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ベンチャー法務の部屋

特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律について(1)

1 平成30年12月8日、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(以下「チケット不正転売禁止法」といいます。)が成立し、平成30年12月14日に、平成30年法律第103号として公布されました。
 同法は、特定興行入場券の不正転売を禁止するとともに,その防止等に関する措置等を定めることにより,興行入場券の適正な流通を確保し,もって興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定に寄与するとともに,心豊かな国民生活の実現に資することを目的とし(チケット不正転売禁止法第1条参照)、来年(2020年)の6月14日から施行されることとなります。

2 チケット不正転売法が制定されるに至った背景には、法律のネーミングからも明らかなように、チケットの「不正転売」によって、チケットの「適正な流通」が妨げられていたという事情があります。人気アーティストのライブチケットがインターネットで買い占められて、定価の10倍の価格で売られている、そのためチケットを買いたい人が適正な価格でチケットを買うことができない、といった事態は多々発生していました。
こういったいわゆる「ダフ屋行為」については、各都道府県の迷惑防止条例で取締りが行われてきましたが、条例という性質上、都道府県によって規制が異なったり、インターネットを用いたダフ屋行為も規制の対象外となっていたという問題点がありました。このような問題点に加えて、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されることも今回の新規立法を後押ししたと考えられます(但し、チケット不正転売禁止法の施行は2020年6月14日であることから、東京オリンピック・パラリンピックの開会式が予定されている7月24日には間に合うものの、チケット販売開始時期とされている新春には間に合いません。もっとも、例えば野球やサッカーなどで日本が勝ち進んだ場合のチケットなど、開会式後に高騰することが予測されるチケットの転売には適用されるという意味では、一定の効果はあると考えられます。)。

3 今回のブログでは、チケット不正転売禁止法の概要について紹介します。
(1) まず、チケット不正転売禁止法で禁止されているのは、①特定興行入場券の不正転売(第3条)、②特定興行入場券の不正転売を目的とする特定興行入場券の譲受け(第4条)の2つの行為であり、これらに違反した場合には、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(第9条)という罰則が定められました。
(2) 第3条及び第4条にいう「特定興行入場券」については、第2条第3項に詳しく定義されていますが、概要は以下の通りです。
興行入場券(それを提示することにより興行を行う場所に入場することができる証票)であって、不特定又は多数の者に販売され、かつ、
1 興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該興行入場券の券面に表示し又は当該興行入場券に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に当該興行入場券に係る情報と併せて表示させたものであり、
2 興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者又は座席が指定され、
3 興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、入場資格者が指定された興行入場券については、入場資格者の氏名及び電話番号、電子メールアドレスを、座席が指定された興行入場券については、購入者の氏名及び連絡先を確認する措置を講じ、かつ、その旨を当該入場券の券面等に表示しているもの。
複雑なので簡単に整理すると、この法律の適用を受けるためには、
1 チケットの販売時に、チケット(紙)又は電子データの表示で、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、
2 日時及び場所を指定し、
3 入場資格者か座席を指定した上で、
(i) 入場資格者の場合は「氏名及び電話番号、電子メールアドレス」を、
(ii) 座席の場合は、「購入者の氏名及び連絡先を確認する措置を講じている旨」を、
記載する必要があるということになります。
(3) そして、第3条で禁止されている、「特定興行入場券の不正転売」とは、「興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。」(第2条第4項)とされています。
したがって、定価を下回る価格での転売(有償譲渡)については、この法律の適用を受けないことになりますが、一般的に、定価販売では転売による利益を得ることができないため、定価を下回る価格での転売がこの法律によって規制されなくとも、「不正転売の防止」という法の目的は達成できると考えられます。
(4) さらにチケット不正転売禁止法は、興行入場券の適正な流通の確保に関する措置として、興行主等による特定興行入場券の不正転売の防止等に関する措置(第5条)、相談体制の充実(第6条)、国民の関心及び理解の増進(第7条)、施策の実施に当たっての配慮(第8条)を定めています。
これらの措置の具体的内容については次回以降検討します。

4 以上が、チケット不正転売禁止法の概要です。
  
 次回以降、チケット不正転売禁止法に関する理解を深めるために、「ライブのチケットを購入していたが、都合が悪くなったので転売サイトで売却する行為はチケット不正転売禁止法で規制されるのか?」といった具体的なケースについて、チケット不正転売禁止法の各要件の検討を踏まえて考えたいと思います。

以上

(文責:三村雅一)

2019年02月04日 14:04|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

ベンチャー企業のインセンティブ制度に関するニュースについて

2018年の年末から、今年にかけて、ベンチャー企業のインセンティブ制度について、いくつかのニュースがありました。

(1) メルカリの新インセンティブ制度

メルカリがストックオプションに代えてRSU(Restricted Stock Unit)を導入したというニュースです。

日本初の挑戦を。メルカリが新インセンティブ制度に込めた想いとその舞台裏

「メルカリ、全社員に株の報酬制度 優秀な人材を確保」
2019年1月16日日本経済新聞

(2)  スタートアップ、外部人材の株式報酬に税優遇

「スタートアップ、外部人材の株式報酬に税優遇」
2019年1月22日日本経済新聞

スタートアップ企業の事業開発において、政府が、大学の研究者など専門知識を持って外部から協力してくれる人材へのストックオプション(株式購入権)による報酬について課税繰り延べを認める、という内容です。

記事によると、「新たに対象を社外の関係者にも広げる。大学や研究機関の研究者のほか、フリーのプログラマーやエンジニア、弁護士や医師などを想定する。」「ストックオプション税制の拡充では、中小企業等経営強化法の改正案など関連法案を28日召集の通常国会に提出する。」とのことです。

1 (1)メルカリの新インセンティブ制度について

RSU(Restricted Stock Unit)は、譲渡制限株式ユニットと訳されており、ボーナスの一部(メルカリの場合は半分)を、現金の代わりに株式購入の対価を充てる

メルカリは、おそらく従前の現金賞与制度を減額・変更するという選択肢はとっていないと思われますので、従前に(無償)ストックオプションを付与していた部分を、株式譲渡対価分を会社が負担してでもRSUを導入したということだと思われます。

メルカリの企業理念やインセンティブについての考え方、日米における税制、RS・RSUの両制度のメリット・デメリット等を十分に検討して、導入に臨まれたと思います。

概要は、取締役会(※)で、役職員の一部を対象に、第三者割当増資による募集株式の発行を行い、一定期間の在籍などを条件として、対象者毎に予め定める数を付与するというものです。また、対象者には、予め会社から支給された金銭債権を現物出資してもらい、会社株式を交付するという内容です。1株当たりの払込金額は、「発行又は処分に係る取締役会決議の日の前営業日における東京証券取引所における当社株式の終値(同日に取引が成立していない場合は、それに先立つ直近取引日の終値)を基礎として、対象者に特に有利とならない範囲において当社の取締役会において決定」するということのようです。
(※ 上場企業ですので、第三者割当増資は取締役会で決議します。)

この方法は、非上場企業では、株主が増える等の面がデメリットとして大きな影響をもつ上、人数が多いと有価証券の募集にも該当してしまう可能性があるため、他に導入されるとしても、世界に展開している上場企業ではないかと予想します。

このような多種多様なインセンティブ設計が議論されるようになったのは、ここ1~2年のように思われ、様々な手続的な面倒さを含めて、実務が洗練されていくことを望みます。

2 (2) スタートアップ、外部人材の株式報酬に税優遇

これまで、非上場企業が、いわゆる外部人材(取締役や従業員ではなく、税制適格が受けられない人)に、インセンティブ目的でストックオプションを付与しようとすると、有償の公正時価発行の新株予約権か、いわゆる信託型にするか、(金額が少ないと仮定する等して税制適格を諦めて)無償ストックオプションにするか、(新株予約権を諦めて)現物の株式とするといった選択を迫られていました。

いずれも導入コストの面、又は税制の面等でのデメリットをかかえており一長一短でした。

そこに、平成31年度税制改正では、これまでの取締役、執行役及び使用人に加えて、「特定事業者」も税制適格の対象者に加えられる予定です。

特定事業者とは、「中小企業等経営強化法に規定する認定新規中小企業者等(仮称)が新事業分野開拓計画(仮称)に従って活用する取締役及び使用人等以外の者(新事業分野開拓計画(仮称)の実施期間の開始の日から新株予約権の行使までの間、居住者である等一定の要件を満たす者に限る)」ということのようであり、「社外の人材を活用した事業計画を策定して、所管省庁から認定を受けること」が条件のようですので、使い勝手のよい制度になるかどうかは、まだよくわかりません。

ひとまず、エンジニアや弁護士、大学教員など、外部の人材に、ストックオプションを付与するインセンティブがあるケースは、かなり多く、そのような需要に応えられるものであれば、日本のスタートアップにおける課題が一つ解決することになるかもしれません。

アクシス国際法律事務所では、引き続きこの税制改正についての情報を把握するように努める所存であり、続報があれば、紹介します。

(文責:森理俊)

2019年01月24日 11:41|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンスコメントはまだありません

美容医療に関する法律問題(美容医療における説明義務の内容及び程度)

1 はじめに
前回のブログでは、一般医療と比較した場合の美容医療の特徴について、①美容医療の目的は、一般的に患者の疾患を治癒させることを目的とするものではなく、身体の審美性の向上や、精神的な不満を解消することを目的としたものであること、②美容医療には、一般的に緊急性が認められず、医学的な必要性が認められないこと、といった点を紹介しました。
今回は、このような美容医療の特徴が、医師等の負う義務にどのような影響を与えるのかについて説明します。

2 求められる注意義務の水準
一般医療行為においては、医師はその病気を治す、という一定の結果を達成すべき義務を負っているものではなく、善良な管理者の注意をもって、当時の医療水準に従って、適切な医療行為を遂行すること自体を義務として負っていると考えられます。これは、一般の医療においては、医療行為としての必要性や緊急性が認められ、また患者それぞれの状況も異なり、リスクはあるものの、手術を行う緊急性がある場合などもあるという一般医療の性質から導かれるものです。
他方で、美容医療においては、前述のとおり、必要性や緊急性は認められず、専ら、「より美しくなりたい」という患者個人の主観的な願望の実現、または精神的な不満を解消することを目的としていることから、患者は当然にその「結果」の実現を求めて美容医療を受けるのであり、一般医療と比べて、より患者の期待する「結果」を実現することが重視されているという考え方があります。
このように、一般医療と比較した場合、患者が期待する「結果」に対する医師の注意義務について、美容医療ではより高度なものが求められると考えられます。

3 説明義務の内容及び程度
(1)説明義務が要求される趣旨
医療行為において、何をどこまで説明すればよいのか、を検討するためには、そもそも、なぜ説明義務が要求されるのか、を知ることが重要となります。
この点については、患者の自己決定権の保障が説明義務の要求される趣旨であるとされています。
すなわち、患者には、自らの生命・身体・健康については自ら決めることができるという自己決定権が認められています。しかし、医療の素人である患者が、医療行為を受けるか否か、受けるとしてどのような医療を受けるのか、といった点について、この自己決定権を適切に行使することは極めて困難です。したがって、医師には、患者が自らの意思でいかなる医療行為を受けるか、受けないかということを決定することができるように、すなわち、患者の自己決定権の実現を保障するために、当該疾患の診断、実施予定の治療法の内容、危険性などの必要な情報を説明する義務があるとされています。
(2)説明義務の程度
東京地方裁判所平成15年4月22日判決(判例タイムズ1155号257頁)は、美容医療において求められる説明義務の程度について、美容医療は、「より美しくなりたいとの個人の主観的願望を満足させるために行われるものであって、生命ないし健康の維持に必須不可欠なものではないのであるから、患者のその治療を受けるべきか否かの判断をするための情報があたえられるべき要請は一般の医療行為よりも大きく、したがって、その実施にあたっては、被告において、原告が十分な情報を得た上で、その治療を受けるか否かを決定することができるよう、事前に同手術の内容、方法、費用等についてひととおりの説明をするだけでなく、その予想される副作用や後遺症等についても十分な説明をなし、そのうえで、その手術の実施につき承諾を得る必要があったものというべきである」と述べました。
このように、裁判例は、美容医療の目的が、「より美しくなりたいとの個人の主観的願望を満足させるために行われるものであって、生命ないし健康の維持に必須不可欠なものではない」ことを根拠に、美容医療において求められる説明義務の水準が、一般の医療よりも高いことを明言しています。
(3)説明義務の内容
上記裁判例は、美容医療における説明義務の内容につき、「当該美容形成手術に関する正しい情報、すなわち、手術の具体的な内容、成功の見通し、手術後患部が治癒するまでに要する時間、その間に通常生じる患部の変化、術後の管理の方法、発生が合理的に予想される危険性や副作用等について、適切な情報が必要であることは他言を有しないところである」と述べています。
この点、美容医療における説明義務の内容として、特に、マイナスの情報である、「発生が合理的に予想される危険性や副作用等」が重視されている点に注意が必要です。

4 おわりに
 上記の通り、裁判例は、美容医療の特徴を根拠として、医師に対して高度の説明義務を課していることが分かります。このことを前提として、次回は、美容医療における説明義務が問題となった裁判例を検討し、美容医療における説明義務をさらに掘り下げます。

(文責:三村 雅一)

2018年12月21日 15:43|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

美容医療に関する法律問題(一般医療と美容医療との相違点)

当事務所の弁護士にはそれぞれ専門分野があり、その分野に関しては特に日頃から研鑽を積み、重点的に取り扱っています。私の専門分野のひとつに、「美容医療」があります。私が通常取り扱うのはクリニック側であり、美容医療クリニックの顧問弁護士も務めさせて頂き、美容医療クリニック向けに、クレーム対策や説明義務違反に関するセミナーも開催しています。

さて、美容医療の内容は、二重まぶたの手術、鼻やフェイスラインの美容整形、レーザー等によるニキビやシミの除去、脂肪吸引、脱毛、ヒアルロン酸等の注射、美容歯科など、多様化しています。このような美容医療の多様化に伴って、美容医療に関する法律問題についても同様に多様化しているといえます。具体的には、多様化する施術に関するクレームや訴訟への対応だけでなく、トラブル予防に向けたインフォームドコンセントのための書類作成、医療広告規制の問題、最近では主に中国の投資家による日本の美容医療クリニックの買収を含めた投資といった案件など、幅広い内容が含まれます。

これから、美容医療に関する法律問題について、ご紹介していきますが、まずは、美容医療が一般の医療とどう異なるのか、一般医療と比較した場合の美容医療の特徴について紹介したいと思います。

まず、美容医療の特徴として、「目的」の違いが挙げられます。すなわち、美容医療については、一般的に患者の疾患を治癒させることを目的とするものではなく、身体の審美性の向上や、精神的な不満を解消することを目的としたものであるという特徴が挙げられます。

次に、美容医療には、救命や健康回復のために行われるものではなく、一般的に緊急性が認められず、医学的な必要性が認められないという特徴があります。

また、ほとんどの美容医療が自由診療のために治療費が高額になりがちであるという特徴も挙げられます。

この点、裁判例においても、美容医療は、「より美しくなりたいとの個人の主観的願望を満足させるために行われるものであって、生命ないし健康の維持に必須不可欠なものではない」とされました。(神戸地判平成13年11月15日)

このような美容医療の特徴は、美容医療を行う医師の負う義務にも大きな影響を及ぼすことになります。今後、美容医療における医療行為上の注意義務、説明義務の内容や、クレーム対応における注意点などについて紹介しますが、その前提として、今回紹介した美容医療の特徴について頭に置いておいて頂くことが重要となります。

(文責:三村雅一)

2018年11月02日 11:03|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

株式譲渡の手続を確実に進めるために

中小企業(非上場企業)やベンチャー企業(非上場企業)をクライアントとする弁護士が、しばしば直面する事態の1つに、「過去の株式譲渡が有効になされたのか、よくわからない」ということがあります。株式譲渡の有効性が明確に証拠化されていないと、IPO時やM&A時に株主が誰であるか確定しなくなる事態や、株主間で議決権の帰属に争いが生じる等の事態が発生してしまうことがあります。

今回は、非上場企業の大半を占める譲渡制限会社の「あるべき株式譲渡手続」について、解説します。

1 事前の情報確認

前提として、
(1)株券発行会社であるか、株券不発行会社であるか、
(2)譲渡承認機関が取締役会か、その他(株主総会、代表取締役等)であるか、
を確認する必要があります。

(1)の株券発行会社であるか、株券不発行会社であるかは、定款及び全部(現在)事項証明書で確認します。株券発行会社であれば、その旨が全部(現在)事項証明書に記載されますが、株券不発行会社であれば、記載はありません。
 平成17年の会社法施行前から存続する会社は、株券発行会社のままである可能性が比較的高いので、要注意です。株券不発行会社であることと、株券発行会社の株券不所持制度は、別物ですが、混同されていることがありますので、こちらも注意が必要です。株券不発行会社では、株券を発行するという事態が生じませんが、株券発行会社の株券不所持制度は、株式譲渡時には株券を発行する必要があるが、その他の時は会社に株券を預けて不所持状態とする制度です。

(2)の譲渡承認機関については、「当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。」といった規定が定款にあり、また、全部(現在)事項証明書にも記載されていますので、こちらで確認する必要があります。

2 当事者間(譲渡人・譲受人間)の手続

株券不発行会社の場合は、当事者間は、株式を譲渡する旨の意思表示のみで契約が成立し、株式譲渡が有効となります。但し、売買であるのか、贈与であるのか、売買である場合には、譲渡価額がいくらであるのか、等を書面化して明確にした方がよいです。株式譲渡契約書に記載すべき事項については、ブログ「株式譲渡契約に関する注意点(1)」を参考にして下さい。

なお、売買の場合は、譲渡対価が支払われていないと、解除権が発生し得ることになりますので、通帳に振り込む、領収書を取得する形で、支払い完了についても、証拠化した方がよいと考えます。

株券発行会社の場合は、当事者間における株式を譲渡する旨の意思表示により契約が成立しますが、株式譲渡は株券の交付が効力発生要件ですので、契約の後に、実際に株券を交付する必要があります。株券不所持制度が採用されている場合、株券を会社から譲渡人に交付してもらい、譲渡人が譲受人に株券を交付し、譲受人が受け取った株券を会社に引き渡すという、少し儀式的な手続を履行することになります。

3 株式譲渡と会社との関係

(1) 譲渡承認の請求
会社に対しては、株式譲渡の承認決定機関に対し、譲渡人から、又は譲渡人と譲受人の共同で、承認するように請求します。この際に、譲渡が承認されない場合に、譲渡先を指定してもらいたい場合は、併せてその旨も請求します。

より詳細には、会社に対して、(i)譲渡する株式の数、(ii)株式を譲り受ける者の氏名または名称(株式取得者からの請求の場合は、取得者の氏名または名称)を明らかにして(会社法138条1号、2号)、当該譲渡を承認するか否かの決定を請求をします(会社法136条、137条1項)。

株式の譲受人による承認の請求の場合は、原則として、株主(譲渡人)と共同で承認請求を行わなければなりません(会社法137条2項)。例外として、譲渡人やその一般承継人に対して承認請求を命ずる判決を証する書面を提供して請求した場合などは(会社法施行規則24条)、単独で行うことができます。

会社は、かかる譲渡承認の請求を受けた場合は、譲渡承認の決定機関において、承認します。

会社が承認しない場合の手続は、今回、割愛します。

(2)承認決定の通知
会社が、譲渡を承認した場合には、その決定内容を請求者に通知しなければなりません(会社法139条2項)。なお、譲渡承認請求の日から2週間(定款で短縮することも可能です)以内に通知をしなかったときは、会社は譲渡の承認の決定をしたものとみなされます(会社法145条1号)。
 したがって、会社が承認しない場合は、2週間以内にその旨を通知しなければなりませんので注意が必要です。この期限は、請求者と会社との合意で変更することができます(会社法145条ただし書)。

(3)株主名簿の名義書換
譲渡人(現在の名義人)と株式取得者が共同して名義書換請求を行い、会社が株主名簿を書き換えるというのが、通常の流れです。

譲渡人(現在の名義人)と株式取得者が共同して名義書換請求を行うことで、会社は、株主名簿の名義を変更する義務が生じます。また、株券発行会社の場合、譲受人は、単独で、株券を提示して名義書換請求することができます(会社法133条2項、同法施行規則22条2項1号)。

なお、会社は、適切な株式譲渡を確認すれば、自己の危険において、名義書換未了であっても、基準日以前から株式を取得していた者を株主と認め、同人の権利行使を認容することは差し支えないと解されています。

名義書換請求についても、書面化して残すことが明確化のためには重要です。

最後に、株主名簿に記載すべき事項は、下記のとおり、会社法に定められています。エクセルのファイルで、氏名と数のみが記載されている株主名簿を散見しますが、正式な株主名簿とはいえませんので、ご留意下さい。
(株主名簿)
第百二十一条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。
一 株主の氏名又は名称及び住所
二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
三 第一号の株主が株式を取得した日
四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号

(文責:森理俊)

2018年10月26日 23:28|カテゴリー:企業法務コメントはまだありません

裁判手続等のIT化とODR

いま、日本の裁判手続は急速にIT化に向けた動きが進んでいます。
これまでの、そして今の日本の訴訟手続は、紙とファックスが中心です。

日本のIT化の現状に即して考えても、紙とファックスは、不合理な側面が否めず、同時にセキュリティの観点からも脆弱であると言わざるを得ません。

弁護士がmicrosoft word等のソフトで電子的に作成した書面を、一度プリントアウトして、紙面に押印し、その後、ファックス送信して、それをさらに裁判所でプリントアウトしたものをファイリングするという、どう考えても不効率なことを今も続けているのが民事裁判の現実です。その後、裁判所が、判決を書くのに電子データがほしいといって、データの入ったCD等を裁判所に届けさせるというのは、どう考えても愚かしいとしか思えません。
また、ファックスは、数字10桁程度の送信先の指定方法で、暗号化もパスワードによる保護もされていない状態で、電子情報を送信するという前時代的な方法です。このようなセキュアではない方法は、裁判に関する秘匿すべき要請の高い情報のやり取りとして適切かというと、かなり疑問な面があります。また、送信されたデータにはパスワードが付されていませんので、誤送信すると、その時点で取り返しがつきません。

以上の理由がどれだけ意識されているのかはわかりませんが、日本でも、ようやく「世界的に見て日本の裁判手続のIT化は遅れている。紛争解決インフラの国際的競争力強化、裁判に関わる事務負担の合理化、費用対効果の総合的観点からも推進すべき」という問題意識から、3つのeが推進されることになりました。

この流れに関する情報は、首相官邸のウェブページにあり、上記の問題意識は、『裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて』に記されています。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/index.html

『裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて』
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/pdf/report.pdf

3つのeとは、e提出:e-Filing、e法廷:e-Court、e事件管理:e-Case Managementです。これらの詳細について詳しく知りたい方は、上記の「取りまとめ」をご確認下さい。

このうち、まず最初に、現行法で可能な範囲で、具体的には、書面による準備手続を活用して、テレビ会議システム(具体的には、Skype等)を利用して、争点整理の充実化を図ることが検討されています。

日本弁護士連合会は、この「取りまとめ」の内容に対し、どのような意見を形成すべきか、検討するために、関連委員会及び単位会に対して、意見照会がなされました。大阪弁護士会でも、短期間で意見を取りまとめて、提出しました(私も、関わらせていただいています。)。勿論、大阪弁護士会内部でも、結論が形成できていない論点も多くあり、両論併記で残っている部分があります。

個人的には、e-Courtよりも、先にe-Filingやe-Case Managementを推進してほしいところであり、とはいえe-Case Managementは開発業務に相当時間とコストを要すると思われる為、e-Filingから進めてほしいと考えています。また、もしe-Courtを進めるのであれば、まず、無駄な期日や作業、移動時間を減らすために、柔軟に手続を選択して、両当事者が裁判所に来なくても、論点整理できそうな場合は、どんどん書面による準備手続等を活用する等して、論点整理を進めてほしいと思います。あと、保全手続や保全異議審の一部など、代理人と裁判所で話が進むような手続も、ウェブ会議を積極的に活用してほしいと思います。
一方、証人尋問は、入院患者が証人になるような場合は例外的に活用できるようにするのは肯定するとしても、原則として法廷で行うということは、裁判の公開の原則にも適っていますので、e-Courtに最もなじみにくい場面だと考えます。

いずれにせよ、裁判手続等のIT化の流れはここ数年に大きく加速することが予想されます。要注目です。

加えて、IT化が進められそうなのは、裁判手続だけではありません。ADR(Alternative Dispute Resolution)と呼ばれる裁判外の紛争解決手続も、オンライン化の流れにあります。

今年の9月21日に、ODR(Online Dispute Resolution)に関するシンポジウムが東京で開催されました。
http://www.law.hit-u.ac.jp/content/images/bl/symposium/180921onlinedisputeresolution.pdf

一橋大学法学研究科 渡邊真由先生のプレゼン資料(2018/07/27, 日本ADR協会)は、こちらです。
https://japan-adr.or.jp/sympo2018docs/7.pdf

世の中には、少額のオンラインでのCtoCのトラブル(ネット・オークションでのトラブル)や、リアルでも数万円から数十万円前後の金銭等のトラブル(賃金不払い、貸金未返済など)は少なくありませんが、裁判所が充分な紛争解決手段を提供できているとはいえず、弁護士を始めとするプロフェッショナルも、費用対効果が良くないこと等を理由に積極的に取り組んできませんでした。

米国では、eBayやPayPal等の民間企業が、人間の関与をほとんどなくして、システムだけで解決できるような紛争解決システムを提供し、高い割合で活用されているようであり、日本でも、今後、発展が期待され、同時に、押し進められるべき分野であるように感じます。

こちらもここ数年で急速に進化する可能性があり、目が離せません。

(文責:森理俊)

2018年10月01日 10:50|カテゴリー:法務関連ニュースコメントはまだありません

みなし残業代(固定残業代)に関する最高裁判決

みなし残業代(固定残業代ともいいます。)を賃金体系に含めている企業が増えているように思いますが、先日、みなし残業代に関する新たな最高裁判決(最高裁第一小法廷平成30年7月19日、以下「本件最高裁判決」といいます。)が出ましたので、簡単に、ご紹介します。

まず、みなし残業代とは、一般に、労働基準が定める割増賃金(残業代)の算定方法に基づく支払いに代えて、一定額の手当を支払う方法のことをいいます(名称としては、営業手当等の名称が付されている場合が多いように思います。)。
一般に、みなし残業代が法律上有効であるといえるためには、少なくとも、基本給と明確に区別できることが必要とされています。なお、この点に関する詳細や、みなし残業代を就業規則で規定する際の注意点等については、弊所の三村雅一弁護士が執筆した以前のブログ(ベンチャー法務の部屋「固定残業代に関連する判例(最高裁平成29年7月7日小法廷判決)の紹介」)をご参照ください。

「固定残業代」に関連する判例(最高裁平成29年7月7日小法廷判決)の紹介

本件最高裁判決の事案の概要は、以下のとおりです。

 企業と従業員の雇用契約では、基本給46万1500円、業務手当10万1000円とされていました。
 雇用契約書には、「月額562,500円(残業手当含む)」、「給与明細書表示(月額給与461,500円 業務手当101,000円)」と記載されていました。
 採用条件確認書には「月額給与461,500円」、「業務手当101,000円 みなし時間外手当」、「時間外勤務手当の取扱い 年収に見込み残業代を含む」、「時間外手当は、みなし残業時間を超えた場合はこの限りではない」と記載されていました。
 賃金規程には「業務手当は、一賃金支払い期において時間外労働があったものとみなして時間手当の代わりとして支給する。」との記載がありました。
 上記の条件下で、従業員が企業に対し、みなし残業代とは認められないと主張し、業務手当とは別に、残業代の支払いを請求しました。

原審(東京高裁)では、業務手当が何時間分の時間外手当に当たるのかが従業員に伝えられておらず、時間外労働の合計時間を測定することができないこと等から、業務手当を上回る時間外手当が発生しているか否かを被上告人が認識することができないものであって、業務手当の支払いを法定の時間外手当の全部又は一部の支払いとみなすことはできないと判断しました。

これに対し、最高裁は、以下のように判断し、原審(東京高裁)を覆したうえで、従業員に対して支払われるべき賃金額等を審理させるため、原審に差し戻しました。

まず、最高裁は、みなし残業代を採用すること自体が労働基準法第37条に反するものではなく、定額の手当を支払うことにより、割増賃金の全部または一部を支払うことができることを確認しました。
そのうえで、雇用契約において、ある手当が時間外労働等に対する対価として支払
われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体
的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断をすべきであると判断しました。

本件においては、本件雇用契約書、採用条件確認書及び賃金規程において、業務手当が時間外労働に対する対価である旨が記載されていたことや、業務手当が1ヵ月当たりの平均所定労働時間をもとに算定すると、約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当し、実際の時間外労働等の状況と大きく乖離するものではなかったこと等から、業務手当の支払いをもって、時間外労働等に対する賃金の支払とみることができると判断しました。

本件は、雇用契約書等の記載において、業務手当が時間外労働の対価であることが明確に記載されていたことが重要な前提であると考えられます。そのうえで、みなし残業代が、何時間分の時間外手当に該当するものかを明確にしていないケースであっても、みなし残業代として有効であると判断できる場合があることを示したものであると考えられます。
もっとも、本件最高裁判決は、みなし残業代として有効である理由として、いくつかの考慮要素を挙げていますので、実務において、これから就業規則や賃金規程等の作成や修正等をする場合には、弁護士に相談して頂いた方が無難であると考えます。

(文責:藤井宣行)

2018年08月29日 18:25|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

不動産実務における即決和解

訴え提起前の和解という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
今回は、特に不動産業に携わる方々に、この訴え提起前の和解という制度をご紹介したいと思います。

1 訴え提起前の和解とは

訴え提起前の和解は、裁判上の和解の一種で、民事上の争いのある当事者が、判決を求める訴訟を提起する前に、簡易裁判所に和解の申立てをし、紛争を解決する手続です(民事訴訟法第275条第1項)。この手続を、即決和解手続と呼びます。以下、訴え提起前の和解のことを即決和解と呼びます。この即決和解手続については、当事者間に合意があり、かつ、裁判所がその合意を相当と認めた場合に和解が成立し、合意内容が和解調書に記載されることにより、確定判決と同一の効力を有することになります(民事訴訟法第267条)。

2 ケース1

建物賃貸借契約において、賃借人の賃料不払いがあったため、賃貸人・賃借人で協議を行った結果、滞納賃料について分割で支払うことを条件に建物の明渡しを1年間猶予することで合意した。

この場合、賃借人の、①滞納賃料の支払い、②建物の明渡しという義務の履行を確保する手段として、①については、滞納賃料の支払方法に関する合意内容を公正証書で定めるという方法が考えられます。公正証書を作成することによって、仮に合意通りに支払いが行われなかった場合、強制執行が可能となります。しかし、②の建物の明渡しについては、公正証書による強制執行の対象ではないため(民事執行法第22条第5号)、公正証書を作成したとしても、明渡期限に明渡しがされなければ、改めて訴訟を提起して判決を得て、強制執行手続をとらなければなりません。
そこで、①②について併せてこの即決和解の手続をとっておけば、改めて訴訟手続をとらなくとも、和解調書に基づく強制執行手続が可能となります。

3 ケース2

賃借人が使用中の収益物件が売買の対象となり、買主がその建物を自己使用したい場合、取り壊したい場合など、売買契約後は賃借人の継続利用を予定していない場合には、売買契約の中に以下のような条項が設けられることがあります。

第●条(賃借人退去)
1 売主は、平成●年●月●日までに、自己の費用と責任において本物件賃借人を完全退去させるものとする。
2 前項の賃借人立ち退きを、前項の期日から概ね1ヶ月を目処として履行する旨の本物件明渡しに関する即決和解が、売主と賃借人の間で成立している場合、買主は売主へ売買代金の残代金を支払い、本物件の引渡しを受けるものとする。

このような場合には、売主が賃借人との間で事前に退去交渉を行い、退去に関する合意を成立させることが多いと思われますが、仮に賃借人がその合意に反して明渡期限までに明渡しを行わなかった場合であっても、売主と賃借人との間で即決和解が成立していれば、買主が引渡しを受けた後に改めて建物明渡請求訴訟を行う必要はなくなります。

4 即決和解の手続の具体的内容

(1) 賃貸人・賃借人間の事前の話し合い
即決和解の手続は、事前に当事者間での合意が成立していることが前提です。したがって、即決和解を申し立てる前に、当事者間での合意を成立させる必要があります。なお、申立てから和解期日指定まで平均1か月程度を要することから、建物等の明渡し、金銭の支払いの日程については、この点を考慮に入れて定める必要があります。

(2) 申立て
相手方の普通裁判籍(普通裁判籍については、民事訴訟法第4条第2項から第6項を参照)(相手方が自然人の場合、第一次的には相手方の住所地によって定まります(民事訴訟号台4条第2項))の所在地を管轄する簡易裁判所に申立てを行います。なお、上記ケース2の条項のように、即決和解を成立させなければならない期限が決まっている場合には、申立てに先立って裁判所との間で事実関係や期日候補日について打ち合わせをしておくことでその後の手続がスムーズに進みます。

(3) 申立書審査
申立てがあると、裁判所が申立書を審査し、書類の追完、和解条項の修正等を経て、和解期日の指定手続に入ります。和解期日については、当事者双方が出席する必要があるため、双方が裁判所に出頭できる日を打ち合わせ、裁判所に希望日を連絡します。なお、当事者に代理人(弁護士等)が就く場合には、当事者は出席する必要はありません。
なお、希望日については、裁判所に連絡をした日からある程度先の日を伝える必要があります。これは、裁判所から相手方に対して期日呼出状等を送付する必要があるためであり、仮に相手方に代理人が就いていたとしても、期日呼出状自体は相手方本人が受け取る必要があります。

(4) 和解期日
和解期日当日、当事者双方(代理人の場合は代理人)が和解条項について合意し、かつ、裁判所が相当と認めた場合に和解が成立し、和解調書が作成されることになります。和解調書正本は、原則、和解期日当日に双方に交付されます。

即決和解の手続は以上のとおりとなります。

手続自体が複雑なわけではありませんが、弁護士が代理人に就いて裁判所との事前の細かいやり取りを行うことで手続が非常にスムーズに進みます。即決和解手続が必要になった場合にはぜひ一度ご相談下さい。

(文責:三村雅一)

2018年08月17日 17:32|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その3)

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理です。
「ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その1)」「ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その2)」の続きです。

これまで紹介した用語は、以下のとおりです。
1.ベンチャー投資
2.Exit(イグジット・エグジット)
3.IPO(アイ・ピー・オー)
4.VC(ブイシー・ヴィーシー)
5.エンジェル
6.CVC(シーブイシー・シーヴィーシー)
7.ステージ
8.投資契約
9.株主間契約
10.財産分配契約

11.企業価値評価額(バリュエーション)
企業価値評価又は企業価値評価額(バリュエーション)は、ベンチャー・ファイナンスに限った用語ではなく、企業のファイナンス全般で用いられます。一般的に適用可能で、且つ具体的な企業価値評価の手法については、マッキンゼーの有名な本『企業価値評価―――バリュエーションの理論と実践』や日本公認会計士協会の『企業価値評価ガイドライン』等が参考になるかと思います。

シード・ステージのベンチャー企業は、まだプロトタイプができたかどうか、といった段階にあるため、精緻な企業価値評価は困難であり、不確定要素が多すぎるため、意味を為しません。そのため、実際には、投資総額300万円〜1500万円ぐらいで10%程度の株式を発行することを念頭に、企業価値を逆算することが多いように思われます。投資総額300万円で株式の10%を割り当てる場合の時価総額は3000万円であり、投資総額1500万円で株式の10%を割り当てる場合の時価総額は1億5000万円です。

事業価値+非事業用資産=有利子負債+株式時価総額を前提とすると、ほとんどの場合、シード・ステージのベンチャー企業には、非事業用資産も有利子負債もありませんので、事業価値=時価総額となります。

したがって、発行会社は、事業価値が3000万円~1億5000万円あるということを投資家にアピールする必要があります。

ミドル・ステージやレイター・ステージであれば、既に売上も利益もその将来の上昇の見込みも明確になってきていますので、それらの数字を前提に、類似する事業を行っている上場企業の時価総額を参考にしたり、DCF法を用いたりすることになります。

12.時価総額(キャップ)
既に「11. 企業価値評価額」でも、時価総額に触れました。

株価✕株数(発行済株式総数)=時価総額

以上の算式で算出します。ここでの株価は、非上場のベンチャー企業の場合、株式市場での株価がありませんので、直近のファイナンスにおける株価を指します。
なお、細かい点ですが、自己株式がある場合は、発行済株式総数から自己株式数を差し引く必要があります。

カタカナで「キャップ」と言われることがありますが、これは、時価総額を意味するMarket capitalizationから来ています。

13.プレ・バリュー/ポスト・バリュー
プレ・バリューは、Pre-money valuation ポスト・バリューは、 Post-money valuation のことです。「プレ」や「ポスト」とだけ呼ばれることも多いです。

プレ・バリューとは、資金調達直前の時価総額を意味し、ポスト・バリューとは、資金調達直後の時価総額を意味します。

あるファイナンス・ラウンドのプレ・バリューとポスト・バリューは、以下の算式が成り立ちます。

Pre-money valuation + 調達額 = Post-money valuation

「うちは、今回のファイナンス、ポストで6億だったよ。」といった使われ方をします。「当社は、今回の資金調達については、調達を終えた直後の時点で、時価総額6億円の評価をしてもらったよ。」という意味です。

今回は、ここまでです。
(文責:森理俊)

仮想通貨と所得税

先日、「国税庁、仮想通貨所得の確定申告促す方法の簡略化など環境整備へ」という報道を目にしました。
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180716/mca1807160500001-n1.htm

仮想通貨の取引と所得税に関し、国税庁は、2017年12月1日付で、「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」を公表し、また、国税庁ウェブサイトのタックスアンサーでも、仮想通貨の取引に関して損益が生じた場合の取扱いを公表しています
http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1524.htm

そこでは、仮想通貨の取引に関して損益が生じた場合には、原則として、雑所得(取引規模等によって、例外的に事業所得)に該当するとされています。

そもそも、所得税法では、課税対象となる所得の種類として、10種類を規定しています。そのうちの1つの種類として、譲渡所得という分類がありますが、これについては、所得税法33条1項が、「譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。」と規定しています。

ビットコイン等の仮想通貨の取引に関しては、ある人が、仮想通貨を相対で売却したり、または、経済的価値のある物と交換(交換対象が仮想通貨の場合もあれば、そうでない場合もあるでしょう)することがあります。仮想通貨を売却や交換等の方法で譲渡した人は、その対価としての経済的価値を取得するのですから、譲渡によって得られた所得は、仮想通貨という「資産」を「譲渡」したとして、譲渡所得に該当すると考えるのが素直な解釈とも思えます。

では、国税庁は、なぜ譲渡所得ではなく、原則として雑所得(例外的に事業所得)と判断しているのでしょうか。国税庁のウェブサイト等では、この点について明確に説明しているものは見当たりませんでしたが、おそらく、仮想通貨は、譲渡の対象となる「資産」ではなく、決済手段であると考えているからだと思います。すなわち、一般に、外貨の為替取引を行い、差損が生じた場合には譲渡所得ではなく雑所得として処理するものとされていますが、これは、通貨という決済手段に関する取引であり、所得税法が譲渡所得として予定している「資産」の「譲渡」には性質的に該当しないとの考え方が存在するものと考えられます。仮想通貨についても、資金決済に関する法律でその内容が定義されるといったことからも、有価証券等の資産としての性格より通貨等の決済手段としての色彩が強いという判断が背後にあるものと考えられます。

もちろん、国税庁の考え方が、法律(ここでは所得税法)の解釈のあり方として、常に正しいわけではありませんので、この点について、裁判所で争われた場合に、譲渡所得に該当すると判断される可能性を否定するものではありませんが、譲渡所得の根本的な考え方に関連する興味深い議論であると思います。

                                                  以上

(文責:藤井宣行)

2018年07月19日 09:25|カテゴリー:未分類コメントはまだありません