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ベンチャー法務の部屋

第三者委員会に必要な弁護士の力

本日(9月6日)の日本経済新聞 朝刊では、「日弁連がガイドライン作り 国広正・弁護士に聞く」という記事があった。

要約すると、

“世の中には、いいかげんな第三者委員会が沢山ある”

“すべての利害関係者のため(でなければ、第三者委員会を名乗るな!)”

“必要な弁護士の力とは、「事実探求力」と「経営陣を説き伏せる力」だ”

ということだった。

また、使えるテクニックとして、第三者委員会を就任する際の委任契約に、日弁連のガイドラインに準拠して調査する旨を規定しておくことが提案されていた。

この記事自体に、反論はない。ただ、その通りと思う反面、ガイドラインによって、第三者委員会や委員たる弁護士の性質や責任の難しさが浮き上がってきたように思う。

第三者委員会というのは、その名のとおり、第三者性が最も重視される。

一方で、依頼主は、会社であり、その委員に対価を支払うことを決めた人は経営陣である。

そのため、監査法人と同じようなジレンマ、すなわち、どこまで依頼主及び経営陣に厳しくできるか、ということが鋭く問われることになる。

監査法人の場合は、そのジレンマはある程度(経営陣には)認識されている上、手抜き監査についての監査法人側の責任(法的責任や手を抜いた場合の行政処分等)も大きいため、経営陣が監査法人からの調査を受け入れる素地が多少なりともあるのではないかと、推察する。

一方、会社の経営陣が弁護士に第三者委員会の委員を依頼する場合、経営陣は、「今回の事件について、出来る限り丸く収めたい」という希望を持っているということは割と多いのではないか。

第三者委員会の調査によって、会社にさらに(少なくとも短期的に)大きなダメージが発生する可能性もあり、依頼者の利益の実現に努めなければならない、依頼者の意思の尊重という弁護士倫理との間で、難しい問題が発生する。

その意味で、第三者委員会の中立性や独立性の維持というのは、言うは易く、行うは難しである。

また、事案探究力というのも、一筋縄ではいかない問題である。何しろ、第三者委員会に強制捜査権はない。書類の隠ぺい工作や虚偽の供述をなされてしまうと、事案の探求は困難を極める。経験値から、“あるはずの書類”の在り処を問うて、虚偽の供述を見抜く力が必要であり、しかも、自白の強要等も避けなければならないという高度な(場合によっては、弁護士には不慣れな)能力が求められる。実際に、第三者委員会の委員に虚偽の供述を述べた経営陣もいる。

第三者委員会の委員に就任される先生は、どのような委任契約を締結されているのかわからないが、このあたりを踏まえて、会社は弁護士の要求する文書は必ず出すとか、調査への協力義務や誠実回答義務、調査の結果によって会社が被る損害についての免責等の規定がないと、受けることはできないであろう。このあたり、コンプライアンスにお詳しい先生方にお聞きしたいところだ。

【参考】

「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」 2010年7月15日 日本弁護士連合会

PDFファイル: 「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」

2010年09月06日 12:00|カテゴリー:企業法務,法務関連ニュースコメントはまだありません

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その1)

会社が従業員を採用する場合、従業員から誓約書に署名して、提出してもらうことがあります。これは、従業員に由来する様々なリスクをヘッジするためのものです。辞める時に会社の重要な情報を持ち出さないように・・・、在職中に従業員が発明した特許の取扱い等、従業員との間で予め取り決めておけば防げたはずのトラブルは、少なくありません。今回は、この従業員に提出してもらうべき誓約書の内容について検討します。

第1 タイミングは重要! ~早い方が良い。ベストは入社時~

まず、タイミングです。最も良いのは、入社時です。退職直前では、書いてもらえないリスクが高くなります。ただ、提出してもらわないより、提出してもらった方がよいですから、気付いたらなるべく早く、提出してもらうというのが良いでしょう。就業期間中に、「コンプライアンスを充実させるために、誓約書の作成をお願いすることにしました。」ということでも問題はないと考えます。

第2 3つの内容

肝心の内容は、以下の3つ+αです。

1 秘密保持

2 知的財産権(特に、特許)の帰属

3 競業禁止

(4 反社会的勢力との接触の不存在)

さらに、就業規則との連携も必要です。就業規則より労働者に不利な労働契約は、無効とされてしまう可能性があります(労働契約法第12条)。したがって、従業員から誓約書をもらう際に、併せて就業規則の見直しも検討して下さい。ただ、誓約書の内容が全て無効になるというわけでもありませんので、とりあえず誓約書を先行させてしまうことは実務上は問題ないでしょう。

では、個別に検討します。

1 秘密保持条項

秘密保持条項は、以下の点がポイントになります。

・ 秘密情報を定義する(就業規則や営業秘密管理指針がある場合は、それらの定義を援用することも可)

・ 秘密情報を記載又は包含した書面その他の媒体物の持出禁止・返還義務

・ 退職後の義務

・ 制裁措置(サンクション)の設定(損害賠償・協力義務等)

です。

具体的な文言は、私に別途相談いただきたいのですが、注意して頂きたいのは、制裁措置です。秘密保持違反は、損害の範囲も立証も難しいケースが少なくないですので、損害賠償規定を明確にして、請求できる損害の範囲を広くしておくことがポイントです。また、会社が損害を回復するための行動を採った場合に、それに協力する義務を規定しておくことも有効でしょう。

(続く)

【関連法令】

労働契約法

(就業規則違反の労働契約)
第十二条  就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

VCからの役員派遣とコンプライアンス

少し昔の「金融法務事情」No.1901 (2010年7月10日号)に、「取引先への役員派遣とコンプライアンス」と題する記事が掲載されていた。この記事では、主に銀行が役員や行員を派遣することが前提であるが、これは、VC(ベンチャー・キャピタル)からVB(ベンチャー・ビジネス)に役員派遣する場合にも応用できると思った。

記事には、

派遣役員は、取引先の取締役として善管注意義務を負う(会社法330条、民法644条)。そのため、取引先に関して入手した情報を銀行のためにみだりに使うことは許されない。・・・(中略)・・・取引先が派遣役員に対して情報を開示する場合は、取引先のために使ってくれることを期待しているのであって、銀行の利益のために使うことについては必ずしも承諾があるとはいえない。そこで、問題の発生を未然に防ぐため、前述のように役員の派遣における確認書などを作成しておくべきものと考えるのである。(引用終わり)

とある。

この部分は、「取引先」を「投資先」、「銀行」を「ファンド」又は「ベンチャー・キャピタル」と読み替えると、VCからの役員派遣にそのまま当てはまる。

ただ、VCの投資実務における役員派遣で、ここまで厳密に確認書が作成されているケースは、レアであるように思う。著名なキャピタリストであれば、複数の役員をかけもちしているケースも少なくないが、それらの場合、善管注意義務を厳密に考えられているだろうか。

VC側の簡単な対策としては、投資契約上、役員派遣の権利とは別に、オブザーバー派遣の権利を取得して、基本はオブザーバーで対応することが考えられる。ただ、VBサイドからの要請もあって、VC側の人間が取締役に就任するケースもある。その場合は、VCにとっても、VBにとっても、上記のような確認書で、善管注意義務や守秘義務の範囲を明確にしておいた方が安全であろう。

なお、この記事では、

派遣役員から取引先の業況が危機的であるという報告を受けて融資金を回収する行為は、公正かつ適法に行われる限り許される(中村裕明監修『必携 金融機関のコンプライアンス【業務編II】』283頁(金融財政事情研究会、2006年))。この場合には、派遣役員といえども、出身母体である銀行の損害を未然に防止する必要性が強く、そのために自己の入手した情報を銀行に開示することについては、取引先の黙示の承諾があると考えられる。(引用終わり)

とある。

この点についても、VCとVBの関係に適用できる可能性は高いと考えられる。ただ、銀行に比べ、VCは、(株式によって資金提供するため)損害防止のために採り得る手段が限定されている。したがって、仮に情報活用の点において黙示の承諾が認められたとしても、現実にその情報を活して回収しようとする場合については、投資契約書において、きっちりと手当しておかないと、回収は極めて困難になる。

2010年夏のベンチャー業界の気になる動き(その2)

前回の続きです。

この夏の気になった動きのもう1つは、海外上場です。

8月22日の日経新聞によると、日本のベンチャー企業が、アジアの証券取引所に相次いで上場するとのこと。

クリック証券のKOSDAQ上場を筆頭に、海外上場の動きは活発化しているようです。

ベンチャー・キャピタルにとっては、大きな問題ではない、というか、高い株価で売却できれば、問題有りませんが、証券会社や印刷会社、信託銀行にとっては、悩ましい問題です。

日経新聞で取り上げられていた以下の5社です。

1.ディー・エル・イー
・アニメ・映像制作会社
・台湾証取に上場申請(2011年6月までに)

2.ゼロ
・インターネット決済代行
・シンガポール新興市場「カタリスト」に上場申請(年末までに)

3.フードディスカバリー
・野菜ソムリエ講座や青果販売
・韓国新興市場「KOSDAQ」に上場申請(10月に申請予定)

4.オフィス24
・OA機器販売やオフィスコンビニ
・韓国新興市場「KOSDAQ」に上場申請(11月を目処に申請予定)

5.サルバドーレ・クオモ・ジャパン
・ピザチェーン
・韓国新興市場「KOSDAQ」に上場を検討

2010年09月02日 09:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネスコメントはまだありません

会社の未来は4つしかない

みなさんが何かの事業を行うために、会社を設立するとき、会社の未来にどの程度、想いを馳せるでしょうか。

理念や志、経営戦略、ビジネスモデル、事業ドメイン、マーケティング、資金調達、、、etc.起業家や経営者が考えることはたくさんあります。

それらは極めて重要なことばかりであり、実際に起業家や経営者は考えていることでしょう。しかし、会社が順調に成長した場合、どのような未来になるかまで考えられているケースは、多くないように感じます。

事業会社の未来は、基本的に以下の4つしかありません。

① 上場(IPO)
② 買収される(M&A)
③ 事業承継(相続)
④ 破産・清算(事実上の破綻も含む)

そして、この4つの未来のどれを志向するかは、予め決めておいた方がよいでしょう。もちろん、状況に応じて、途中で変わることは十分ありうることですので、実際には、「現時点では」「ざっくりとしたイメージとして」という形になることが多いでしょう。また、ビジネスモデル等の経営戦略によってどれを志向すべきかということが自ずと決まる場合もあり得ます。

①の上場(IPO)とは、基本的には「公の会社になる」ということです。いつでもだれても会社の株式を買ってもよいという状態になりますので、株式市場に対して常に誠実な態度と取らなければなりません。上場には、優れた人材が集まりやすい、市場から資金を調達することができる、上場前からの株主やストック・オプション保有者が上場とともに個人資産を形成できる、会社の事業継続が大株主の相続問題に巻き込まれにくい(全く巻き込まれないわけではない)等といったメリットがあります。一方、重要な会計情報等を開示しつづけなければならないという義務が課されます。したがって、ある程度の規模であることや将来の企業成長が予想されることあることが求められますし、継続開示に耐えうるような社内体制の整備も求められます。社長の地位は、多くの株主に信任が得られそうな人物のなかから現社長や取締役会が選ぶことになります。

②の買収(M&A)とは、基本的には「どこかの会社のものになる」ということです。上場会社の子会社になる場合は、その上場会社の傘下に入るということを意味し、事実上の上場に近い効果もあります。100%子会社になる場合や全部の事業の譲渡の場合では、既存の株主は、これまでの株式に代わって現金や株式を手にすることになります。社長のイスは、親会社の意向で決まります。

③の事業承継(相続)とは、「非公開会社で居続ける」場合です。多くの日本の中小企業がこれに当てはまります。この場合、「次の社長はだれか」という事業経営の後継者の問題と、「大株主の保有する株式をだれが相続するか」という相続問題の両方を解決しなければなりません。

④の破産・清算は、最初から志向する人はいません。夜逃げでからっぽに幽霊会社になるケースもこれに含まれます。破産の場合は、社長も併せて個人破産するケースがほとんどです。利益を生み出す事業が残っている場合は、民事再生や会社更生という手段がとられることもあります。

①から③までのどれを志向するか、明確になっていると、ファイナンスの戦略だけでなく、社内体制の準備もできます。チャンスがあれば、上場することや買収されることを考えている場合、いつ提案があっても、提出を求められた資料を提出できるように資料を整理しておくでしょう。M&Aの場面では、事業の継続性についてのリスク高い場合、売却価格が下がってしまいます。普段からの社内体制の整備しだいで、相当の金額の差になるかもしれません。将来、①のIPOや②のM&Aを考えている場合は、早い段階から弁護士に相談して、ビジネスモデルや契約書、各種議事録をチェックしてもらうことが、外から見た会社のリスク評価を下げることに繋がるのです。

①でも②でもない場合は、会社の主要株主の株式が相続されることに想いを馳せておかなければ、主要株主が亡くなった後に、会社が相続問題に巻き込まれるリスクが高くなります。株式は、法定相続されると、相続人間で共有されてしまいます。100株を保有する株主について相続が生じ、相続人が、妻1人、子2人の場合、その100株は、妻50株、子25株ずつとなるのではなく、その100株総てが共有となってしまうのです。こうなると遺産分割協議か株式の権利の行使者を誰にするかの合意がまとまるまで、原則として権利行使できなくなります。遺言でその株式を誰に相続するかを予め決めておくことが会社を継続することに繋がります。

会社の将来についての戦略をExit戦略等ということもあります。ただ、Exitとはいえ、会社が終わるわけではなく、継続して成長していくために、言わば、どのように脱皮してゆくのか、という観点から今するべきことを決めると考えていただく方がよいかもしれません。

これから起業される方、起業して間もない方におかれても、上記の①から③までのどれを志向するのか、頭の片隅にでも置いていただけると、よいのではないでしょうか。

2010年09月02日 08:30|カテゴリー:未分類コメントはまだありません

2010年夏のベンチャー業界の気になる動き(その1)

今年の夏は、いくつか面白い動きがありました。

米ソーシャルゲーム大手Zynga、「まちつく!」のウノウ買収

ソフトバンクの発表によると、米ソーシャルゲーム大手Zynga Game Networkは8月4日付けで、国内でソーシャルゲームを展開するウノウの全株式を取得した。買収額は非公開。ウノウのゲームを、ソフトバンクと Zyngaが国内に設立予定の合弁会社・ジンガジャパンの事業展開のベースにする。(引用終わり)

基本的に、ベンチャー企業のExitは、IPO(上場)か、M&Aとなります。ただ、日本では、M&AでのExitは、比較的(アメリカと比べると)難しいと一般的に言われてきました。それは、日本の大手の上場企業が国内のベンチャー企業を買収してイノベーションを起こすという発想が少なく、出来る限り自社内で生み出していきたいというカルチャーが関係していると言われることが少なくないです(この点が本当にそうなのかは、別途検証する必要があるかもしれません。)。

ただ、今回の買収のように、日本のITベンチャーのExitとして、外国企業からのM&Aという選択肢が現実的になってきたことは、面白い動きだと思います。特に、日本で、これからベンチャーを興そうという方にとっては、このような選択肢も頭の片隅において、事業計画やファイナンスを考えていただければと思います。

外国の事業会社が日本のベンチャーに投資した例もありましたね。

インフィニティ・ベンチャーズ、株式会社クーポッドの米国Groupon Inc. に対する第三者割当増資をアレンジ

このような動きは、日本の創業者やベンチャー関係者にも、いろいろなアイディアを与えてくれそうです。

2010年09月01日 12:00|カテゴリー:ベンチャー・ビジネスコメントはまだありません

はじめに

はじめまして。

私は、今年の1月から大阪で、弁護士をしている森 理俊と申します。去年まで6年あまり、東京のベンチャー・ビジネスに特化した法律事務所で、勤務していました。

これから、ベンチャー関連を中心に、ベンチャーキャピタル、IPO、企業法務等の話や個人的な雑感について、このブログ「ベンチャー法務の部屋」に備忘録的に記録しておこうと思っています。ちなみに、どこかで聞いたことのあるような名前かもしれませんが、本家本元の山口先生には、一応了承を得ております。

どうぞ、これから、宜しくお願いいたします。

2010年09月01日 09:50|カテゴリー:未分類コメントはまだありません