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ベンチャー法務の部屋

美容医療①

当事務所の弁護士にはそれぞれ専門分野があり、その分野に関しては特に日頃から研鑽を積み、重点的に取り扱っています。私の専門分野のひとつに、「美容医療」があります。私が通常取り扱うのはクリニック側であり、美容医療クリニックの顧問弁護士も務めさせて頂き、美容医療クリニック向けに、クレーム対策や説明義務違反に関するセミナーも開催しています。

さて、美容医療の内容は、二重まぶたの手術、鼻やフェイスラインの美容整形、レーザー等によるニキビやシミの除去、脂肪吸引、脱毛、ヒアルロン酸等の注射、美容歯科など、多様化しています。このような美容医療の多様化に伴って、美容医療に関する法律問題についても同様に多様化しているといえます。具体的には、多様化する施術に関するクレームや訴訟への対応だけでなく、トラブル予防に向けたインフォームドコンセントのための書類作成、医療広告規制の問題、最近では主に中国の投資家による日本の美容医療クリニックの買収を含めた投資といった案件など、幅広い内容が含まれます。

これから、美容医療に関する法律問題について、ご紹介していきますが、まずは、美容医療が一般の医療とどう異なるのか、一般医療と比較した場合の美容医療の特徴について紹介したいと思います。

まず、美容医療の特徴として、「目的」の違いが挙げられます。すなわち、美容医療については、一般的に患者の疾患を治癒させることを目的とするものではなく、身体の審美性の向上や、精神的な不満を解消することを目的としたものであるという特徴が挙げられます。

次に、美容医療には、救命や健康回復のために行われるものではなく、一般的に緊急性が認められず、医学的な必要性が認められないという特徴があります。

また、ほとんどの美容医療が自由診療のために治療費が高額になりがちであるという特徴も挙げられます。

この点、裁判例においても、美容医療は、「より美しくなりたいとの個人の主観的願望を満足させるために行われるものであって、生命ないし健康の維持に必須不可欠なものではない」とされました。(神戸地判平成13年11月15日)

このような美容医療の特徴は、美容医療を行う医師の負う義務にも大きな影響を及ぼすことになります。今後、美容医療における医療行為上の注意義務、説明義務の内容や、クレーム対応における注意点などについて紹介しますが、その前提として、今回紹介した美容医療の特徴について頭に置いておいて頂くことが重要となります。

(文責:三村雅一)

2018年11月02日 11:03|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

株式譲渡の手続を確実に進めるために

中小企業(非上場企業)やベンチャー企業(非上場企業)をクライアントとする弁護士が、しばしば直面する事態の1つに、「過去の株式譲渡が有効になされたのか、よくわからない」ということがあります。株式譲渡の有効性が明確に証拠化されていないと、IPO時やM&A時に株主が誰であるか確定しなくなる事態や、株主間で議決権の帰属に争いが生じる等の事態が発生してしまうことがあります。

今回は、非上場企業の大半を占める譲渡制限会社の「あるべき株式譲渡手続」について、解説します。

1 事前の情報確認

前提として、
(1)株券発行会社であるか、株券不発行会社であるか、
(2)譲渡承認機関が取締役会か、その他(株主総会、代表取締役等)であるか、
を確認する必要があります。

(1)の株券発行会社であるか、株券不発行会社であるかは、定款及び全部(現在)事項証明書で確認します。株券発行会社であれば、その旨が全部(現在)事項証明書に記載されますが、株券不発行会社であれば、記載はありません。
 平成17年の会社法施行前から存続する会社は、株券発行会社のままである可能性が比較的高いので、要注意です。株券不発行会社であることと、株券発行会社の株券不所持制度は、別物ですが、混同されていることがありますので、こちらも注意が必要です。株券不発行会社では、株券を発行するという事態が生じませんが、株券発行会社の株券不所持制度は、株式譲渡時には株券を発行する必要があるが、その他の時は会社に株券を預けて不所持状態とする制度です。

(2)の譲渡承認機関については、「当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。」といった規定が定款にあり、また、全部(現在)事項証明書にも記載されていますので、こちらで確認する必要があります。

2 当事者間(譲渡人・譲受人間)の手続

株券不発行会社の場合は、当事者間は、株式を譲渡する旨の意思表示のみで契約が成立し、株式譲渡が有効となります。但し、売買であるのか、贈与であるのか、売買である場合には、譲渡価額がいくらであるのか、等を書面化して明確にした方がよいです。株式譲渡契約書に記載すべき事項については、ブログ「株式譲渡契約に関する注意点(1)」を参考にして下さい。

なお、売買の場合は、譲渡対価が支払われていないと、解除権が発生し得ることになりますので、通帳に振り込む、領収書を取得する形で、支払い完了についても、証拠化した方がよいと考えます。

株券発行会社の場合は、当事者間における株式を譲渡する旨の意思表示により契約が成立しますが、株式譲渡は株券の交付が効力発生要件ですので、契約の後に、実際に株券を交付する必要があります。株券不所持制度が採用されている場合、株券を会社から譲渡人に交付してもらい、譲渡人が譲受人に株券を交付し、譲受人が受け取った株券を会社に引き渡すという、少し儀式的な手続を履行することになります。

3 株式譲渡と会社との関係

(1) 譲渡承認の請求
会社に対しては、株式譲渡の承認決定機関に対し、譲渡人から、又は譲渡人と譲受人の共同で、承認するように請求します。この際に、譲渡が承認されない場合に、譲渡先を指定してもらいたい場合は、併せてその旨も請求します。

より詳細には、会社に対して、(i)譲渡する株式の数、(ii)株式を譲り受ける者の氏名または名称(株式取得者からの請求の場合は、取得者の氏名または名称)を明らかにして(会社法138条1号、2号)、当該譲渡を承認するか否かの決定を請求をします(会社法136条、137条1項)。

株式の譲受人による承認の請求の場合は、原則として、株主(譲渡人)と共同で承認請求を行わなければなりません(会社法137条2項)。例外として、譲渡人やその一般承継人に対して承認請求を命ずる判決を証する書面を提供して請求した場合などは(会社法施行規則24条)、単独で行うことができます。

会社は、かかる譲渡承認の請求を受けた場合は、譲渡承認の決定機関において、承認します。

会社が承認しない場合の手続は、今回、割愛します。

(2)承認決定の通知
会社が、譲渡を承認した場合には、その決定内容を請求者に通知しなければなりません(会社法139条2項)。なお、譲渡承認請求の日から2週間(定款で短縮することも可能です)以内に通知をしなかったときは、会社は譲渡の承認の決定をしたものとみなされます(会社法145条1号)。
 したがって、会社が承認しない場合は、2週間以内にその旨を通知しなければなりませんので注意が必要です。この期限は、請求者と会社との合意で変更することができます(会社法145条ただし書)。

(3)株主名簿の名義書換
譲渡人(現在の名義人)と株式取得者が共同して名義書換請求を行い、会社が株主名簿を書き換えるというのが、通常の流れです。

譲渡人(現在の名義人)と株式取得者が共同して名義書換請求を行うことで、会社は、株主名簿の名義を変更する義務が生じます。また、株券発行会社の場合、譲受人は、単独で、株券を提示して名義書換請求することができます(会社法133条2項、同法施行規則22条2項1号)。

なお、会社は、適切な株式譲渡を確認すれば、自己の危険において、名義書換未了であっても、基準日以前から株式を取得していた者を株主と認め、同人の権利行使を認容することは差し支えないと解されています。

名義書換請求についても、書面化して残すことが明確化のためには重要です。

最後に、株主名簿に記載すべき事項は、下記のとおり、会社法に定められています。エクセルのファイルで、氏名と数のみが記載されている株主名簿を散見しますが、正式な株主名簿とはいえませんので、ご留意下さい。
(株主名簿)
第百二十一条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。
一 株主の氏名又は名称及び住所
二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
三 第一号の株主が株式を取得した日
四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号

(文責:森理俊)

2018年10月26日 23:28|カテゴリー:企業法務コメントはまだありません

裁判手続等のIT化とODR

いま、日本の裁判手続は急速にIT化に向けた動きが進んでいます。
これまでの、そして今の日本の訴訟手続は、紙とファックスが中心です。

日本のIT化の現状に即して考えても、紙とファックスは、不合理な側面が否めず、同時にセキュリティの観点からも脆弱であると言わざるを得ません。

弁護士がmicrosoft word等のソフトで電子的に作成した書面を、一度プリントアウトして、紙面に押印し、その後、ファックス送信して、それをさらに裁判所でプリントアウトしたものをファイリングするという、どう考えても不効率なことを今も続けているのが民事裁判の現実です。その後、裁判所が、判決を書くのに電子データがほしいといって、データの入ったCD等を裁判所に届けさせるというのは、どう考えても愚かしいとしか思えません。
また、ファックスは、数字10桁程度の送信先の指定方法で、暗号化もパスワードによる保護もされていない状態で、電子情報を送信するという前時代的な方法です。このようなセキュアではない方法は、裁判に関する秘匿すべき要請の高い情報のやり取りとして適切かというと、かなり疑問な面があります。また、送信されたデータにはパスワードが付されていませんので、誤送信すると、その時点で取り返しがつきません。

以上の理由がどれだけ意識されているのかはわかりませんが、日本でも、ようやく「世界的に見て日本の裁判手続のIT化は遅れている。紛争解決インフラの国際的競争力強化、裁判に関わる事務負担の合理化、費用対効果の総合的観点からも推進すべき」という問題意識から、3つのeが推進されることになりました。

この流れに関する情報は、首相官邸のウェブページにあり、上記の問題意識は、『裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて』に記されています。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/index.html

『裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて』
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/pdf/report.pdf

3つのeとは、e提出:e-Filing、e法廷:e-Court、e事件管理:e-Case Managementです。これらの詳細について詳しく知りたい方は、上記の「取りまとめ」をご確認下さい。

このうち、まず最初に、現行法で可能な範囲で、具体的には、書面による準備手続を活用して、テレビ会議システム(具体的には、Skype等)を利用して、争点整理の充実化を図ることが検討されています。

日本弁護士連合会は、この「取りまとめ」の内容に対し、どのような意見を形成すべきか、検討するために、関連委員会及び単位会に対して、意見照会がなされました。大阪弁護士会でも、短期間で意見を取りまとめて、提出しました(私も、関わらせていただいています。)。勿論、大阪弁護士会内部でも、結論が形成できていない論点も多くあり、両論併記で残っている部分があります。

個人的には、e-Courtよりも、先にe-Filingやe-Case Managementを推進してほしいところであり、とはいえe-Case Managementは開発業務に相当時間とコストを要すると思われる為、e-Filingから進めてほしいと考えています。また、もしe-Courtを進めるのであれば、まず、無駄な期日や作業、移動時間を減らすために、柔軟に手続を選択して、両当事者が裁判所に来なくても、論点整理できそうな場合は、どんどん書面による準備手続等を活用する等して、論点整理を進めてほしいと思います。あと、保全手続や保全異議審の一部など、代理人と裁判所で話が進むような手続も、ウェブ会議を積極的に活用してほしいと思います。
一方、証人尋問は、入院患者が証人になるような場合は例外的に活用できるようにするのは肯定するとしても、原則として法廷で行うということは、裁判の公開の原則にも適っていますので、e-Courtに最もなじみにくい場面だと考えます。

いずれにせよ、裁判手続等のIT化の流れはここ数年に大きく加速することが予想されます。要注目です。

加えて、IT化が進められそうなのは、裁判手続だけではありません。ADR(Alternative Dispute Resolution)と呼ばれる裁判外の紛争解決手続も、オンライン化の流れにあります。

今年の9月21日に、ODR(Online Dispute Resolution)に関するシンポジウムが東京で開催されました。
http://www.law.hit-u.ac.jp/content/images/bl/symposium/180921onlinedisputeresolution.pdf

一橋大学法学研究科 渡邊真由先生のプレゼン資料(2018/07/27, 日本ADR協会)は、こちらです。
https://japan-adr.or.jp/sympo2018docs/7.pdf

世の中には、少額のオンラインでのCtoCのトラブル(ネット・オークションでのトラブル)や、リアルでも数万円から数十万円前後の金銭等のトラブル(賃金不払い、貸金未返済など)は少なくありませんが、裁判所が充分な紛争解決手段を提供できているとはいえず、弁護士を始めとするプロフェッショナルも、費用対効果が良くないこと等を理由に積極的に取り組んできませんでした。

米国では、eBayやPayPal等の民間企業が、人間の関与をほとんどなくして、システムだけで解決できるような紛争解決システムを提供し、高い割合で活用されているようであり、日本でも、今後、発展が期待され、同時に、押し進められるべき分野であるように感じます。

こちらもここ数年で急速に進化する可能性があり、目が離せません。

(文責:森理俊)

2018年10月01日 10:50|カテゴリー:法務関連ニュースコメントはまだありません

みなし残業代(固定残業代)に関する最高裁判決

みなし残業代(固定残業代ともいいます。)を賃金体系に含めている企業が増えているように思いますが、先日、みなし残業代に関する新たな最高裁判決(最高裁第一小法廷平成30年7月19日、以下「本件最高裁判決」といいます。)が出ましたので、簡単に、ご紹介します。

まず、みなし残業代とは、一般に、労働基準が定める割増賃金(残業代)の算定方法に基づく支払いに代えて、一定額の手当を支払う方法のことをいいます(名称としては、営業手当等の名称が付されている場合が多いように思います。)。
一般に、みなし残業代が法律上有効であるといえるためには、少なくとも、基本給と明確に区別できることが必要とされています。なお、この点に関する詳細や、みなし残業代を就業規則で規定する際の注意点等については、弊所の三村雅一弁護士が執筆した以前のブログ(ベンチャー法務の部屋「固定残業代に関連する判例(最高裁平成29年7月7日小法廷判決)の紹介」)をご参照ください。

「固定残業代」に関連する判例(最高裁平成29年7月7日小法廷判決)の紹介

本件最高裁判決の事案の概要は、以下のとおりです。

 企業と従業員の雇用契約では、基本給46万1500円、業務手当10万1000円とされていました。
 雇用契約書には、「月額562,500円(残業手当含む)」、「給与明細書表示(月額給与461,500円 業務手当101,000円)」と記載されていました。
 採用条件確認書には「月額給与461,500円」、「業務手当101,000円 みなし時間外手当」、「時間外勤務手当の取扱い 年収に見込み残業代を含む」、「時間外手当は、みなし残業時間を超えた場合はこの限りではない」と記載されていました。
 賃金規程には「業務手当は、一賃金支払い期において時間外労働があったものとみなして時間手当の代わりとして支給する。」との記載がありました。
 上記の条件下で、従業員が企業に対し、みなし残業代とは認められないと主張し、業務手当とは別に、残業代の支払いを請求しました。

原審(東京高裁)では、業務手当が何時間分の時間外手当に当たるのかが従業員に伝えられておらず、時間外労働の合計時間を測定することができないこと等から、業務手当を上回る時間外手当が発生しているか否かを被上告人が認識することができないものであって、業務手当の支払いを法定の時間外手当の全部又は一部の支払いとみなすことはできないと判断しました。

これに対し、最高裁は、以下のように判断し、原審(東京高裁)を覆したうえで、従業員に対して支払われるべき賃金額等を審理させるため、原審に差し戻しました。

まず、最高裁は、みなし残業代を採用すること自体が労働基準法第37条に反するものではなく、定額の手当を支払うことにより、割増賃金の全部または一部を支払うことができることを確認しました。
そのうえで、雇用契約において、ある手当が時間外労働等に対する対価として支払
われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体
的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断をすべきであると判断しました。

本件においては、本件雇用契約書、採用条件確認書及び賃金規程において、業務手当が時間外労働に対する対価である旨が記載されていたことや、業務手当が1ヵ月当たりの平均所定労働時間をもとに算定すると、約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当し、実際の時間外労働等の状況と大きく乖離するものではなかったこと等から、業務手当の支払いをもって、時間外労働等に対する賃金の支払とみることができると判断しました。

本件は、雇用契約書等の記載において、業務手当が時間外労働の対価であることが明確に記載されていたことが重要な前提であると考えられます。そのうえで、みなし残業代が、何時間分の時間外手当に該当するものかを明確にしていないケースであっても、みなし残業代として有効であると判断できる場合があることを示したものであると考えられます。
もっとも、本件最高裁判決は、みなし残業代として有効である理由として、いくつかの考慮要素を挙げていますので、実務において、これから就業規則や賃金規程等の作成や修正等をする場合には、弁護士に相談して頂いた方が無難であると考えます。

(文責:藤井宣行)

2018年08月29日 18:25|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

不動産実務における即決和解

訴え提起前の和解という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
今回は、特に不動産業に携わる方々に、この訴え提起前の和解という制度をご紹介したいと思います。

1 訴え提起前の和解とは

訴え提起前の和解は、裁判上の和解の一種で、民事上の争いのある当事者が、判決を求める訴訟を提起する前に、簡易裁判所に和解の申立てをし、紛争を解決する手続です(民事訴訟法第275条第1項)。この手続を、即決和解手続と呼びます。以下、訴え提起前の和解のことを即決和解と呼びます。この即決和解手続については、当事者間に合意があり、かつ、裁判所がその合意を相当と認めた場合に和解が成立し、合意内容が和解調書に記載されることにより、確定判決と同一の効力を有することになります(民事訴訟法第267条)。

2 ケース1

建物賃貸借契約において、賃借人の賃料不払いがあったため、賃貸人・賃借人で協議を行った結果、滞納賃料について分割で支払うことを条件に建物の明渡しを1年間猶予することで合意した。

この場合、賃借人の、①滞納賃料の支払い、②建物の明渡しという義務の履行を確保する手段として、①については、滞納賃料の支払方法に関する合意内容を公正証書で定めるという方法が考えられます。公正証書を作成することによって、仮に合意通りに支払いが行われなかった場合、強制執行が可能となります。しかし、②の建物の明渡しについては、公正証書による強制執行の対象ではないため(民事執行法第22条第5号)、公正証書を作成したとしても、明渡期限に明渡しがされなければ、改めて訴訟を提起して判決を得て、強制執行手続をとらなければなりません。
そこで、①②について併せてこの即決和解の手続をとっておけば、改めて訴訟手続をとらなくとも、和解調書に基づく強制執行手続が可能となります。

3 ケース2

賃借人が使用中の収益物件が売買の対象となり、買主がその建物を自己使用したい場合、取り壊したい場合など、売買契約後は賃借人の継続利用を予定していない場合には、売買契約の中に以下のような条項が設けられることがあります。

第●条(賃借人退去)
1 売主は、平成●年●月●日までに、自己の費用と責任において本物件賃借人を完全退去させるものとする。
2 前項の賃借人立ち退きを、前項の期日から概ね1ヶ月を目処として履行する旨の本物件明渡しに関する即決和解が、売主と賃借人の間で成立している場合、買主は売主へ売買代金の残代金を支払い、本物件の引渡しを受けるものとする。

このような場合には、売主が賃借人との間で事前に退去交渉を行い、退去に関する合意を成立させることが多いと思われますが、仮に賃借人がその合意に反して明渡期限までに明渡しを行わなかった場合であっても、売主と賃借人との間で即決和解が成立していれば、買主が引渡しを受けた後に改めて建物明渡請求訴訟を行う必要はなくなります。

4 即決和解の手続の具体的内容

(1) 賃貸人・賃借人間の事前の話し合い
即決和解の手続は、事前に当事者間での合意が成立していることが前提です。したがって、即決和解を申し立てる前に、当事者間での合意を成立させる必要があります。なお、申立てから和解期日指定まで平均1か月程度を要することから、建物等の明渡し、金銭の支払いの日程については、この点を考慮に入れて定める必要があります。

(2) 申立て
相手方の普通裁判籍(普通裁判籍については、民事訴訟法第4条第2項から第6項を参照)(相手方が自然人の場合、第一次的には相手方の住所地によって定まります(民事訴訟号台4条第2項))の所在地を管轄する簡易裁判所に申立てを行います。なお、上記ケース2の条項のように、即決和解を成立させなければならない期限が決まっている場合には、申立てに先立って裁判所との間で事実関係や期日候補日について打ち合わせをしておくことでその後の手続がスムーズに進みます。

(3) 申立書審査
申立てがあると、裁判所が申立書を審査し、書類の追完、和解条項の修正等を経て、和解期日の指定手続に入ります。和解期日については、当事者双方が出席する必要があるため、双方が裁判所に出頭できる日を打ち合わせ、裁判所に希望日を連絡します。なお、当事者に代理人(弁護士等)が就く場合には、当事者は出席する必要はありません。
なお、希望日については、裁判所に連絡をした日からある程度先の日を伝える必要があります。これは、裁判所から相手方に対して期日呼出状等を送付する必要があるためであり、仮に相手方に代理人が就いていたとしても、期日呼出状自体は相手方本人が受け取る必要があります。

(4) 和解期日
和解期日当日、当事者双方(代理人の場合は代理人)が和解条項について合意し、かつ、裁判所が相当と認めた場合に和解が成立し、和解調書が作成されることになります。和解調書正本は、原則、和解期日当日に双方に交付されます。

即決和解の手続は以上のとおりとなります。

手続自体が複雑なわけではありませんが、弁護士が代理人に就いて裁判所との事前の細かいやり取りを行うことで手続が非常にスムーズに進みます。即決和解手続が必要になった場合にはぜひ一度ご相談下さい。

(文責:三村雅一)

2018年08月17日 17:32|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その3)

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理です。
「ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その1)」「ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その2)」の続きです。

これまで紹介した用語は、以下のとおりです。
1.ベンチャー投資
2.Exit(イグジット・エグジット)
3.IPO(アイ・ピー・オー)
4.VC(ブイシー・ヴィーシー)
5.エンジェル
6.CVC(シーブイシー・シーヴィーシー)
7.ステージ
8.投資契約
9.株主間契約
10.財産分配契約

11.企業価値評価額(バリュエーション)
企業価値評価又は企業価値評価額(バリュエーション)は、ベンチャー・ファイナンスに限った用語ではなく、企業のファイナンス全般で用いられます。一般的に適用可能で、且つ具体的な企業価値評価の手法については、マッキンゼーの有名な本『企業価値評価―――バリュエーションの理論と実践』や日本公認会計士協会の『企業価値評価ガイドライン』等が参考になるかと思います。

シード・ステージのベンチャー企業は、まだプロトタイプができたかどうか、といった段階にあるため、精緻な企業価値評価は困難であり、不確定要素が多すぎるため、意味を為しません。そのため、実際には、投資総額300万円〜1500万円ぐらいで10%程度の株式を発行することを念頭に、企業価値を逆算することが多いように思われます。投資総額300万円で株式の10%を割り当てる場合の時価総額は3000万円であり、投資総額1500万円で株式の10%を割り当てる場合の時価総額は1億5000万円です。

事業価値+非事業用資産=有利子負債+株式時価総額を前提とすると、ほとんどの場合、シード・ステージのベンチャー企業には、非事業用資産も有利子負債もありませんので、事業価値=時価総額となります。

したがって、発行会社は、事業価値が3000万円~1億5000万円あるということを投資家にアピールする必要があります。

ミドル・ステージやレイター・ステージであれば、既に売上も利益もその将来の上昇の見込みも明確になってきていますので、それらの数字を前提に、類似する事業を行っている上場企業の時価総額を参考にしたり、DCF法を用いたりすることになります。

12.時価総額(キャップ)
既に「11. 企業価値評価額」でも、時価総額に触れました。

株価✕株数(発行済株式総数)=時価総額

以上の算式で算出します。ここでの株価は、非上場のベンチャー企業の場合、株式市場での株価がありませんので、直近のファイナンスにおける株価を指します。
なお、細かい点ですが、自己株式がある場合は、発行済株式総数から自己株式数を差し引く必要があります。

カタカナで「キャップ」と言われることがありますが、これは、時価総額を意味するMarket capitalizationから来ています。

13.プレ・バリュー/ポスト・バリュー
プレ・バリューは、Pre-money valuation ポスト・バリューは、 Post-money valuation のことです。「プレ」や「ポスト」とだけ呼ばれることも多いです。

プレ・バリューとは、資金調達直前の時価総額を意味し、ポスト・バリューとは、資金調達直後の時価総額を意味します。

あるファイナンス・ラウンドのプレ・バリューとポスト・バリューは、以下の算式が成り立ちます。

Pre-money valuation + 調達額 = Post-money valuation

「うちは、今回のファイナンス、ポストで6億だったよ。」といった使われ方をします。「当社は、今回の資金調達については、調達を終えた直後の時点で、時価総額6億円の評価をしてもらったよ。」という意味です。

今回は、ここまでです。
(文責:森理俊)

仮想通貨と所得税

先日、「国税庁、仮想通貨所得の確定申告促す方法の簡略化など環境整備へ」という報道を目にしました。
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180716/mca1807160500001-n1.htm

仮想通貨の取引と所得税に関し、国税庁は、2017年12月1日付で、「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」を公表し、また、国税庁ウェブサイトのタックスアンサーでも、仮想通貨の取引に関して損益が生じた場合の取扱いを公表しています
http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1524.htm

そこでは、仮想通貨の取引に関して損益が生じた場合には、原則として、雑所得(取引規模等によって、例外的に事業所得)に該当するとされています。

そもそも、所得税法では、課税対象となる所得の種類として、10種類を規定しています。そのうちの1つの種類として、譲渡所得という分類がありますが、これについては、所得税法33条1項が、「譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。」と規定しています。

ビットコイン等の仮想通貨の取引に関しては、ある人が、仮想通貨を相対で売却したり、または、経済的価値のある物と交換(交換対象が仮想通貨の場合もあれば、そうでない場合もあるでしょう)することがあります。仮想通貨を売却や交換等の方法で譲渡した人は、その対価としての経済的価値を取得するのですから、譲渡によって得られた所得は、仮想通貨という「資産」を「譲渡」したとして、譲渡所得に該当すると考えるのが素直な解釈とも思えます。

では、国税庁は、なぜ譲渡所得ではなく、原則として雑所得(例外的に事業所得)と判断しているのでしょうか。国税庁のウェブサイト等では、この点について明確に説明しているものは見当たりませんでしたが、おそらく、仮想通貨は、譲渡の対象となる「資産」ではなく、決済手段であると考えているからだと思います。すなわち、一般に、外貨の為替取引を行い、差損が生じた場合には譲渡所得ではなく雑所得として処理するものとされていますが、これは、通貨という決済手段に関する取引であり、所得税法が譲渡所得として予定している「資産」の「譲渡」には性質的に該当しないとの考え方が存在するものと考えられます。仮想通貨についても、資金決済に関する法律でその内容が定義されるといったことからも、有価証券等の資産としての性格より通貨等の決済手段としての色彩が強いという判断が背後にあるものと考えられます。

もちろん、国税庁の考え方が、法律(ここでは所得税法)の解釈のあり方として、常に正しいわけではありませんので、この点について、裁判所で争われた場合に、譲渡所得に該当すると判断される可能性を否定するものではありませんが、譲渡所得の根本的な考え方に関連する興味深い議論であると思います。

                                                  以上

(文責:藤井宣行)

2018年07月19日 09:25|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

古物営業の許可について(3)

前回前々回と、古物営業法の趣旨や概要、リサイクルショップ、フリーマーケット、バザー、メルカリ等のフリマアプリと古物営業法の関係について紹介してきました。

今回は、平成30年4月25日に公布された古物営業法の概要について紹介します。

第1 はじめに

前回のブログでも紹介したように、古物営業の態様は変化し、内閣規制改革ホットラインには、都道府県単位での許可の見直し(古物営業法第3条第1項、第2項)、営業の制限についての緩和(古物営業法第14条第1項)について要望が寄せられました。

それを受け、警察庁は古物営業の在り方に関する有識者会議を開催し、平成29年12月21日に古物営業の在り方に関する報告書をまとめました。

こういった背景の下、平成30年3月6日に古物営業法の改正案が閣議決定され、同年4月25日には「古物営業法の一部を改正する法律」(以下「新法」といいます。改正前の古物営業法を「旧法」といいます。)が公布されました。

第2 新法の概要

1 都道府県ごとの許可制度について

(1) 旧法下における制度の概要

旧法下の制度では、古物営業を行うためには、都道府県単位での許可を受ける必要があるとされていました(旧法第3条第1項、同第2項)。

(2) 不都合性
前述のとおり、全国展開を図る古物商にとっては、都道府県ごとに許可が必要となることから、時間と費用がかかるという問題がありました。

(3) 新法
新法においては、主たる営業所等の所在地を管轄する公安委員会の許可を受ければ、その他の都道府県に営業所等を設ける場合には届け出で足りることとされました(新法第3項第1項)。
なお、施行期日は、公布の日(平成30年4月25日)から2年を超えない範囲内とされました(新法附則第1条)。

2 営業の制限について

(1) 旧法下における制度の概要
旧法下における制度では、古物商は、営業所又は取引の相手方の住所等以外の場所で、買受け等のために古物商以外の者から古物を受け取ることができないとされていました(旧法第14条第1項)。
これは、営業所又は取引の相手方の住所等以外の場所において古物の取引をする場合、法に定める各種義務(帳簿記載義務や本人確認義務)の確実な履行が期待できないために設けられた規定です。

(2) 不都合性
百貨店や集合住宅のエントラス等でのスペースを活用したイベント会場での受け取りができないため、古物商にとってはビジネスチャンスが狭まっており、また消費者にとっても古物を売却できる場所の選択肢が狭まっているという問題がありました。

(3) 新法
事前に公安委員会に日時・場所の届出をすれば、仮設店舗においても古物を受け取ることができることとされました(新法第14条第1項但書)。
なお、施行期日は、公布の日(平成30年4月25日)から6ヶ月を超えない範囲内とされました(新法附則第1条但書)。

3 簡易取消し制度について

(1) 旧法下における制度の概要
旧法下における制度では、所在不明である古物商の許可を取り消すためには、3ヶ月以上所在不明であることを都道府県公安委員会が立証した上で、聴聞を実施する必要がありました。

(2) 不都合性
現在、約77万件の許可件数がある中で所在不明である古物商や、既に廃業しているにもかかわらず返納されていない許可がある一方で、許可を取り消す手続に時間がかかりすぎるという問題がありました。

(3) 新法
古物商等の所在を確知できないなどの場合に、公安委員会が公告を行い、30日を経過しても申し出がない場合には、許可を取り消すことができることとされました(新法第5条第2項、同条第3項)。
なお、施行期日は、公布の日(平成30年4月25日)から2年を超えない範囲内とされました(新法附則第1条)。

4 暴力団排除について

(1) 旧法下における制度の概要
旧法下における制度では、禁固以上の刑や一部の財産犯の罰金刑に係る前科を有すること等を欠格事由として規定し、該当する者は許可を取得できないとされていましたが、暴力団員は欠格事由として明記されていませんでした。

(2) 不都合性
盗品売買の防止という法目的からは、暴力団排除は当然であるにもかかわらず、暴力団排除が法に明記されていなかったという問題がありました。

(3) 新法
暴力団員やその関係者、窃盗罪で罰金刑を受けた者を排除するため、許可の欠格事由として、「集団的に、又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で国家公安委員会規則で定めるものを行うおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」(新法第4条第3号)、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第12条若しくは第12条の6の規定による命令又は同法第12条の4第2項の規定による指示を受けた者であって、当該命令又は指示を受けた日から起算して3年を経過しないもの」(新法第4条第4号)が定められました。
なお、施行期日は、公布の日(平成30年4月25日)から6ヶ月年を超えない範囲内とされました(新法附則第1条但書)。

(文責:三村雅一)

2018年07月13日 13:46|カテゴリー:その他コメントはまだありません

会社が株式公開を目指さない理由

最近、「企業価値5600億円 米スラックが株式公開しない理由」という記事がありました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32237140W8A620C1TJC000/

Slackは、昨今のベンチャー企業では、使っていない方が珍しいくらいに、浸透しているビジネス用のチャットツールです。

私も、所内外を問わず、いろいろな場面で活用させていただいています。

そのSlackのCEOが、当面、株式を公開しないとのことです。

通常、ベンチャー企業が、VCや投資家から、新株発行により資金を調達する際には、当該株式について、将来、上場によって公開されることを目指すと宣言します。IPOによって、株式が公開されない限り、VCや投資家にとっては、投下した資本を回収する手段がないからです。

しかしながら、いまや世界中のビジネスシーンで利用されるようになった、Slackは、ユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の有力未上場企業)であり、上場しなくても、その株式を保有したいという投資家・資産家は、列をなしているのでしょうから、労力のかかる(=めんどくさい)IPOは、しなくても問題ないでしょう、ということかもしれません。

私が過去に書いたブログで、会社の株式の未来は、大きく分けて4つの未来しかないと書いたことがあります。

「会社の未来は4つしかない」

会社の未来は4つしかない

(未来1) 株式公開(IPO)
(未来2) M&A(買収される)
(未来3) 保有され続けて、相続の対象となる。
(未来4) 会社の清算により、残余財産分配請求権に転化する。

Slackのように、有力な投資家が保有し続けて、未上場のまま、維持されていくケースもあるかもしれません。この場合、個人株主については、(未来3)ですね。

Slackのように、未上場のまま有力な投資家が保有し続ける場合、投資家は、未上場のまま、会社に配当を求めるのかもしれません。

栄枯盛衰は世の常ですので、上場できるうちに、上場した方がよいという意見もあるとは思いますが、如何でしょうか。
SlackとSlackの投資家の未来は、どうなるでしょうか。

2018年07月03日 12:37|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンスコメントはまだありません

古物営業の許可について(2)

前回のブログでは、古物営業法が、盗品売買の防止等を図ることを目的とした法律であり、古物営業法はこの目的を達成するために、古物営業を許可制として、種々の規制を加えていることについてお伝えしました。さらに、古物営業法に定められた「古物」とは?「古物営業」とは?ということについても紹介しました。

 

今回は、リサイクルショップ、フリーマーケット、バザー、メルカリ等のフリマアプリと古物営業法の関係について紹介します。

 

第1 リサイクルショップと古物営業法

まず、一般的なリサイクルショップは、買い取った古物を販売するという形態をとるため、「古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業」(古物営業法第2条第2項第1号)の「古物営業」に該当することになり、古物営業法の適用を受けることになります。

 

もっとも、無償、または引取り料を徴収して引き取った古物を修理、再生等して販売する形態のリサイクルショップの場合には、(古物の買取りを行わず)「古物を売却することのみを行うもの」(古物営業法第2条第2項第1号)に該当することから、古物営業には当たらず、古物営業法の適用を受けません。

 

第2 フリーマーケット・バザーと古物営業法

バザーやフリーマーケットについては、前回の記事でも解説したとおり、その取引されている古物の価額や、開催の頻度、古物の買受の代価の多寡やその収益の使用目的等を総合的に判断し、営利目的で反復継続して古物の取引を行っていると認められる場合には、古物営業に該当するとされています。(平成7年9月11日警察庁丁生企発104号「古物営業関係法令の解釈基準等について」4頁参照。)

 

もっとも、一体どの程度の取引を行えば、「営利目的で反復継続して古物の取引を行っていると認められる」のかが問題となります。

 

この点については、平成18年1月31日付経済産業省「特定商取引法の通達の改正について」で、インターネットオークションにおいて、特定商取引法の「販売業者」に該当すると考えられる場合として紹介されている内容が参考になると考えられます。

 

対象となるカテゴリー、商品によって基準は異なりますが、「全てのカテゴリー・商品」について、例えば、以下の場合には特別の事情がある場合を除き、営利の意思を持って反復継続して取引を行う者として販売業者に該当すると考えられるとされています。

①過去1ヶ月に200点以上又は一時点において100点以上の商品を新規出品している場合、②落札額の合計が過去1ヶ月に100万円以上である場合、③落札額の合計が過去1年間に1,000万円以上である場合。

 

なお、平成28年9月14日付のニュースで、「嵐」のコンサートチケットを転売したとして、25歳の女性が古物営業法違反(無許可営業)の疑いで逮捕されるという事件が起こりました。チケット転売がなぜ古物営業法違反になるのか、この疑問は、正に上で述べてきた内容が回答となります。すなわち、この女性は、2015年11月から12月の間に、3名に対しコンサートチケット5枚を計4回、インターネットの転売サイトで売っていました。それだけではなく、女性はチケット交換サイトでコンサートチケットを入手した後、転売サイトに出品して高値で販売するという手口で、2014年10月から2018年4月までの間に168名に対してチケット299枚を販売し、約1000万円の売り上げを得た疑いがあり、これが、営利目的で反復継続して古物の取引を行っていると認められたものと考えられます。

 

このように、チケットの転売であっても、その具体的態様に照らし、「古物営業」として、古物営業法の規制の対象となることがあります。

 

 

第3 フリマアプリ、フリマサイトと古物営業法

インターネット上のフリーマーケットアプリやフリーマーケットサイトは、インターネット上において、個人間で直接に物を売買する場を提供するものであり、また、その方法が競りによるものではないため、インターネット上のフリーマーケットアプリやフリーマーケットサイトの運営業者は古物営業法に規定された古物競りあっせん業者には該当せず、法規制の対象外となっています。

 

もっとも、フリマアプリ等で出品をする場合には、第2で紹介した「インターネットオークションにおいて、特定商取引法の「販売業者」に該当すると考えられる場合」を参考にする必要があり、「営利目的で反復継続して古物の取引を行っている」と認められた場合には、古物営業法の許可が必要となることにご注意ください。

 

この点、古物営業法規制の対象外となっているとはいえ、現在のメルカリ等のフリマアプリにおいては、「盗品売買の防止」等の観点から、利用者には厳格な本人確認を要求するなど、古物営業法の趣旨を踏まえた自主ルールを作成し取り組みを強化しています。

 

なお、個人間の売買を目的としたメルカリではなく、中古品の買取と再販売を想定している「メルカリNOW」については、「古物営業」(古物営業法第2条第2項第1号)に該当することから、古物営業の許可が取得されています。

 

このように、その取引が「古物営業」(古物営業法第2条第2項)に該当するか否かの判断は容易でないため、弁護士等の専門家への相談をおすすめします。

 

次回が古物営業法に関する最終回となります。次回は、「古物営業の在り方に関する有識者会議」ではどのようなことが議論され、古物営業法がどのような方向に向かおうとしているのかについても紹介する予定です。

 

(文責:三村雅一)

2018年06月15日 10:11|カテゴリー:その他コメントはまだありません