連する会社法の規定(1) 議決権に関連する会社法の規定

株式会社は、種類株式の内容として、「株主総会において議決権を行使することができる事項」(会社法第108条第1条第3号)や「株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの」(会社法第108条第1条第8号)について、異なる株式を設計することができます。
他に、会社法第199条第4項、会社法第200条第4項、会社法第238条第4項又は会社法第239条第4項によって、必要とされる種類株主総会決議を不要とする旨や、会社法第322条第2項に基づき同条第1項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができます。

(2)  ベンチャー投資で利用される種類株式の議決権についての実務

実務上、VCからスタートアップへの投資では、議決権については、特に種類株主総会決議事項を定めず、特別の定めを置かないか、置くとしても「A種優先株主は、当会社株主総会において、A種優先株式1株につき1個の議決権を有する。」程度の規定を置くスタイルが多数派であるように思います。
種類株主総会決議事項が活用されることが少ないことの理由としては、VC側として、事前にVCの承諾を得て欲しい事項であっても、投資契約書か株主間契約書で、事前承諾事項として定めておけば、スタートアップへの実務的な拘束としては十分という判断があるように思います。

(3) 投資契約書等の事前承諾事項と、定款の種類株主総会決議事項の違い

契約書で、事前承諾事項として定める方法と、種類株式の内容として、種類株主総会決議事項として定める方法の違いは、前者は、いわゆる債権的効力しかないのに対し、後者は、決議が不存在の場合に会社法上無効であるということがあります。
後者(定款の種類株主総会決議事項)は、ある意味、効力が強すぎて、手続が手落ちになってしまうと、無効であり、たとえ種類株主であっても、意思表示のみで、遡及的に有効にすることは難しいからです。手続のミスがあると、登記もとおらないでしょう。
前者(契約書の事前承諾事項)では、債権的な効力しかありませんので、後から手続がミスで手落ちであっても、契約当事者が事後的でも承諾すれば(承諾が得られれば、ですが)、基本的に問題なく、手続が進んで行きます。加えて、事業会社が、意図的に、予め契約書で、事前承諾事項として定めて合意をしていたのに、VCの承諾を得なかった場合のサンクションは、日本の投資実務では、ほとんどのケースで株式買取請求権の発動です。株式買取義務は、かなり重いサンクションですので、抑止力として機能しているのでしょう。

(4) スタートアップ企業への投資における他の事例

議決権に関する定めとして、私が体験してきたものについて、上記の他には、①事業会社(上場企業)からの投資で、連結させたくない、持分法適用会社にしたくない等の理由で、無議決権にするパターン、②エンジェルからの投資で、シェアも大きくないので、個々の総会決議に、毎回反応するのが面倒である(発行会社側に負担をかけたくない)という理由で、(個人でありVCファンドのようにLPへの説明責任もないこともあって)無議決権でよいというパターン、③種類株主のシェアがそれなりに大きく、投資した金額やバリュエーションもそれなりに高いため、種類株主総会決議事項を定めるパターン、④募集株式や募集新株予約権の発行の手続を簡便にするために、普通株主を構成員とする種類株主総会の決議を不要とするパターンが、それなりに見かけます。

議決権は、その後のオペレーションにもかかわるところであり、会社の支配権や企業再編などの意思決定にかかわるところでもありますので、ベンチャー投資を専門に扱う弁護士と相談の上、設計されることが望ましいです。

 

民事裁判のIT化の現在地

2019年9月17日、大阪弁護士会館で開催されたセミナー・パネルディスカッション「民事裁判のIT化・フェーズ1における手続」に、パネリストとして登壇させて頂きました。

ここで、2019年9月現在の裁判のIT化の状況を確認しておきたいと思います。

2020年2月頃から、東京地裁や大阪地裁等の特定庁の一部にて、「現行法下で可能な手続によりウェブ会議、テレビ会議の利用拡大」(フェーズ1)が始まります。具体的には、何が変わり、何が変わらないのでしょうか。

 

1 フェーズ1から可能となること(変わること)
(1) 弁論準備や書面による準備手続において、Microsoft Teamsを使って、ライブでのウェブ会議で争点整理ができるようになります。
(2) 弁論準備や書面による準備手続において、Microsoft Teamsを使って、事前に、書面や書証をアップロード出来るようになります(後述するとおり、提出扱いにはならないことに留意が必要です。)。
(3) 争点整理段階で、近場の裁判所でも(書面による準備手続におけるオンライン協議が積極的に活用され)裁判所に出頭しなくてもよくなります(もちろん出頭することはできます。また、弁論期日には出頭する必要があります。)。

また、争点整理においては、裁判所によって、ノン・コミットメント・ルールをかなり意識した上で、争点整理が進められることになると予想されます。具体的には、争点整理段階で、後日撤回する可能性を留保した暫定的発言を許容して、裁判所や相手方当事者は、そのような暫定的発言を主張として扱わないことを原則としつつ、コミットメントを確保すべき場面においては、当事者に確認した上で、協議の結果を調書化(民事訴訟法第176条第3項、民事訴訟規則第91条第2項)して訴訟上の信義則を活用することや、節目で口頭弁論又は弁論準備手続の期日を設けて陳述等を行うことが考えられています。

なお、誤解をさけるために念のために申し上げると、フェーズ1は現行法を前提に行うものですので、弁論準備手続においては、いわゆる遠隔地要件を例示している民事訴訟法第170条第3項、書面による準備手続においては同法第175条が適用されることに変わりはありません。これまでは、遠隔地要件の例示を比較的厳格に適用し、「その他相当と認めるとき」とは、遠隔地要件に準ずる場合と解釈する裁判体が多かったと思われます。しかし、フェーズ1のウェブ会議には、相当程度の臨場性と利便性があるため、電話会議の場合とは「相当と認めるとき」に該当するか否かの判断が異なり得ることを前提に、個々の裁判体が、代理人弁護士の事務所が裁判所の近くにある場合でも、「相当と認めるとき」に該当すると判断される場面が増えるであろうという予測により、上記の(3)をお伝えしております。

また、当初は、双方に訴訟代理人がついている事件からスタートするものと思われ、本人訴訟では、本人の意向のほかに、本人確認、場所の適切さの確認、秘密録音・録画の防止、弁護士ではない第三者の関与の防止などお懸念点があるため、当面の間は、IT化の対象外になるものと予想されます。

さらに、ウェブ会議を望まない代理人に、裁判所が当該代理人にウェブ会議を強制することはないとされています。

 

2 フェーズ1ではできないこと(従前と変わらない、代表的なもの)
・ オンラインでの訴えの提起
・ オンラインでの準備書面や証拠の提出(今後、フェーズ2以降を待たずして一部実現される可能性があります。)
・ オンラインによる期日の調整や進行協議
・ 訴訟記録のクラウド管理
・ オンラインでの判決入手

フェーズ1では、民事訴訟法も民事訴訟規則も変わりませんので、Microsoft Teams経由でのアップロードでは書面の提出は完了しないことになります。少なくともファクシミリにより裁判所に提出するとともに相手方にも直送する必要があることは、従前と変わりません。

なお、この点、フェーズ2をまたずして、提出用のシステムを準備し、民事訴訟規則を改正して、オンライン提出を実現する方向での動きがあるようです。これは、Microsoft Teamsでのアップロードでは、当事者から裁判所への提出に際して、相手方当事者からの変更や削除(故意過失を問わず)が防止できないということも背景事情にあるものの、一方で、アップロードとファクシミリ提出の2度の提出が迂遠であるためであると思われます(Microsoft Teamsはチーム内で共同で編集することに主眼のあるソフトウェアであり、当事者から裁判所への提出を確定的なものとするには不向きであると思われます。また、PDFでの提出であっても、改ざんや加工は可能であり、ファクシミリや直送と同程度以上の堅牢な提出方法をシステムによって実現したいというのが最高裁の方針であると思われます。)。

 

3 フェーズ1のオンライン争点整理に向けたハード面の準備
(1) 推奨スペックを満たしたPCを準備する。
(2) MicrosoftTeamsをダウンロードし、アカウントを作成する。
(3) スピーカーやマイクのテストをする。

Microsoft Teamsの使い方は、最高裁判所事務総局民事局及び日本弁護士連合会事務局から、『Microsoft Teams利用マニュアル』が作成されておりますので、弁護士の方におかれては、日弁連のHPから、これを入手して参考にしていただくのがよさそうです。

なお、現時点でのPC推奨スペックは、CPU:2GHz-、メモリ:4GB~、HDD,SSD:空き容量3GB~、Windows7 Servicepack1~とのことです。他に、モニタ(1204✕768以上の解像度)、カメラ(ノートPC付属のものでよい)、インターネット回線(光回線、有線LAN推奨)、閉鎖された空間(法律事務所の会議室など)が必要となります。

さらに、代理人は、ファイルをアップロードする際には、ファイルのプロパティや変更履歴(写真であれば、exif情報なども)に、不要な情報や不利益な情報が残っていないか、これまで以上に慎重に確認した方がよいでしょう。

 

4 最後に

民事裁判のIT化の現在地としては、以上が主な内容です。他にもいろいろと疑問等も生じてくるとは思います。ここに書き切れなかったことも少なくありませんが、お許し頂ければ幸いです。

 

今回のエントリーの内容は、時間を経て、また、フェーズ1が実施されることで、実務での運用もより合理的なものに変容すると思われます。後から、実務における変化を確認する意味でも、現時点での状況を記させていただきました。

フェーズ2は、「新法に基づく弁論・争点整理等の運用」とされており、2022年(平成34年)度頃からの開始を目標としています。その頃には、様々な知見が蓄積され、段階的により良いITツールの活用が進められているのではないかと信じています。

 

(文責:森 理俊)

2019年09月26日 10:04|カテゴリー:法務関連ニュース||コメントはまだありません

義援金と課税関係

今年の7月18日、京都アニメーションで放火事件が発生しました。その背景等については、今でも、いくつもの報道がされています。本ブログでは、この件に関する税金の問題を、少し検討してみたいと思います。

 

2019年9月6日付の京都新聞電子版では、事件の被害者及び遺族に対し、世間から寄付された金銭について、義援金制度を設けることによって、「・・・受け取った義援金は非課税となるため、集まった善意のお金は全て被害者と遺族の手元に届く。」、「寄付した側は、個人なら2千円以上の寄付で所得税や住民税の控除を受けられ、法人も寄付額全額が損金に算入可能となる。」と記載されていました。

https://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20190906000054

これは、どのような法的根拠に基づくのでしょうか。

 

 

今回、新たに設けられた義援金制度を検討する前提として、当該制度がない場合には、どのようになるのでしょうか。

 

まず、寄付をした側について検討します。

今回のケースであれば、一般の寄付金として、当該法人の事業年度において資本金等に応じて設定される損金算入限度額を超過した部分は損金に算入することができません(法人税法37条1項等)。

個人が寄付をした場合には、本件のようなケースでは必要経費等として収入金額等から控除することができません。

 

次に、寄付を受けた被害者及び遺族については、義援金制度(以下「本件制度」といいます。)創設後の課税関係とまとめて後述します。

 

 

では、本件制度では、どのようにして、税法上の優遇措置を実現しているのでしょうか。

 

寄付をした法人についてみると、法人税法37条3項に、国または地方公共団体に対する寄付金については、損金に算入することができる旨の規定があり、この規定を活用するようです。すなわち、寄付をした企業(以下「寄付企業」といいます。)から、株式会社京都アニメーション(以下「京アニ」といいます。)という法人に対する金銭の提供ではなく、寄付企業から京都府に対する金銭の提供というスキームを採用しています。本件制度開始前に、すでに、京アニの口座に送金されたものについては、一定の手続をすることで(詳しくは京アニのウェブサイトを参照ください。http://www.kyotoanimation.co.jp/information/?id=3096)、単に京アニが一時的に預かっていたものであり、経済実態としては当該預り口座内の金銭は京アニには帰属していないという考え方だと思われます。

 

寄付をした個人についてみると、所得税法78条1項に、個人が特定寄附金(国または地方公共団体に対する寄附金(同法78条2項))を支出した場合で、当該支出が2000円を超える場合には、当該超過金額を総所得金額等から控除する旨の規定があり、この規定を活用することになります。

こちらも、すでに京アニ口座に送金されているものについては、法人が寄附金を支出した場合と同様、京アニへの寄付ではなく、京アニの預り口座を活用した京都府への金銭の提供というスキームを採用していることがポイントです。京アニへの金銭の提供になってしまうと、寄付された金銭が京アニの益金に算入され法人税の課税対象となりますし、寄付した側も、上記のような制度を活用できなくなるからです。

 

 

では、寄付を受けた被害者及び遺族については、いかがでしょうか。

所得税法9条1項では、非課税所得について多くの事項を規定しますが、その中に、「・・・その他の政令で定めるもの・・・」との規定があり、これを受けた所得税法施行令30条3号では、「心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金」を非課税としています。

京アニ等が公表している内容を見ると、本件では、これに該当するとして、被害者及び遺族が受け取られた金銭が非課税所得になると考えられているようです。この点、本件において寄附された金銭が「見舞金」に該当することについては、異論の余地がなさそうです。もっとも、見舞金であったとしても、非課税所得となるためには、「相当の」見舞金であることが必要となります。本件では、京都府において、「その全額について被害の程度等に応じた公平かつ適正な金額による配分を行うための義援金配分委員会を設置する」とのことです。

https://www.pref.kyoto.jp/chiiki/news/higaisyagienkin.html)、

京都府が、当該委員会を設置し、当該委員会で「被害の程度等に応じた公平かつ適正な金額による配分」を決定することから、「見舞金」の相当性を担保されるとの考えに基づくものであると考えられます。

 

ただ、全ての犯罪被害者に対して、「相当の」見舞金とするような措置が採られているわけではないようです。今回の事件が凄惨で痛ましい事件であったことは間違いありませんが、報道されていない、又は被害人数がより少ない事件でも、優遇措置が得られる方がより公平であり、被害者支援にも資するように思います。

 

いずれにせよ、広く社会から行われる善意としての寄付が、犯罪被害者の方及び遺族の方に対し、関係者の誰もが意図しない税負担の生じることなく届く本件制度が円滑に運用されることを祈念します。

(文責:藤井宣行)

2019年09月17日 09:08|カテゴリー:その他||コメントはまだありません

研修会「日本におけるODRの導入」~世界での導入状況と日本における導入可能性について~

 

先日(2019年8月26日)、大阪弁護士会にて、「日本におけるODRの導入」~世界での導入状況と日本における導入可能性について~というテーマで、研修会を行いました。

基調講演として、渡邊真由先生(元・一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻特任助教)に「日本におけるODRの導入」~世界での導入状況と日本における導入可能性について~というテーマで、お話しいただきました。

その後、座談会という形で、「日本においてODRはどのように展開するのか」というテーマで、パネリストには、山田文先生(京都大学大学院法学研究科 教授)、羽深宏樹先生(経済産業省訟務情報政策局 弁護士)と、基調講演をしていただいた渡邊真由先生に加わって頂き、私(森 理俊)がコーディネーターとして、進めさせて頂きました。

 

1 ODRとは

ODRとは、ベンチャー法務の部屋「裁判手続等のIT化とODR」でも紹介したとおり、Online Dispute Resolutionの略です。具体的には、民事裁判手続のIT化と、ADR(裁判外紛争処理)のIT化を意味します。

とはいえ、単に、紛争解決手続に、ライブ動画などのITツールを使うという話に留まるものではありません。

特に、eBayなどの事業者が、プラットフォーム上で生じる紛争をオンラインで簡易に処理するシステムを、ユーザーに提供するといった動きがODRという概念をスタートさせた側面を背景として、既存の紛争解決プロセスよりも、遙かに迅速・簡便で、少額なものに対応可能な(即ち、紛争解決コストが低い)ものが生み出されつつあります。

すなわち、ODRが促進されることは、これまで司法手続による正義の実現の恩恵を受けられなかった人が、より司法的解決を受けられる可能性が出てくることになります。要するに、金額が小さくて、弁護士に頼むのを諦めていたケースでも、解決できる可能性が高まりそうであるということです。

キーワードは、「Access to Justice」です。

ODRの展開は、民事司法における「Justice」とは何かが改めて問われるとともに、現在の日本の民事司法がかかえる問題をあぶり出すことにもありそうです。

 

2 日本のおけるODRの導入可能性と現実
(1) 日本のこれまで
日本では、2003年~2006年という比較的速い段階で、ECOMネットショッピング紛争相談室(経済産業省委託事業)が実施されていました。
これはユーザーの満足度も高く、比較的評価の高いプロジェクトだったそうです。しかし、コストが見合わないということで、2006年に停止したようです。

その後、2007年ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)の施行や、2011年から越境消費者センターの運営もあり、少しずつ民間ADRが活発になり、同時にITツールの活用も進みました。

また、本年(2019年)、6月21日には、内閣の「成長戦略フォローアップ」にて、「紛争の多様化に対応した我が国のビジネス環境整備として、オンラインでの紛争解決(ODR)など、IT・AI を活用した裁判外紛争解決手続などの民事紛争解決の利用拡充・機能強化に関する検討を行い、基本方針について 2019 年度中に結論を得る。」という文言が盛り込まれ、ODRが強く意識されることになりました。

さらに、今月(2019年8月)、APECにて、ODR Collaborative Frameworkが採択される予定とのことです。
これは、BtoBを中心に、ODRで紛争解決する旨を規定し、ODRプロバイダーのもとで、交渉、調停、仲裁をシームレスに実現させようとするフレームワークのようです。

(2) 日本の特殊性
日本は、民事訴訟の件数が少なく(地裁民事通常訴状新受件数:15万件弱)、弁護士が増員しても、民事紛争の件数が増えていないという現実があります。特に、少額の事件について、簡易裁判所での調停や民事通常訴訟は、減少又は横ばいという状況です。
一方で、国民生活センターへの相談件数は、100万件に近いものがあるなど、少額な民事トラブル(数万円から10数万円の貸金返還や賃金不払、交通事故などが想定される。)は、「何もしない(あきらめる)」という選択がされ、紛争解決サービスを受けられていない割合が高いと推定されます。

そこで、裁判所を通じた解決と並行して、民間でもオンラインのみで紛争解決できるサービスに需要があると期待されています。

一方で、ODRには、以下のような課題も指摘されています。

  • (a)類型化されにくい紛争への対応が難しい。
  • (b)インターフェースを容易にするデザイン思考が必要である。
  • (c)オンライン調停人の育成が必要である。なお、オンライン調停人には、裁判予測というよりも交渉促進に長けた調停人が望ましいようである。日本は調停人のトレーニングが不足しているにもかかわらず、調停人に裁判予測を期待しすぎる文化があると指摘されている。
  • (d)相手方に応諾義務又は応諾しやすい環境を構築する必要がある。EUでは一部の紛争類型で事業者に応諾義務があるとのこと。
  • (e)執行手段が確保されていないことが多い。なお、eBayでは、合意した金額は顧客のPaypalから直ぐに支払われる。
  • (f)既に存在するプラットフォーム提供事業者が運営するのでない限り、ODRプラットフォーム運営はパブリックな支援がないと運営がコスト的に見合わない。

それでも、欧州では、EU主導のプラットフォームが整備されるなど、一部の紛争類型には、かなり積極的に活用され始めており、リーガルテックの一分野としても注目され、日本でも、これから発展する分野であると期待されています。

日本の特殊性はいくつかありますが、いずれもODRの導入を妨げる要因とばかりはいえず、逆にdisruptive(破壊的)なイノベーションによって、大きく発展する可能性を秘めているといえそうです。

(3) 参考文献
過去にご紹介した、一橋大学法学研究科 渡邊真由先生のプレゼン資料(2018/07/27, 日本ADR協会)は、こちらです。

また、山田文教授の「ADRのIT化(ODR)の意義と課題」と題する論文が、法律時報2019年6月に記載されています。

 

3 研修会を終えて

私は、業務改革委員会副委員長(ベンチャー法務プロジェクトチームの座長)として、同PTのメンバーとともに、この研修会を発案・企画しました。現在のODRに関する先端の議論ができたと思っております。

出席者の中には、日弁連会長を務められた方や大阪弁護士会の現在の副会長数名もお越しになり、弁護士の業務や民事司法の行く末に関心のある方が、多数集まりました。

裁判のIT化とともに、ODRは、民事司法の大きな変革をもたらす可能性があり、これまで弁護士が救えなかった法律問題にも積極的に専門的な支援が受けられる可能性がでてきました。

また、登壇者の皆様が非常に穏和でありながら、明晰なトークが繰り広げられ、3時間があっという間に過ぎました。

ODRの議論は、まだまだ始まったところです。

私個人としても、できることに積極的に関与したいと思っております。

 

(文責:森 理俊)

種類株式の実務的争点(2) 配当優先

種類株式の実務的争点(2) 配当優先

【目次】
1 残余財産分配優先 ~種類株式の実務的争点(1)
(1) 種類株式の必須項目
(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい
2 配当優先 ~種類株式の実務的争点(2) <今回>~
(1) 種類株式の標準項目
(2)  標準的な定め方は、特定された金額(&調整条項)+参加型+非累積
(3)  「株式取得時の1株あたりの払込金額」と定めることは避けた方がよい
(4) 上記以外の配当優先の定め方
(5) 配当の性質とスタートアップ企業の配当方針

【目次・終わり】

2 配当優先
(1) 種類株式の標準項目
剰余金の配当の優先は、種類株式に、一般的に設けられている項目です。

剰余金の配当は、会社の一部の清算という効果をもたらすものです。そのため、残余財産分配優先と同様の理由で、配当の有限も設けられます。すなわち、投資家は、高い株価・低いシェアで投資する場合に、1株あたり同じ金額で配当されてしまうと、普通株主により高いリスクを引き受けたにもかかわらず、そのリスクに見合わないリターンしか得られないことになりますので、リスクに見合ったリターン(インカムゲイン)を設計する必要があるというものです。

とはいえ、一般的なベンチャー企業は、高い成長を目指しており、会社に生じた剰余金を再投資に回すことで、複利的に成長することが期待されています。投資家側も、配当優先を規定しているからといって、会社に、必ずしも配当をすることを期待しているわけではありません。

また、そもそも、ベンチャー企業は、出費が先行し、当初、フリーキャッシュフローは、マイナスで推移することが多いですので、そもそも剰余金が生じずに、配当もできないケースも少なくありません。

したがって、剰余金の配当について規定されている例は、極めて多く、ベンチャー投資の現場で設計される種類株式では、ほとんどの場合、配当優先が定められていますが、実際に、この規定に基づいて優先配当を実施している例は、極めて少ないものと思われます。

また、残余財産分配優先を定めていない場合に比べ、配当優先を定めていないことは、投資家側のリスクとしては比較的高くはありません。

そのため、残余財産分配優先の規定があるが、配当優先の規定はないといったケースもないわけではありません。

(2)  標準的な定め方は、特定された金額(&調整条項)+参加型+非累積
スタートアップ企業への投資において、標準的な配当優先条項は、一定の金額を優先した後、さらに配当する場合には、種類株主と普通株主に対して、平等に、1株につき同額を分配するというものです。一定の金額とは、「A種優先分配額の○%に相当する剰余金」と定めるケースもあれば、「○円」と定めるケースもあります。

「○円」と定めると、残余財産分配優先条項と同じような調整条項を配当優先でも設けなければなりませんので、「A種優先分配額(A種優先分配額が調整された場合にはその調整後の金額を意味する。)の○%に相当する剰余金」とすると、調整条項が統一されますので、わかりやすく規定できると思われます。

また、残余財産の分配とは異なり、剰余金の配当は、複数回実施することができますので、「但し、既に同じ事業年度中に設けられた基準日によりA種優先株主又はA種優先登録質権者に対して剰余金の配当を行ったときは 、その額を控除した額とする。」といった定めをすることが多いです。

参加型/非参加型は、残余財産優先分配条項と同じ議論ですので、ここでは割愛します。

非累積/累積は、ある事業年度において行なわれた配当の額が優先配当額に達しない場合、不足額が翌事業年度以降に累積し続け、累積した不足額については、翌事業年度以降、優先配当額の配当の前に、さらに優先的に配当されるとするものです。配当自体が稀であり、配当の累積は、ベンチャー企業に酷なイメージをもたらすことから、非累積がほとんどであると思われます。

(3)  「株式取得時の1株あたりの払込金額」と定めることは避けた方がよい

定款で、優先配当額として「株式取得時の1株あたりの払込金額の○%」を定めることは、避けた方がよいでしょう。理由は、残余財産分配のときの議論と同じです。

(4) 上記以外の配当優先の定め方

種類株式の内容として、議決権を無しにしつつ、配当を優先するという方法は、あり得ます。

このような場合を含め、上記以外の配当優先の定め方として、普通株式に配当する金額の○倍の金額を優先株主に支払うという定め方もあり、上場企業でも、みられるところです。こちらは、投下資本の回収よりも、株式市場で取引されるバリューを意識した定め方と、いえるでしょう。

(5) 配当の性質とスタートアップ企業の配当方針

配当とは、剰余金がある場合に、会社にある現金を株主に戻す行為です。株主全体で把握すると、基本的に以下の取引が成り立つものです。

【配当前】の株式 = 【配当後】の株式 + 配当金

一般的な、配当優先の規定であれば、優先配当をしても、事業年度を超えると、優先配当額がもとに復活しますので、毎年優先配当をすると、普通株主に損ということになってしまいます。そのため、基本的には、スタートアップ企業は、例え剰余金が存在しても、この配当優先の規定が残っている間に、配当をすることは、例外的でしょう。

これを避けるには、優先配当を実施した場合に、配当した金額は、それ以降のA種優先分配額から控除されるものとし、また、残余財産優先分配規定におけるA種優先分配額からも控除されるとするのが、フェアといえるかもしれませんが、あまりそのような規定はみたことがありません。やはり、スタートアップの投資では、投資家も発行会社も、配当は望んでいないため、配当があまり実現されない方向で規定されていても、それほど問題視されないものと思われます。

(文責:森 理俊)

自動運転と法②

1 2019年5月21日付けのブログ(自動運転と法①)で、自動運転についての概要を紹介しました。

その後も、自動運転に関するニュースは連日取り上げられており、この「自動運転」に関する技術は今後も発展を続け、レベル3、レベル4といった自動運転が近い将来に実現することは間違いないでしょう。

2019年5月28日には、自動運転車の公道走行を可能にする改正道路交通法が衆院本会議で可決、成立しました。この改正は、レベル3(条件付運転自動化)の実用化に向けた改正であると言われています。今回はその改正内容について紹介します。

 

2 自動運転レベル2とレベル3の違いについて

前回の復習になりますが、レベル2までは運転手がシステムを常に監督する必要があり、自動運転の主体は「人」ということになります。これに対し、自動運転レベル3は、「条件付自動運転」であり、システムが全ての運転タスクを実施するが、システムの介入要求等に対して運転手が適切に対応することが必要となるという状態のことをいいます。したがって、レベル3になると、原則的にはシステム側の責任において全ての自動運転が行われるという点が、レベル2との大きな違いになります。

 

3 改正の必要性及びポイントについて

(1) 改正の必要性

道路交通法とは、ドライバーが守るべきルールを定めた法律です。もっとも、前述のとおり、自動運転レベル3になると、レベル2以下ではドライバーが行っていた「認知・判断・操作」という全ての運転タスクをシステムが行うようになることから、改正が必要となったものです。

(2) 改正のポイントについて

①「自動運行装置」という定義を設けた上で、「運転」の定義を修正した点。

②「運転者の義務」の規定を整備し、「運行装置を使って自動車を使う運転者」に課される義務を明らかにした点。

③「作動状態記録装置」の規定を整備し、データ記録装置の搭載等を義務付けた点。

の3つになります。

 

4 ①について

(1) レベル3においては、運転の主体が「人」ではなくなることから、「運転」という行為の概念が変わることになります。そこで、今回の改正では、「自動運行装置を使う行為」を「運転」という概念に含め、「自動運行装置を使って自動車を運行する人」に、道路交通法上の「運転者」に対する義務規定を適用することとしました。

(2) まず、道路交通法2条の定義規定の中に「自動運行装置」の定義が加えられました。

道路交通法第2条13の2

「自動走行装置」 道路運送車両法(略)第41条第1項第20号に規定する自動運行装置をいう。

 

道路運送車両法第41条第2項

前項第20号の「自動運行装置」とは、プログラム(略)により自動的に自動車を運行させるために必要な、自動車の運行時の状態及び周囲の状況を検知するためのセンサー並びに当該センサーから送信された情報を処理するための電子計算機及びプログラムを主たる構成要素とする装置であつて、当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件で使用される場合において、自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有し、かつ、当該機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置を備えるものをいう。

このように、「自動運行装置」とは、レベル3以上の自動運転システムで、データ記録機能を備えているものをいうこととなります。

(3) その上で、道路交通法2条の定義規定の中の「運転」の定義が修正されました。

道路交通法第2条17

「運転」 道路において、車両又は路面電車(略)をその本来の用い方に従って用いること(自動運行装置を使用する場合を含む。)をいう。

このように、「人」が運転していなくとも、「自動走行装置を使って自動車を使う行為」は「運転」という概念に含まれることとなりました。

 

5 ②について

(1) 上記のとおり、「自動運行装置を使って自動車を使う行為」は「運転」という概念に含まれることとなったため、「自動運行装置を使う者」には、安全運転義務をはじめ道路交通法上の「運転者」の義務が課されることとなります。そこで、自動運行装置を使用して自動車を運転する場合の運転者の義務に関する規定が整備されました。

(2) 「自動運行装置を使う者」に対する「義務」の規定は、道路交通法第71条の4の2で定められています。

道路交通法第71条の4の2

第1項

自動運行装置を備えている自動車の運転者は、当該自動運行装置に係る使用条件(略)を満たさない場合においては、当該自動運行装置を使用して当該自動車を運転してはならない。

第2項

自動運行装置を備えている自動車の運転者が当該自動運行装置を使用して当該自動車を運転する場合において、次の各号のいずれにも該当するときは、当該運転者については、第71条第5号の5の規定は、適用しない。

1 当該自動車が整備不良車両に該当しないこと

2 当該自動運行装置に係る使用条件を満たしていること

3 当該運転者が、前2号のいずれか該当しなくなった場合において、直ちに、そのことを認知するとともに、当該自動運行装置以外の当該自動車の装置を確実に操作することができる状態にあること

 

道路交通法第71条第5号の5

自動車又は原動機付自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。第百二十条第一項第十一号において「無線通話装置」という。)を通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第四十一条第十六号 若しくは第十七号 又は第四十四条第十一号 に規定する装置であるものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)に表示された画像を注視しないこと。

 

簡単に説明すると、まず、自動運行装置を備えている自動車の運転者は、当該自動運行装置に係る使用条件を満たさない場合においては、当該自動運行装置を使用して自動車を運転してはならないとされています(道路交通法第71条の4の2第1項)。

また、①当該自動車が整備不良車両に該当しないこと、当該自動運行装置に係る使用条件を満たしていること、という要件を満たした上で、②仮にそのいずれかの要件を満たさなくなった場合(整備不良車両となった場合、自動運行装置に係る使用条件を満たさなくなった場合)には、運転者が直ちにそのことを認知し、確実に操作できる状態にあること、を要件として、運転中の携帯電話、画像注視が許されるとされています(道路交通法第71条の4の2第2項)。

 

6 ③について

運転の主体が「人」ではなくなる自動運転車の交通事故の場合、これまでの自動車の交通事故の場合と比べて、運転者が交通事故時の状況を把握できていないことが多くなることが予測されます。そこで、事故原因の解明のためには、事故発生時の状況が把握できる作動状態記録装置を活用していくことが必要になってきます。そこで、今回の改正で、自動運転車には「作動状態記録装置」に関して、2つの条文が設けられました。

 

道路交通法第63条の2の2(作動状態記録装置による記録等)​

第1項 自動車の使用者その他自動車の装置の整備について責任を有する者又は運転者は、自動運行装置を備えている自動車で、作動状態記録装置により道路運送車両法第41条第2項に規定する作動状態の確認に必要な情報を正確に記録することができないものを運転させ、又は運転してはならない。​

第2項 自動運行装置を備えている自動車の使用者は、作動状態記録装置により記録された記録を、内閣府令で定めるところにより保存しなければならない。

このように、自動運転車の使用者は、自動運行装置を備えた自動車で作動状態記録装置により作動状態の確認に必要な情報を正確に記録することができないものの運転を禁じられています。つまり、自動運転車においては、必要な情報を記録できる装置の搭載が義務化されています。なお、この作動状態記録装置がドライブレコーダーで足りるか、という点については、ドライブレコーダーでは外部や内部の映像は記録できても、システムの「作動状況」まで記録ができないため、現行のドライブレコーダーでは足りないと考えられます。

また、自動運行装置を備えている自動車の使用者は、作動状態記録装置により記録された記録を、内閣府令で定めるところにより保存しなければならないことなども盛り込まれています。

道路交通法第63条(車両の検査等)​

警察官は、整備不良車両に該当すると認められる車両(略)が運転されているときは、当該車両を停止させ、並びに当該車両の運転者に対し、自動車検査証その他政令で定める書類及び作動状態記録装置(道路運送車両法第41条第2項に規定する作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置をいう。第63条の2の2において同じ。)により記録された記録の提示を求め、並びに当該車両の装置について検査をすることができる。

この場合において、警察官は、当該記録を人の視覚又は聴覚により認識することができる状態にするための措置が必要であると認めるときは、当該車両を制作し、又は輸入した者その他の関係者に対し、当該措置を求めることができる。​

その上で、整備不良車両に該当すると認められる車両が運転されている際は、警察官は当該車両の運転者に対し作動状態記録装置により記録された記録の提示を求めることができることとし、この場合において、当該記録を人の視覚又は聴覚により認識することができる状態にするための措置が必要であると認めるときは、当該車両を製作した者などに対しても当該措置を求めることができるとしています。

 

以上

(弁護士 三村雅一)

2019年07月19日 15:57|カテゴリー:未分類||コメントはまだありません

種類株式の実務的争点(1)  残余財産分配優先

日本のベンチャー投資において、この15~20年くらいの歴史のなかで、スタートアップ企業が、新株発行をして、増資をすることで、資金調達をすることは、珍しいことではなくなってきました。勿論、これは、立場によって、感じ方も異なることと思います。

そして、この増資の方法として、種類株式が利用されることも、稀ではなくなってきました。

しかしながら、スタートアップ企業の経営者にとっては、初期の資金調達で、投資家から種類株式の要領(タームシートや定款変更案)を突きつけられると、未だに非常に面食らうものであることも、確かでしょう。種類株式の内容は、専門用語が多く、複雑であり、真意を理解することが容易ではないからです。

しかも、種類株式に関する専門書を読んでも、種類株式の種類として、配当優先、残余財産分配優先、取得請求権付株式、取得条項付株式、拒否権付株式、役員選任権付株式などと、列挙されていて、自社(発行会社)にとって、何が有利な条項で何が不利な条項で、相場と比較して、どの程度ずれているのかも、よくわからないことが多いと思われます。そこで、実務上の観点から、種類株式について、実質上の争点や留意点を検討してみたいと思います。

 

【目次】
1 残余財産分配優先 ~種類株式の実務的争点(1)<今回>~
(1) 種類株式の必須項目
(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい

(注)次回以降は、作成する度に目次に加えます。
【目次・終わり】

 

1 残余財産分配優先
(1) 種類株式の必須項目
残余財産分配の優先は、種類株式に、必ずと言ってよいほど、設けられる項目です。

その理由は、以下のとおりです。

・種類株式の発行によって、投資家に対して第三者割当増資を行うときは、株価(払込金額)が普通株式より高いことが、ほとんどである。また、その際に、その投資家が取得することとなるシェア(議決権割合)は、結果として、1/3にも満たない可能性が高い。

・もし投資家が普通株式を引き受けていると、その投資家は、会社の解散に対して拒否権を持てないことになり(株式会社の解散は、株主総会の特別決議事項で、出席株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の多数が必要。会社法第471条第3号、第309条第2項第11号)、投資直後に会社が解散すると、1株あたり同じ金額の残余財産しか分配されないことになる。そのため、投資家は、高い株価・低いシェアで投資する以上、直ちに解散した場合であっても、少なくとも、投資した金額については、残余財産から優先的に分配されるよう、株式を設計し、直後の解散による投資損といった事態を確実に避ける必要がある。

わかりやすい例として、普通株式を株主Aに90株(払込金額1万円)を発行している株式会社があるとします。このとき、会社にある資産は投資実行時から増減がないとすれば90万円です。その会社が、投資家Bに普通株式10株を割当て、1株あたり払込金額100万円で発行すると、発行直後に、会社にある資産は1090万円です。その後、会社の解散決議を行うと(株主A:90%、株主B:10%であり、株主Bが反対しても可決される。)、清算費用を無視すれば、株主Aに、981万円(1090万円×90%)、株主Bに、109万円(1090万円✕10%)が分配されます。株主Bにとっては、1000万円の投資が、109万円になるわけですから、大損です。

投資家は、高い株価・低いシェアで投資する場合に、このような解散による投資損といった事態を避けるために、普通株式ではなく、残余財産分配を優先する内容の種類株式での投資を望みます。

 

(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
スタートアップ企業への投資において、標準的な残余財産分配優先は、払込価額相当額を優先した後、さらに分配する場合には、種類株主と普通株主に対して、平等に、1株につき同額を分配するというものです(実際の定款では、「A種優先株式1株につき、普通株主又は普通登録質権者に対して普通株式1株につき分配する残余財産にA種取得比率を乗じた額と同額の残余財産」といった形で、種類株式については種類株主が取得請求権を行使した場合に取得できる普通株式数に計算した上で、1株あたり平等に分配されるように設計されます。)。

また、「払込価額相当額」としているのは、株式分割や株式併合、株主割当増資、株式無償割当ての場合に、払込価額を調整する必要がありますので、そのための調整条項がおかれます。例えば、種類株式1株を10株にする株式分割をする場合には、払込価額相当額を、当初の10分の1にするといった調整です。

残余財産分配に関する定め方のバリエーションとしては、非参加型、すなわち、種類株主が払込価額相当額につき優先的に分配を受けた後、残余財産の分配を受けない方法、があり得ますが、一般的ではありません。

また、ほかのバリエーションとして、払込価額の2倍や3倍を優先残余財産分配額とする設計もあります。こちらも、少なくとも今の日本では珍しい設計ではないかと思います。

 

(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい

時折、「A種優先株主又はA種優先登録株式質権者に対し、普通株主又は普通登録株式質権者に先立ち、A種優先株式1株につき、株式取得時の1株あたりの払込金額を分配する。」といった規定が見られます。

この規定自体は、直ちに問題がある規定ではありません。登記手続においても問題とはされないと思います。

しかしながら、(i)定款の種類株式の定款規定を読むだけでは、優先残余財産分配額が判断できないこと(別途、実際の「払込金額」を把握する必要がある)、に加えて、(ii)異なる払込金額でA種優先株式を発行している場合には、先に株価Xで発行されたA種優先株式と後に株価Yで発行されたA種種類株式は、会社法上、異なる種類の株式と判断される可能性があります。特に、(ii)の場合は、別に定められた「取得と引換えに交付すべき普通株式数」に関する規定でも、「取得と引換えに交付すべき普通株式数」が異なる場合が生じることになり、会社法上、異なる種類の株式と判断される可能性が極めて高いです。

そのため、「A種優先株主又はA種優先登録質権者に対し、普通株主又は普通登録質権者に先立ち、A種優先株式1株につき金●円を支払う。」というように、具体的な金額で規定した方がよいでしょう。

(文責:森 理俊)

『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』(経済産業省)

今月(2019年5月)、経済産業省にて『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』が策定されました。

 

1 『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』の策定

昨今、大学発ベンチャーに関連して、大学が保有している知的財産をベンチャー企業に移転する場合等の対価として、新株予約権を取得する例がかなり増えてきたように思います。

先日(2019年5月)、経済産業省は、『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』を策定しました。

私は、これまで実際に国立大学法人の知財移転や新株予約権取得に関与して、助言などを行っており、これまでの関連する動きと併せて概観したいと思います。

 

2 これまでの文部科学省通知などの状況

これまで、文部科学省から、以下の通知において、例えば下記の指摘がありました。

 国立大学法人等は、法第22条第1項各号又は法第29条第1項各号に規定される業務と離れて、収益を目的とした別の業務を行うことはできないが、同項各号の範囲内の業務を行う中で、受益者に対し費用の負担を求め、結果として、収益を伴うことまでは否定されていない。
その対価として現金に代えて株式等を受け入れざるを得ないような場合には、株式等を取得することは法的に可能と解されること。
ただし、国立大学法人等においてその取得を慎重に判断した上で実施するものであることに留意すること。また、この取扱いは、当該対価を現金により支払うことが困難な大学発ベンチャー企業等を対象として想定しているものであり、株式公開企業等の現金による支払が可能な企業について、現金に代えて株式等を取得することは法の趣旨に照らし妥当な取扱いとは解されないこと。

(想定される対価の例)
・国立大学法人等の教育研究活動に支障のない範囲内において、一時的に、国立大学法人等の施設を使用させる対価
・国立大学法人等の教育研究活動の成果を活用し、技術相談業務、技術顧問業務、法律相談業務等、技術的な支援を行い、得る対価など

(文部科学省高等教育局長等 29文科高第410号 平成29年8月1日「国立大学法人及び大学共同利用機関法人が株式及び新株予約権を取得する場合の取扱いについて(通知)」)
注釈:「法」とは国立大学法人法を意味する。太字は筆者による。

また、内閣府及び文部科学省から、以下の通知において、下記の指摘がありました。

法第 34 条の 4 及び第 34 条の 5 は、研究開発法人及び国立大学法人等が支援に伴い株式等を取得することができる場合を、法人発ベンチャーの資力その他の事情を勘案し、特に必要な場合としている。すなわち、支援を行う研究開発法人又は国立大学法人等の研究成果を活用した事業の有望性が高い法人発ベンチャーであって、当該研究開発法人及び国立大学法人等による支援に対し、現金による支払を免除又は軽減することが当該ベンチャーの経営の加速のために特に必要と考えられる場合が対象となる。

法人発ベンチャーから株式等を提供したい旨の意向が示された場合、研究開発法人及び国立大学法人等は、株式等の 価値を公正かつ客観的に評価できるよう、必要に応じて、株式等の取扱いに係る経験等を有する外部専門家の意見を活用しつつ、法人発ベンチャーとの合意の上で取得する株数等を決定する必要がある。

(内閣府 政策統括官(科学技術・イノベーション担当) 文部科学省 科学技術・学術政策局 平成31年1月17日「研究開発法人及び国立大学法人等による成果活用事業者に対する支援に伴う 株式又は新株予約権の取得及び保有に係るガイドライン」)
注釈:「法」とは科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律を意味する。太字は筆者による。

以上を踏まえると、従前から、取得時や保有時に以下の留意事項が考えられていました。

【大学側の取得時の留意点】
・ 新株予約権の取得については、ライセンスの相当性、新株予約権取得の相当性(事業の継続性や回収可能性など)に留意する
・ 新株予約権自体の相当性(数や内容の合理性など)に留意する
・ 実務上、ライセンス等の対価及び新株予約権1個あたりの価値を算出し、ライセンス等の対価を新株予約権1個あたりの価値で割って、個数を算出することが理想である。ただし、現実には、ある程度の仮定を前提とした上での計算をもとに、外部専門家の意見を活用しつつ、法人発ベンチャーとの合意の上で取得する株数等を決定する。

【大学側の保有後の留意点】
・ 特段の事情がない限り、換金可能な状態になり次第可能な限り速やかに売却することが求められる。
・ 自益権(利益配当請求権や残余財産分配請求権)の行使はよいが、議決権の行使など経営参加権等のいわゆる共益権の行使は、原則として認められない。例外あり。

 

3 経済産業省作成の『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』について

経済産業省は、『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』において、基本的な考え方として、以下のとおり、述べています。

「現金による支払を免除又は軽減することが当該ベンチャーの経営の加速のために特に必要と考えられる場合」である基準については、ベンチャー企業の成り立ちや将来的な事業計画、また大学との関わりは多様であり、株式・新株予約権の取得の妥当性を画一的な基準で判断することは困難です。そのため、株式・新株予約権の取得可否の判断は、対象とする企業がその時点で保有しているキャッシュの多寡だけではなく、ライセンスに伴って現金による支払を免除又は軽減することがその企業の事業計画を勘案すると必要かどうか、また、企業側が希望しているかどうかという視点で検討することが適切であると言えます(p.19)。

また、考慮するための要素として、「新株予約権取得の判断を行うための事業計画を確認し、現金を回収できることが一定程度見込まれること」「新株予約権を取得するタイミングとして、シード期が一般的であるが、例外もあり各ケースに合わせた対応をすること」「事業内容と大学ミッ ションとの関連性を整理するとともに、事業内容の公正性などを確認すること」等が挙げられています(p.20)。

 

4 今後の動き

今回の『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』の策定は、これまでの議論状況を整理し、一覧性を高めたものといえます。実務上の留意点も、これまでと比して、変化したというものではなく、わかりやすく整理されたといえます。

これまでも、日本の大学が知的財産権のライセンスに伴って大学発ベンチャーから新株予約権を取得する場合はありましたが、これが加速するものと思われます。

当事務所では、これまで、国立大学法人を中心に、大学発ベンチャーから新株予約権を取得するに際して、「ライセンス契約書」及び「新株予約権割当契約書」の作成をサポートしたり、新株予約権を取得することの相当性の要件の確認などの業務を提供したりしてきました。

これからも大学発ベンチャーが、このような仕組みを使って、ますます加速することを強く期待しています。

文責:森 理俊

自動運転と法①

1 日本における交通事故の数
最近、立て続けに自動車による事故が発生し、連日ニュースで取り上げられました。
警察庁交通局発表の「平成30年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」によると、平成30年の交通事故については、発生件数43万0601件(前年比-4万1564件、-8.8%)、うち死亡事故3449件(同-181件、-5.0%)、死者数3532人(同-162人、-4.4%)、負傷者数52万5846人(同-5万5004人、-9.5%)となっています。
この点、交通事故発生件数については、平成16年の95万2720件をピークに半数以下に減っており、死者数については、昭和45年の1万6765人をピークに約5分の1まで減っています。交通事故は、保有自動車数の増加と共に増えてきたと言われていますが、交通インフラの整備や自動車自体の性能の向上等によって、その数自体は減少し、死者数も減少していることは事実です。
しかし、平成30年の統計からは、平均すると、未だ1日に約1180件の交通事故が発生し、約1440人の方が負傷され、約10人の方が命を落としていることが分かり、この数は決して少ないとは言えないというのが私の印象です。(なお、上記「交通事故」とは、道路交通法第2条第1項第1号に規定する道路において、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うもの(人身事故)をいい、物損事故は含まれていません。)
ふと、4~5年程前に損害保険会社の方から聞いた話を思い出しました。
その方は、自動運転の技術が進めば交通事故は激減する、保険会社としても、自動運転システムを搭載している自動車については事故を起こす可能性が低いことから保険料を値下げする予定である、といった話をされていました。
「自動運転」という言葉はよく耳にするものの、一体、自動運転の技術はどこまで進んでいるのか、また自動運転の実現にはどのような法的課題が考えられるのか、ということについて今回と次回の2回で紹介したいと思います。

2 自動運転とは
まず、「自動運転」は、人=運転手と、車=システムが担う運転動作の比率や技術到達度、走行可能エリアの限定度合いなどによって、アメリカの「自動車技術会」(SAE)が示した基準に基づいて、レベル0から5の6つの段階に分類されています。
そして、各レベルについて、国土交通省は以下のように説明しています
自動運転のレベル分けについて

まず、自動運転レベル0は、全くシステムが介入することなく、ドライバーがすべての運転タスクを実施します。

自動運転レベル1は、「運転支援」であり、システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施します。例えば、自動ブレーキ、前の車に付いて走る、車線からはみ出さないといった内容です。

自動運転レベル2は、「特定条件下での自動運転機能」であり、システムが前後・左右双方の車両制御を実施します。例えば、車線を維持しながら前の車に付いて走る、高速道路での自動運転モード機能(遅い車がいれば自動で追い越す)という内容です。

なお、レベル2までは運転手がシステムを常に監督する必要があり、自動運転の主体は「人」ということになります。

自動運転レベル3は、「条件付自動運転」であり、システムが全ての運転タスクを実施するが、システムの介入要求等に対して運転手が適切に対応することが必要となるという状態のことを指します。レベル2との大きな違いは、原則的にはシステム側の責任において全ての自動運転が行われるという点です。

自動運転レベル4は、「特定条件下における完全自動運転」であり、特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施します。レベル3との違いは、緊急時にも運転手が対応せず、全てシステム側が自動運転の主体として責任を持つことにあります。もっとも、レベル4は「特定条件下」における完全自動運転であることから、限定されたエリア外を走行する場合に備えるため、ハンドルやアクセルなどは必要になると考えられています。

そして、自動運転レベル5は、「完全自動運転」であり、常にシステムが全ての運転タスクを実施します。運転手を必要とせず、どこでも自動運転で走行が可能な状態のことを指します。そのため、ハンドルやアクセル、ブレーキなども必要とされません。

3 現在発売されている自動車
日本においては、2016年8月に国産車としては初めてレベル2の自動運転機能搭載ミニバン「セレナ」を日産自動車が発売しました。
さらに2017年7月には、アウディが世界で初めて、自動運転レベル3に対応する自動運転機能を「新型Audi A8」に搭載すると発表し、2018年1月に販売を開始しました。
また、つい先日の記事で、日産は2019年5月16日、運転支援システム「プロパイロット」のアップデート版「プロパイロット2.0」を発表し、今秋発売予定のスカイライン(マイナーチェンジモデル)に搭載する旨が紹介されていました。このプロパイロット2.0の大きな特徴は、一定条件において高速道路の同一車線内で手放し運転を実現したこと及び自動追い抜き機能にあるとのことです。この自動追い抜き機能とは、前方にドライバーが設定した速度より遅い車が走行しているとき、システムが追い抜き可能と判断すると、メーターパネル内のインフォメーション・ディスプレイに表示するとともに、音でドライバーに知らせ、続いてドライバーが、ステアリングにあるスイッチを押すと、自動で右側の車線へ変更する。そして、追い抜きが完了すると、車線変更可能なタイミングをシステムが判断し、元の車線に戻る、という内容とのことです。
国土交通省によれば、今後2020年を目途として高速道路等一定条件下での自動運転モード機能を有する「自動パイロット」(レベル3)、限定地域での無人自動運転移動サービス(レベル4)、2025年を目途として高速道路での完全自動運転(レベル5)を目標として掲げています。

4 自動運転と法
自動運転技術の進歩に伴い、法的な課題も多々発生します。
すでに警察庁は2018年12月20日、自動運転社会の到来を見据え、道路交通法の改正案を発表しました。同改正案は、緊急時以外はシステムが運転を担う自動運転レベル3について、人が即座に運転を交代できる状況であることを前提に、スマートフォンや携帯電話の利用のほか、読書をすることなども認める内容となっています。そして、今回の道路交通法の改正の施行目標は2020年前半とされています。
それだけでなく、特に、レベル3以降の自動運転システムにおいては、原則的にはシステム側の責任において全ての自動運転が行われるところ、レベル3以降の自動運転システム利用中の事故について、自賠法の「運行供用者責任」をどのように考えるか、自動運転システムのハッキングにより引き起こされた事故の損害(自動車の保有者が運行供用者責任を負わない場合)についてどのように考えるかなど、検討すべき法的課題は多々あると言われています。

この点については、次回詳しく取り上げたいと思います。

以上

(文責:三村雅一)

2019年05月21日 09:55|カテゴリー:企業法務|タグ: , , コメントはまだありません

特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(チケット不正転売禁止法)について(2)

前回のブログで、平成30年12月8日に、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(以下「チケット不正転売禁止法」といいます。)が成立し、平成30年12月14日に、平成30年法律第103号として公布されたことを紹介しました。

この新規立法の背景にあると考えられている2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックについて、今月18日にチケット販売の方法が発表されました。
東京2020組織委員会(以下「組織委員会」といいます。)のホームページによると、チケットは2019年5月9日から公式チケット販売サイトで抽選申込受付が開始され、組織委員会が指定した公式チケット販売事業者によるチケットの販売も予定されているとのことです。なお、同ホームページによると、開会式のチケット価格は、2020円~30万円、閉会式のチケット価格は、2020円~22万円とされています。
半世紀ぶりに国内で開かれるオリンピックであり、おそらく私を含め、このブログを読んで頂いている方々にとっては、生涯で最後の国内で開かれるオリンピックとなることから、そのチケットも人気が高騰することが必至であると思われます。したがって、組織委員会としては、高額転売を防ぐための対策を進めています。
同対策の一環として、組織委員会は18日に、メルカリ、ヤフオク、ラクマが、チケットの出品を禁止することを表明したと発表しました。組織委員会は、今後、海外の業者などにも出品禁止を働きかけていくとのことです。
組織委員会のホームページによると、オリンピックのチケットはチケット不正転売禁止法の適用を受けるものであることが明記されています。それでは、東京オリンピックのチケットについて、転売の可否はどのように判断されるのでしょうか。
まず、前回のおさらいになりますが、チケット不正転売禁止法においては、不正転売(第3条)及び不正転売を目的としたチケットの譲受け(第4条)が禁止されます。そして、同法において「不正転売」とは、「興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。」(同法第2条第4項)とされていることから、チケット不正転売禁止法上は、興行主である組織委員会の事前の同意を得ず、定価を上回る価格で転売を行うことは禁止されることになります。なお、チケット不正転売禁止法第3条、第4条に違反した場合、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」という罰則規定が設けられています(同法第9条第1項)。
この点、チケット不正転売禁止法の施行は2019年6月14日であり、東京オリンピックのチケットの発売が開始される5月9日には未だ施行されていませんが、東京2020チケット購入・利用規約によると、第35条において転売は原則禁止された上で、例外規定として第36条が設けられています。

第36条(転売禁止の例外)
1.当法人から直接購入したチケットの第三者への譲渡は、東京2020公式チケットリセールサービスを利用した購入価格での再販売のみが認められます。ただし、チケット購入者は、チケット購入者の親族または友人、同僚その他の知人に対する場合に限り、同サービスによらずチケットを譲渡することができます。この場合でも、譲渡代金その他の譲渡対価として、チケットの券面額を超えた金銭または利益を受領してはなりません。

したがって、(1)「東京2020公式チケットリセールサービス」を利用する場合、(2)同サービスを利用しない場合であっても、チケット購入者の親族または友人、同僚その他の知人に対して定価以下で譲渡する場合には、転売が認められています。このように、東京オリンピックのチケット規約の転売に関する規定は、チケット不正転売禁止法における内容とほぼ同一の内容となっています。

また、例外規定であるチケット規約第36条は、チケット不正転売禁止法第5条第2項で努力義務として定められている、「興行主等以外の者が興行主の同意を得て興行入場券を譲渡することができる機会の提供その他の必要な措置」にあたるものであると思われます。

特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律第5条
1 興行主等は,特定興行入場券の不正転売を防止するため,興行を行う場所に入場しようとする者が入場資格者と同一の者であることを確認するための措置その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
2 前項に定めるもののほか,興行主等は,興行入場券の適正な流通が確保されるよう,興行主等以外の者が興行主の同意を得て興行入場券を譲渡することができる機会の提供その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
3 国及び地方公共団体は,興行主等に対し,特定興行入場券の不正転売の防止その他の興行入場券の適正な流通の確保のために必要な措置に関し必要な助言及び協力を行うよう努めるものとすること。

転売防止を重視するあまり、誤ってチケットを購入したり、事情変更によってチケットが不要となった消費者の利益が軽視されるという問題が生じている中で、東京オリンピックの組織員会が設けた上記のチケットに関するシステムは、興行主、チケットを求める消費者、購入したチケットが不要となった消費者の三者の利益を守れるという点で、今後の興行におけるチケット販売の大きな参考になるのではないかと考えます。
以上

(文責:三村 雅一)

2019年04月24日 10:53|カテゴリー:企業法務|タグ: , , コメントはまだありません